異界守護月天封印十魔将伝
2
自由なる風乙女ー風の魔将覚醒ー
前編
1
立ち聞き
午後の風にふわっとポニーテールにした髪が踊る。
「あーあ、今日も学校行かないといけないなんて、めんどくさいなぁ..........でも、シャオには会いたいから、仕方ないか」
シャオの親友を自他共に認めるちょっぴりおちゃめな少女、山野辺翔子である。
しっかりと遅刻しているのにも関わらず、先程の台詞が出るのは何とも彼女らしい。
「そう言えば、転校生が来てからシャオの様子が変なんだよな...........ときどき黙り込んだり、物思いにふけってこっちの言うこと聞いてなかったり。普段なら絶対しない
のにな。何か悩み事や心配事があるなら、相談してくれればいいのに.............」
シャオの一番の親友を自負している翔子は、自分に何も言わないシャオの事が見ててもどかしくて仕方なかった。
「七梨とのこともそうだし.............って、まさか!?七梨の奴に転校生が惚れて、それであたしの見てないとこで七梨につきまとってるんじゃ..............」
だったら、七梨のやつをぶっとばしてやらなくては、そう思う翔子であった。
学校に着くとシャオと太助が何やら楽しそうに話をしていた。どうやら晩御飯の相談らしい。
「なんだ、あたしの考えすぎだったかな?」
二人の様子にほっとしつつ、自分の席に着く翔子。
「あ、翔子さん。こんにちわ。来られるのが遅かったですけど、どうしたんですか?」
翔子に気付き、シャオが歩みよりながら少し心配そうに聞いてくる。
「ん?ああ、ちょっと寝過ごしただけ。だから、そんな心配そうな顔すなよ、シャオ」
嘘。寝過ごしたのは事実だが、午前中に間に合う時間だったのだ。ただ、寝覚めが悪かったため、すぐに学校に行く気になれなかったのである。
「そうなんですか.........でも、駄目ですよ。ちゃぁんと学校に間に合うように起きられないと」
めっ、と自分を軽くしかるシャオに翔子は苦笑しつつ答える。
「分かったよ、次からは気を付けるから。あ、ちょっとシャオに話があるんだけど」
「話ですか?何でしょう」
「あ、ごめん。ちょっと荷物だすから少し待ってて」
そう言って翔子が鞄から荷物を出していると、閃光が近づいてきた。
「シャオさん、ちょっといいかしら?あの事で話があるんだけど」
「あ.............はい。あの、翔子さん。すいません、お話、後でもいいですか?」
「え?ああ。後でもいいよ。大したことじゃないからさ」
すいません、そう言ってシャオは閃光と教室を出ていく。翔子がそちらをふと見ると、キリュウとルーアン、それに太助も一緒だった。
「何なんだ?みんな揃って..............あたしの事、除け者にする気か?それに.....あの事ってなんなんだ?」
しばらく悩んだ後。翔子はすっと立ち上がってシャオ達が去った方へと歩いていった。
「それで閃光さん、お話って何ですか?何か分かったんですか?他の魔将さんの事や封印の事が」
閃光に連れられ、人気の無い校舎裏に来たところでシャオが閃光に聞く。
「何か分かった訳じゃないんです。皆さんにちょっと相談がありまして」
「相談?何の?」
ルーアンが校舎の壁にもたれて言う。
「それはですね、他の魔将さんをどうやって見つけようかって事なんです」
「えっ!?閃光さんって誰が魔将か知ってると思ったのに」
太助の言葉に苦笑する閃光。
「知りませんよ。そもそも、私は確かに普通の人にはない力を持ってますけど、基本的には普通の人とおんなじ中学生なんですから。特別な情報網を持っている訳でも、お金持ちな訳でもないんですよ」
「確かに、それはそうだな。では、どうやって転生した魔将達を見つければよいのだろうな?」
キリュウが日陰で涼みながら言う。
「それを相談しようと思って、皆さんに集まって貰ったんですけど」
閃光が苦笑しつつ言う。
「う、うむ。そうだったな」
ちょっと顔を赤くして言うキリュウ。
「それで、どうするんですか?閃光さん」
「うーんん................ここに3人も魔将がいたという事は、もうこれ以上ここには魔将はいないと考えるか、ここに3人いたのは偶然ではなく、他の魔将もこの近くにいると考えるか................それにもよりますね」
閃光は顎に手をやって考え込む。
「魔将かどうかって、どうやって調べるんだ?」
太助の質問に困ったような顔をする閃光。
「相手が覚醒して、ある程度力を使えるようになっていればその力の波動を追う事も出来るんですけど、相手のその波動が弱ければ追えないんです。つまり、覚醒していない場合は全然追えないんです。後は前世の夢を見てないかどうか聞くとか。でも、そういう事を聞いてると、怪しい人に思われちゃいますし」
閃光の言葉に、確かにそれだと怪しい宗教の勧誘のように取られかねないな、と頷く太助。
「取り敢えず、せっかくこうやって四人が揃ったんだから、わざわざ分散しなくてもいいんじゃないの?一応、この辺に他の魔将がいないかどうか調べて、それでいなかったらあたし達全員で探しにいけばいいんだし」
「全員で、か?」
太助の言葉にルーアンが頷く。
「そう、全員で。あたし達はたーさまの側を離れたくないし、戦力を分散するのはあんまりいい作戦じゃないし。分散して捜してて、敵に各個撃破されたら大変ですもの」
ルーアンのまともな意見にちょっと驚く太助。
ちなみに、キリュウは暑さでぐたっとしていて話に参加出来ないでいた。
「じゃあ、この鶴ヶ丘周辺をみんなで捜すという事で.........!!誰です!?」
閃光の誰何の声に立ち聞きしていた人物が駆け出す。
「待ちなさい!!」
閃光も慌てて人影を追い掛けて駆け出した。
「あ、閃光さん!!」
慌てて太助達も駆け出すが、彼等が追い付いたとき、閃光は立ち聞きの主をすでに捕まえていた。
「翔子さん!?」
「よっ、シャオ」
シャオの驚きの声に軽く手をあげて答える翔子。
「よっ、じゃありませんよ。一体いつから聞いてらしたんですか?」
閃光の詰問に翔子は無愛想に答える。
「最初から、全部聞いてたよ。最近、シャオの様子がおかしいから心配して来てみれば魔将とか何とか言ってるからどういうことかと思ってさ。で、あんたに見つかったから思わず逃げ出したってわけ。聞かれて困るような話ならあんなところでするなよな。誰が聞いてるか分かったもんじゃないんだから」
翔子の言葉に詰まる閃光。確かに、誰が通りかかるかも分からないような所でしていたのは迂濶だったかも知れない。
「でも翔子さん。立ち聞きは良くないですよ」
「..............ごめん。でも、何であたしに相談してくれなかったんだ?最近、シャオの様子が変だったから心配してたんだぜ、あたしはさ」
少しそっぽを向いて言う翔子。怒ってるのではなく、照れているのだ。
「ごめんなさい、翔子さん。でも、翔子さんを危険に巻き込みたくなかったんです。もしこの事を知ってしまったら、翔子さんが自分も手伝うっておっしゃりそうで.......」
「水臭い事を言うなよ、シャオ。友達だろ?でも、こうやって知ったからにはあたしも何か手伝わせてもらうぜ。大して力にはなれないかもしれないけどさ。言っとくけど、止めても無駄だからな」
翔子の言葉に困ったような顔をするシャオ。
「まぁ、聞かれたからには仕方ないですね。じゃ、お願いします、翔子さん」
そう言って閃光が握手しようと手を差し出す。
「ん。こっちこそよろしくな。じゃ、取り敢えずあたしは教室に戻ってるから」
一応握手をしつつ、そう言って翔子はたったったと駆けていく。
その背中を見送りつつ、キリュウが閃光に聞く。
「良かったのか?翔子殿は確かに信頼出来る方だが、我等の事を知られてそのままにしておいて」
キリュウの言葉に閃光は苦笑する。
「別に構いませんよ。例え彼女がこのことを誰かに言っても誰も信じないでしょうし、秘密を知られたからって殺したりしたら、悪役みたいじゃないですか。それに、手伝ってくれるっておっしゃるんですから、手伝ってもらいましょう」
そう言うと閃光はゆっくりと歩き出す。
「取り敢えず、私は情報収集に行きますから今日は学校を早退させて貰いますね。という事で、ルーアン先生お願いしますね」
「分かったわ、頑張ってね」
ルーアンに任せておけば出席は大丈夫なのである。
「では、そういう事で」
そう言うと閃光は校舎の影に沈んで消えた。
「閃光さん、影からの移動も出来るようになったんですね」
「いつのまにか能力をあげられたのだな。ところで、閃光殿は情報収集を言っていたが何の情報を集めに行かれたのだろうな?」
キリュウの言葉にルーアンが呆れたような顔をする。
「あんた、さっきの話を全然聞いてなかったわけ?魔将の情報か封印の情報。それか聖将の情報じゃないの?聖霊王を蘇らせようなんてのはあいつらぐらいしか考えられないし」
「聖将ですか............やはり、転生されているのでしょうか?」
シャオが聖将という言葉にため息をつく。
「おそらくしているだろうな。魔将も転生しているのだから..................」
キリュウが厳しい顔で言う。
「八聖将の方々が転生されているのなら、また戦わなければいけないんですね.......」
悲し気にシャオは呟き、空を見上げる。
真っ青に寸だ空はシャオの視線をどこまでも高く吸い込んでいた。
2
敵
放課後、シャオは翔子と帰っていた。翔子にもう少し詳しく説明する為、今夜は一緒に御飯を食べてもらおうと思い料理のリクエストを聞いた所、それならあたしが荷物持ちを手伝うよ、と翔子も一緒にスーパーに行くところなのである。
協力してもらうならそれなりに話しておかないと、というのがシャオの言葉である。
「ふーん、その聖霊王といかいう奴の封印を解かせない為に、魔将達が転生しているはずだから、そいつらを目覚めさせないといけないって訳なんだ?」
「はい、そうなんです。光の魔将さんが命懸けでかけた封印を解かせる事は、絶対に阻止しないといけないんです」
シャオが翔子の言葉に頷きながら言う。
「でさ、一体誰がその封印を解こうとしているんだ?」
「聖将。そう呼ばれている<再世聖霊団>の中でも屈指の能力者達です。私達十魔将と同じかそれ以上の力を持っている方々で、刃、技、霊、神、香、宙、偵、治の八聖将。それぞれが字(あざな)にちなんだ技を使える方々です」
「なるほどね........ん?」
翔子はふと前を見て訝しげな声を出す。
シャオ達の行く手の壁に怪しげな人物がもたれていたのである。
どう怪しいかと言うと、夏も近いのに厚手のコートを着て、その上仮面(デスマスク)をつけており、ご丁寧にシルクハットまでかぶっているのである。よく警察に今まで何も言われなかったな、と翔子は思った。
「なんなんだ?あのすっごく怪しいやつは」
翔子が呆れたように言う。
「変わった方ですね、暑くないんでしょうか?」
シャオの少し論点のずれた言葉に翔子は苦笑いを浮かべる。
「久しいな.........我を覚えているか?月の魔将よ。この、霊の聖将を」
霊の聖将、地の底から響くような不気味な声でそう名乗った男は壁から背を放し、シャオ達の方へと歩き出す。
「霊の聖将!?じゃ、こいつがさっきシャオの言ってた.......わっ!?」
シャオが翔子を引っ張って自分の後ろに庇い、いつでも星神を呼び出せるように支天輪を構える。
「お久しぶりです、霊の聖将さん。で、今生でのあなたの名は?」
無造作に近づいてくる霊の聖将にじりじりと後退しながら聞くシャオ。
「今生での名は愚礼。さて.........挨拶代りだ、受け取れ」
そう言って愚礼は手をすっと天にかざす。
「我が声を聞きし者よ、汝等が未練、晴らすが良い!」
すると愚礼の周りの地面がひび割れ、甲冑姿の死者が現われる。
「うわぁぁぁぁぁ!?」
翔子が思わず悲鳴をあげる。
「翔子さん、下がってて!!来々、天鶏!!」
支天輪から天鶏を呼び出し、ゾンビを焼き払うシャオに愚礼はにやっと笑う。
「まぁまぁ、だな」
「あなたという人は.........安らかに眠っていた人達の眠りを妨げて戦わせるなんて。その上、私達の戦いに関係ない、普通の人を巻き込むつもりですか!?」
シャオが厳しい顔で言う。
「普通の人?ふっ、お主は気付かなかったのか?まぁいい。だが、そう心配するな、月の魔将。今は挨拶に来ただけだ。我が真の力を発揮する時間でもないのでな。しかし、近いうちに前世での借り、返させて貰う」
そう言うと愚礼はきびすを返してシャオ達の前から姿を消す。愚礼が完全に消えて、気配も無くなったところでシャオが慌てて翔子に言う。
「大丈夫でしたか?お怪我は無かったですか?」
「ああ、大丈夫だよ、シャオ。でも、びっくりしたなぁ..........いきなり地面から化け物が出てくるんだから」
そう言って翔子は悲し気な顔をしているシャオに気付く。
「ど、どうしたんだ?シャオ。あたし、何か悪い事言ったか?」
少しおろおろして言う翔子にシャオは首を振り、辺を見回す。そこには天鶏に焼き払われたゾンビが炭になっていて、今にも風に吹き飛ばされそうになっていた。
「違います、この人達が可哀想で」
「え?こいつらが..................可哀想?」
翔子は少し驚いた顔をする。こくっと頷き、シャオは続ける。
「この人達はこの地に眠っていた大昔の死者。確かにこの世に未練はあったかも知れないけれど、それでも安らかに眠っていた人達なんです。それを愚礼さんが無理やり起こして未練や恨みを増幅させて操って.........私達の戦いに巻き込んでしまって、ごめんなさい」
シャオは優しいな、本当に。でも、仕方ない差。あたしを守る為に戦わなきゃいけなかったんだからさ、シャオは悪くないよ。あの愚礼って奴が悪い!だから、そう気を落すなよ、シャオな?」
翔子の言葉にシャオが小さく頷く。
「さ、早く買い物に行こうぜ。じゃないと安くていい物が売り切れちゃうぞ!」
「きゃっ!翔子さん、引っ張らないで下さい!」
突然手を引っ張られたシャオが慌てて走る。
「いいからいいから。行くぞ、シャオ!」
もうっ、という顔をしつつも、シャオは少し嬉しそうだった。
翔子はそれを満足気に見つつもふと思った。
(それにしても..........なんか急に風が強くなったなぁ)
3
策謀
一方、本拠地に戻った愚礼は聖将の長、神の聖将に会議室に呼び出されていた。
「霊の聖将愚礼、ここに」
愚礼が会議室に入ると、他の八聖将達も揃っていた。
「何だ、皆もいたのか」
「おや?いたらいけなかったでしょうか?」
部屋にいた聖将の一人、白衣を着た女性が言う。
「別に。で、皆が集まっているという事はよほど重要な事を話し合うという事なのだろうな?正信」
「はい、その通りです。ですが、その前に愚礼さん。どうして勝手に魔将と接触されたんです?いけないとは言いませんが、一言ぐらい私に事前に言って頂かないと困りますよ。一応、私が皆さんのまとめ役なのですから。それと、神の聖将と呼んで下さい。そうじゃないと会議に緊張感が無くなりますから」
穏やかに言う正信こと神の聖将。
「ああ、そうだっな。気を付けよう」
余り関心んさそうに言う愚礼。
「次からは気を付けて下さいね。で、皆さんにこうやって集まって貰ったのはですね。魔将さん達も覚醒を始めたようですから、彼等を叩いておこうと思ったんです。で、誰から行きます?」
「私が行こう」
神の聖将の言葉に愚礼が即座に応じる。
「構いませんが、あなたは月の魔将にこだわりすぎてはいませんか?いくら前世で借りがあるからといって、それにこだわり過ぎると負けてしまいますよ?」
「今度は敗れはせん」
ぶすっと言う愚礼。
「まぁ.............一人で行って貰う訳じゃないですからね」
「どういう事だ!?私一人では不安だとでも!?」
大声を出す愚礼に神の聖将は首を振る。
「今、覚醒が確認されている魔将は四人。いくらあなたでも四対一は厳しいでしょう?それに、うまく月の魔将と戦えるかどうかも。だから、他の聖将さんにも行って頂くんですよ」
神の聖将の言葉にそれなら仕方あるまい、と頷く愚礼。
「では、どなたに行って貰いましょうか?」
神の聖将が皆を見ると、3人が手を挙げた。
「技の聖将さんと刃の聖将さん、それに宙の聖将くんですか。技、刃、宙、霊。四人なら同人数ですが、宙の聖将くん、君は駄目です。まだ力の制御が出来ないでしょう?君の力は一歩間違えば敵味方関係なくダメージを与えますからね。制御がもう少し上手くなったら、その時はお願いします」
「ちぇー、つまんないの」
宙の聖将と呼ばれた小学六年生ぐらいの少年がつまらなさそうに言う。
「さて、それでは皆さん、後は頼みます。偵の聖将さんと香の聖将さん、それにと治の聖将さんは聖霊王の封印場所を捜して下さい。私は偵の聖将くんの修行の相手をしますから。では、解散」
神の聖将の合図で、八聖将は各自のとるべき行動の準備にその場から立ち去った。
「で、どうするんじゃ愚礼。魔将達を叩く策は」
「私に考えがある。少し耳を貸してくれ.............」
4
帰り道
「ごちそーさま!あー、旨かった」
シャオの料理をたいらげ、翔子が満足気にいう。
「で、大体の事は分かったのか?山野辺」
「七梨、お前に偉そうに言われる筋合いはない。ま、買い物の途中で幾らか聞いてたからな、大体分かったよ。あ、サンキュ、シャオ」
お茶を配っているシャオに礼を言う翔子。
「どういたしまして」
太助の横に座りながらシャオが微笑む。
(うんうん、客をもてなす若夫婦みたいで結構、結構)
二人を見てそんな感慨にふける翔子。
「ところで、シャオリン。霊の聖将と一戦交えたんでしょ。どうだったわけ?」
「取り敢えず、能力的には以前と同じく死んだ人を操る事みたいです。でも、もしかしたら私の知らない能力を身につけているかも知れません」
「そうだな...............覚醒した後に修練を積んで、能力上昇に励んでいるかも知れぬしな」
キリュウの言葉に頷くルーアンとシャオ。
「あっ!!」
「わっ?!ど、どうしたんだよ、山野辺」
突然、大声をあげた翔子に驚いて聞く太助。
翔子は時計を見ており、時刻は丁度PM8:00である。
「もうこんな時間かよ。まずいなぁ、今日は七梨の家に行くって家に言ってないんだよな。七梨、電話借りるぞ」
「ああ、構わないよ」
すたすたと電話の所に歩いて行く翔子。
それからしばらく翔子は電話で何やら話していたが、途中からだんだんと顔が険しくなっていった。
「だからさ、前に家に泊りに来た............そう、シャオ。え?でも.......あ!?」
がちゃんっ!!
不機嫌そうに受話器を叩き付けるように置く翔子。
「翔子さん、どうされたんですか?」
「親がさ、あたしが今日は七梨の家に泊るって言ったら<駄目、とにかく帰って来なさい>って言って、電話を一方的に切ったんだよ」
「前もって言っておけば良かったな、山野辺」
太助が受話器が壊れてないか少し気にしながら言う。
「今更そう言ってもな。ま、今日はいきなり決まった事だし、色々あって連絡しておくの忘れてたからな、仕方ないか。今日のところは帰るよ。じゃ、ごちそうさんでした」
そう言って翔子は荷物をもって玄関に向かう。
「あ、家までお送りします、翔子さん」
慌ててシャオが追い掛ける。
「サンキュ、シャオ。でも、途中まででいいから」
シャオのいない隙にルーアンが何かしたら困るので、一応牽制する翔子。
「はい。太助さま、いいですか?」
「ああ、構わないよ。いってらっしゃい、シャオ。気を付けてな」
太助の言葉に「はい」と頷きながら、シャオは翔子と一緒に玄関を出ていく。
「良かったのか?主殿。いつも翔子殿はシャオ殿に嘘を吹き込むから、二人だけにすると困ると言っていたのに」
「でもさ、山野辺だって一応女の子なんだから、一人で夜道を歩かせる訳にもいかないだろ?」
太助の言葉に頷くキリュウ。
「しかし、一応、というのは余計だと思うぞ、主殿」
「ま、シャオリンが一緒なら大抵のやつはのされちゃうしね。いいボディーガードじゃないの?さって、と。冷蔵庫に確かお饅頭があったはずだから、食べようかしらね」
「ルーアン殿、まだ食べるのか...............?」
ルーアンの食欲に呆れたような声を出すキリュウ。
「だって、気を付けないとごみちびに食べられちゃうんだもの。今のうちに食べないとね」
「あ、そう言えば離珠がいないな。ま、いっか。何にも起らないだろうし」
だが、太助の言葉とは裏腹に、二つの影が七梨家に近づきつつあった。
一方、七梨家からかなり歩いたシャオと翔子は一人の男と出会っていた。
翔子がゆっくり話しながら帰りたいから、と歩いて帰っていたのである。
「あんたは昼間の変態!」
「..........いきなり失礼な娘だな。我は霊の聖将、愚礼。昼間にきちんと名乗ったはずだが?」
「それで、今度は何の用です!」
「聖将が魔将に用があるとしたら...............分かっているだろう?」
そう言って姿勢を少し変える愚礼に対して、シャオが支天輪を構える。
「ここでは我が戦いにくいのでな。ちと場所を変えようか」
「ご冗談を。敵が有利な場所で戦う者がどこにいるんですか?」
シャオが少し冷たい笑みを浮かべて答える。
「シャ、シャオ................?」
戦闘モードに入ったシャオの雰囲気に戸惑う翔子。
「翔子さん、逃げて下さい。ここは私が抑えてますから」
「それはちと困るな。<死人>よ!」
ボコボコボコォッ!
アスファルトの地面を突き破ってゾンビが数体現われる。
「くっ!!来々、天鶏!!」
シャオの召還した天鶏がゾンビを三体まとめて焼く。
「うわあぁぁぁぁぁっ!?」
「翔子さんっ!?」
翔子の悲鳴に振り返ったシャオが見たのは空中に浮かぶ翔子だった。目には見えないがゴースト達が起こしている騒霊現象である。
「我が呼び出せるのが、ゾンビだけだと思うたか?やはり記憶が不完全なようだな。だが、それは我にとってはどうでも良いこと。では、我はこの地図の場所で待っている。なるべく早く来るのだな。さもなくばお主は、友の変わり果てた姿を見ることになる。では、さらばだ。我が背に生えよ<魔性の翼>!」
愚礼の背に漆黒の翼が生え、空中に飛び上がって翔子を抱きかかえ、高速で飛び去って行こうとする。翔子はゴーストに生気を吸い取られて気絶していた為、無抵抗だった。
「待ちなさい!!天鶏、後から追い掛けてきて!来々........」
「そうはいかん。出てこい、食屍鬼(グール)、ワイト!!」
ゾンビよりも高位のアンデッドを呼び出す愚礼。
「アーーーーーーーーーーーーーーー!!」
呻き声をあげながら迫るアンデッド達の攻撃によって軒轅を呼び出す暇のないシャオを横目に愚礼は飛び去って行く。
「言わずもがなの事だが、他の魔将に知らせたらこの娘の命はないぞ!」
「翔子さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
次回予告
愚礼だ。我の策略通りに事が運んでいる。結構な事だ。
七梨家に迫る二つの影。そしてさらわれた翔子の運命や如何に!?
次回、激闘の異界守護月天2ー自由なる風乙女ー後編。
神の聖将、貴様...........................!!
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