虚の伝道師

翌日の日曜、ルシェンは朝から太助の部屋へ来ていた。
現代日本の事についていろいろ知る必要があったからだ。
「それじゃあ昔とあんまり変わってないのか」
そうルシェンが言うと、
「昔って?」
と太助が尋ねた、すると、
「私は今から60年程前の日本で出てきている。
それから20年程暮らして錫杖に帰ったんだ」
とルシェンは答えた。
そんなやり取りをして午前中だけで大方の現代日本についてルシェンは覚えていった。
そして昼はご飯を食べた後どこかへ行ってしまった。
夕方帰ってきたルシェンに太助は何をしてきたのか尋ねると、
「町の調査と収入源の確保」
と言って、その後何も言わなくなった。
しかしその顔は何かを企んでるような楽しそうな顔だった。

翌朝、朝食をとっている太助達の所へ背広を着たルシェンがやってきた。
そして彼の腕には錫杖がバネのような形で巻き付いていて、まるでアームレットのようだった。
そして錫杖の先端は手の甲のところにきていた。
ルシェンは、
「七梨君、私はもう出かけるから。皆も学校に遅れないように」
そう言ってさっさと出かけていってしまった。
その時太助にはルシェンの口元が笑っているように見えた。
しばらくして太助達は学校へ着いたがそれから間もなくして学校中にルーアンの驚いてる声が響いた。
そしてその日の3時間目事の謎が解けた。
その時間は数学だがなぜか別の数学の先生が後ろから入ってきてその後ろから校長と教頭が続いて入ってきた。
何事かと生徒のほとんどが後ろを向いたが前のドアが開くと再び全員が前を向いた。
そして前から入ってきた人物を見て今度は太助が学校中に声を響かせた。
前から入ってきたのはルシェンだった、しかもなぜか眼鏡を掛けている。
彼は驚いている太助を見てとても楽しそうだった。
そして彼は自己紹介を始めた。
「私は昨日交通事故に遭われた2−2を受け持つ数学の先生の代わりに急遽臨時教師として雇われた永泰闇天露深といいます。
皆さんも知っている月天、日天、地天と同じ精霊です。
私は出てきたばかりですが数学には絶対的な知識と自信があります。
皆さんは私を信じてついて来て下さい」
そう言って授業を開始した。
内容は教科書にある問題の他、即興で応用問題を作ってやらせたりと順を追って説明されているためとてもわかりやすいものだった。
ただひとつの問題は腕の錫杖がシャンシャンとうるさかった。
そしてその日の授業が終わりルシェンは太助の所へ来て、
「今日は職員会議があるようだから私と日天は遅くなるから先に食べてていいよ」
そうルシェンは言ったが先に食べてるとルーアンに何か言われそうで待つ事にした。
ルシェンは職員室の方へ行こうとしたが太助が呼び止め、
「ところで数学の先生が都合よく事故に遭ったけど…」
と言うと、
「あの人疲れているみたいだからしばらく休養を取った方がいい」
そうルシェンは笑いながら言ってその場を去った。
予想通りの答えが帰って来て太助は、はははと乾いた声で笑った。
そしてキリュウの試練を受けながら下校していった。
ルシェンとルーアンが帰って来たのはシャオが晩御飯の準備をちょうど終えた所だった。
とりあえず五人は食事を始めた、しばらくしてルシェンは、
「ああそうそう、私正式に教師になったよ。
良かったね七梨君、社会と数学の先生が同じ家にいて」
と言うと、
「ちょっと、それってあたしに対するイヤミ?」
とルーアンが睨みながら言ってきた。
そんな様子を見て太助はまだ3日しか経っていないのに最初の頃とずいぶん変わったなとルシェンを見ながら思った。

その日の夜、ルシェンは風呂上がりにも関わらず屋根の上にいた。
その日の夜空は雲一つなく月と星が美しく輝いていた。
そんな夜空に惹かれてルシェンは上がって来てしまったのだ。
「久しぶりだな、こんなきれいな夜に逢うのは」
そうルシェンがつぶやいた時、
「おや、先客がいたか」
と声が後ろから聞こえて来てその声のした方を向くとそこにキリュウがいた。
「すべて自由席だ、私は誰が来ようが構わん」
そうルシェンが言うとキリュウはルシェンの近くに来て座った。
そんなキリュウに、
「…だからってなんで近くに座る?」
とルシェンが言うと、
「え?あ、ああそうだな」
と顔を赤くして座りながら離れていった。
そんなキリュウの仕草を見てルシェンは笑いをこらえながら座った。
しばらくの沈黙が続いてルシェンが、
「この時代は平和だな…」
と言うと、
「そうだな、私が今まで出会った主のいる時代は戦乱の世とかだったからそれを生き抜くのに試練を与えていたようなものだった。
だが、今の主殿はシャオ殿を守護月天の定めから開放するために試練を受けているそうだ。
だからかな、私がこんなに長く同じ主に求められるのは」
とキリュウはしんみりとして返した。
それに対しルシェンが意地悪く、
「独り言を返されても困るな」
というとキリュウは驚いたような顔でルシェンの方を向き、そして顔を赤くして俯いてしまった。
それを横目で見ていたルシェンは笑いをこらえるのに必死になっていた。
あんまりからかうのも気が引けるのですぐに、
「冗談だ」
といい、続けて、
「私の前の主の時は世界中が戦争をしてね、私の主は兵隊として海軍に行ったんだ、もちろん私も一緒にね。
私たちはハワイの真珠湾を襲うという任務を受けて出港し、私が力を貸したおかげで強襲に成功した。
それから戦争が終わって平和が訪れたけどしばらくして主は病死してしまった。
じゃあ、次地天の昔話を聞かせておくれ」
ルシェンが突然キリュウに話を振ると、
「え?あたしの昔話…えーと、うーん…」
とキリュウは悩んでしまった。
すると、
「はっくしょん」
とルシェンがくしゃみをした。
「やっぱ夏でも風呂上がりに夜風は応えるなあ。
すまないが地天、昔話はまたにしてくれ」
そう言って家の中に入ってしまった。
残されたキリュウには主とのよい思い出がほとんどないため昔話をする事ができなかった。
それに気づいたのかルシェンはわざとらしいくしゃみをしていった。
が、それは逆にキリュウを辛くしてしまった。
キリュウはしばらく屋根の上にいたがだんだん冷えてきたため家の中へ戻っていった。


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