紀柳試練の塔



 

季節は春。
太助たちは春休みの真っ最中である。
七梨家に万難地天の紀柳が住まうようになってから、2週間が過ぎた。
最初の頃こそ、状況をわきまえずに様々な試練を太助に与えてきたキリュウだったが、 ようやく現代生活に慣れてきたのか、その試練の数も減り、他人を巻き込むような真似 もしなくなった。
だが、相変わらず彼女は太助に多くを語らず、太助はキリュウが自分に心を開いてくれていないような気がして、何だか寂しかった。

(でも、あの時の笑顔は嘘じゃないよな)
 
再び短天扇から出てきたキリュウに太助が手を差しのべた時に見せたはにかんだ笑顔。
太助はそう思いながら、最近ついついキリュウのことを考えている時間が多くなっていることに気がついた。
途端にシャオの怒った顔が頭の中に浮かび、あわててブンブンと頭をふる。

「どうかしましたか? 太助様」

庭先で洗濯物を干していたシャオが、その手を休めて家の中に入ってきた。

「お体の具合でも悪いのですか?」

太助の顔を覗き込むようにして心配そうにしている。
太助はまたシャオに心配をかけてしまったことを後悔していた。

(だから自分はキリュウの試練を受けなきゃいけないんだ)
「……太助様?」
「いや、別になんともない。ホントだよ心配しなくていいよシャオ」
「ちょっとキリュウがここに来てからもう2週間なんだなとか考えてただけだから……」

などと全然頭をふっていた理由にもならないようなことを口走る。

「そうですか」

ほっと安心するシャオ。
いつもどおりのポケポケぶりではある。

「そうですよね、もう2週間なんですね。紀柳さんもやっとこちらの生活に慣れてきたみたいですし……」
「うん、最近は無茶な事もしてこなくなったし……ルーアンも少しは見習ってほしいよ」

だが、内心キリュウが試練を与えてこないのが少し物足りない太助であった。
心配せずともこの先いくらでも試練を受けるのだが太助はわかっていない。

ガチャ 

ルーアンが帰ってきたらしい、玄関の方でドアの開く音がした。
春休み中だが一応教師、学校で会議や新学期の準備などで招集されることもある。
いい加減なルーアンは簡単に教師としての仕事をすっぽかすが、今日は珍しく呼び出しに応じたのであった。

「あー疲れたー。シャオリン、お茶ちょうだい」
ぐったりとした表情でルーアンが居間に入ってきたが太助の姿を確認するなり飛びつく。

「あ、たー様ぁぁん。ルーアン疲れたぁぁん」
「だぁぁぁっ! だからくっつくなっていつも言ってるだろ」

振り払おうとするが、ルーアンはがっちりと抱き付いて離れない。

「もぅ、たー様ったら別に照れなくてもいいのに」
「ルーアンさん、お茶が入りましたよ」

さらに強く抱き付こうとしたルーアンの背後からシャオが声をかける」

「なによ、シャオリン。あんたってば、いつもいい所で邪魔するわねぇ」

自分でお茶を頼んだことも忘れて、悪態をつきながらルーアンはやっと太助から離れた。
実際のところ、ルーアンは主である太助の心をつかむという点では、シャオに対して敗北を認めつつあった。
慶幸日天であるルーアンはハタからはそう見えなくても主の幸せを一番に考えているのだから、太助がシャオと一緒にいれば幸せであることは充分知っていた。
それでも、太助にちょっかいを出さずにいられないのは、長年の宿敵守護月天に対する慶幸日天としての意地と、太助があまりにもウブな反応をするのが面白いからで ある。

「そういえばキリュウはどうしたの? 最近、あの娘あまり見ないんだけど」
「キリュウさんは、お食事のとき以外はほとんど部屋の中で何かなさってるみたいです」
「そう……あの娘に話しておきたいことがあったんだけど」
「ルーアンがキリュウに用があるなんて珍しいな」
「まぁね、たー様達にも関係あることなんだけどね」
『?』

2人は同時に首を傾げた。

「ルーアン殿、私に何か用か?」

今の戸口にいつのまにかキリュウが立っていた。
以前ならここで黙って試練の一つも太助に与えているところである。

「ちょうどよい。私もルーアン殿に相談があったのだ。私の部屋に来てくれぬか?」

唐突かつ予想外のキリュウの反応にルーアンは面食らった。
だが、断る理由ももちろんない。
2人は連れ立って2階のキリュウの自室に引きこもった。

「いけない、私お洗濯物干している途中でしたわ」

シャオも庭に戻り再び洗濯物を干しはじめる。
1人残された太助はソファーの上でぼけーっとしていた。
これから自分に降りかかる試練を知りもせずに...

キリュウの自室にて

キリュウからの相談を受けたルーアンは戸惑っていた。
その内容が太助に試練を与える手伝いをしてくれというものだったからだ。

「えーっ! なんでこの私がそんなことに協力しなきゃいけないのよ」
「頼む、主殿のためだ」
「でもねー。大体シャオリンは何て言ってるのよ? あの娘はそんなこと納得しないわよ。 たー様のことになると人が変わるんだから」
「シャオ殿には詳しいことは告げぬつもりだ」

キリュウは正面に座ったルーアンの眼をじっと見つめたまま微動だにしなかった。
その瞳には、すでに強い決意の輝きがあり、ルーアンの返事がどうあれ太助に試練を与えるだろう。
計画の中のルーアンが担当する部分を削られるだけだ。
このままキリュウに協力しないのは簡単だが、ルーアンは自分が参加していないところで、太助にちょっかいを出されるのが気に食わなかった。
それなら協力しつつ、自分のやりたいようにする方がまだましと言えた。

「わーったわ、協力するわよ。その代わり、さっきのこと考えといてよね」
「協力感謝する」
「で、詳しい計画を教えなさいよ」

こうして、2人の密談は夕食まで続くのであった。                      


        
翌日、朝食を終えた頃、太助に山野辺 翔子から電話がかかってきた。
急用があるから近所の駄菓子屋「後藤菓子屋」に来いというのだ。
太助はまた翔子が何か企んでいるような気もしたが、断るとまた面倒なことになりかねないので素直に行くことにした。
太助が家を出てからキリュウの計画は実行段階へと移行し、七梨家の庭先に巨大な塔がそびえ立った。
キリュウが最近部屋にこもっていたのは、この塔のミニチュアを作っていたからなのだ。
それを能力で巨大化させたわけだ。
キリュウの塔の元に続々と協力者が集いつつあった。
そしてそれぞれが、塔の各階へと散っていく。
その直後に朝食の後片付けを終えたシャオが塔に気がついたらしく庭に降りてきた。

「キリュウさん、この塔は何ですか?」
「シャオ殿と主殿に良い眺めを見てもらおうと思って出したのだ」
「まぁ、ありがとうキリュウさん。太助様もきっと喜びますわ」
「主殿は外に出ている。先に上で待っていよう」
「太助様早く帰ってくるといいですね」

2人は連れ立ってキリュウしか使えない塔の隠し扉から最上階へと向かった。

後藤菓子屋にて

「よぉ、七梨。悪かったな、朝っぱらから呼び出したりして」
「山野辺、わざわざ呼び出して一体何の用なんだ?」
「まぁ、あせるなって」

昨夜、翔子の家にキリュウが訪れていたのだ。
計画を聞いた翔子は一もニもなく快諾した。
面白い話は大好きだし、何より太助とシャオをくっつけるのを使命と感じている翔子にとってこの計画はいい機会だったから。

「この店にある物の中からシャオにあげる物を選べよ、七梨」
「何だよいきなり」
「いいから選べよ」
「ったく、あいかわらず訳判んないんだからな……」
「何か言ったか?」
「いや、何でもない」

太助は、それでもシャオへの贈り物(というほどの物でもないが)を選んだ。
翔子は楽しそうにそれを見ている。

「よーし、それ持って自分ちに帰れ。七梨」
「急用はどうなったんだよ?」
「あ? あれかあれはだ。あたしは七梨を家から呼び出して時間を稼ぐ役だったからな」
「何だよそれ?」

太助には訳がわからなかった。

「キリュウに頼まれたんだよ。なんか企んでるみたいだったぜ。早く家に帰ったほうがいい んじゃないのか?」
「ちきしょう、山野辺ぇ覚えてろよ」
「がんばれよ、七梨」
「へっ?」
「いいから早く行け。シャオが待ってるぜ」

太助はもう何も言わずに翔子に背を向けていた。
翔子の「シャオが待っている」の一言が効いたのだ。

「やれやれ、あたしもご苦労なこったよな」

ビンに入ったせんべいを一枚取り出してかじりながら翔子は独り言を呟く。
キリュウに頼まれたのは時間稼ぎだけであった。
シャオへの贈り物を持たせたのは翔子のアイデアであった。
苦労してたどり着いた太助からプレゼントをもらえば、シャオも喜ぶだろう。

「さて、あたしも行くか。ばぁちゃん、せんべいの代金ここに置いとくぜ」

せんべいのビンの脇に硬貨を置くと、翔子はおばあちゃんの返事も待たずに店をでた。
当然、「面白いこと」を見るために七梨家へと向かうのである。

再び七梨家にて

家に戻ると、というか戻る途中にすでに塔を見た近所の人にいろいろと訊ねられ、太助はすでに試練を受けていた。

「たー様、お帰りなさい」
「ルーアン、庭の塔は一体?」
「これを見て、たー様」

ルーアンは太助にコンパクトを手渡す。
開くと、キリュウが写っていた。

「戻られたか、主殿」
「キリュウ、何の真似だこの塔は?」
「この塔は試練の塔。各階に主殿に試練を与える者が待機している。その試練に耐えて、この最上階まで来られよ。そうすればシャオ殿に会えるだろう」
「そんな、ジャ○プじゃあるまいし……」
「ちなみにこの塔を攻略しないかぎり、シャオ殿はこの塔からは一歩も出させないからそのつもりでいてほしい。主殿」 「わかった、この試練。受けて立ってやるさ。シャオにすぐ行くから待っていろって伝え といてくれ」

太助はコンパクトを閉じると塔の入口へと走って行った。
すでにルーアンが傍らからいなくなっていたことには無論気づくはずもなかった。

試練の塔最上階にて

「キリュウさん、今の話はどういうことですか?」
「聞いたままだ、シャオ殿。これは試練なのだ」
「そんな……太助様を危ない目に遭わせるわけには行きません」
「シャオ殿、行かせるわけにはいかん」

キリュウは出口に走ろうとするシャオを短天扇で制した後、出口付近にあった小石を大き くし出口を塞ぐ。

「せめて何か星神を……」
「シャオ殿、守ることと主殿が自分で出来ることまでして差し上げるのは全く別物なのだ。 シャオ殿は今後も私が何か主殿に試練を与える度に、星神を使って助けるつもりなのか? それでは、いつまでたっても主殿は成長せぬ」
「私は万難地天として主殿に仕える以上、それは決して許せない」
「……でも」
「それとも、シャオ殿はそんなに主殿を何も出来ぬ人物だと思っているのか?」
「そ、そんなことはありません!!」

シャオは自分でも驚くほどの大声で反論していた。
頬がかっと熱くなっているのがわかる。
目元が潤んでくるのがわかる。
両の手を握り締め小刻みに震える自分を感じる。

「すまぬ、言い過ぎたことは謝る。しかし、シャオ殿。信じているのだろう? 主殿を」
「……もちろんですわ」
「これはシャオ殿にとっての試練でもあるのだ」
「え?」
「主殿に呼び出してもらい、試練を与えるうちに気づいた。2人はすでに主従の関係を越えつつあることに」
「……そんな」
「しかし、シャオ殿。われら精霊は主に仕えるのが定め、今のままでは決して、守護月天としての運命を変えることはできない。だから、シャオ殿も試練に耐えてもらいたいのだ。守護月天として、主殿が危険な目に遭うのを見過ごすのがどれだけ辛いかはわかる。だが、わかってほしい」
「……わかりました。私は太助様を信じています。だから……つらいけど待ちます」
「ありがとう、シャオ殿」
「いえ、それがキリュウさんの役目なんですもの」

試練の塔一階にて

「おい離珠こんなとこでなにしてんだ?」
(離珠が第一の試練を与える者でしっ!)
「誰もいないじゃないか。キリュウの奴」
(だから太助しゃま。離珠がそうなんでしってば)
「離珠、誰か見なかったか?」
(う゛ー、わかったでし……これを見るでし。太助しゃま)

離珠は床に筆で絵を描き始める。
離珠が胸を張っている絵が描きあがった。

「うーん、離珠が付いてきてくれるってのか?」
(違うでしよ。もう、これを見るでし)

再び絵を描き始める離珠。
しばらくするとキリュウがペコペコ頭を下げている絵が先の「胸を張った離珠」の横に描きあがる。

「そう、これからキリュウを懲らしめにいくんだよ。付いてきてくれようとする気持ちはうれしいけど、危ないから離珠は家で待っていな」
(もーう、違うでしっ! これを見るでしよ!)

こうして、太助に以心伝心するべく床に絵を書き続けること20数回。
もう絵を描くスペースも無くなろうかという頃、ついに離珠は「太助を叩く離珠」を描いて太助に自分が第一の者であることを伝えることに成功した。
すでに両者とも息がきれている。
太助は離珠との意志の疎通がこんなに難しいとは思っていなかった。

「……で、離珠は俺にどんな試練を与えるんだい?」

実はキリュウはこの離珠との意志疎通を図ることを、第一の試練と考えていたのだ。
だから、今ので第一の試練をクリアしたと言えたのだが、太助はうっかり再び離珠に訊ねてしまったのだ。

(太助しゃま。これを見るでし)

*フリダシに戻る*

床にスペースも無くなった今、さっきの絵とダブったそれを理解するのは困難を極めた。
太助がこれ自体が試練だと気づいたのは離珠との会話が終わったころであった。

「じゃな、離珠。俺はそろそろ上に行くから」
(バイバイでし、太助しゃま。がんばってくださいでし)

再び試練の塔最上階にて

「思ったより時間を食ったようだな。主殿は」
「もう、離珠ったら」
(シャオしゃま、太助しゃまは思ったよりも手強かったでしよ)
(離珠ったらいつのまにキリュウさんに協力してたの?)
(内緒でし)

キリュウが、協力すれば離珠秘蔵の「出雲しゃんのお母しゃん特製ようかん」を短天扇で大きくしてくれる、と言ったことなどいえるはずもない離珠であった。
ちなみに「出雲しゃんのお母しゃん特製ようかん」は昨夜の内に、お腹のすいたルーアンによって食べられてしまっていることを付け加えておこう。

「どうやら主殿が次の階についたようだな」
「次の相手の方はどなたかしら」

シャオも大分落ち着いてきたようである。
最初の相手が離珠だったこともあり、試練といってもそんなに大変なものではないかもしれないと思い始めたからだ。
とはいうものの本当に太助に危険が迫ったら、恐らくシャオは飛び出していくだろう。
キリュウもそれはわかっていた。
太助がシャオの助けなしにどこまで試練に耐えられるか、そしてシャオがどのくらい守護月天としての役目から離れていられるかを知ることができれば今回の計画は成功だとキリュウは考えていた。
次の階が今回の正念場なのであった。

試練の塔2階

太助は勢いよく扉を開けた。
足元に陽天心化された物がいくつか、どれも目を回した状態で転がっている。

「良く来たなっ! 七梨ぃ」
「や……山野辺!? なんでここに……」

部屋の中では、翔子が太助を迎え撃つべく待ち構えていた。

「へへーん、面白そうだからに決まってんだろ!」
「この陽天心達は?」
「あー、ルーアン先生が命ふきこんだんだろ」
「いや、みんなやられてるみたいなんだけど……」
「あー、あたしが倒したんだよ。弱っちい奴等だったぜ」
「……俺、山野辺と戦うのか?」

翔子はケロリというが足元に転がった陽天心は優に2桁をこえている。

(山野辺ってそんなに強いのかよ……)
「怖じ気づいたのか、七梨?」
「……」
「相変わらずなっさけねーな。そんなことじゃシャオを助け出せないぜ」
「……そ、そんな訳ないだろ! いくぞっ山野辺」

その一言は太助の心を燃え上らせるのに充分だった。
助けは迷いを振り切ると翔子に向かって走り出した。
それを見た翔子は目にみえて動揺した。

「……ちょっ、ちょっと待て七梨っ」
「問答無用!」
「待てって言ってんだよ!」

バチコーン!!

向かってくる太助のおでこにカウンターででこピンを食らわす翔子。
太助はあまりの痛みにその場でうずくまった。

「ったくぅ、相変わらずシャオがからむと人間変わるよな、お前」
「……うるへー」
「ま、そうでもなきゃ今ごろ見離してるけどさ」
「なんだよそれ」
「こ……こっちの話だ。気にすんな」
「大体、なんで山野辺がここにいるんだよ」
「ん?どうせルーアン先生が邪魔するだろうと思ってさ。先回りして片づけといたんだよ」
「……で、ルーアンは?」
「シャオが冷蔵庫においしそうな草餅をしまってたって言ったら、陽天心ほっぽりだして行っちゃったぜ」
「いつのまに先回りしたんだ?」
「いつのまにも何も、七梨が離珠と遊んでる間にだよ」
「うぞっ」
「ちゃんと、声だってかけたんだぜ」
「……全然気づかなかった」

…………
少し、会話に間が空いた
太助は先を急ぎたかった。
話を切り出そうと思ったときに翔子が先に口を開いた。

「シャオとは最近どうなんだ?」
「……どうって別に……」
「少しは進展したのか?」
「山野辺には関係ないだろ」
「いや、あるさ。あたしはシャオの親友だからな」
「……山野辺」
「シャオはあんなだから何も言わないけど、ルーアン先生に加えてキリュウまでお前んとこに住むようになって、お前と2人で過ごす時間が減って、ますます寂しそうにしてるのを見てると、あたしは我慢ができないんだよ」
「……」
「さっき買ったプレゼントはまだ持ってるのか?」
「え、ああ持ってるさ」
「シャオが待ちわびてるぜ早く行ってやりな」
「……ああサンキュ、山野辺」

太助は次の階へと走りだす。
その背後に翔子から声がかかる。

「シャオにあったら、キスの一つもしてやれよっ!」

太助はあやうくずっこけるところであった。

3度試練の塔最上階にて

コンパクトを覗き込んでいたキリュウは目を離すとため息をついた。

「翔子殿も余計なことをする。これでは試練にならん」
「翔子さん……」
「ルーアン殿もルーアン殿だ、これではあの話に乗ってやるわけにもいかないか……」
「? 何ですか、キリュウさん。あの話って?」
「いや、こっちの話だ。気にしないでくれシャオ殿」
「そうですか」
「まぁ、次の相手は一筋縄ではゆかぬぞ主殿。試練だ、耐えられよ」
「3階にいるのはどなたなんですか? キリュウさん」
南極寿星翁だ」
「……南極寿星が?」
「うむ、主殿に話したいことあると言っておったのでな。協力してもらうことにした」
「……太助様、大丈夫かしら……」

試練の塔3階にて

3階につくと太助の前には迷路状になった部屋が広がっていた。

「良く来たのぅ、小僧」
「じ、じーさん!?」

迷路の奥の方から響いてきたのは星神「南極寿星」の声であった。

「小僧、この迷路の中のどこかにいるワシを見つけ出して迷路の外まで行くのじゃ。それがこの階の試練じゃ」
「……それって、迷路に迷っただけじゃねーのか? じーさん」
「……な、何を言うか。失礼なっ」

明らかに動揺の混じった声で南極寿星が言う。
「とにかく、ワシを見つけ出すことじゃな。すべてはそれからじゃ」
「……わかったよ、じーさん。ちゃんと助けてやるから安心してな」
「……もういいわい」

とりあえず太助は迷路の中の南極寿星を見つけてやることにした。
 
 
 
 

5分後、太助は南極寿星を見つける事が出来た。

「小僧、久しぶりだのう」
「そうだな、じーさん」
「ふん、代わり映えのせん奴だのう」
「ほっといてくれ」
「そうはいかん。ワシはシャオリン様がお主の元におることを認めたわけではないからの」
「……じーさん」
「なんじゃい、あの時大層なことを言った割には成長のかけらも見られん」
「……」
「じゃからワシは万難地天に協力することにしたんじゃ。今のままではシャオリン様が辛い想いをし続けるのは目にみえておるからな」
「……」
「お主があまりに不甲斐ないと、またシャオリン様に支天輪に帰っていただかなくてはならんぞ」
「だからキリュウの試練を受けて立つことにしたんだ」
「わかっておる、お主なりに努力をしておることもな」
「じーさん」
「ふん、お主に会ったらもっと文句を言ってやろうと思っておったが、今日のところは勘弁してやるとするわい。シャオリン様が待っておるぞ、早くゆけ」
「サンキュ、じーさん」

太助は南極寿星に軽く頭をさげると出口目指して迷路を進みはじめた。
太助の姿が見えなくなるのを待って南極寿星は床に腰をおろした。

「ふん、あやつも少しはいい眼をするようになってきおったわい。万難地天が来たせいかの」

南極寿星は太助の顔を思い浮かべると重要なことを思い出した。

「こ、小僧ー! ワシを出口に連れていっておらんではないかー!」

叫んだところで後の祭りである。
太助はすでに出口をみつけ次の階へ向かっているところであった。
キリュウの作った迷路自体はそう難しいものではなかったのだ。
南極寿星と会ってからが試練のメインであったのだから当然だ。
この迷路で迷うのは南極寿星ぐらいのものである。

「……今度会ったときはただでは済まさんからの」

4度試練の塔最上階にて

「南極寿星翁までがあのような真似をするとは、どうやら今回の計画は失敗のようだな」
「キリュウさん、私いま思い出してました」
「何をだ? シャオ殿」
「キリュウさんが来る前に、私一度南極寿星に支天輪に戻されたんです。あの時は本当につらかったです」
「ふむ、それは良き試練であったな」
「私は太助様の心を『孤独』や『寂しさ』から守ってさしあげたくてここにいるんです。だけどあの時、私は太助様に寂しい想いをさせてしまった……」
「……それで?」
「私が太助様の心を守れないのは、私が守護月天だからだって」
「……守護月天じゃなければ良かったって……そう思ったんです」

あの時のことを思うと今でもシャオは胸がこみあげてくる。
支天輪の中でどうする事も出来なかった自分。
ただ泣いていただけの自分。
もうあんな思いはしたくなかった。

「シャオ殿、それは違うと思う」
「え?」
「シャオ殿が守護月天であればこそ、主殿の心を守れる時がいつか来るのではないか?」
「私はそう思う」
「……ありがとうございます。キリュウさん」
 
 

「今度は私の話を聞いてくれるか、シャオ殿」
「はい」
「私が主殿に呼び出してもらって、試練を与えておったとき、シャオ殿が主殿をかばってケガをしたことがあったろう?」 「あの時はすまなかったと思っている。許して欲しい」
「いいえ、私は太助様を守り、キリュウさんは試練を与える。それぞれの役目を果たしただけですから」
「本当を言うとな、あの時私はシャオ殿と主殿に嫉妬してたのかもしれんのだ。主殿を守るシャオ殿とシャオ殿を心から気遣う主殿にな」
「……そんな」
「だからつい憎まれ口を叩いてしまった」
「私にはシャオ殿の様に主殿を守ることはできない」
「私はシャオ殿がうらやましい。私のように主殿に嫌われるような真似ばかりしていてはシャオ殿のように主殿に大事にされることもないからな」
「太助様はお優しい方ですから、キリュウさんの事もちゃんと想っているはずです」
「私が役目を果たそうとすればするほど、主殿との距離が離れていく。今までそんな事の繰り返しだった」
「いくら心の清い方とて、辛い試練ばかりでは心も荒む。私がした事は主殿達の成長の手助けではなく、清い心を失わせる事だったのではないか……そう考えた事もある」
「だが、今度の主殿は……太助殿はこれまでの主殿達とは違うものを感じる。それだけに今度だけは 主殿に必要とされなくなって帰るのが怖いのだ」
「大丈夫ですわ、太助様は決して……決してそんな方ではありません」
「太助様とキリュウさんに必要なのは、お互いをもっと知ることじゃないですか?」
「キリュウさんは主様の成長を誰よりも考えているんですもの。主様を想う心は誰よりもきっと強いはずですわ」
「ありがと、シャオ殿。その一言だけで私は救われる」

キリュウは立ち上がると、短天扇をかざすと出口を塞いでいた石を元の小石に戻した。

「キリュウさん?」
「もうすぐ主殿がここに来るだろう。出迎えてやってくれシャオ殿。私は先に帰らせてもらう」
「キリュウさんも一緒に……」
「いや、今日はどういう顔をして主殿に会えばよいかわからぬからな……」

そういうとキリュウはもう何を言っても聴かないといった風にシャオを残して部屋から出ていく。

「……キリュウさん」

ぽつねんと残された感じのシャオは、ただ太助が来るのを待つしかなかった。
その頃太助は、延々と続く階段をひたすら昇り続けていた。

「……キリュウの奴ぅ、なんでこんな長い階段を作るんだよ〜〜」

南極寿星と別れてからこっち、ずっと階段を昇り続けていたのでさすがに嫌気がさしていた
たまに口に出るのは愚痴ばかりだった。
太助は少し休む事にし、階段に腰を下ろす。

「そんなところで休んでいてよいのか? 主殿」

太助の背後からキリュウが声を掛ける。
太助はあわてて振り返ると思わず身構えた。
キリュウが短天扇を口元に当てジト目で太助を見下ろしている。
ふっ、と肩の力を抜いて太助は目元に笑みを浮かべた。

「何だキリュウか、俺が遅いから迎えに来たのか?」
「シャオ殿でなくて残念だったな」
「また、そーゆー事を……」
「残念ながら迎えに来たわけではない。主殿があまりに来るのが遅いから、あきれて帰るところだ」
「……」
「シャオ殿が上で待っておるぞ」
「試練はもういいのか?」
「今日はもうやめた。やる気を見せてくれている主殿には悪いが、これから私は計画どおりにやってくれなかったルーアン殿におしおきせねばならんからな」
「そっか……ところでこの階段を降りてくのか?」
「もちろんだ」
「ここを降りてくのは大変だろ?シャオに軒轅出してもらって一緒に帰ろうぜ」
「主殿だけに苦労を味わわせるのは私の好みではない。気遣いは無用だ」

そういうとキリュウは、太助を残して階段を降りていった。
それ以上太助は言葉をかけることができなかった。
太助はキリュウの事はあきらめてシャオを迎えに行く事にした。

「太助さま〜〜、キリュウさ〜〜ん」

まだ姿は見えないがシャオの声が上の方から聞えてきた。
シャオもキリュウを追って階段を降りてきていたのだ。

「シャオ〜〜〜!」

太助も大声を出してシャオの名を呼ぶ。
キリュウはその声を聞いて肩をすくめた。

「太助様?」

シャオは太助の声が聞こえると、歩みを小走りにし急いで階段を降りはじめる。
太助は太助で、2段とばしで階段を昇り続けている。
程なく2人は階段の踊り場で再会を果たした。

「はぁはぁ、太助様。ご無事ですか?」
「シャオこそ大丈夫か?」
「私は大丈夫です。太助様」

お互いに自分よりも相手を気遣える関係。
確かにキリュウが嫉妬したのも無理はないかもしれなかった。

「とにかくシャオが無事で良かったよ。ったくキリュウの奴、シャオは巻き込むなって言ったのにな。やっぱり何考えてるのか良く分からないよ」
「……太助様」
「どうしたシャオ?」
「キリュウさんの事を悪く言わないでください」
「……シャオ」
「ごめんなさい太助様。生意気なこと言ってしまって……でも」

なおも続けようとするシャオの唇を太助は人差し指で軽く抑える。
シャオの唇に指とはいえ触れてしまった太助の心臓はバクバク鳴っていた。

「シャ、シャオの言いたい事はわかるよ」

平静を装うとするがつい声は上ずってしまう。
そんな内心をシャオが気づくはずもないのだが……

「キリュウだって、つらいはずだもんな。役目とはいえ、わざわざ主に嫌われるような事をしなきゃならないなんて。キリュウにとって主に試練を与えることが自分にとっての試練でもあるんだなって思うよ」

曇っていたシャオの顔がパッと輝く。
太助は状況も忘れてつい見惚れそうになったが、何とか持ちこたえる。

「多分、今までも辛い思いをたくさんしてきてるんだろうな」
「どうして、シャオ達はそんな辛い思いまでしてそれぞれの役目を果たさなきゃいけないんだろう」
「……太助様。役目を果たして主様に喜んでいただく、私たち精霊にとってそれは何よりも嬉しいことなんです。キリュウさんだって、主様が試練を越えて成長される事に喜びを感じているはずです」
「役目が大変であればあるほど、その喜びも大きくなるんだと私は思います……あ、また私生意気な事を言ってしまいました……」

シャオの顔がボッと赤く染まる。
でも、と太助は思う。
今の自分には力が足りない、だからいつになるか分からないけど、シャオやキリュウそしてルーアンをそれぞれの宿命から救ってやる、と。

「いつか……」
「何ですか? 太助様」
「い、いや何でもない」
「よっし、じゃあ帰るか。シャオ」
「はい、太助様」
「俺は、先に行ったキリュウを追っかけて行くけどシャオはどうする?」

シャオの答えなど決まりきっているというのに太助は訊ねる。

「私もお供しますわ、太助様」
「じゃあ、早くキリュウに追いついて3人で帰ろう」
「はい」

2人がキリュウに追いつくと、キリュウはいつものそっけなさだったがどことなく嬉しそうだった。
シャオはそれが嬉しかった。

(もっともっと、太助様とキリュウさんが仲良くなりますように)

その日、七梨家の屋根の上で流れ星を見ながらシャオは願った。

後日談…………

結局、太助はシャオに後藤屋で買ったプレゼントを渡さずじまいで、翔子に軽く頭を小突かれた。

翔子は呆れるしかなかったが、それでこそくっつけがいがある、と逆に燃えた。

ルーアンは計画どおりにやらなかったお仕置きに、秘蔵の田舎饅頭をごま粒大に変えられてしまった。

離珠はようかんをルーアンに食べられてしまって泣いていたが、シャオがそれを見て出雲に頼み、新たにようかんを作ってもらい大喜びだった。

出雲は出番の無かったストレスから朝のセットが決まらず、ムースを4缶もつかってしまった。

シャオはいつもどおり幸せそうである。

小さくなった南極寿星が無事に発見されたのは元の大きさに戻した塔をキリュウが捨てようと思ってごみ捨て場に放り投げた時であった。

そして、キリュウがルーアンの誘いを受けて市立鶴ヶ丘中学校に通う事にしたお話はまた別の機会に語られる事もあるかもしれませんネ。

お・し・ま・い   ですわ


いいわけ、たわ言、悪あがき

というわけで、冷や汗もんですが何とか完成させることができてホッとしております。
メインになるところはガンガン5月号が出る前に書いています。
……ので、本編と合わないところも多いですが、その辺はご理解のほどを……
キリュウのデータが少ないので、正直苦労しました。
皆様のご意見、ご感想、苦情など頂ければたいへん嬉しいです(^^)
おそまつさまでしたm(_ _)m

あどれす:aiida@mxa.usen-net.or.jp 


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