定められし過去
あれから3時間ほど経っていた。
ルシェンは太助の家に運ばれていて、傷の手当てはされていて、服の汚れもある程度拭き取られていた。
ルシェンは床に座らせられていたが手足は縄で縛られ、膝や肩に折威を乗せられていた。
そんな中ルシェンが気が付くと、早速ルーアンが突っ掛ってきた。
「さあ、説明してもらいましょうか?ここまでするからには何か訳があるんでしょ」
ルシェンがまだ完全に意識が戻ってない朦朧とした状態から抜けるのに多少時間がかかったが、正気に戻ると語りはじめた。
「ふっ、いいだろう。日天と月天の招いた惨劇をな」
ルシェンはにやりと笑った。
「ちょ、ちょっとなによ、あたしとシャオリンが起こした惨劇って、あたしたち何もしていないわよ」
ルーアンは反論し、シャオもまた何のことを言ってるのかわからず戸惑っている。
「あれは2000年ほど前、中国の奥山にあった村でおきた。
その時の私の主はまだ10歳の少女だった。私は近くの山賊の持っていた宝の中にあった。
その山賊たちが捕まり、その宝は一度村に運ばれその時偶然その子が錫杖を見つけ、鳴らした。
私に纏わる話を知らない村の人たちは私が出てきた時みんな驚いていたな、でもいい人たちばかりで私はすぐ迎えられた。
あそこはいい村だった。そこで私は5年ほど暮らしていた。そして事件が起きた。
その頃日天と月天がそれぞれの主の対立で争っていた。それも村に近い所でね。
私も二人の争いが気になってた。二人が戦っている所の近くに湖があったからね。
そして恐れていたことがおきた、湖から流れている川の水量を調節していた土手が崩れたんだ。
その土手の所にどっちの仕業かわからないが大きな力がぶつかったのを感じた。
そしてその湖の水が一気に村に向かって流れてくるのを感じた私は村の人たちに避難するように言った。
それでも間に合わないと思った私は一人で水の流れに立ち向かった。
洪水は物理的力が大きいから完全に止めることはできなくても遅らせることはできる。
その代わり私は直前まで洪水の前に居るから流されるということはわかっていた。
それでも村の人や主を守りたかった。
そして私が洪水の速度を遅くしている時後ろから誰かに抱き付かれたんだ。
それは主だった。もう村の人と一緒に避難していたと思っていた。
主も私が犠牲になろうとしていることに気づいたんだ、そしてこう言ったんだ。
『私はあなたを失いたくない。
あなたが死のうとしていて、まだ私のことを主としてしか見てないのなら私はあなたの主を止めあなたと共に死にます』
そう言って彼女は私に強くしがみついてきて、そして洪水が私たちを飲み込んだ。
私が気が付いたのは2日ほど経ってからのことだ、村の人に聞いた日から逆算するとそうなる。
私は村から3kmほど離れた所まで流されていた。
しかし近くに彼女の姿はなかった。それから私は1日かけて彼女を探し出した。
私のいた所からさらに2km先に彼女はいた。
私が見つけた時彼女はもう手後れだった。
私は彼女を村に連れて帰った。
村の人たちも数人流されていたようだが怪我だけで済んだようだった。
村の人たちは私に礼を言っていたがその時はどうでもよかった。
そして私は彼女を両親に渡した後日天と月天の所に行った」
そしてルシェンは黙り、辺りに静寂が訪れた。
「あんたの言い分も分かるけどあたしたちだってわざとやったわけじゃないし…」
ルーアンがぼそぼそとつぶやいた。
「確かにわざとやったわけじゃないのはわかっている。
だが強大な力の前に一つの命の灯が消えたのは事実だ」
そう言うとルシェンはルーアンとシャオの方をにらんだ。
「お前達の力は時として破滅をも招く、そのため私の力が必要とされた。
お前達の力が暴走しない様に管理するのが私の役目でもある。
だからお前達がこれ以上暴走しないよう封印する」
「封印するったってあんた手も足も出ないじゃない、それに杖はここにあるし」
ルーアンが杖を見せると、
「すでに日は沈みかけている。夜は私の領分、私は最強の存在となる。
それに手も足も出ないとはこういう事を言うのかな?」
そうルシェンは言って手を広げると縄はまるで紙のようにちぎれ、肩や膝に折威を乗せたまま立ち上がり、折威をバランスを崩させてぼとぼとと落としていった。
「この程度では私を拘束したことにはならない」
いつの間にかルシェンの傷はほとんど回復していた。
ルシェンは第2ラウンドを始めようとしている所だった。
四人の精霊達の間に再び緊張感が走った。
その時だった、
「まあまあルシェンさんも皆もちょっと待って、ルシェンさんが皆を見てなきゃならないんだったら一緒に住めばいいじゃないか」
そう言って間に入ってきたのは太助だった。
このままだとシャオ達が戻されると思った太助はそれだけは避けようとルシェンにとっていい条件を提案したのだった。
そんな太助の提案にルシェンはしばらく鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたがその後黙って考え込んでしまった。
太助はシャオ達の意見も聞く事にした、
「あたしはイヤよ。こんな危険な奴と一緒に住むなんてまっぴらゴメンよ」
ルーアンは猛反対だった。
「私は試練の妨げにならなければいい」
とキリュウは賛成だか反対だかよく分からない返答だったが一応賛成のようだ。
そしてシャオはしばらく黙っていた、するとシャオの目から涙がこぼれた。
「ルシェンさんは私たちのせいで大切な人を失ったんですよね。
私だって役目を果たしている途中でご主人様を失ったら…」
そう言ってシャオは手で顔を覆ってしまった。
太助はそれが自分とシャオを想定したものか考えたが今は置いといた。
一応シャオは同情からの賛成と太助はとらえた。
これで賛成3、反対1となった。
しかし、肝心のルシェンの答えがまだだった。
太助が三人の意見を聞いてルシェンの方を見ると、彼は考えがまとまったのかすでに太助達の方を見ていた。
太助はルシェンの答えを聞こうとした、するとルシェンの足元から一本の触手がルーアンの方へ向かって伸びていた。
そしてその触手はルーアンから羅天杖を奪うとルシェンに渡した。
「あっ」
シャオを除いた三人はその行動に声を出してしまった。
羅天杖を取り戻したルシェンはすぐ触手を消した。
彼の次の行動に三人は注目しようとしていた。
そしてルシェンは羅天杖の柄の先を床につけた。
そして、
「私はここに居させてもらう。三人の精霊を監視するのにこんな好都合な事はない。
お世話になりますよ、七梨君」
そうルシェンは言った。
太助とキリュウはほっとした。
しかし、ルーアンは、
「なんでこんな奴と一緒に暮らさないといけないのよ!それにあんた、たー様はあんたの主なんでしょ!ちゃんと様をつけるなりしなさいよ!」
と文句を言っている。
それに対しルシェンは、
「私に与えられた役目はこの銀河内の精霊を監視する事だけでお前達の様に主のために何かをするという事は私にはない。
私が主に安息を与えるのは私の能力でできる事だからしているのだ」
と答えるとルーアンは少し驚いた様子で、
「銀河内の精霊ってどういう事よ」
と聞いた。
ルシェンから返ってきた答えは、
「一介の精霊のお前が知る事じゃない。
でもまあ特別に教えてやる。
この銀河の中には日天や月天のような精霊が大勢いる。
そんな精霊達を監視するのが私で、私のような精霊が各銀河に一人いる。
つまり私はこの銀河でもっとも位が高いという訳だ」
今まで自分に与えられた役目は誰に与えられたものか、そして自分は何故いるのかを知らないルーアンやキリュウにとって興味が湧かない訳がなかった。
「位があるって事は指示したりするものがいるって事よね、それであたし達に与えられた役目ってのも誰かに与えられたものなの?」
ルーアンはルシェンの襟をつかんでゆすりながら言った。
キリュウもこっそり聞き耳を立てている。
そしてルシェンはルーアンの手を握りそっと襟から手を離させると、
「実の所私はそのことは知らない。
それに知らなければいい事だってたくさんある、あまり聞かないでくれ」
そう言って少し笑った。
ルーアンとキリュウは少しがっかりしていた。
そしてルーアンは自分の手がまだルシェンに握られているのに気づくと素早く手を引っ込めた。
「ところでたー様、ルシェンをどこに置くの?もう空いてる部屋ないわよ」
確かに空いてる部屋はもうなかった。
太助は部屋の事まで考えてなかった。
「あっそうか、うーんどうしよう」
太助が悩んでると、
「私にはこの空間での部屋は必要ない、物置や押し入れなど光の入らない密閉できる所ならどこでもいい、そこに私の空間への入り口を開く」
とルシェンが言ってきた。
太助達には彼の言っている事がよく分からなかった。
とりあえず彼の要求する適当な所はないかと太助が思い出そうとしている時、ルシェンはまだ泣いているシャオの所へ行き、
「月天よ、いつまで泣いている。いくら泣いても過去の事実は変わらないのだ。
それよりも過去の事実を受け止めて生きていく事が唯一の償いだと思う」
そう言ってシャオの右手を取りそっと顔から離させた。
見るとシャオの目は真っ赤になっていた。
それを見てルシェンは顔を背け、
「まあ、そこまで悲しんで受け止めるのだったらきっと彼女も許してくれるだろう」
と慰めた。
そしてルシェンはシャオをそのままにし、リビングを後にして家の中を歩き回っていった。
そして彼はちょうどいい場所を見つけ太助を呼んだ。
彼は1階のトイレの前にいた。
「げっあんたそんなところに住むの?」
「まあトイレは2つあるけど1階のトイレが使えなくなると結構不便だな」
とルーアンは驚き、太助は笑いながら困っている。
そんな二人の反応を見てルシェンは、
「いや、そっちじゃなくてこっちなんだが」
と階段の所の物置を差した。
「え?でもここって狭くないか」
と太助が聞くと、
「では私の力の一つを見せてあげましょう」
そう言って扉を開けて中に入り扉を閉めると、扉の縁から黒いもやのようなものが出てきた。
しかし、もやはそれ以上出る事はなく縁をなぞる様に漏れていた。
しばらくしてルシェンが出てくると物置の中は黒いもやのようなもので溢れ、奥に向かって渦を巻いていた。
「これが私の空間への入り口。
扉は常に開放しておきましたからいつでも出入りが可能です。
ただ、今はまだ中が安定してないので私以外は入れませんが、いずれ招待します」
そう言ってルシェンは再び中に入っていった。
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