蘇る記憶 -闇、襲来-


謎の転校生登場

いつもと同じ、変わらない朝を鶴ヶ丘中学の生徒達は迎えていた。
唯一変わった事があったとすれば太助達のクラスに転校生が来た事だろうか?
「はーい、みんな!席に着いて。転校生を紹介するわよ。さ、橘さん。こっちにいらっしゃい」
「はい、ルーアン先生」
ルーアンに促されて教室に入ってきた少女を見て男子(一部除く)から歓声がとび、女子(一部除く)から羨望のため息がこぼれる。
その少女は長い黒髪を束ねて後ろにおろし、意思の強そうな髪と同じ黒い瞳をしていてそれとは対照的な雪のように真っ白な肌をした美少女で、みんなの方に軽く微笑みながら軽く会釈した。
「はーい、みんな。静かに。今日からこのクラスでみんなと勉強する事になった、橘........えっと、せんこう?」
「ひかりです。たちばな ひかり。こう書いてひかりって読むんです」
そう言って彼女は黒板に自分の名前を書く。
<橘 閃光>
「そうそう、ひかりさんだったわね。それじゃ、自己紹介して頂戴」
ルーアンは教卓から椅子を出して少し離れた場所に座る。
「はい、先生。今日から皆さんと一緒にこのクラスで勉強する事になった橘 閃光です。
得意な科目は音楽で、苦手な科目は体育です。こちらに来たばかりでまだ右も左もわからないですので、色々と教えて下さいね。これからどうぞよろしくお願いします」
そう言って閃光は丁寧に御辞儀する。
再び男子(一部除く)から歓声と拍手が飛び交う。
「えっと、それじゃ閃光さんには何処に座って貰おうかしら?あ、中村くんの後ろが空いてるわね。あそこに座って貰えるかしら?」
「はい、分かりました」
そう言って閃光は少し後ろの席に向かって歩き出す。
その途中、シャオの席の側を通るとき、シャオと目があった閃光は小さく囁やいた。
「お久しぶりですね」
「えっ?」
シャオは彼女の言葉の意味が分からず、驚いたような声をあげる。
驚くシャオの横を彼女は少し寂しげに通りすぎて自分の席についた。
その間シャオは閃光に会った事があったかどうかを一生懸命思い出そうとしていた。
(久しぶりって、どなたでしたっけ?以前に御会いした事はないと思うんですけど。もしかして忘れてしまったのでしょうか?だとしたら後で謝らないと)
物思いにふけるシャオを太助は心配そうに見ていた。
(シャオ、どうしたのかな?転校生に何か言われたみたいだけど............後で聞いてみよう)
そしてある人物は..............
(やっぱり目覚めていない?ううん、きっと記憶を無くしているのね。数千年の時は余りにも長すぎたんだわ。どうしよう?もうゆっくりしている時間はないのに......少し手荒な方法になるけど、あの手でいこうかしら...........)
密かな策略に想いを巡らせていた。
「じゃ、一時間目は自習。転校生の橘さんと親睦を深める為に自由時間としまーす!」
ルーアンが高々と宣言すると生徒全員から歓声があがり、太助はルーアンも意外といい事をするなと思っていた。
本当は、転校生にかこつけてルーアンが楽をしたいからだったのだが..........
それからしばらくの間、閃光はみんなから質問攻めにあった。出身はどこかとか趣味は何かとか、好きな食べ物、色、動物、挙げ句の果てにはどういう男の子が好きかとかまで聞かれていた。ちなみに太助は自分の席でその騒ぎを遠巻きに見ていた。
そんなこんなで一息ついたころ、閃光が太助達の所にやって来た。
「あの、もし良かったら後で学校を案内していただけませんか?」
そう言って閃光が見つめたのは.................太助ではなく、シャオだった。
ちなみにキリュウは閃光と目があったときに、軽く微笑んで会釈されたため、照れて真っ赤になって下を向いていた。
「え.......?私ですか?」
シャオはどうしましょう?という風に太助の方を見た。
「いいよ、シャオ。案内してあげなよ」
快く言う太助。
「はい、太助さま。それでは橘さん。後で学校を案内しますね。あの.....ところで橘さん」
「閃光、でいいですよ。シャオさん」
「じゃ、閃光さん。さっきの久しぶりってどういう事でしょう?私、以前にどこかで閃光さんに御会いした事ありましたでしょうか?どうしても思い出せないのですが...」
申し訳なさそうに言うシャオに太助が少し驚いたような顔をする。
「シャオの知り合いだったのか?」
「いいえ、七梨くん。シャオさんとは初対面よ。さっきの久しぶりっていうのは、私の勘違いだったみたい。だから、気にしないでね」
少しすまなそうに言う閃光が、シャオにはどこか寂しそうに見えた。
「じゃ、お昼休みに校舎を案内しますね、閃光さん」
「はい。よろしくお願いします、シャオさん」
にこっと微笑み会う二人を見て、太助はいつかどこかでこういう構図を見たようなデジャヴを感じていた。


屋上での決戦

そして昼休み、シャオは約束通り閃光に学校の中の案内をしていた。
「ここが理科実験室です。そして......ここが音楽室、それから.........こちらが校長室です」
とシャオは特別教室などをまず案内していた。
「ね、シャオさん。この学校って屋上に出られますか?」
「はい、出られますよ。いかれますか?」
閃光の問いに、にっこりとしながら答えるシャオ。
「良かった、屋上に出られるんですね。私、屋上って大好きなんです。ほら、何とかと煙は高いところが好きって言うでしょ?」
「屋上がお好きなんですか?なら、出られる事が出来て良かったですね。あの、ところで............何とかと煙の、何とかって何ですか?」
冗談を言ったのに真面目に返されて困る閃光。
「えっと........気にしないで、シャオさん。ところで屋上からの眺めってどんなですか?」
「とってもいい景色ですよ。町が見渡せますし、気持の良い風も吹いてきますから、私も好きなんです」
そうこうしているうちに屋上に出る二人。そこには先客が二人いた。
「あ、キリュウさんにルーアンさん。どうしたんですか?」
そう、キリュウとルーアンである。二人は太助に与える試練について相談していたのだもっとも
「あら、シャオリンじゃない。それに橘さんも。いやね、キリュウがたーさまに与える試練について協力して欲しいって言うから、その相談にのってたのよ」
「ルーアン殿が、一週間は自分の好きな物を大きくしてくれないと協力しないと言ってな。私の力は本来そういう事に使うのではないと話していたのだ」
と、ここで閃光に気付いてまた真っ赤になってしまうキリュウ。
その様子を見て苦笑する閃光。
「なんだか、ルーアンさんとキリュウさんって前のまんまですね。記憶はなくしても性格はあんまり変わらないんですね、シャオさんもそうだし」
「えっ?じゃあ、やっぱり以前に御会いした事あるんですね?なら、どうしてさっきは勘違いだなんておっしゃったんですか?」
「前のまんまって、あたし、あんたと会うのは初めてだと思うんだけど?」
ルーアンの言葉に右に同じと頷くキリュウ。
「前って言っても.......覚えてる方が不思議なくらい前ですよ。ざっと数千年ぐらい前ですから」
「す、数千年ですってぇ!?じゃ、あんたも実は精霊なの?見たこと無い精霊だけど」
ルーアンの言葉にふわっとした微笑みで答える閃光。
「精霊じゃないですよ、私は。私は[闇の魔将]。10魔将がひとり、[闇の魔将]閃光です。あなた達と同じく、ね」
「魔将?何なのだそれは。私達は精霊であっって魔将などではないぞ!」
閃光の雰囲気と「魔将」の響きに何かを感じ、身構えるキリュウ。
「いいえ。それは違います、キリュウさん。あなた達は忘れているだけ。長すぎる生と使命に疲れて本来の使命を忘れてしまっているだけ。それを今、私が思い出させてあげます......」
そう言って閃光はとんぼをきって後方に飛ぶ。
「闇よ、我が意思に従い、我が心のままに踊れ!!」
そう閃光が叫んだ瞬間、彼女の周りから闇が吹き出し全てを覆い尽くした。
「なっ!?」
「くっ!?」
「何事だ!?」
驚き、うろたえる3人に闇の中から閃光の声が聞こえてくる。
「この程度の事でうろたえてて、大事なご主人様を守れるんですか?」
「御主人様.......太助様に何かするつもりなんですか!?」
シャオが顔色を変えて言う。今までに出会った事のない、未知の力に驚異を感じ、太助に何かされるのではないかと恐怖したのである。
そう、恐怖。闇の司るもっとも原初の感情。
「さぁ...............どうでしょうね。でも、ここであなた方が私を倒せば、そういう心配は無くなりますよ。じゃ、おしゃべりはこれぐらいにして、まずは小手調べ」
そう閃光の声がした瞬間、球形に一部の闇の濃度が濃くなり、シャオ達目掛けて飛んでくる。
「ちょっ、危ないじゃない!!」
その場を大きく飛びのいて何とか避けることの出来たルーアンが怒鳴る。
その様子を見て閃光が少し呆れ気味に言う。
「動きが鈍いですよ、ルーアンさん。運動不足じゃないんですか?」
「よ、余計なお世話よ!!」
陽天心菌のおかげで太らないものの、運動不足なのは本当なので痛いところを疲れて怒るルーアン。
「つっ!?」
キリュウがよけきれず、闇球が服の袖をかすめる。
途端、みるみるうちにその部分が黒く染まり、消えてしまう。
「なっ..............!?」
「私の操る[闇球]に触れると闇に侵食されて、そういう風に消滅しちゃいますよ。そして、闇球を今かわしたように、私の闇の中でもある程度ものが見える事があなた達が魔将である何よりの証拠」
闇の中、閃光の声が響く。
「閃光さん...........あなたの目的は分かりませんが、太助さまに危害を加えるおつもりなら、私は容赦はしません。来々、硬河!天陰!」
対人接近戦星神と鋭い嗅覚で敵を察知する天陰を呼ぶシャオ。
闇の中では天陰のように目ではなく、臭いで敵を見つけられる方が有利と判断したのである。
硬河は天陰の背に乗り、敵を発見したところで打ち掛かるつもりなのだ。
「作戦としては悪くないですね。でも、昼間だと本来の力を発揮できないシャオさんでは、私には勝てませんよ」
余裕たっぷりに答える閃光に、臭いを頼りに迫る天陰と硬河。
「闇よ..........飲み込め」
突っ込む天陰と硬河がいきなり濃くなった闇の空間に飲み込まれてしまう。
「天陰!硬河!そんな........ならば、来々!!」
「待たれよ、シャオ殿!!」
次の星神を召還しようとしたシャオをキリュウが止める。
「キリュウさん、でも........」
「闇雲に攻撃しても、また同じことの繰り返しになってしまうぞ?ここはきちんと作戦を立てた方が良い」
キリュウの冷静な声に少し落ち着きを取り戻すシャオ。
「で、作戦ってどうするのよ?そこまで言うからには考えてあるんでしょうね?」
ルーアンの声にキリュウは頷く。
「もちろんだ、説明するのでこちらに.......」
閃光の攻撃に用事しながら一カ所に集まる3人。
しかし、攻撃は全くこなかった。閃光がキリュウのいう作戦に興味をもち、どういうものか見てみようと思って手を出さないでいるのだ。
「............という訳だ。機会は一度きり、失敗しないように頼むぞ、ルーアン殿」
「何であたしにだけ言うのよ。大丈夫、あたしだって昔は百戦錬磨のルーアンって言われたぐらいなんだから」
自信満々に言うルーアンに一抹の不安を抱きながらもキリュウが合図をだす。
「シャオ殿!!」
「はい!!来々、天鶏!!」
シャオは天鶏を呼び出し、空を舞わせる。
「炎の鳥、天鶏?別に、それも闇に飲み込めば問題無いのに」
落胆の声を出す閃光にキリュウがふっと笑う。
「今だ、シャオ殿、ルーアン殿!!」
「はい!天鶏、火力最大!!」
シャオの指示により、天鶏が激しく燃え上がり、一瞬だが辺りを照らし出して閃光の姿を浮かび上がらせる。
「なっ!?」
閃光がひるんだ隙にルーアンが胸ポケットに入っていたボールペンを閃光目掛けて投げつけ、キリュウが万象大乱を、ルーアンが陽天心をかける。
「ペンペンー!!」
超巨大陽天心ボールペンが閃光目掛けて飛んでいく、が閃光は呆れ顔で呟いた。
「闇に滅せよ」
結局消滅してしまった。
「これでも駄目だったか........」
キリュウの残念がる声に閃光が呆れたように答える。
「キリュウさん、考えは悪くないですけど、結局攻撃がなってないですよ。あれじゃ、闇に飲まれるのがオチだって気付かなかったんですか?」
「くっ............あれを飲み込めるとは思わなかったのだ。お主の力を過小評価してしまったようだな......」
悔しがるキリュウ。
「仕方ないですね..........皆さん、闇に飲まれて消えて貰いましょうか。私に3人がかりで勝てないようでは、これからの戦いでも生き残れないでしょうから」
閃光がそう言うと、シャオ達を包み込もうと闇の濃度が上がり始める。
と、そのとき。戦局を大きく変える一つの出来事が起こった!!
「おーい、シャオ、ルーアン、キリュウ、閃光さん。そろそろ授業が..........って、何だ!?この真っ黒なのは!?」
昼休みが終りそうなのに戻って来ない四人を探して、太助が屋上まで来てしまったのである。
「太助さま!?」
「たーさま!?」
「主殿!?」
「七梨くん!?」
四者四様に驚くシャオ達。
「いけません、太助さま!!逃げて下さい!!」
「逃げろって.......シャオか!?そこにいるんだな?待ってろ、今助けるから!!」
声と共に屋上入り口付近から駆け出す音が聞こえる。
「参ったなぁ........まさか七梨くんが来るなんて予想外。仕方ない、可哀想だけど、消えて貰おうっと。闇よ、飲み込め!!」
「え?何だ?う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
闇に飲まれた太助の絶叫が響き渡る。
「太助さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「たーさまぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「主殿ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
3人の叫びが闇のなかで木霊する。
「責任転換するつもりじゃないですけど、あなた達が早く私を倒せてれば七梨くんがこうなる事は無かったんですよ........って.........」
言いつつ閃光はシャオ達の方を見て絶句してしまう。
3人は無言で、しかし全身から激しい怒気を立ち上らせていたのである。
それは大切な人を守れなかった腑甲斐無い自分への怒り、そして太助を殺した閃光への凄まじいばかりの怒り。
「許せない..........あなたを........そして私自身を。大切な人を守りきれなかった自分を、そして太助さまを殺したあなたを!!」
「そう..............シャオリンの言う通りよ。たーさまを死なせてしまうなんて、自分が情けないわ。でも、それよりも、今はあんたを許せない。私から、大切な人を奪ったあんたを!!」
「主殿.........やっと巡り合えた運命の人だと思っていたのに。私の役目を、存在を快く受け入れてくれた、大切な人だったのに。これから、もっともっと試練を与えようと思っていたのに、成長して、もらいたかったのに..........許せぬ!!お主だけは絶対に!!」
そして............3人の中で何かの枷が弾けとんだ。
「月光来々!!闇を打ち消せ!!」
シャオの体が皓々と輝き、まばゆい光が放たれ闇が一瞬で消え去る。
「なっ...................」
驚愕する閃光にルーアンとキリュウの攻撃が同時に放たれる。
「灼熱の陽光よ、我が敵を焼き尽くせ!!」
天に輝く太陽の光を何倍にも強くしたような光が閃光を襲う。
「闇よ!!」
気力を振り絞ってどうにかその攻撃を打ち消す閃光。
「大地よ、我にその大いなる地脈の力を貸し与えたまえ......地気練弾!!」
キリュウの体に地上からあふれでたかげろうのようなものが吸収される。それをキリュウは拳に集めて閃光目掛けて打ち出した。
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
ルーアンの攻撃を防ぐのに手一杯だった閃光はキリュウの攻撃をまともに受け、屋上の落下防止ネットにぶつかり、一度弾んで屋上の床に倒れ伏す。
「とどめです..............閃光さん、覚悟はいいですね?」
氷のように冷たい表情で言うシャオに閃光は底知れぬ恐怖を感じ、思わず目をつむってうずくまってしまった。しかし、救いの手は意外な所から伸びてきた。
「待つんだ、シャオ!!」
「え.........?その声は.........」
シャオ達が振り返ると、そこには傷一つ負ってない無事な姿の太助と星神達、ついでに陽天心ボールペンがいた。
「た.......太助さまぁぁぁぁぁ!!」
「たーさま!!」
「主殿!!」
思わず3人は駆け出し、太助にだきつく。
「うわっ!!」
3人の勢いを受け止めきれずに倒れる太助。
「良かった.......太助さまがご無事で.............」
「ごめん、シャオ、ルーアン、キリュウ。心配かけて。でも、俺はこの通り大丈夫だから。で............そろそろどいてもらえないかな?」
そこでシャオ達は太助を下敷にしていることに気付いて真っ赤になって立ち上がる。
ルーアンはそのまま抱き付いていたそうだったが太助がどうにかふりほどいた。
逆にキリュウは恥ずかしさの余り、顔から火を吹きそうなくらい真っ赤になっていた。
「でも、太助さま。どうしてご無事だったんですか?それに星神達も........」
シャオが不思議そうに言う。
「さぁ........?俺はいきなり真っ暗になって訳わかん無くなって気付いたらシャオが閃光さんにとどめとか言ってたから取り敢えず止めたんだけど...........」
「「「あっ!?」」」
太助の言葉に3人は太助をかばうように壁を作って閃光の方を振り替る。
しかし、閃光は困ったような表情を浮かべてシャオ達の方を見ているだけであった。
「やっぱり、愛は何よりも強し、ですね。太助くんの事になるとみんな目の色が変わるんですから。まさか、ここまで圧倒されるとは思いませんでした」
「............閃光さん、大丈夫?」
そう、閃光は吹き飛ばされた格好で地面に転がったまま、顔だけシャオ達の方に向けて喋っていたのである。
「一応、何とか大丈夫ですけど..........力を使いすぎたみたいで...............目の前が真っ暗になりそうです」
そう言って閃光はがくんっと気を失ってしまう。
「閃光さんっ!?」
慌ててシャオが駆け寄る。
「大丈夫なのか?シャオ」
太助達もすぐに駆け付け、閃光の様子を見る。
「大丈夫............みたいです。でも、どこかきちんとした場所で休ませて差し上げないと..........すいません、太助さま。今日は早退します。閃光さんを看病しないといけないですから」
「それはいいけど................さっきまでとどめがどうこうとか言ってたのに、いきなりどうしたんだ?」
太助が少し驚いたように言う。
さっきまで戦っていた相手を看病するというのだから当然と云えば当然の反応である。
「思い.......出したんです。私達が本当は何であるか、本当の使命が何だったのかを。
そして、彼女が私達の仲間だという事を...........」
「どうして、忘れちゃってたのかしらね。と言っても、まだ全部思い出せてないんだけど...........」
「それは仕方あるまい、ルーアン殿。私だとて全てを思い出せた訳ではないのだから。
それよりも今は早く閃光殿をきちんとした場所で休ませねば」
3人の言葉に混乱する太助。
「一体、どういう事なんだ?本当の使命とか何とかって............」
「すいません...............太助さま。ここでは話せないので家に戻ってからお話します。だから、申し訳ないのですが、一緒に来てもらえますか?」
軒轅を呼び出しつつ、シャオがすまなそうに言う。
「あ、ああ。分かった。じゃ、家に帰ってから聞くよ。確かに閃光さんをきちんとしたとこで休ませないと駄目だもんな」
「では、太助さま、こちらに............」
軒轅の上から手を差し伸べるシャオの手を握って軒轅に乗る太助。
キリュウとルーアンは短天扇に相乗りしていた。
全員が出発出来る状態になったのを確認してシャオが軒轅に言う。
「軒轅、家までお願い」
「ミュー!!」
そしてシャオ達は家を目指して飛んでいった。


本当の使命

「ん.........ここ..........は?」
目を覚し、半身を起こして辺りを見回す閃光。
すると視界に小さな人形のようなものが入ってきた。
「貴方達は......シャオさんの星魔ね。ということは、ここはシャオさんのおうち?」
最初の星魔という言葉には首を振り、後半の言葉に頷く離珠。そしてその横には薬壷を持った長沙もいた。
「そう、ですか。まだ星魔には戻ってないんですね。じゃ、魔将として完全に復活、いえ覚醒してないんですね、まだ」
閃光の独り言に首を傾げながらも離珠は閃光が目を覚した旨をシャオに伝心する。
しばらくたって、シャオ達が部屋に入ってくる。
「気が付かれたんですね?良かった..............」
「ありがとう、シャオさん。わざわざ運んでくれて。あ、もしかして学校早退したんですか?」
申し訳なさそうに言う閃光にルーアンが笑って答える。
「だーいじょうぶよ。先生公認なんだから、早退しようが何しようが平気よ」
「職権濫用ではないのか................?」
キリュウが少し呆れたように言う。
「ところで................確認しておきたいんですけど、シャオさん達はどれぐらい記憶が戻られたんですか?」
閃光の問いにシャオ達は少し困ったような顔をして答える。
「一応、自分が過去に使えた能力がいくつかと、敵についての知識が少しです。でも、完全に記憶が戻ったとは言えないですね.............」
「魔将についてもある程度は思い出せたんだけど。まさか、転生していたとは思わなかったわ」
「先ほどは昔の能力を使って攻撃してしまって申し訳ない。あのときは頭に血が昇ってしまって..............」
3人の言葉に少し困った顔をする閃光。
「取り敢えず、謝らなくていいですよ、キリュウさん。私だって覚悟の上でやった事なんですから。でも、あそこまで強力な攻撃が来るとは思いませんでした。記憶を、それも不完全な記憶を取り戻してすぐあんな攻撃が出来るなんて、月、太陽、大地の魔将の力を甘く見すぎていましたね。まだまだ未熟ですね、私も」
少し自嘲気味に笑う閃光。
「あのさ、さっきから出てくる魔将ってなんなんだ?シャオ達に聞いても話してくれなくってさ............」
太助がおずおずと言ってくる。話す、という約束だったがなかなか三人が話す決意が出来ないまま、今に至るのである。
それに閃光は少し考え込み、そして答える。
「そう、ですね。きっと太助くんも無関係ではすまないでしょうから、お話すべきでしょう。構いませんよね?」
閃光の言葉に少し迷いつつも頷く3人。
「じゃ、少し長くなりますけど、お話します。ついでにシャオさん達も昔の記憶と違ったりした所とか、思い出せてない部分が出てくるかもしれないですから、きちんと聞いてて下さいね」
「あ、長くなるんなら後でいいよ。気が付いたばっかりで、まだ、体の調子が悪いだろうから..............」
太助の言葉ににっこりと微笑む閃光。
「優しいんですね。さすがはシャオさん達の主になられるだけの事はあります。でも、大丈夫です。ちょっと力を使いすぎただけですから」
「力を使いすぎた?さっきの何だか黒っぽいもののこと?」
閃光の言葉に太助が聞く。
閃光は太助の「何だか黒っぽいもの」という言葉に苦笑しつつも答える。
「黒っぽいもの、ですか。あれは、私の操っていた闇です。さすがに昼間使うと消耗が激しかったですが、それだけの収穫はありましたから。よしとしてますけど」
「昼間だと消耗が激しいって?」
「簡単な事です。闇は本来、夜か完全に密閉された場所にあるもの。明かりのある所では打ち消されてしまうんです。それを屋上の一定空間とはいえ、昼間に展開させたら消耗が激しいのは当たり前ですよね?それに、最後のシャオさん達の攻撃を防ぐのにもかなり力を使っちゃいましたから..........」
なるほど、というように深く頷く太助。
「じゃ、そろそろ話を始めてもいいですか?」
「え?ああ、うん。ごめん、話の腰を折って。じゃ、お願いします」
太助の言葉に軽く微笑んで話し始める閃光。
「それは、遥か昔の話..........」

数千年前、まだ各地に小国が点在し、国家間での争いが絶えず、戦争が日常茶飯事と化ていた頃、ある集団がうまれた。
それは「聖霊王」という存在を信じ、それを復活降臨させようという「再世聖霊団」という集団だった。
「再世聖霊」とは世に再び聖霊を降臨させ、世界を再生しようという意味である。
そして降臨した「聖霊王」は心清き者を救い、そうでない者を滅するといわれている霊王で、世界の終末に現われ最後の審判を下す存在でもあった。
世の中の人は今がその世界の終末だと信じ、その団体に入ることで救いを求めてたのである。
しかし、集団が大きくなるに連れ、集団に変化が現われ始めた。
その集団の中に怪異な力をもつものが多数現われ始め、自分達の信仰を取り締まる小国を攻めたり、自分達に従わない村々を「聖霊王」の名の下に、と称して壊滅させたりし始めたのである。彼らによって多数の国や村が滅び、死者の山が築かれた。
だが、それに対抗する者達もまた現われた。
それは「再世聖霊団」のやり方についていけず脱退した者だったり、滅ぼされた村や国の生き残りの民だった。そして、その中にも特殊な力を持つ者がいて、彼等は「再世聖霊団」から嫌悪と恐怖を込めて「魔将」と呼ばれた。そして彼等もその呼び名を受け入れ、自らも魔将と名乗った。もし聖霊王が信じられている通りの存在なら、自分達は確かに「魔」なのかも知れないと思ったからである。
そして、その力が特に秀でている10人を10魔将と呼び、彼等のまとめ役として「再世聖霊団」と戦ったのである。
熾烈な戦闘を何度も繰り返し、半ば降臨しかけていた聖霊王を封印する事に成功するものの10魔将の大半は死亡し、生き残ったのはわずか3人。しかも、その封印さえ完璧ではなく、いつ解けるか分からないという不安定なものだった。
それゆえ生き残った3人が精霊となり、封印を監視し、聖霊王が復活しないようにしていたのである。
しかし、永い年月の中、彼女達すらその封印の事を忘れ、自分達が魔将であった事さえも忘れてしまっていたのである。

「つまり、シャオ、ルーアン、キリュウ、閃光さんはその10魔将で、聖霊王が復活しいように監視するために永い時を越えてきたって事なのか?」
今までの話から、太助はどうにかそう理解した。
「正しくは、生き残ってそのままこの時代まで生きてきたのはシャオさん達で、私は転生したんです。最初は変な夢、前世の記憶だったんですが、を何度も見て、それから段々と昔の記憶と能力が戻ってきたんです。きっと、他の10魔将も転生しているとしたら、私と同じように目覚めているか、目覚め始めているはずです」
「どうして、そう思うんですか?」
シャオが不思議そうに聞く。
「それは多分、聖霊王の封印が解けようとしているから。だから、私が魔将して目覚めたんだと思うんです。目覚める必要がなければ、転生した10魔将は能力と記憶を取り戻すことなく普通の生活を送っていられるはずですから」
少し悲し気に言う閃光。
それはそうだろう。普通の少女として生きていたのに、突然魔将という重い運命にとらわれてしまったのだから。
「閃光さん.............」
誰もどう声をかけていいか分からず、沈黙がその場に満ちる。
「あ...................暗くならないで下さい。私が魔将だったから、こうやってシャオさん達と出会えたんですから。魔将じゃなかったら一生会えなかったも知れないんですから、ね?」
慌てて言う閃光にシャオは軽く微笑み頷く。
「聖霊王の封印が解けかけているから、魔将のあんたが復活しちゃった訳よね?今のところ、四人の魔将がここにいるけど.......残りの6人はどこにいるのかしら?閃光は知らないの?そもそも私達がここにいるってどうして分かった訳?」
ルーアンが怪訝そうに言う。
「実は...............占いです。良く当るって噂の占い師さんに、探し物は鶴の集う丘にある、って言われて大体の方角を教えて貰ったんです。それで地図を見てみたら丁度鶴ヶ丘っていう地名を見つけて、もしかしたらと思って来てみたんです」
照れ笑いを浮かべながら答える閃光。占いがはずれていたらどうするつもりだったのだろうか?
「ま、まぁ.......こうやって合流出来た訳だし、良しとしようではないか」
キリュウの言葉に全員が頷く。
「でも、困りましたね」
「何がですか?」
閃光の呟きにシャオが心配そうに聞く。
「シャオさん達、記憶と能力は確かにいくらか戻られたみたいですけど、魔将として完全ではないみたいなんです。シャオさん、私を看病していたあの小さい子は何て言う子なんですか?」
「え?長沙っていう看病専門の星神なんですけど、それが何か?」
突然の質問に少し驚きつつも答えるシャオ。
「星神、ですか?星魔(せいま)ではなくて」
「はい、星神です。あの、星魔って何ですか?」
キョトンとした顔で言うシャオにやっぱり、という顔でため息をつく閃光。
「シャオさんが昔、月の魔将だった頃に呼び出していたのは星魔と呼ばれるものだったんです。でも、それを今シャオさんは星神と呼んでますよね?そう言えば、さっき私が戦ったときも確かに昼間とはいえ、星魔にしては弱いと思ったんですよ。あの、シャオさん。光の魔将を覚えていますか?」
「少しだけですが、覚えてますよ。仁徳に厚く、義を重んじる立派な方でしたよね。それで、あの方がどうかしたんですか?」
やっぱり、という顔をする閃光。
「シャオリン、あんた.............」
「シャオ殿........?」
光の魔将とシャオは今の太助とシャオのように心から互いを想い合い、はたから見てても心がほのぼのするカップルだったのだ。精霊ではなく、当時まだ人間だったシャオにはまだ恋愛感情があったのである。
光の魔将を失ったときのシャオの悲しみようから見て、今の反応はおかしいと閃光達は思ったのである。
もしかしたら、シャオの記憶からその事が特に消されているのかも知れない。
閃光はそう感じ、そしてルーアンとキリュウは、その反動で役目が云々を別にして現在のシャオには恋愛感情がないのかも、と思った。
「あの..................どうかされましたか?皆さん」
太助以外のみんなが自分をじっと見詰めるため、少し戸惑うシャオ。
「えっと、ううん。何でもないの。変な事聞いてごめんね」
「あ、いえ。どういたしまして」
どう答えていいか分からず、おかしな答え方をするシャオ。
「しかし参ったな。閃光殿の言う通り我々がまだ魔将として完全でないとすると、どうすれば元に戻れるのだろう?」
キリュウが話をそらすかのように言う。
「そ、そうよね。シャオリン、あんた光の魔将さまから何も聞いてないの?あたし達を精霊に変える方法を聞いてたのはあんただったでしょ?」
「すみません、覚えてないんです。思い出そうとすると頭の中にもやが掛かったみたいになって.............」
心からすまなそうに言うシャオ。
「シャオ、無理しない方がいいって。魔将としてはまだ不完全かも知れないけど、星神達だっているんだし、ルーアン達や、一応、俺もいるからさ。ゆっくり思い出せばいいんだよ」
「はい....................ありがとうございます、太助さま」
いつの間にか二人だけの世界に入るシャオと太助。
ぐぅぅぅぅぅぅっ
「今の、何の音だ?」
突然聞こえた音に太助が辺を見回す。
「ご、ごめんなさい......私のお腹の音です。お昼食べ損ねたし、そのうえ力をかなり使ったのでお腹空いちゃって............」
真っ赤になって告白する閃光。
「そう言えば、俺もお腹空いてきたな。シャオ、ちょっと早いけど晩御飯にしようか?
閃光さんも食べていきなよ」
「えっ、いいんですか?でも、ご迷惑なんじゃ...........」
遠慮する閃光ににこにこしながらシャオが言う。
「構いませんですわ。食事はにぎやかな方が楽しいですし、お料理も作り甲斐がありますから。遠慮されなくていいですよ。それでは、私は準備してきますから..........」
そう言って部屋を出るシャオを慌てて太助が追い掛ける。
「あ、俺も手伝うよ」
「あん、たーさまがするならルーアンも手伝うー」
ルーアンまで出ていってしまい、閃光と二人っきりになってしまうキリュウ。
「う..........あ.......ええと、食事の準備が出来たら呼びに来るので、もうしばらくそこで休んでいてくれ」
赤面しつつもかろうじてそれだけ言って、部屋をそそくさと立ち去るキリュウ。
「あ..............行ってしまわれましたね。でも、にぎやかで楽しそう。太助くんもいい人みたいだし。でも..................もしかしたら彼が封印の鍵、なのかも知れない。だとしたら...........ごめんね、シャオちゃん」
そう呟く閃光の瞳は、深い悲しみに満たされていた。


次回予告

よっ!!あたし山野辺翔子。転校生が来てからシャオ達の様子がなんかおかしいんだよ。転校生と何かあったのなら相談してくれればいいのに.....って、なんなんだ、こいは!?
学校からの帰り道、変な奴にからまれたあたし達。ピンチのその時、一陣の風が吹く!

次回<自由なる風乙女 -風の魔将覚醒- >シャオ、あたしの事忘れるなよ!!


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