―まもって守護月天!特別外伝―
伝説と謳われた星神達
第1章 いつもと変わらない朝



チュン チュン!
 

小鳥のさえずりは、朝ですよ〜!と挨拶しているようだ。
太陽が地平線から顔を覗かせ、昇っていく。蒼い空は晴れ渡っており、白い雲が流れるままに浮かんでいる。
清々しい朝は誰でも元気がわいてくるようなものであった。ただ一人除いて・・・。
いつも早起きのはずの少女は何か悪い夢を見ているだろうか、魘されているようだ。
少女よりも先に起きた小さな女の子は、魘されている少女を見て、すぐ心配の表情になり、少女を揺り起こす。
彼女は小人のサイズであるためか、揺り起こす振動が小さく、少女の目覚める気配がない。
ますます心配になった彼女は一生懸命にも揺り起こしているようだ。ある意味で健気である。
ようやく、そんな彼女の一生懸命さが少女に伝わったのか、うっすらと眼が開く。
『シャオしゃま、大丈夫でしか?』
起きたのを確認した彼女はすぐテレパシーを送る。
まだ半分頭がぼーっとしているらしく、返事はちょっと時間がかかった。
シャオは目をこすり、自分の下にいる彼女にそう言う。
「・・・大丈夫よ。心配かけてごめんね。離珠」
『そうならいいでしが・・・』
離珠も不安げに呟いた。正確には心の中のみであったが。
半身を起こしたシャオは、掛けられている布団を見つめながら物思いにふけった。
内容はもちろん、あの夢のことである。
夢全部覚えている訳ではないので、考えても何かピン!と来ない。
ぼんやりしていると、不意に心の中にある不安感が急速に増大してゆく。
夢とはいえ、大切な人がいなくなるという恐怖を味わってしまったのである。
現実にそうなってしまうのではないか、という不安にかき立てられたシャオは、バッ!と布団を投げ、自分の部屋を出てしまった。
『シャオしゃまぁ〜 どこへ行くでしか〜・・・?』
心配顔の離珠を残して・・・。
不安になったシャオは、わき目も振らずに二階の部屋へ急いで駆け登り・・・。

バタン!

「太助様っ!」
シャオがドアを開けた途端、叫びと似た声を発する。
その音に驚いた太助はびくっ!と身をすくめ、恐る恐るとシャオのほうに向く。
「・・・へ?」
突然の事に呆然する太助。自分が着替え中だと忘れて。
シャオは、そんなのお構い無しに着替え中の太助に強く抱きついた。
抱き付かれた太助は何のことか、分からず、パニックに陥っているようだ。
「ごめんなさい・・・私、不安でしょうがないんです。」
「あの・・・」
「もう少しだけ、このままでいさせて下さい。」
太助の言葉を遮り、さらに強く抱きつくシャオ。
太助はシャオに抱き付かれているだろうか、着替え中のところを見られたんだろうか、顔は真っ赤になっていた。身体から湯気が出るほど・・・。
そんな光景を、たかしや花織、出雲、ルーアンが見たらどう思うのだろうか。必ず、大混乱を引き起こすのであろう。
しばらくの時間が流れたが、太助にとってはこの時間が長く感じられた。
シャオの抱き付き攻撃に耐え切られなかったのか、太助が不意に沈黙を破った。
「あのさ・・・朝ご飯は・・・?」
「え・・・?」
太助に言われるまでまったく気づかなかったシャオは弾かれるように離れ、頬を赤らめる。
「あ、朝ご飯作りますので早く来て下さいね。」
と吃りながらも、そそくさと階段を降りていった。
残された太助はしばらくポカンとしていたが、自分の身体を見てようやく思い出す。自分が着替え中だったことを・・・。
そう思った途端、沸騰するほど顔が真っ赤になった。
真っ赤になった太助はなんとか制服に着替え、階段を降りた。
台所からいい匂いが流れてくる。流れてくる匂いからすると、シャオが和食を作っているのだろう。
それに、トントンとリズムのそろった包丁の叩く音が聞こえてくる。
「いい匂いがするなぁ・・・」
太助は、匂いを嗅いでいると・・・。
 

ドカ――――――ン!!!
 

天井が響くほど大きな音がした。
それはキリュウの目覚しだと分かっている太助は、身をすくめながらも天井を仰いだ。
キリュウが起きたというよりも、こんなことをやって天井が破れないのか、と心配のこもった気持ちで。
シャオはその音にびっくりしたのか、慌てて台所から飛び出した。
「太助様!」
「え?」
脅えたシャオは間抜けな返事をする太助に抱きつく。
その反動で、太助はシャオに押されて後ろへ倒れてしまった。
「わっ!!」
「あっ!!」
二人のそろった声を出し、後で来る衝撃に備えて目を瞑った。
普通のシャオならここまで脅えないはずのだが、さっきの夢の所為でそうさせてしまったのだ。
シャオより目を開けた太助が見たものは、すぐ前にシャオの顔があった。
おまけに二人の唇はほんの少し動けば、触れ合う距離になっていたのである。
そこで、いつものように妄想の道を走り出した。
う〜ん、若いっていいねぇ〜、って・・・。それは置いといて・・・。
太助は心に湧き起こる葛藤を抑えながら、なんとかして言葉を紡ぐ。
「あの、さ・・・どうしたの?シャオ・・・」
「え、ごめんなさい・・・」
はっと我に返ったシャオは、謝罪の意を太助に伝えた。
そして、頬を赤らめ、目の前にある太助の顔をじっと見つめる。もちろん、シャオが太助に抱き倒した姿であるが・・・。
太助の顔を見つめ続けているうちに頭の中がぼーっとして、心の中にある不安感が消えてしまった。
だが、それも太助に抱き付いているだけだった。奥手な太助はそれに逃れるようにそっぽを向き、大丈夫と告げる。
「キリュウの目覚しが発動したから、大丈夫だよ。それに・・・」
続けて言おうとした時、眠たそうな表情をしているキリュウがリビングルームに入ってきた。
しかし、二人の姿を見た途端、湯気が出るほど顔を真っ赤にしてしまった。こんな光景を見てしまっては真っ赤になるのは無理もない。
顔が赤に染まったキリュウは吃るような口調で訊ねた。
「シャオ殿・・・主殿・・・何をしておられるのだ?」
無意識のうちに、ゆっくりと太助に顔を近づけたシャオは、慌てて半身を起こした。
「朝ご飯は・・・?」
太助はまさか二度目となる言葉を言うつもりもなかったのに、そう訊ねてしまった。それも照れというものから来たのであろうか・・・。
と、太助の言葉はもう手後れだった。なぜなら、焦げた匂いが台所から流れてきたからである。
それが一層、シャオを慌てさせてしまった。まるで普通の女の子のように・・・。
慌てたシャオが台所に戻って見たものは、やっぱり焦げた魚とぐつぐつ煮えだっている鍋があった。
“朝ご飯”とよべるものはどこにもない。らしかぬ失敗をしてしまい、シャオは泣きじゃくってしまった。
「ごめんなさい・・・失敗しちゃいました・・・。」
「もう一度作ればいいよ。俺も手伝ってやるからさ・・・。泣かないでくれよ、な。」
女の子の涙に弱い太助はおろおろしながら、そう慰めた。
その頃、キリュウの姿は見えない。きっと洗面所へ顔を洗いに行ったのだろう。
太助に慰められて、ようやく泣き止んだシャオはにっこりと微笑み、こくりと頷く。
「はい、一緒に作りましょうね♪」
「ああ・・・」
太助も頷くしかなかった。ああいう風に見せられては・・・。
そして、朝ご飯を作り始めるシャオ。今度は太助と一緒で作業を進めているのだ。
シャオは太助と一緒に居られるのが嬉しいのか、笑顔を絶やさずにいる。
洗面所へ行ってきたキリュウがテーブルの椅子に座ると、二人の様子を眺めた。パタパタと短天扇で仰ぎながら・・・。
「何か微笑ましいな・・・。」
キリュウの一言は妙に説得力があった。
それは、台所の空気は何だかとっても暖かいような雰囲気があるから。
キリュウは二人の仲を応援する立場に近いので、シャオと太助がくっつくためなら厳しい試練を与えているようなものだ。
「ふわ・・・まだ眠い・・・あら!朝ご飯用意してるじゃない!」
朝寝坊のルーアンがここに来たときは、タイミングよく朝ご飯を並べている途中である。
これに気を良くしたのか、ルーアンは顔を洗うのを忘れ、がたっと椅子に座り、がつがつと食べ始めたのだ。
「あの・・・ルーアンさん、並べ終わってませんですけど・・・」
「いいの!」
シャオの言葉も、たった一言で片づけられてしまった。
太助も呆れ顔で、がつがつ食べているルーアンを見つめている。
「ルーアン殿、顔を洗ってから食べたほうがいい。」
「だから、いいの!!」
ますます食べるスピードが増していく。
キリュウはなんとなく腹が立ったのか、バッ!と短天扇を広げ、唱言を唱える。

「万象大乱!」

それによって食事がだんだんと小さくなり、挙げ句の果てに砂粒まで縮小化した。
小さくなった食事は当然ルーアンのお腹は満たされることも無く、キリュウに怒鳴りつける。
「あー、キリュウ!何すんのよ!」
「これも試練だ。顔を洗ってから出直すがよかろう!」
ルーアンの抗議も受け流し、あっさりと言い放つキリュウ。
「ぐっ!」
そう言われてはさすがのルーアンも手も足も出ない。しぶしぶと洗面所へ向かう。
妙に律義だな・・・キリュウ。
「それって逃げる悪役に言う台詞なんじゃ・・・?」
太助は突っ込みを含んだ言葉をキリュウに投げかけるが、キリュウの“何か言ったのか?”と逆にいわれ、噤んだのである。
「キリュウさん、すごいですね。」
シャオはシャオで、ポケポケとした表情で言う。
何がすごいだろうか?という突っ込みは置いといて。
キリュウは一つ息を吐くと、縮小した食事を元の大きさに戻した。
「やれやれ・・・さて、朝ご飯食べようか!」
苦笑いを浮かべた太助は二人を促し、自分も朝ご飯を食べ始める。
何気ない食事であったが、シャオ一人だけ不安の中に居た。ちらっと太助の顔を見つめ、心で呟く。
(・・・気の所為よね・・・でも、心配・・・太助様が私の届かないところへ行ってしまいそうで・・・)
だが、シャオの思考は太助の言葉により停止する。
「シャオ、早く食べないと遅刻するよ。」
「あ、はい!」
我に返ったシャオは慌てて朝ご飯を食べ始めた。なんともまぁ、ほのぼのな雰囲気だねぇ〜。
顔を洗ったルーアンが帰ってきてからは、いつも通りに賑やかになったそうな。
いや、近所にとってはやかましく感じるかもしれない。あれだけ騒いで、よく苦情が来なかったな・・・。
朝ご飯を食べ終えた一行は、それぞれ学校へ行く準備をするべく自分の部屋へ戻っていった。
時計はそろそろ八時を告げようとしている。ちょうど部屋から出てきた一人いた。
制服に着替えたシャオは、玄関でそわそわしながら、後からやってくる太助を待っている。
「太助様はまだかな・・・?」
その光景はまるで、初デートの待ち合わせと見えなくもない。
二階から降りてくる音が聞こえてくる。その音から太助のものだと分かり、シャオはパッと明るくなった。
「たー様ぁ〜」
「だぁぁぁ!抱きつくなぁぁぁぁぁ!」
ルーアンに抱きつかれ、太助の絶叫が家中に響き渡った。
傍に居たキリュウもキリュウで“これも試練だ”とぼそりと言っている。まぁ、いつもの習慣だろう。
シャオは悲しそうな表情で、ルーアンに抱きつかれたまま、じたばた騒ぐ太助を見つめていた。
胸がズキッ!と痛むこともあるが、それ以上に不安がのりかかってきたからである。
と、その時。
ピンポーン!と玄関のチャイムが鳴ったようである。
これをチャンスとばかりに、ルーアンから逃れた太助は、玄関のドアを開ける。
「どちら様・・・ってなんで?」
太助は急に呆れ顔になった。
やはりというかなんというか、たかし、乎一郎、花織、出雲、翔子と、いつもの面々がやってきたのだ。
「おはよう!シャオちゃん、太助」
呆れ顔の太助と裏腹に、たかしの元気な声が響いた。
「おはようございますっ!七梨先輩っ!」
「おはようございますぅ、ルーアンせんせぇ〜」
「シャオさん、おはようございます。」
「よっ!七梨、シャオ!」
たかしに続けと言わんばかりに、それぞれ挨拶を交わすのだった。と言っても想い人しか言ってないようだが・・・。
ますます呆れていく太助は、溜め息の一つでも吐きたくなるような心情だった。
「お前らな〜・・・朝っぱらから・・・」
「七梨せん・・・」
「太助様っ!」
一緒に行きましょう、という花織の言葉を遮り、シャオが太助に呼びかけた。
「どうした?シャオ」
「早く行かないと遅刻しちゃいますよ。」
シャオに言われるまで時間に気づかなかった太助は、ふと時計を見ると、もう八時半を指していた。
急いで行かないと間に合わない時間なのだ。時間に急かされるように慌てだした太助は鞄を持つ。
「急いで行くぞ!」
「は、はい!」
「おい・・・」
「ちょっと待ってくれよ〜シャオちゃん!」
「七梨せんぱぁ〜い!」
「ちょっと待ちなさいよ!」
「ルーアン先生!」
何かにかこつけて、二人にくっ付いて急ぐいつもの面々。しかし・・・。
「来々 軒轅!」
シャオが支天輪から移動用の星神『軒轅』を呼び出し、太助を乗せて、一先に学校へ飛んでいった。
残された者達は呆気に取られたが、はっ!と我に返った途端、二人の追いかけを開始した。もちろん、陽天心を使って、である。
「ちょっと!シャオリン!」
「シャオ先輩!ずるいですぅ〜!」
「仲良さそうで結構結構」
翔子だけ、なぜか満足したような顔で一先に行ってしまった二人を見つめていたのだ。
言うまでもないが、彼女も邪魔者達と一緒に追いかけているのである。
急いでいたからなのか、あっという間に学校に到着。シャオと太助はとっくに教室の中に入っている。
追いかけてきたいつもの面々は、一時間目の授業に間に合ったが、ゆっくりとおしゃべりする暇はない。
ルーアンは職員室、花織は1年3組、出雲は購買部、残り三人は2年1組へ。
一時間目の授業開始のベルが鳴り、いつも通りの授業が開始されたのである。
しかし・・・授業中、ただ一人だけ、浮かない顔をしていた。
不安と悲しみの混じった表情のシャオが、先生の方ではなく、授業を受けている太助を見つめていた。
もちろん、太助ばかりで、授業のことなんか頭に入っていないのである。
クラスメート達は授業に集中しているためか、シャオの様子に気づかない。いや。気づいたのは一人だけいた。
「シャオ・・・何かあったんだろう・・・?」
後ろから見ていた翔子も心配になってきたようだ。この授業が終ったらシャオの相談に乗ろう、とそう思ったのである。
あれから、一時間目の授業はたいしたこともなく、終わりを迎えた。
授業終了のベルが鳴ってからすぐに、翔子はシャオの席へ駆け寄り、不安そうなシャオの顔を覗き込む。
「シャオ〜何かあったのか?」
シャオは翔子の問いにも答えず、ただじっとうつむいているだけだったが、やがて顔を上げ、じわっと涙が出そうになるのをこらえる。
そして、重い口を開き、夕べ見た夢の事を話して聞かせた。
「翔子さん・・・私、不安なのです。太助様が私の届かないところへ行ってしまいそうで・・・」
これ以上言葉を続けることが出来なかった。それ以上、言葉を口にしてしまったら胸中にある不安感が増大してしまうではないか。
翔子は、泣きそうになるシャオの肩をポンと叩き、にっこりと微笑み、慰みの言葉をかけてやる。
「大丈夫!ただの夢だよ。現に七梨がいるじゃないか。それに、そんな顔をしていると七梨だって嫌がるぜ・・・きっと!」
「・・・そうよね・・・ご主人様を守る守護月天だもの。しっかりしなくちゃね・・・。」
ぎこちないながらも笑みを浮かべるシャオ。翔子もよかった、と微笑み、ちらりと七梨のほうへ目をやる。
呆れの言葉と同時に溜め息の一つ吐いた。
「まったく、こんな様子だと気づいていないな・・・。」
「たー様ぁぁぁぁぁぁぁん!」
「あたしの七梨先輩に抱き付かないで下さいっ!」
「いつ、あんたのものになったのよ?」
ルーアンが、太助に抱きつくばかりに飛び込んできたが、いつのまにか太助の傍にやってきたのか花織がそれを邪魔する。
そして、いつもと同じく、口喧嘩に発展してゆくのであった。たまには取り合いになるのだが・・・。
こんな光景はさほど珍しくもないが、いつも二人の喧嘩に巻き込まれる太助はたまったものではない。
シャオの様子に気づく暇がなかったと付け加えておこう。
「だぁぁぁ!!二人とも離れろ!」
太助の叫び声も、喧嘩に夢中の二人には効果なし、である。
疲れがどっと溜まった太助は力なさげに溜め息混じりに呟く。
「誰かこいつらをなんとかしてくれ・・・」
彼もなかなかの苦労人なのだ。(合掌)

キーン コーン カーン

運は苦労している彼に味方したのか、2時間目開始のチャイムが鳴った。
他愛ない会話で盛り上がっている者、ゲームしている者、景色を見つめている者、それぞれが自分の席へ帰っていく。
そして、喧嘩している二人も・・・。
「一時休戦ね」
「七梨先ぱ〜い また来ます〜」
ルーアンと喧嘩を止めた花織は太助に向けて手を振り、自分の教室へ帰っていったのである。
「はいは〜い 授業始めるわよ。」
ルーアンの言葉により、二時間目の授業が始まった。
「では、七梨英雄伝説の朗読を・・・」
と思いきや、早々自分の机に頭をぶつける太助。
やっぱり運も神様も見放されているようだ・・・、太助君。

「頼むからまともな授業をしてくれ〜」
 
 
 
 


《次章予告》

一緒に家路につく太助とシャオ。
七梨家の郵便受けに、一つの小包が・・・。
太助の予想通りの人物からだと分かり、嫌な予感を覚える太助。
その夜、いつもの面々がやって来て、大騒ぎするなかで・・・。
「太助様・・・私をおいて、どこにも行かないでくれますか・・・?」

第2章 忍び寄る闇』へ続く・・・。


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