異界守護月天封印十魔将伝
2
自由なる風乙女ー風の魔将覚醒ー
後編
1
遭遇
シャオが愚礼と戦っているとき、七梨家では……
「ねぇ、紀柳。このお饅頭大きくしてちょーだい」
「ルーアン殿、前から言っているように私の力はそういう事に使うものではなくな...」
ぴんぽーん!!
「客か?でも、こんな時間に誰だろう……?」
「あ、たーさま。あたしが出るわ」
ちょっとでもポイントを稼ごうとルーアンが玄関に向かう。
「はーい、どちらさま?」
無造作にドアを開けるルーアン。
「どうも、こんばんわ。こんな遅い時間に迷惑かとも思いましたが、お命、頂戴に伺いました。太陽の魔将、ならびに大地の魔将さん」
玄関から数歩離れた位置に立つ女性がにこやかに言う。
彼女は髪をショートカットにし、要所要所にパットをつけて防御した戦闘衣を着ており少し日に焼けた小麦色のきりっとした顔立ちの女性であった。
「なっ!?」
「お主、何者だ!?」
身構えるルーアンと、様子を見に来ていた紀柳をにこやかに見つめて女性が言う。
「こちらでは戦いにくでしょう?さ、外に出られて下さい。もう1人、いますので」
そう言って彼女は後ろに跳躍し、薄暗くて良く見えないがもう一人の誰かの側に立つ。
「すまぬな、刃の聖将。本来ならお主が言うとおり不意打ちが良かったのだろうが、わしはそういう姑息な手段は好かぬでな」
「構いませんよ、義煉さん」
義煉と呼ばれた老人がすまなそうに謝るのを軽く流す刃の聖将。
「万象大乱!!」
「陽天心招来!!」
突然、紀柳とルーアンが攻撃を加える。
巨大化した靴に陽天心がかかり、二人を踏み潰さんと迫り来る。
「こちらが礼儀を守っているというのに………力よ!!我が手に集いて全てを切り裂く刃となれ!!」
突如、刃の聖将の手が白く輝き出す。
「はぁっ!!」
跳躍し、靴をまっ二つにする刃の聖将。
「見事じゃ、刃の聖将殿」
厳格そうな顔に笑みを浮かべて誉める義煉。
「全く、自己紹介すらさせて頂けないんですか?」
「その通りじゃ。しばらく会わぬうちに、随分と礼儀を知らぬ輩になりおって.....この馬鹿者が」
「なっ.....まさかあなたは..........」
明かりの届く位置にまで来た義煉を見て驚愕する紀柳。
義煉は紫色―古代中国で高貴な者のみが着ることを許された色―の格闘衣を来ており、腰に巻いた長い布がおしゃれな、均整の取れた体つきの老人だった。
「どうやら、思い出したようじゃの。では、問おう。わしは誰だ?言うてみい!!」
「技の聖将!!」
叫んで二人は駆け出し、拳を交えはじめる。
「この馬鹿弟子が!!本気を出せ!!」
「くっ!!」
いきなり戦い始めた二人をあきれたように見るルーアン。
「そーいや紀柳って昔、技の聖将の所で魔将になる前は格闘技の訓練受けてたんだっけ.........」
「太陽の魔将さん、良かったら私の相手をして頂けませんか?」
にこにこしながら言って来る刃の聖将の言葉に、はっと我に帰るルーアン。
「嫌、って言いたいとこだけど……仕方ないわね。いいわよ、かかってらっしゃい」
「では、御言葉に甘えて。刃の聖将、仁美。参る!!」
ちなみに太助は事態の展開に付いていけず、戸惑ったように玄関に突っ立っていた。
キリュウと義煉の戦いは、力は大地のエネルギーを使える紀柳が上まっていたが、技と速さでは義煉の方が上でキリュウが押されていた。
ルーアンもまた、太陽が出ていないため魔将の力をほとんど使えず、陽天心も刃の聖将が全て切り裂くために劣勢であった。
「弱い!!この馬鹿者が!お主は今までに生きた何千年という歳月の中で何をしておった!!」
紀柳の攻撃をやすやすとかわし、逆にその際に出来た隙をついて紀柳を地面に叩き付けるように投げる義煉。
攻撃する紀柳の力と勢いを使って義煉が投げ飛ばしたり、カウンターをいれる。
万象大乱を使おうとすれば、呪文を唱え終わる前に攻撃される。先程からその繰り返しで紀柳はかなりダメージを負っていた。
「陽天心招来!!」
「斬!!」
ルーアンが陽天心をかけたものを斬り裂く仁美。
「くっ!」
「今度はこちらから!!」
一気に間合いをつめて仁美が斬りかかる。
「なんのっ!!」
攻撃をすんでのところでかわした、そうルーアンが思った瞬間。
「飛空刃!」
仁美の手から輝きが放たれ、ルーアンを袈裟懸けに斬り裂く。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
血飛沫を上げて背中から倒れ込むルーアン。
「ぐっ!!ごほごほっ!!」
「ルーアン!!」
呆然としていた太助だったが、ルーアンが倒れるのを見て駆け出す。
「少年、その心意気やよし。されどお主が入り込める戦いではないのだ」
太助が駆け出したのを見て義煉が素早くその前に周り込む。
「どいてくれっ!!」
「それは出来ぬ相談だな.........点穴穿!」
「っ!?」
義煉は指で太助の点穴(ツボ)をつき、太助の体を麻痺させる。
「さすがは義煉翁」
仁美が賞賛の声を送る。
「それにしても、私の手に宿った刃を空に飛ばす術。その直撃を受けても死なないなんて、さすがは太陽の魔将といった所ですか...........」
淡々と言いつつ、とどめを刺すためにルーアンに近づく仁美。
「闇鎖鎌(あんされん)!!」
「なっ!?」
闇に紛れて突如飛んできた闇色の鎌をぎりぎりでかわす仁美。
「闇球!!」
「ぬぅっ!!」
義煉もまた突如飛来した闇の球を避ける。
「そこまでです...........」
二人の聖将が声のした方を見ると、弧を描いて戻ってきた闇鎖鎌―闇の魔将がもつ闇の力を凝縮して作られた鎖鎌―を構えた閃光が立っていた。
「お主.......闇の魔将か!?」
「その通りですよ、ご老体。で.........この場は退いていただけますね?」
しばしにらみ合ったあと、義煉は退散の旨を仁美に告げる。
「1対2で、こちらが有利なのにどうして退かねばならないのですか?義煉翁」
「闇の魔将と、夜の闇の中で戦うのはこちらが不利だからだ。それに、1対2ではなく3対2じゃよ。良く見てみるがいい」
義煉の言葉に仁美が見たものは、ぼろぼろになりながらも立ち上がる紀柳とルーアンの姿だった。
「そんな........まだ立ち上がる力が.......」
「主を、あの少年を守る為じゃろうな.....わしはあやつらの逆鱗に触れてしまったようじゃ。このまま戦ってはこちらが負けてしまうじゃろう。すまぬ、わしの手落ちじゃ」
「そんな事はありません、義煉翁。分かりました。この場は退きましょう。次元刃!」
仁美の手に宿る刃の輝きが白から虹色に変わる。
「では、さらばです。魔将の方々。斬っ!!」
次元の壁を切り裂き、義煉と仁美はその裂け目から退散する。
「ふぅ.........どうにか間に合いましたか.......大丈夫ですか?皆さん.....っ!?」
閃光が呼びかけたとき、二人は聖将が去った事で気が緩んだのか、その場に倒れ伏していた。
2
風翔けるとき
一方、シャオは...............
「来々、硬河!!」
シャオの呼び出した接近戦用星神が最後のグールを叩き潰す。
「ぬぁぁぁぁぁぁ!!」
辺りは文字通り死屍累々。ゾンビ達の腐敗臭や焼けこげる臭いに満ちていた。
「翔子さん........今すぐ、助けに行きます!!来々軒轅!!」
「みゅぅぅぅぅぅぅん!!」
軒轅に飛び乗り、地図で指定された場所、鶴ヶ丘霊園に向かうシャオ。
「軒轅、お願い!!最高速度で!!」
「みゅわぁぁぁぁぁん!!」
シャオですら掴まるのがやっとというスピードで軒轅が飛ぶ。
その甲斐あってかシャオはかなり早く霊園についた。
「ほう、意外と遅かったな。だが、遅すぎなかった事は誉めてやろう。丁度、こちらも準備が済んだ所だしな」
そう言って愚礼が手をふると辺りにゾンビ、グールが現れる。
そして、翔子は十字架にロープで両手両足を縛り付けられ磔にされていた。
「翔子さん!?」
「シャ、シャオ.......ごめんな、足手まといにはならないって言ったのに.........」
弱々しい声をあげる翔子。ゴーストに生気を抜かれた影響が出ているのである。
「若さ、かの。意外と回復が早いので驚いていたところだ」
「愚礼さん........よくも翔子さんにひどい事を......許しません!!」
怒りに身を震わせ星神を召還しようと支天輪を構えるシャオ。
「召魔!!」
それよりも早く愚礼が呪文を唱える。
「フォォォォォォォ!!」
何も無い空中に魔方陣が現れ、中央から大きな悪魔が現れて翔子の真後ろに立つ。
「魔物!?いつの間にそんなものを呼べるように………」
シャオが驚愕の声を上げる。
「いいのか?月の魔将。お主が下手に攻撃すれば、この娘の命はないぞ?」
「くっ...........卑怯な...........」
シャオが悔しそうに支天輪をかかげた手を降ろす。
「卑怯、か。ありがとう、最高の誉め言葉だよ。いけっ!!死者共よ!!」
愚礼の言葉に従い死人の群れがシャオに襲い掛かる。
「くっ!!」
「避けるぐらいは構わんぞ。そうでなくてはつまらぬからな。無様に逃げ惑う様を私に見せてくれ!!」
嬉しそうに言う愚礼を憎らしそうに見て翔子が叫ぶ。
「シャオ!!あたしの事には構わず戦え!!戦ってくれ!!」
磔にされながらも翔子はシャオの身を案じていた。
「嫌です!!」
「何で!?そのままシャオが死んじゃったら、みんなが、七梨が悲しむんだぞ!!あたしは........あたしだって、シャオを犠牲にしてまで助かりたくない!!」
翔子の絶叫にシャオも叫び返す。
「翔子さん!!翔子さんだって、死んじゃったらみんな哀しみます!!それに、私は翔子さんを絶対に死なせたくない!!この時代に来て、初めて出来た友達だから。主さま以外で初めて出来た、私の大切なお友達だから!!私に、普通の女の子らしさを教えてくれたり、色々な事を教えてくれた翔子さんを、私は絶対に失いたくないんです!!」
シャオと翔子、二人の視線がぶつかる。
今までの自分を変えるきっかけをくれた少女、そして変わる事に怯える自分をいつも励まし気遣ってくれる少女。
「麗しい友情、か。ふん、虫酸が走る」
愚礼が指を鳴らすと、翔子の背後にいる悪魔が翔子の背に手を当てる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
悪魔の邪悪な波動を受けて翔子の魂に激痛が走る。
「翔子さん!!やめて!!翔子さんは私達の戦いに無関係でしょう!!」
シャオが叫ぶ。
「もうすでに、無関係では無くなっているだろう」
うそぶく愚礼をキッとにらむシャオ。
「ふふ、いい眼だ。その悔しさ、憎しみ、怒りに満ちた視線。浴びてて心地良い。さぁ死者達よ。月の魔将に我が礼を届けよ」
しばし動きを止めていたゾンビ達がシャオに襲い掛かる。
「くっ!!」
「どうした?反撃してもいいのだぞ。大切な友とやらの命が惜しくなければ、な」
反撃する事も出来ず、ただ逃げるシャオを嘲笑う愚礼。
「この卑怯者!!正々堂々戦えないのかよ!!」
「勝てば良いのだよ、勝てばな」
翔子の罵倒に冷ややかに答える愚礼。
「くそ...........あたしが、あたしが捕まったから.......あたしのせいで.......」
涙を流しながら悔しがる翔子。
「きゃぁぁぁっ!!」
「シャオ!!」
ゾンビ達からはがれた腐肉に足をとられ転倒したシャオに、ここぞとばかりにゾンビ達が群がろうとする。と、その時!!
「シャオォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」
翔子の絶叫と共に激しい風がシャオと翔子の周りに吹き荒れる!!
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
翔子の背後にいた悪魔が吹き飛ばされ、シャオに群がろうとしたゾンビ達も同様に吹き飛ばされる。
「こ、この風は………」
呆然としつつも立ち上がるシャオは、もう一つの風の中心を見た。
「翔子さん!!」
「この力は......あたしは..........そうだ!!やっと、やっと思い出せた!あたしが誰だったか!!」
ブツブツブツッ!!風の刃が翔子を縛っていた縄を切り裂く。
自由になった翔子は上空へと風に乗って舞う。
「空を翔ける自由なる風乙女、風の魔将!!今、ここに覚醒!!」
空中で軽くポーズを決め、翔子はシャオの側に舞い降りる。
「ごめんな、シャオ。あたしがもっと早く覚醒していれば、危ない目に合わせずにすんだのに……」
「いえ、いいんです、翔子さん。こうして無事だったんですから……」
そう言ってしばし見つめあう二人。
「くくくくくくく.......もしやとは思っていたが、やはりお前が風の魔将だったか。転生前も月の魔将の親友で、いつも私の邪魔をしていた小憎たらしい小娘。お主も一緒に葬ってやるわ!!いでよ、死者よ!そして実体無き者共よ!!」
愚礼の召還に応じ、ゾンビ&グール&スケルトン軍団、そしてゴースト軍団が現れる。
「そうは行くかよっ!!烈風斬!!」
翔子が両手を袈裟懸けに下から振ると風が走り、ゾンビ達を切り裂く。
「来々、北斗七星、天鶏、硬河!!」
シャオもまた星神を召還し、戦わせる。
しかし、後から後から湧いて来るアンデット軍団の数は減る気配を見せず、そして.....
「ケェェェェェン!!」
天鶏が突然力尽きたかのように墜落する。
「天鶏!?」
慌てて天鶏を支天輪の中に戻すシャオ。
「一体、どうしたって言うんだ..........っ!?」
上空を見上げた翔子がその場から飛びのく。
「フォォォォォォォ!!」
大量に呼び出した為か、本来なら透明なはずのゴーストがほんのり白く浮き上がって見えている。そしてその内の一体が翔子に襲い掛かって来たのである。天鶏はこれに生気を吸われて倒されてしまったのだ。
「くっ!!烈風撃!!」
強い風を打ち出し、ゴーストにぶつける翔子、しかし、風はゴーストの体を通り過ぎてしまった。
「無駄無駄無駄無駄!!実体無きゴーストには物理的攻撃は効かぬ!!」
愚礼が呵呵と高笑いをする。
「くそっ!!シャオ!!ああいうのを攻撃出来るような星神いないのかよっ!!」
「星神、では無理かも知れません。でも、星魔なら.......昔の、あの力が今の私にも使えるなら..........」
そう言ってシャオは支天輪を空へ、月へと掲げる。
「そうか!あの技か...........なら、あたしが時間を稼ぐ!!烈風走!!」
翔子が腕を大きく下から斜め上に振ると、風の道が一直線に愚礼目掛けて伸び、ゴースト以外のアンデット達を吹き飛ばす。
「よし、今だ!!」
そう言って翔子は両手を軽く合わせ、ゆっくりと広げる。
翔子が何かを始めたのを見て、ゴースト達が翔子に攻撃を仕掛ける。
「させません!来々、塁壁陣!」
しかし、シャオの結界用星神に阻まれてしまう。
「サンキュ!シャオ。じゃ、行くせ!風よ、大気よ、我が手につどえ!!風爆球!!」
掌の間に数個の空気の球が生まれる。
「いけぇぇぇぇぇ!!」
シャオがタイミングを見計らって塁壁陣を消し、自身も集中を始める。
空気の球は愚礼目掛けて投げつけらると、まるで意志を持つかのように飛んでいった。
「それは..........ちっ!!<死人>よ!!」
ゾンビを自分の壁になるように召還する愚礼。
その為に、ゴースト達のコントロールが一時途絶え、動きが止る。
「ウォォォォォォン!!」
地面からボコボコッと現われたゾンビに空気の球がぶつかり、爆発を起こす。
「高圧縮された空気の球。それが何かにぶつかると圧縮が一瞬で解かれて爆発を起こし当たれば相手に確実に大ダメージを与える技か.........」
愚礼が警戒の眼差しを向ける。
「愚礼さん.....また、死んだ人達を....安らかに眠っていた人達になんてことを!!」
シャオの体が、そして支天輪が輝きだす!!
「夜闇を照らし、死者の魂導く月の光よ!さまよえる魂に安らぎを与えたまえ!!降冥光!!」
シャオの光が支天輪に移り、そこから白銀の光が放たれアンデット集団に降り注ぐ。
「オォォォォォォォォォ……」
光を浴びたゾンビ達は崩れ落ち、ゴースト達は一瞬でかき消える。
「くっ……」
今までの余裕綽々の態度が消える愚礼。
「あの状態から、ここまで力を使えるようになるとはな、見事だ。しかし、まだ甘い!
この地に眠りし死者の怨念よ、我が声に応じ、我が名の下に現れいでよ!!」
愚礼の力によりゴーストに混じって、レイス、スぺクターという高位の非実体アンデットが複数現れる。
「翔子さん、気を付けて!レイスとスぺクターに触られたら、生気ではなく、魂そのものを吸われてしまいます!」
「分かった!!とは言ってもあたしの技が効かないんじゃどうしようもないな。退散するか?」
翔子の言葉に首をふるシャオ。
「いいえ。降冥光は力をかなり消耗するのでもう出せませんが、月の魔将としての力をほぼ使えるようになりましたから、何とかなります。翔子さんは下がっていて下さい」
そう言ってシャオは支天輪を懐に直し、両手を天にかざして叫ぶ。
「星魔降臨!!来々、北斗七星!!」
その瞬間、夜空に輝く北斗七星が激しく瞬き、星の光がシャオ目掛けて降って来る!!
「うわっ!?」
驚いた翔子が顔をガードし、目を閉じて再び開いたとき、そこにはシャオと同じくらい
の背丈の7人の戦士が立っていた。
「星魔。月の魔将に従いし星の戦士達。その真の力、見せて差し上げましょう!!行きなさい、北斗七星!!」
シャオの号令一下、アンデット達に向かっていく北斗七星。
「死を司る北斗七星、彼等なら実体無き者にも攻撃が届くのです」
その言葉通り、彼等に攻撃されたアンデット達は悲鳴を上げて姿を消していた。
「シャオ!!あいつが何か始めたぞ!!」
北斗七星の方に少し気を取られていたシャオは、翔子の言葉に慌てて愚礼の方を見る。
「最終手段だからな、出来れば使いたくなかったが……人魔合身!!」
体中から負のオーラを立ち上らせながら、宙に描いた魔法陣の中、悪魔と合わさりつつ愚礼が叫ぶ。
「なんてこった...............」
翔子が魔法陣の中、どんどん姿を変えていく愚礼を見て呟く。
「翔子さん!!ぼーっと見てる場合じゃないです、行きますよ!!」
シャオの言葉に翔子ははっと我に帰り、愚礼から離れるようにシャオと一緒に駆け出す
「シャオ、何か策はあるのか?」
「あります。私の使える最強の武器、そして翔子さんの武器。今の愚礼さんには実体がありますから、翔子さんの武器でも大丈夫なはずです」
「フォォォォォォォォォォン!!」
愚礼が合身を終え、依然より三倍はある大きさになる。
双頭、漆黒の体と羽、そして鋭い爪と牙と角をもった悪魔へと変貌した愚礼が墓石を破壊しながら二人を追いかけ始める。
「あたしの武器.......そうか!!よし。分かったよ、シャオ。じゃ、始めようか!」
「はい!!」
そう言ってシャオは月に支天輪を持った右手をかかげ、翔子は風を起こしてそれに乗って空高く舞う。
「月光よ!!」
「風よ!!」
その瞬間、シャオの手に支天輪を鍔の部分にするように月光が剣の形に集まり、翔子の手には風がブーメランの形になって集まる。
「月光剣!!」
「風刃翼!!」
そして、二人の手にはそれぞれが司る力を物質化した、最強の武器が握られていた。
「北斗七星よ、我が剣に宿れ!!月光七星剣!!」
北斗七星が星の輝きにその身を変え、シャオの剣に宿る。
「フュルルルルルル」
魔人愚礼がシャオ達に迫る。
「まずはあたしから!!食らえ!!風刃翼、八葉(はちよう)!」
翔子が風刃翼を投げつける。それは途中で八枚に別れて愚礼を切り裂く。
「グォォォォォォォ!!」
「斬!!」
シャオが愚礼の足に切り付ける。北斗七星の力が込められた剣だけに霊的な力も破壊力も最大まで高められていた。
「ヌァァァァァァァァァ!!」
がくんっとその場に膝をつく愚礼。
「よしっ!もう一度!!風刃翼、葛葉(くずは)」
翔子が再び風刃翼をなげ、今度はそれが9枚に別れて愚礼に向かう。
「ヒュハァァァァァ!!」
しかし、愚礼の吐いた漆黒の息によって9枚の風刃翼は愚礼に届く前にぼろぼろに腐ってしまった。
そして、愚礼の傷がみるみる塞がっていく。
「瘴気!?」
形あるものに滅びを、命ある者に死を与える悪魔の吐息。
「迂闊に近寄れませんね..........」
「近寄れないなら、遠くから攻撃するのみ!!風刃翼、双葉(ふたば)!!」
今度は風刃翼を二つ創り出し、愚礼に投げる翔子。
「ヒュハァァァァ!!」
愚礼が再び瘴気の息を吐くが、それを避けるように風刃翼は動く。
「瘴気を吐き出す時の空気の流れで風刃翼の軌道を変えた!?」
シャオが驚いたように言う。
「ご名答!」
そして風刃翼の片方は愚礼の爪によって砕かれるも、残った一枚が悪魔の方の頭を切り
落とす。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴をあげ、片膝をつく愚礼。
「今だ、シャオ!!」
「はい!!月光七星剣、最大威力!!」
剣の腹に指を当ててシャオが念を込めると剣の輝きが増す。
「破ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
愚礼の方にダッシュし、切りかかるシャオ。
「護神壁」
ガンッ!!
「っ!?」
目にみえない壁にはばまれてシャオが後ろに弾き飛ばされる。
「誰だ!?」
シャオが無事なのを確認し、翔子が声のした方を見ると、眼鏡をかけた長身の20代後半ぐらいの男が立っていた。
「すいませんね、彼を殺させる訳にはいかないんですよ。ああ、自己紹介をしておきましょう。私は神の聖将。ということで、この勝負は私が預からさせて頂きます。ただしお返しする事は出来ませんが」
澄まし顔で言う神の聖将。
「ふざけるなっ!!そいつがあたしやシャオ、そしてこの墓で眠ってた奴にしたこと、許せると思ってるのか!」
「悲しい事ですが、戦には犠牲がつきものなのです。では、これにて私は失礼します。
宙の聖将、お願いします」
「オッケー!!」
今まで気付かなかったが、神の聖将の後ろに少年が1人隠れるように立っていたのである。
「じゃ、いくよ。空間転移!!」
宙の聖将の力により、3人の敵は姿を消す。
「くそっ!!逃げられた................」
「違います、翔子さん。むしろ、私達は見逃されたんです。神と宙の聖将に........」
シャオが少し青ざめて言う。
「シャオ..............?」
「あの二人は........今の私達では絶対に勝てない。それだけの力の持ち主なのですから...............」
その後、シャオは羽林軍を呼び出して墓地を修復してから帰路についた。
そして、技、刃の聖将によってルーアンと紀柳が重傷を負わされた事を知るのである。
エピローグ
「全く.......月の魔将を葬るどころか、風の魔将を蘇らせてしまうとは......あなたに失望しましたよ」
「嘘をつけ........最初から期待などしていなかったのだろう......我が戦いを見ていて、我が死に掛けたときに出てきたのが何よりの証拠...........」
神の聖将、正信は帰ってすぐに愚礼を地下室に運び、ベッドに寝かせ、宙の聖将を下がらせてまだ合身のとけてない愚礼と話していた。
「おやおや、随分とひねくれた考えをされるんですね......でも、期待はしていましたし、愚礼さんは期待通りに動いてくれましたよ」
「期待通りだと.......では、我が死に掛けるのも期待通りだとでもいうのか?だから、そうなるまで手を出してこなかったのか!?お主という奴は!!くぁっ!?」
愚礼は怒鳴りながら起き上がろうとし、始めて自分の動きが封じられている事に気付いた。
「な、何のつもりだ!?」
「護神壁を応用した結界です。あなたは期待通り自分の持てる全ての力を出してくれました。そのおかげで、あなたの中にある力の源が熟成したようです」
にこやかな、そしてひどく優しい笑みを浮かべる正信。しかし、愚礼はその瞳が全く笑っていない、逆に冷たい輝きを宿しているのに気付いた。
「ど、どういう意味だっ!?」
怯えの表情を浮かべ、愚礼が叫ぶ。
「こういう意味ですよ...........」
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
暗い部屋の中、愚礼の悲鳴が木霊する。
「まず一つ............」
血の滴る右手をタオルで拭いつつ、その手に握られた光輝く珠を見ながら満足げに神の聖将は呟く。
その珠には<閻魔>という文字が内側に描かれていた...........
次回予告
こんにちわ、花織です!ルーアン先生が食べ過ぎ、紀柳さんが夏バテで動けないらしいの。二人には悪いけど、これはある意味チャンスだわ!
邪魔者が動けない隙に、愛しの七梨先輩のハートをゲットしようと企む花織は、花の万博へと太助達を誘う。しかし!花の香りに紛れて死の香りがシャオ達に迫る!!
次回、花開くときー草木の魔将覚醒―
先輩!あたしだってやるときはやるんですから!!
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