因縁の鎖
五人は近くの空き地に向かっていた。
太助はルーアンになぜ戦うのかと聞いたが、
「そんなの知らないわよ。むこうが私たちを見つけたら封じ込めようとするのよ、振りかかる火の粉は振り払うのよ」
ルーアンに聞いてもよくわからなかったと思った太助は直接ルシェンに聞いたほうがいいかとルシェンの方に近寄ったが、
「ここがその空き地か」
と目的地に着いてしまい太助は聞きそびれてしまった。
その空き地はアパートが建てられるぐらいの広さで、奥の方は草が茂っていて手前は砂利が転がっている。
塀には何枚かの板が立て掛けられていて、土管が三本端の方に詰まれている。
「まあまあの広さだな。それでは始めましょうか」
そう言うとルシェンは中央に歩み寄っていき一度錫杖を打ち鳴らした。
三人も彼を中心に三角形に囲んで戦闘態勢に入った。
しかしルシェンは羅天杖を構えることもなく目を閉じてただ立っているだけだった。
三人は、
「万象大乱!」
「陽天心招来!」
「来来北斗七星!」
と、キリュウは草を、ルーアンは板と土管を、シャオは北斗七星を対象とした。
そしてそれぞれが一斉にルシェンに襲い掛かると、彼は目を開けた。
すると彼の足元から1mほど離れたところから黒い煙のようなものが出てきて彼を中心に渦を巻きはじめ、その端の方から触手が何本か出てきて見る見るうちに一本が長さ3m、太さ20cmの大きさになり、表面は波打つように揺らめくものとなった。
そしてその触手は板と土管を貫き、草を飲み込み、北斗七星の攻撃をすべて受け止め彼らを捕まえていた。
「私はあなたたちとは違って媒体がなくても能力が使えますからね。
錫杖を使う必要もない。
実力を出さずにお前達に勝てるんだ、おとなしく媒体を渡した方が身のためだ」
そう言いながら彼は触手を動かして力を誇示している。
「へん!なーにいってんのよ。あたしは知ってるんだから、あんたが日の下では錫杖の力を十分に使えないってことをね!」
今の天気は快晴ではないが晴れである。
確かに彼は疲れているようにも見える。
「おやおや、日天様は何でもご存知なようですな」
そうルシェンがいうとルーアンはえっへん!と勝ち誇ったように威張った。
「だが、私はこの触手を自在に操れる。
ここに大きな傘を作ることだってできるんですよ、そうすれば錫杖の力も使うことができる」
そう言うと彼は触手の一本を自分の近くに寄せてなでた。
「それより北斗七星を放してください!」
そうシャオが叫んだ。
「ん?ああ、いいだろう」
そうルシェンがいうと破軍以外を開放し、そして破軍をシャオの方へ投げた。
シャオは破軍を受けとめたがその衝撃で塀のところまで吹き飛ばされていった。
「シャオ!」
太助はシャオの方へ行こうとした。
しかし、触手の先端の一部がちぎれて檻状になり、太助を閉じ込めた。
「なにをするんだ!」
太助が叫ぶと、
「危険ですから動いてはなりません!すぐに終わりますから少々ご辛抱ください」
「なんでだよう!なんでこんな事しなきゃならないんだよ!皆一緒でいいじゃないか。
それにこれ以上皆を傷つけるなら帰ってくれ!」
そう太助は言ったが、
「帰るのはかまいませんがそれはこの者達を戻してからです。
これはすべてあなたのためなのです。あなたの命と安息は私が守る!」
そういった後彼は再び触手を動かしはじめた。
「では行きますよ。一気に片をつけさせてもらいます」
そして触手の一本をキリュウの方へ向かわせるとキリュウは足元の石を大きくして壁にしたが、触手はそれを貫き粉々に砕いてしまった。
しかもその破片がキリュウの方へと飛んできて思わず目を閉じてしまった。
その隙を突いて触手は先端を幾多にも分け、キリュウを包み込み締め付けた。
そのためキリュウは短天扇を落としてしまい、すかさず別の触手がそれを拾い上げルシェンのところへ運んだ。
ルシェンが扇を受け取るとキリュウを締め付けていた触手はキリュウを開放したが、ダメージが大きいのかキリュウは片ひざを突いて、手で体を押さえている。
扇を手にしたルシェンは気をよくして次はどっちにしようかと迷っている素振りを見せている。
シャオとルーアンは本気でいかないとまずいと感じていた。
「来来車騎、軍南門」
2体を同時に呼び出し北斗七星とあわせて攻めに入ったシャオだが軍南門は2本の触手と取っ組み合って互角だし、車騎の砲弾もすべて触手が受け止め吸収しているし、北斗七星はまた捕まっている。
一方ルーアンは、
「空き地じゃ何もないじゃない!」
と、一人で怒っている。
そんな様子を見て増す増す気をよくしたルシェンは触手の数を減らしていった。
「あまりにも差がついてしまったのでね、少し手加減してあげますよ」
そう言って扇を広げて仰いでいる。
するとシャオは、
「来来!梗河」
と梗河を呼び出し梗河は触手の間を擦り剥けて瞬く間にルシェンのところに行き斬りつけた。
しかし、ルシェンは梗河の攻撃を羅天杖で受け止めていた。
梗河は何度も斬りつけるがルシェンは一歩も動くことなく梗河をあしらっていた。
するとキリュウが後ろから飛び掛かろうとしてきた。
しかし、全くの死角である筈の後ろから来たにもかかわらずルシェンは振り向くこともなくさらにキリュウの後ろから触手を伸ばして、キリュウがルシェンに触れる前に捕らえた。
「無駄ですよ、この触手はいわば私の分身のようなもの。
私の目の代わりにもなるのですよ。つまりこの触手が出ている間は私に死角はない」
そうルシェンが言うと、
「放せ!私の扇を返せ!」
キリュウが叫んだ。
キリュウは怒っていた。
キリュウを知っている者達は感情を剥き出しにしているキリュウを見て呆気に取られていた。
もっともルシェンにとっては日天と同じような性格なんだなとしか感じてなかった。
そしてその隙にルシェンは触手をルーアンの方へ伸ばし、あっさり黒天筒を奪った。
「あっ!あたしの黒天筒を返しなさいよ!」
ルーアンが黒天筒を取り返そうと走って触手を追いかけるが別の触手にはじかれてルーアンは塀まで弾き飛ばされ、黒天筒はルシェンの手に渡った。
「これで二つ。残るは月天、おまえの輪だけだ!」
そう言うと触手が太くなり、軍南門を持ち上げ地面に叩き付け、車騎を弾き飛ばし、梗河をなぎ払い、北斗七星を塀に投げつけた。
「皆戻って!」
シャオは全員を支天輪に戻した。
シャオは焦っていた。
ルーアンもキリュウもすでに黒天筒と短天扇を取られ戦えず、自分の星神も歯が立たないため打つ手がなかった。
そんな時、
「シャオリン!あんただけでも逃げなさい!」
そう叫んだのはルーアンだった。
「あんただけでも助かればいつかチャンスが来るから、本当はやだけどあんたのこと信じて待ってるから」
「ええ…でも…」
「いいから逃げなさい!」
「……わかりました。必ず戻ってきますから」
シャオは泣いていた。
そして、
「太助様、少しの間お別れしなければなりません。それまではあの人といて下さい」
「シャオ…」
「来来、軒轅」
シャオは軒轅に乗り飛ぼうとしていた。その時、
「皆場復虚」
ルシェンの羅天杖の玉が光り軒轅は支天輪の中へ戻っていきシャオは地面に落ちてしまった。
空を見ると触手が傘のようになり日の光を遮っていた。
「そういう事は敵に分からないように伝えなきゃ」
せっぱ詰まった状態では冷静な判断をするのは困難である。
そしてルシェンは触手を自分とシャオが入る大きな檻状に形を変えた。
それでもシャオは、
「来来塁壁陣」
と最後まで抵抗した。
「この期に及んでまだ歯向かうのですか?可哀相にこいつも呼び出されなければ苦しまずに 済んだのに」
そう言って触手を結界に近づけると瞬時に結界が消えていった。
そしてそのまま触手を塁壁陣に絡ませると、塁壁陣は苦しみ出した。
「戻って!」
塁壁陣を支天輪に戻したシャオは立ったままうな垂れていた。
「無駄なのです。たった3つの光では闇には勝てないのです。
もう良いでしょう、支天輪を渡して下さい」
そういってルシェンはシャオに近づき支天輪をとろうとした。
その時、
「私は太助様と離れたくありません!」
シャオが顔を上げて叫ぶと、
「ごふっ!」
と、変な声が聞こえルシェンが後ろへよろめき、触手が次々煙のように消えていき太助を閉じ込めていた檻は消え、キリュウも開放された、キリュウはこのチャンスを逃さずルシェンから黒天筒と短天扇を奪い返した。
「ルーアン殿!」
「サンキュ!キリュウ」
「くっ!しまった」
顎を押さえてルシェンが悔やんだ。
シャオが頭を上げたときルシェンの顎に当たったのだ、そのため一時的に集中力が切れて触手が消えたのだ。
「万象大乱」
砂利が岩石へと次々変わっていき、それを、
「陽天心招来!」
とルーアンが意志を与えた。
「その程度の物。私には当たらんぞ」
多少よろついてはいるものの岩石の体当たりをすべて交わしていた。
「ではこれではどうかな、万象大乱」
キリュウはルシェンの足もとの草を大きくした、
「おわっと」
その動きに足を取られ完全にリズムを失った。
一度リズムが狂った歯車は元には戻らず、次々に岩石に当たるようになった。
そんな状況を、頭をさすりながらいまいち飲み込めてないシャオにルーアンが、
「ちょっと何ボーっとしてんのよ。あんたも攻めなさい」
ルーアンの一喝にシャオは、
「あ、はい。来来天鶏」
火の鳥は岩石の間を縫ってルシェンに体当たりした。
「ぐうっ!」
かなり応えるようだ。
「いいぞう!いけいけ!」
はしゃぐルーアン。
だが、
「ええい、うざったい奴等だ!全て吸収してやる!」
そう言うとルシェンは羅天杖を使おうとした。が、
「ん?あ、あれ、ぐあっ!どこだ!」
ルシェンは羅天杖を探したが見つからなかった。
すると、
「おぬしの探し物はこれか?」
とキリュウは羅天杖をルシェンに見せた。
短天扇と黒天筒を取り戻すときついでに奪っていたのだ。
「ナイス、キリュウ」
ルーアンが親指を立てる。
「くっ!おのれ、ぬあっ!」
しゃべる隙すらなく岩石と天鶏がぶつかって来る。
ルーアン達はいけると思った。
しかし、
「この程度のもの!」
とルシェンが叫び裏拳を放った。
するとあたった岩石は粉々に砕け散った。
「な、なんて奴なの…」
ルーアンはルシェンのすごさに改めて驚いた。
その間にもルシェンは次々と岩を破壊していった。
しかしまだふらついているせいか空振りすることも多かった。
ルーアンは、
「キリュウ!何ぼさっとしているの!早く破片を大きくして!」
と叫んだ。
キリュウはルーアンの気迫に押され、
「う、うむ」
と返事をして破片を再び岩石に変えた。
そしてルーアンはシャオを、
「ちょっと!あんたも何かしなさいよ!」
と急き立てた。シャオは、
「来来!虎賁」
と支天輪から虎賁を呼び出した。シャオは虎賁に、
「虎賁。あの岩石さんたちを誘導して」
と支持した。虎賁は、
「あいよ。任して下せえ月天様」
と胸を叩いた。虎賁はシャオの肩にのり、
「そこの一番でかいのは右へ!4番目にでっかいのは左足のほうへ!……」
と陽天心岩石達に指示していった。
そのためルシェンの攻撃は当たり難くなり、岩石や天鶏の体当たりは当たり易くなった。
するとルシェンが、
「調子に乗るな!」
と叫ぶと触手が四方八方に出てきてすべての岩石を破壊し、天鶏の翼を貫いて叩き落した。
「天鶏!」
シャオは叫びながら天鶏に駆け寄った。
幸い天鶏は生きていた。
シャオは長沙を出して介護に当たらせた。
そしてルシェンは触手を空き地中に這わせていた。
「ちょっとまずいんじゃない…」
ルーアンは怖気ずき始めていた。
しかしキリュウは何かを考えているような目をしていた。
そしてキリュウはシャオを呼びこっそり耳打ちした。
そして、
「万象大乱!」
とキリュウが唱えるとルシェンの足元の土がものすごい勢いで膨れ上がりルシェンはその勢いで上空高く打ち上げられた。
そして触手が消えると、
「今だシャオ殿!」
とキリュウが叫び、シャオは、
「来来!北斗七星!」
と北斗七星を呼び出した。
北斗七星はルシェンを追いかけて上空へ飛んでいった。
やがてルシェンは重力により自由落下を始めていた。
どのくらいの高さまで上がったかは判らないがすべての建物は自分より遥か下にあるということだけわかった。
そしてルシェンが自由落下を始めてしばらくしてから北斗七星が見え、北斗七星はルシェンを通り過ぎ、加速してルシェンに上から七人同時に攻撃を加えた。
ルシェンはさらに速度を増して地上の空き地に向かって落ちていった。
地上ではシャオが塁壁陣を呼び出し結界を張っていた。
やがてルシェンが空き地に落ちクレーターができた。
大量の土があたりに飛び散ったが結界によりシャオ達は無事だった。
しかし土砂は空き地からはみ出すことはなく、ふちのほうに積もっていた。
やがてクレーターの中の土煙が晴れ中心が見えるようになった。
中心部には土砂が積もっていてまるでスピーカーのようになっていた。
そしてそこにルシェンの姿はなかった。
「や、やったのかしら…」
ルーアンは恐る恐るクレーターのほうへ近づいていった。
すると中央の土砂からルシェンが出てきた。
ルーアンは下がった。
そしてルシェンはゆっくりクレーターを登りながら触手を出した。
四人は青ざめていた。
あれだけの攻撃でまだ動けるルシェンに恐怖を感じていた。
ルシェンは触手を四人のほうに伸ばしていった。
しかし四人は一歩も動くことができず、触手はゆっくりと四人の逃げ道をふさいでいった。
しかし太助の足元に太助にじゃれ付く猫がいた。
そして太助は空き地と道路の境目にあった土砂が道路のほうに崩れているのに気づいた。
そして太助には一瞬ルシェンの触手が消えたように見えた。
そしてルシェンがクレーターを登りきろうとしたとき、
「残念だ…」
とつぶやくと触手が消え、ルシェンは後ろ向けに倒れ再びクレーターの中心へと滑り落ちていった。
四人は膝をついたり安堵のため息をついたりした。
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