迷いし猛者達
ルシェンが来てから二週間後の土曜、ルシェンとルーアンは学校の教師達による歓迎会に呼ばれていた。
そのためその日の夕食は三人だけであった。
そして夕食が終わった頃玄関があいてルーアンとルシェンが帰ってきた。
太助が玄関に行くとそこには完全に酔っ払ったルシェンとそのルシェンに肩を貸しているルーアンがいた。
「たー様助けて〜」
とルーアンが泣きそうな声で太助にすがった。
ルシェンは太助に気づくと、
「おりゃ?太助君まだ起きてたの?だめだよ明日休みだからって夜更かししちゃ」
と絡んだ。
まだ7時を過ぎたばかりだった。
かなり酔っているルシェンを太助とルーアンはリビングに連れて行き座らせた。
太助はルーアンにルシェンがどれくらい飲んだか聞くと、
「コップ一杯の焼酎でこの状態になってその勢いで一瓶飲んだだけよ。
おかげであたしは全然飲めなかったわ。
もう店の中では触手だして暴れるわで歓迎会も中止になるし、まったく散々よ」
と途中から怒り出してしまった。
その間もルシェンは何が楽しいのかずっと笑っている。
そこへシャオが水を持ってきてルシェンに渡したが、
「あはははは、ありがとうシャオリン。
うぐっ、うぐっ。
ぷはーっ、あー、あっははははは」
とあまり効果がなかったようだ。
触らぬ神に祟りなしともいうので皆ルシェンから離れようとしたが、
「おや?皆どこ行くのかなー?」
と触手を出して部屋中に動き回らせ逃げ道をふさいだ。
そして突然ルシェンは、
「なあ、ルーアン。お前は確か主に幸せを与えるのが役目だったよな?」
とルーアンに聞いた。
「な、なによいきなり」
とルーアンが不思議そうな顔をして聞き返すと、
「私の見た所太助君なんか幸せそうじゃないぞ、それにどっちかって言うとルーアン、自分を幸せにしようとしてないか?」
とルシェンはルーアンの日ごろの行動を指摘した。
「そ、そんなことないわよ。ね、たー様?」
明らかに取り乱したようにルーアンは太助にすがった。
それに対し太助は、
「え?あー、いやーそれは…」
と言葉を濁らせ、そこにルシェンは、
「太助君は物事について優柔不断な所がありますね。
決断には勇気と自信が必要だからもっと男らしくずばっといこうよ。
時には気持ちを真っ直ぐぶつけるのも必要だぞ」
と言い、続けて、
「シャオリン!」
とシャオの方を向いて叫ぶと、
「あ、はい」
とシャオは反射的に気を付けをして返事をした。
そしてシャオに向かってルシェンは、
「もう一杯水くれる?」
といい、四人は気持ちがコケてしまった。
シャオは台所に行き水を汲んで来てルシェンに渡し、ルシェンはそれを一気に飲み干し、そして、
「あはははは」
とまた笑い出した。
そしてルシェンがキリュウの方を向くと彼は何かに驚いたような顔をした。
そして、
「夢風…」
と呟き立ち上がって触手を消してキリュウの方へ近づき、そしてキリュウを抱きしめた。
「なっ」
キリュウは驚き、三人もルシェンの行動に呆気にとられていた。
そしてルシェンは、
「夢風、すまない。ずっと淋しい思いをさせてしまっていたようだ。
だが、もう辛い目には合わせないから」
そう言ってキリュウを強く抱きしめていた。
「痛っ」
キリュウが悲鳴を上げ、ルシェンから離れた。
「夢風?」
驚いたような顔をしてルシェンがつぶやき、そしてキリュウに向かって一歩踏み出した。
しかし、足がもつれよろけてしまい転んでしまった。
しかもドアの仕切りの出っ張りの所に額をぶつけて動かなくなってしまった。
太助はルシェンの所に駆け寄ったが彼はただそのまま眠っただけだった。
翌朝ルシェンはリビングのソファーの上で目を覚ました。
昨日のことはあまり覚えてないのでなぜこんな所で寝ていたのか考えたが分からなかった。
とりあえず上半身を起こすと額に痛みが走った。
「んっ!これが二日酔いというものなのか?しかしおかしいな頭痛は頭部全体で起きるはずだが…」
と考えることが増えてしまった。
そこへシャオがやってきて、
「おはようございます、ルシェンさん」
と言ってきたのでルシェンも、
「ああ、おはよう月天」
と返した。そしてルシェンは、
「ああ、そうだ月天、昨日の夜何があったか知らないか?」
とシャオに尋ねた。
シャオは順を追って説明していき、ルシェンは、
「そうか、日天には随分世話になったみたいだな、後で私の饅頭でもやるか」
と言った。
そしてシャオは、
「そう言えばルシェンさんキリュウさんのこと『夢風』って言ってました」
と続けるとルシェンは、
「な!?それは本当か!」
と聞いた。
シャオはその勢いで一歩引いたが、
「ええ」
と答えた。
するとルシェンはしばらく止まっていたがやがて立ち上がりリビングを出て行こうとした。
シャオは、
「どこへ行くのですか?」
と尋ねた、すると、
「酔っているときに言われても何の事か分からず混乱しているだろうから、正気の今本当のことを言ってくる」
とルシェンは答えるとその場を後にした。
ルシェンが廊下に出るとちょうどキリュウが階段を降りてくる途中だった、そしてキリュウもルシェンに気づいて途中で止まってしまった。
ルシェンは階段の方へ行きキリュウのいる段のところまで上っていった。
しかし、キリュウはルシェンから顔を背けてしまった。
ルシェンはそのまま、
「私は昨日のことは覚えてない。
しかし、先ほど月天に聞いたのだが酔っているときに地天のことを夢風といったそうだが。
その、それは…」
珍しくルシェンは言葉を濁らせた、それに対しキリュウは
「夢風とは前に言っていたルシェン殿の主のことか?」
と冷静に聞いてきた。
「ああ。その…実は似ているんだ、地天と夢風は」
ありふれた答えが返ってきた。
キリュウは驚くこともなく、
「やはりそうか。しかし私は夢風殿とは違うぞ」
と言った。
ルシェンは、
「それはわかっている。似てるといっても地天と夢風は違う。
どんなに想っても死んだ人は帰ってこない、それは永い時を生きた私がよく知っている。しかし似た人と出会うこともあるということも知っている。
私は昨日のように地天と夢風を重ねることはもうしない。
これからは地天だけを見る!」
と最後のところを強く言った。
キリュウには言っている事が分からなかったがやがてその意味が分かると顔を赤くして俯いてしまった。
そしてルシェンは、
「答えは今すぐでなくていい、時間はたくさんあるのだから」
とそれだけを言い残して自分の部屋に戻っていった。
それからというものルシェンとキリュウの間に会話らしい会話はなくなった。
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