止まった想い
あれから数日が経ったがキリュウはまだルシェンへの返事をしていなかった。
そしてキリュウとルシェンとの間にはまだ隔たりがあった。
そんな中誰も予想しなかった事件が起きた。
その日の2時間目、太助達のクラスはルーアンの元調理実習を行っていた。
その日作るものは男女混合でクッキーだった。
そしてその班分けはルーアンが行っていて、太助とシャオは離されていた。
他の生徒たちはどうでもいいらしく適当に分けられていた。
そして偶然たかしはシャオと同じ班になれて歓喜の声を上げていた。
「ぬおおおー!なんてオレはついているんだ!シャオちゃんの手作りのクッキーを食べれるなんてオレは世界一の幸せ者だ!ああ、シャオちゃん。できればこんな授業ではなくプライベートなときにキミの手作りクッキーを食べたかった。」
と完全に自分の世界に入っていた。
そして太助はと言うと事もあろうか山野辺と同じ班になっていた。
乎一郎はというと教壇前の班にいてルーアンの近くに居れて喜んでいる。
今となっては日常のような風景がそこにあった。
そしてやはりルーアンは自分の作ったクッキーを太助に食べさせようとしている。
当然陽天心の掛かったクッキーを太助は拒否した。
ルーアンはなんとか太助にクッキーを食べさせようと家庭科室にある物に陽天心を掛け捲った。
泡だて器やら鉄板やらたかしが食べるのを惜しんでいたシャオのクッキー等が家庭科室の中を暴れまわった。
「ああ!オレのクッキーがー!」
たかしは結局シャオの作ったクッキーを食べることができなかった。
ルーアンはその混乱に乗じて太助にクッキーを食べさせようとしたが自分のクッキーにも陽天心をかけていたため、どれが自分のクッキーか分からなくなっていた。
その間にも陽天心の掛かった調理器具達は生徒や壁などにぶつかっていた。
そしてその中のひとつがガスレンジのつまみにぶつかり火をつけた。
しかもその近くでは小麦粉を入れたボールが踊っていて、その周辺は小麦が舞っていた。
そのためそこで粉塵火災が起きてしまった。
しかも窓際で起きたためカーテンに火が移りそれは瞬く間に広がっていった。
太助はまだクッキーを探しているルーアンに、
「おいルーアン火事だ火事!」
といったが、
「うるさいわね!あたしは今それどころじゃないの!」
と返されてしまった。
そしてたかしは、
「よーし、ここはクラス委員のこのオレが皆を導くぜ!さあ皆廊下に並ぶんだ!」
と仕切ったがそれを聞いていた者は少なかった。
やがて火災警報装置が作動し学校中に火事が起きたことを告げるサイレンが鳴り響いた。
火は広がりあちこちから悲鳴が聞こえ出した。
数分後生徒たちはグラウンドに避難していた。
ルシェンは今回の火事の張本人がルーアンだと知るとルーアンのほうに行き力を吸い取ってしばらく陽天心を使えなくしていた。
そうこうしているうちに学校は崩れ始めた。
ルシェンは太助達の所へ行っていた。
「これじゃ羽林軍も大変だな月天。…あれ?月天?」
彼はシャオに語り掛けたがそこにシャオは居なかった。
「七梨君、月天は?」
と聞くと、
「シャオなら怪我した人が居たみたいだからって仮設テントの方に居るよ」
と言われ、続けて、
「ああ、そう。じゃ地天は?」
と聞くと、
「え?キリュウ?そういや見てないな」
と返ってきた。
ルシェンはキリュウの気配で探す事にした。
そしてルシェンはキリュウの気配を感じた。
キリュウは校舎の裏側にいた。
「なんで地天は校舎の裏なんかにいるんだ?」
そう言いながらルシェンは校舎の裏に向かって走っていった。
ルシェンが校舎の裏側を見るとそれはグラウンド側よりも崩れていて所々瓦礫の山ができていた。
そしてその瓦礫の山の一つにキリュウがいた。
キリュウは倒れた格好になっていて、足を崩れたコンクリートの壁が挟んでいた。
短天扇はキリュウの近くにあるが手を伸ばしても届かなかった。
ルシェンはキリュウを助けようと近づいたがキリュウの上の壁が剥がれ落ちそうになっていたのに気付いた。
そしてそれはすぐに落ちてきた。
「ここからじゃ間に合わない」
そうルシェンは思い、キリュウもまたもうだめだと思った。
そのときだった、
「万象大乱!」
という声が聞こえてきてコンクリートの壁は小さくなって落ち、キリュウは無事だった。
今のは何だったのかと思いキリュウが辺りを見回すと羅天杖を構えたルシェンがいた。
キリュウはそのとき初めて彼がそこにいたことに気付いた。
ルシェンはキリュウの所へ駆け寄り短天扇をキリュウに渡すと、キリュウは足の上の壁を小さくしてそこから抜け出た。
そしてキリュウは、
「なぜルシェン殿が万象大乱を使えるのだ?」
と尋ねると、
「私は前に一度万象大乱で大きくなった草を吸収した。
そのため一度だけ万象大乱が使えるのだ」
と答え、そして今度は、
「なぜ地天はこんなところにいるんだ?」
とルシェンが尋ねるとキリュウは両手を差し出した。
そこには一つの燕の巣があり、中にまだ完全に羽毛が生え変わってない燕の雛がいた。
そしてそれを持ってキリュウは茂みの方へ片足を引きずりながら歩いていった。
するとそこにはたくさんの燕の巣があった。
「そうか、地天は燕達を守るためにこんなところにいたのか」
そうルシェンが言って上を見るとそこにコンクリートが次々と崩れてきてルシェンは埋まってしまった。
「ルシェン殿!」
キリュウはルシェンの所に駆け寄ろうとしたが右足が言うことをきかなかった。
すると瓦礫から触手が出てきて、続けてルシェンが出てきた。
それを見てキリュウはほっとした。
しかし、触手はすぐに消えルシェンも片膝を突いてしまった。
「大丈夫か?ルシェン殿」
キリュウが声をかけると、
「ああ、大丈夫だ」
とルシェンは答え立ち上がった、
「みんなも心配しているだろうから早く戻ろう」
そう言ってルシェンはキリュウを両手で抱えた。
「ルシェン殿!?」
キリュウが驚いて何をするのかといった顔をすると、
「足痛いんだろ?」
とルシェンは笑顔で答えた。
しかし、どう見てもルシェンのほうが重傷であるように見える。
ルシェン達がグラウンド側に戻ると点呼が終わっていた。
しかし何か慌しかった。
ルシェンは仮設テントのところに行きキリュウを下ろし太助達のところへ向かった。
そしてルシェンは何があったか太助に聞くと一人足りないということがわかった。
しかもそれは2−2の生徒だということを知った。
「私のところか!?」
ルシェンは驚いた。
そして誰かが4階の所で手が見えたといった。
「まだ4階か、私もこれじゃあそこまで跳べないな…」
とルシェンが困っていると、太助は、
「俺シャオを呼んでくる」
と言って走り出そうとしていた。
しかしルシェンは、
「待った!そうか、軒轅か。それなら」
と太助を止めて羅天杖を構え、
「来来、軒轅」
と言うと羅天杖の玉から軒轅が出てきた。
それを見た太助は何が起きたのかよく分かっていなかった。
そんな太助に構うことなくルシェンは軒轅に乗り4階に行くように指示した。
軒轅は自分に乗っているのがシャオではないということはわかっていたがなぜか彼に逆らうことができなかった。
しかし、自分に立って乗っているということが気に入らなかった。
そしてルシェンと軒轅は4階に着き中を見た。
しばらく進むと中でうずくまっている生徒を発見しルシェンは窓を開けた。
そして、
「もう大丈夫だ」
とルシェンが言うと生徒はルシェンに気付き窓の方へと向かってきた。
すると後ろの教室のドアが焼け崩れ中から炎が吹き出した。
そして炎と共に吹き出した爆風は生徒をルシェンの方へ吹き飛ばし、その生徒を受け止めたルシェンは生徒ごと軒轅から落ちてしまった。
落ちる時ルシェンは生徒を自分にしっかり寄せ、自分が下になるようにした。
あっという間の出来事だった。
誰もなすすべがなく彼らは地面へと落ちていった。
ばきっ
「ぐはっ!」
ルシェン達が地面に落ちたとき何かが折れた音がした。
そして生徒を押さえていたルシェンの手は力無く地面に着き、二人とも動かなくなった。
太助はルシェンの所に駆け寄り続いて関係者も駆け寄った。
太助がルシェンの所に近づいて二人の様子を見るとルシェンは目も開けていて意識もしっかりしているようだ。
生徒のほうは煙を吸い込んだのかルシェンの上でずっと咳をしていた。
やがてシャオ達が着き生徒は火傷などをしているためテントの方へ連れて行かれ応急処置を受けていた。
しかし、一向に寝そべったまま起き上がらないルシェンに太助は、
「どうしたんだ?」
と聞いた。すると、
「体が動かない。感覚もない」
と答えた。
落ちた衝撃で脊柱を折って神経を傷つけてしまったのだ。
辛うじて首と右腕が動く程度だった。
しかもルシェンは、
「まずいな、怪我が私の回復力を上回っている。これじゃ助からんな」
といった。
それに対し太助は、
「何馬鹿なこと言ってんだ!そうだ、シャオの星神に直してもらおう」
といいシャオも、
「今長沙を出しますから」
といい支天輪を構えた。
しかしルシェンは、
「無駄だ。星神を使っても無理だろう。それに今の私は力を必要としている。
その長沙とかいう者の力を吸い取ってしまうだろう」
と言ってシャオが支天輪を使うのを止めた。
「じゃあ、ルシェンさんはこのまま死ぬだけなの?」
太助がしんみりとした口調で言った。
するとルシェンは、
「それは違う。もし私が死ぬとこの星系の力の均衡が崩れ崩壊する。
だから私に何かあったとき私は羅天杖を通って私の世界に戻される。
私は私の世界に戻れば助かる。
そして私のいなくなったこの世界と私の世界を繋ぐ羅天杖は役目を失い消滅する。
つまり私は生きているが会うことができなくなる。ただそれだけだ」
と言ってきた。
彼の額には脂汗が流れ始め地面に血が広がり出した。
やがて彼の顔は苦痛で歪み始め彼は、
「ついてないな、こんなときに快晴だとは」
と呟いた。
それを聞いた太助達は空を見た。
ついさっきまで雲が出ていたが風で流され夏の太陽の陽射しが容赦なく降り注いでいた。
ルシェンは太助に、
「済まない七梨君。最後まで役目を果たせない」
と言った。太助は、
「何言ってんだ!もうしゃべるな」
と言ったがルシェンは、
「どの道もう手遅れだ。
それより地天はいるか?」
と尋ねた。
それを聞いたキリュウはルシェンの右側に座った。
「キリュウ、とうとう君からの答えを聞くことができなかったね」
ルシェンは始めてキリュウのことを地天と言わなかった。
そして最後の力を振り絞るかのように右手をキリュウのほうへ伸ばした。
しかしそれはとても力なかった。
キリュウはそれに応えようと両手で握ろうとした。
そのとき、
「ぐっ!」
ルシェンとキリュウの手が触れる寸前でルシェンが苦しみ出し、そしてルシェンの体が黒い靄の塊のようになり羅天杖の玉の中へ吸い込まれてしまった。
そしてルシェンが完全に吸い込まれると錫杖に次々と罅が入り粉々に砕け散り、砂塵のように風に舞っていった。
そこには経った今まで人が横たわっていたような窪みと温かさだけが残った。
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