返りし日々
その日の夕食は静かなものだった。
会話もほとんどなく、ルーアンの食欲は普段の半分もなく、シャオはつい五人分作っていた。
そしてその食卓にキリュウはいなかった。
ルシェンが錫杖に戻ってから姿が見えなかったがどうやら家に帰っていたらしい。
もっとも学校は焼け落ちて授業ができなくなってすぐ終わり、しばらく休校になった。
そしてキリュウはあれからずっと部屋から出てきてない。
太助は風呂から上がった後自分の部屋に戻る前にルシェンの居た部屋を見た。
そこはもう以前の物置に戻っていた。
そして太助は部屋に戻りルシェンが最後に出した宿題を始めた。
問題はそう難しいものではなかったがルシェンとのことを考えながらやったためとても時間がかかった。
太助が宿題を終えたのは12時過ぎだった。
「ああ、もうこんな時間か。早く寝なくちゃ」
そう太助は呟きベッドに入っていた。
そして太助がうとうとし始めたときだった。
月明かりが雲にさえぎられ部屋が急に暗くなったとき、
「…梨、七…梨…君」
どこからともなく声が聞こえてきた。
太助はその声ではっとして目がさえ、あたりを見回したがだれも居なかった。
そして、
「七梨…君、私…だ」
と再び声がした。
太助にはその声に聞き覚えがあった。
「ルシェンさん?」
と太助が尋ねると、
「そうだ、私だ」
と答えた。
「でもルシェンさんはもう居なくなったんじゃ…」
と太助が聞くと、
「確かに私の実体は存在しない。実体を維持するだけの力はもうないのだ。
ただ声だけが送れるほどしか力が残ってない、それも月明かりにすら勝てない」
とルシェンは言った。
太助にはルシェンが笑っているような顔が思い浮かんでいた。
そしてルシェンは、
「私がこうして話すのは皆がとても落ち込んでしまっているからだ。
済まないが七梨君、君に私はこのように存在していると、そしてそれは絶対に私が助けた生徒とキリュウに伝えてくれないか」
と太助に頼んだ。太助は、
「わかった。けど自分で伝えたほうがいいんじゃない?」
と聞いた。すると、
「この世界で私に残された力は声だけを伝えること、それも今晩だけだ。
一度七梨君のところに繋げたからもう動かせない。
二人に伝えることができないのだ」
とルシェンは答えた。
太助はそれを聞いて、
「そうなんだ。わかった、必ず伝えるよ」
と言った。
しかし、ルシェンからの返事はなかった。
そしていくら太助が呼んでもそれ以来ルシェンの声は聞こえなくなった。
| 前のページへ | 次ぎのページへ |
|---|---|
| 月天ノベルズ | TopPage |