異界守護月天封印十魔将伝
4
優しき少年の涙
−水の魔将覚醒−

プロローグ

見た事のない道。しかし、どこか記憶の底にある、そんな道を彼、いや、彼女は走っていた。彼女―丸っこい童顔、その上おかっぱ風に髪 を切り揃えているために更に幼く見える−は前を走る者に叫ぶ。
「ルーアンさん!!先に逃げて!!ここはあたしが引き受けるから!!」
「馬鹿!!何言ってるのよ!!あんた一人でどうにかなる相手じゃないでしょう!!」
ルーアンが後ろを振り向かずに叫び返す。
「でも、二人がかりでも勝てないでしょ!だったら、あたしが盾になる!ルーアンさんだけでも逃げて下さい!!」
「あんたね……あたしが仲間を見捨てて逃げるとでも思ってるの!?」
「仲間、ですか。やっぱりそういう風にしか見てもらえないですよね・・・・・」
少し悲しげに彼女が言う。
「あんたの気持ち、気付いてない訳じゃなかったけど・・・・でも、あたしは・・・・」
「いいんです、分かってますから。あたしの勝手な想いだって。でも、だからこそ。好きな人を護りたいっていうあたしの気持ちだけでも分かって下さい!!出でよ、水竜!!」
彼女の呼び掛けに応じ、大気中の水分が集まって一匹の水の竜に姿を変え、ルーアンをくわえて飛び去ろうとする。
「ちょ、こらっ!!放しなさい!!一水(いずみ)!!あんた、こんな事して只ですむと思うんじゃないわよ!!後できっついおしおきするんだから!!だから・・・生きて、生きて帰ってくるのよ!!」
遠くなっていく水竜とルーアンの声と姿を見送って彼女、一水は立ち止まる。
「生きて、帰れたなら・・・・・喜んでおしおきを受けます。ルーアンさん」
「ですが、それは無理でしょうね。あなたの言った通り二人がかりでもこの私、神の聖将を倒せはしないのですから」
後ろから聞こえてきた声に一水は唇をきゅっと固く結びながら振り返る。
「あなたの速さなら、もっと早く追いつけたんじゃないですか?」
「ええ。ですが、二兎を追うものは一兎をも得ず、と言いますからね。あなたが太陽の魔将を逃がすと踏んで待ってたんですよ」
「あなたの狙い通りに事が運んだ訳ですか。ですが、私だとて魔将の端くれ。只では死にません!!水穿弓(すいせんきゅう)!!」
一水の手に大気中から水が集まり、青い弓に姿を変える。
「いっけー!!貫水矢(かんすいし)!!」
神の聖将へ弓から細い、が激しい水流の矢が数本放たれる。しかし、一瞬で神の聖将は一水の真後ろに移動し、手を彼女の背中に当て、そ して・・・・・・・
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ガバァッ!!
「はぁはぁ・・・・・ゆ、夢か。ルーアン先生が出てくるのは嬉しいんだけど、どうして僕が女の子になってるんだろ?しかも、毎回毎回同じとこで目が覚めるし、出てくる人も格好も同じだし。いい夢なんだか悪い夢なんだかわからないや」
それはある日見た夢、そしてここ最近立て続けに見ている夢。じっとりと浮かんだ冷や汗を不快に感じつつ乎一郎は呟く。
「でも、どうしてだろう・・・・・・?なんだか胸がうずくのは・・・・」


海へ行かない?

花博から急いで帰ってきた太助達は、すぐに翔子達の安否を確認すべく家の中に入った。
「よっ、おかえり。ずいぶん帰ってくるのが早かったけど、どうしたんだ?」
玄関を開けると、お盆にお茶を乗せた翔子が階段のところでびっくりしたように言う。
「無事・・・・・だったか。こっちに聖将達は来なかったのか?」
「ああ、来たよ。でも、あたしと星魔で追い払っておいたからさ、安心しな」
翔子が言うと羽林軍や離珠達がどこからともなくわらわらと現れた。
しかし、皆一様に顔色が悪い。
「みんな、どうしたの?顔色が悪いわよ」
「月天さま、聞かないで下さいよ。あんまり思い出したくないですから」
星魔達を代表して虎賁が言う。
「思い出したくないって・・・・・何やったんだ?山野辺」
「んっふっふ。秘密だよ。ま、ちゃんと聖将達は追い払ったんだしいいじゃないか。なぁ?」
そう言って翔子が星魔を見渡すと全員がこくこくと頷く。
よっぽど思い出したくないのだろう。星魔達をここまで怯えさせるとは一体どんな罠を仕掛けたのか・・・・・・・山野辺翔子恐るべし、である。
「そんなことよりさ。本当に帰ってくるのが早かったけど、どうしたんだ?」
「え?ああ、急いで帰ったからな。電話しておけば良かったか。ま、立ち話も何だし、あっちで話すよ」
そう言って太助はリビングに行く。
「分かった。あたしはキリュウにこのお茶を運んでくるからさ、先に行っててくれよ」
「分かった」
そう言って翔子はキリュウの部屋に行き、太助たちはリビングに移動した。
そしてシャオがお茶を入れて戻って来る頃には、翔子もリビングに来ていた。
「とういう事で、草木の魔将が覚醒したんです。それが花織さんだったんですよ」
閃光が説明し、花織の方を見る。
「という訳で、またよろしくお願いします。風の魔将さん」
「ああ、こっちこそな」
二人がそう言って軽く握手したその時、太助はある違和感を感じていた。
(何だろう?この感覚は・・・・・・)
「どうされたんですか?太助さま」
太助の様子が変なのに気付いてシャオが言う。
「え?ああ、何でもないから。心配しないでいいよ、シャオ」
「はい・・・・・・」
リーンリーン!!
「わっ!?って、びっくりした。電話か・・・・・・・」
慌てて太助が廊下に出て受話器を取る。
「よっ、たかしだけど。なんか慌てて別れて帰ったからさ、ちょっと気になって電話かけたんだけど。どうしたんだ?」
「え?ああ、ちょっと急用思い出してさ。で、用事ってそれだけか?」
「おいおい、ずいぶん冷たい言い方するじゃないか」
たかしが少し苦笑したように言う。
「ああ、そだな。ごめんごめん」
「ま、いいけどさ。ところで・・・・・・今度、海に行かないか?前と一緒で俺のおじさんがやってる民宿だけど」
「え・・・・海?そういえばまだ行ってないな。でも・・・・・・」
言いよどむ太助。聖将達がこちらを狙って来ているため、不用意な行動は取れないので判断に困っているのである。
「どなたからの電話ですか?太助さま」
「たかしから。海に行かないかって。ほら、前に行ったとこ」
「ほう、海か。試練にはちょうど良さそうだな。行こうではないか、主殿」
突然、階段の方から声がする。
「キリュウ!?起きても大丈夫なのか?」
「ああ、もう大丈夫だ。主殿、野村殿に伝えられるといい。行くと」
キリュウの言葉に困ったようにシャオを見る太助。
「太助さまの、思うようにされて下さい」
「シャオは・・・・・・行きたい?それとも行きたくない?」
「私は・・・・・」
困ったように言うシャオ。
「海だろ?いいじゃないか、行こうぜ、七梨、シャオ。いいだろ?閃光」
「そうですね・・・・・・いいんじゃないでしょうか。花博にはキリュウさんとルーアンさんが行けなかったですから、その埋め合わせという事で」
「行きましょうよ、七梨先輩」
いつの間にか来ていた皆の言葉に行く事を決め、たかしにその旨を伝える太助。
「分かった。じゃ、いつがいい?」
「いつからいいんだ?」
「そうだな・・・・・・・今日電話して、明後日ぐらいなら旅館のスケジュールも調整できるだろうから、明後日ぐらいかな?こっちもいろいろ準備があるだろうし」
「そうだな。じゃ、明後日って事で」
「オッケー。じゃ、またな。太助」
「ああ、またな」
そう言って電話に受話器を置く太助。
「という訳で、明後日に行く事になったから。みんな明日中に海に行く準備してくれよ」
「明後日、海に行くの?」
ちょうど階段から降りてきた乎一郎が太助に聞く。
「ああ、そう言えば乎一郎まだいたんだっけ。忘れてた」
「そんな、ひどいよ!そりゃ、僕は存在感薄いし人気投票でも下位だったけどさ。一応、レギュラーキャラなのに」
意味不明な事を言いつつ涙ぐむ乎一郎。
「ごめん!悪かったよ。謝るから泣かないでくれよ、な?で、行くんだろ?乎一郎も海に」
「もちろんだよ!ルーアン先生も行くんでしょ?だったら僕も行く!」
表情を一転させて、目をきらきらさせながら言う乎一郎。
苦笑しながら頭を掻く太助。
「じゃ、乎一郎。もうそろそろ帰った方がいいんじゃないか?準備もあるけど、家の人にきちんと言わないといけないだろ?」
「うん、そうだね。じゃ、今日はもう帰るよ。それじゃ、またね」
そう言うと乎一郎は靴を履いて出て行こうとする。
「ああ、またな」
太助達に見送られ、乎一郎は帰って行った。
乎一郎は、太助の家の門を出る前に少し後ろを振り返り呟く。
「ルーアン先生、早くよくなるといいな・・・・・・・」

乎一郎を見送り、太助達は一旦リビングに戻った。
「これで・・・・十魔将のうち月、太陽、大地、闇、風、草木の6人がそろった訳です。後は火、水、鋼、そして光の魔将を探すだけになった、という訳ですが」
閃光が口火を切って話し出す。乎一郎が帰宅した為、やっと話ができるといった風である。
「そうだな。その4人って、今はどこにいるんだろな?」
「私の星魔達にも手分けをさせて情報を集めているんですが、それらしい情報は今のところ入手できてないんです」
翔子の言葉にシャオが少しすまなそうに言う。
「いや、別にシャオの事を責めてる訳じゃないんだから。それにしても驚いたよな。愛原が草木の魔将だったなんてさ。前の草木の魔将ってさ、すっごいおしとやかで引っ込み思案な奴だったと思うんだけど」
「へー?そうだったんだ。意外だなぁ」
「もう、七梨先輩。意外はひどいですよ。でも、そう言う山野辺先輩は、風の魔将さんはほとんど変わらないですね、性格が。闇の魔将さんは前よりも喋るようになりましたよね。前はどっちかというと無口だったのに」
花織にそう言われて微笑む閃光。
「前がそうだったから、今は反対の性格になったんでしょうね、多分。それより、花織さんの、草木の魔将のネットワークに情報はないんですか?」
「えっと、ちょっと待ってて下さい」
そう言って庭に出てしゃがんで二言三言小声でなにか話しだす花織。
「なぁ。愛原は何をやってるんだ?」
「花織殿、つまり草木の魔将には独自のネットワークというものがあるのだ」
「植物さん達と話ができますから、彼等から色々な情報を引き出す事ができるんですよ」
「通称、草の根情報ってな。根で繋がってる遠くの植物とも意志の疎通ができるんだぜ」
「でも、あんまり遠いと無理ですけどね」
シャオ達の説明に、そう付け足す花織。
「で、何か分かったのか?」
太助の言葉に首を振る花織。
「駄目です。聖将達の居場所、聖霊王の封印場所も残りの魔将達の情報も手に入りませんでした。昔と違って植物が減ってるせいか、情報がほとんど得られないんです」
「ま、分かんないもんは仕方ないさ。愛原が謝る事じゃないよ」
すまなそうに言う花織に翔子が優しく声をかける。
「ありがとうございます、山野辺先輩」
少し微笑んで言う花織。
それを見て太助はまた不可解な違和感を感じた。
(なんなんだろうな?この感じは・・・・・・)
と、その時。がちゃっと音を立ててリビングのドアが開く。
「ねぇ、シャオリン。晩御飯まだ・・・・・って、なんであんた達がいるのよ?」
二階から降りてきたルーアンが、翔子、閃光、花織を指差して言う。
「ルーアン、もう傷の方は大丈夫なのか?」
「ええ、シャオリンのせい・・・・・星神に治してもらったから。ちょっと貧血気味で寝てただけですもの、後は食べたら治るわ」
花織が居るのを見て、星魔と言いかけたのを慌てて言い直すルーアンに苦笑しながら花織が言う。
「大丈夫ですよ、ルーアンさん。あたしも魔将ですから。覚えてませんか?草木の魔将です」
「あんたがぁ!?うそでしょ?!」
前世の草木の魔将を思い出しながら驚きの声を上げるルーアン。
「嘘じゃないですよ、ルーアンさん。花織さんは正真正銘、草木の魔将さんです」
「シャオリンがそう言うんなら、嘘じゃないんでしょうけど・・・・えらく性格が変わったって事よねぇ、それだと」
そう言いつつ太助の側にルーアンが座る。
「だぁぁぁぁっ!!狭いんだからくっつくなよ、ルーアン!」
「もうっ!病み上がりのあたしにそれはないでしょ、たーさまったら」
太助に振り払われてぷーっと拗ねるふりをするルーアン。
「病み上がりなら、もう少しおとなしくしといた方がいいんじゃないか?ルーアン先生。ま、それだけ元気があるならもう大丈夫だろうけど」
翔子が苦笑しながら言う。
「それにしても、食べ過ぎで寝込んでたのに起きてすぐにごはんの事を言うなんて、ルーアン先生らしいですね」
花織の言葉に奇妙な顔をするルーアン。
「なんか・・・・・変な感じね。それに、あたしは食べ過ぎで寝てたんじゃなくて聖将達との戦いで怪我して、その療養で寝てたのよ」
そう言って事のあらましを話すルーアン達。
「あたし、そんなに変ですか?でも、そうだったんですか。じゃ、橘先輩は怪我しなかったんですか?」
花織がそう言って閃光の方を見ると、彼女は何やら考え込んでおり難しい顔をしていた。
「どうしたんですか?橘先輩」
「えっ?あ、ううん。何でもないの。気にしないで」
そう言う閃光を見て、翔子はふと思い出した事を聞く。
「そういや・・・・・前世の闇の魔将と偵の聖将ってさ・・・・・」
「あ、もうこんな時間!!皆さん、ごはんにしませんか?」
翔子の言葉を遮るように閃光が言う。
「さっきあたしが晩御飯まだって聞いたわよね、そう言えば。で、シャオリン。晩御飯はまだなの?」
「え?あ、はい。じゃ、今から準備しますね。良かったら皆さんも食べていかれませんか?いいですよね、太助さま」
閃光の態度を不思議に思いながらも、太助は微笑みを浮かべながらシャオに答える。
「ああ、構わないよ。みんな、晩御飯良かったら食べていきなよ」
「ごめんなさい、今日はちょっと用事があって帰らないといけないんです」
「私も帰ります。ちょっと、心の整理とかしたいんで」
閃光と花織がそう言って夕食を辞退する。
「そうなんですか・・・残念ですけど、仕方ないですね。また明日、お会いしましょうね」
残念そうに言うシャオ。
「はい、それではまた明日。では、失礼します」
「また明日、会いましょうね。先輩」
「ああ、また明日な」
二人を玄関で見送り、みんなが家に入る。
「山野辺はいいのか?この前みたいになったりしないか?」
「大丈夫!今回はきちんと七梨の家に泊まるって言っておいたから」
親指をピッと立てながら翔子が言う。
「そうか、ちゃんと言ってあるんならいいけど・・・・って、泊まるつもりなのか!?」
「何だよ、悪いか?」
少しドスの効いた声で言う翔子。
「いや、別に悪くはないけど」
「ならいいじゃないか。問題なし。というわけで、シャオ。晩御飯の準備手伝うよ」
一転、明るい顔になって言う翔子。
「あ、はい。ありがとうございます」
二人が台所に行くのを見送る太助に、キリュウが呟く。
「まだまだ修行不足だな、主殿」
キリュウの言葉にがくっとなる太助。
「そういうなよ、キリュウ。それに明後日は海で試練やるんだろ?それでまた修行するさ」
「うむ、その意気だ。がんばれ、主殿」
そう言って太助とキリュウは玄関を閉め、リビングに戻っていった。

一方、こちらは帰り道。花織と閃光は話しながら歩いていた。
「あれ?晩御飯の事言い出したのは橘先輩なのに、食べていかないんですか?」
「えっ?え、ええ。そんなにお腹すいてないから・・・・・」
一瞬、慌てたそぶりを見せて言う閃光。
「誤魔化したかったんですね、偵の聖将さんの事」
ビクンッ!!
花織の言葉に閃光が硬直して立ち止まる。
「確か、前世の闇の魔将さんと偵の聖将さんって、ライバル同士みたいな感じでずっと戦い続けて、でも、その中で愛情が芽生えて最終的には二人とも戦列から離れて幸せに暮らしたんですよね?」
「・・・・・・皆さんには、そう、伝わってるんですね」
立ち止まったまま、閃光がぽつりと呟く。
「え・・・・・?それは、どういう意味なんですか?」
しばらく、閃光は話したものかどうか悩んでいたが、軽く微笑んで話し出す。
「もう、過去の、前世の話ですからね。話してもいいでしょう、きっと」
「あの・・・思い出したくない話なら、無理にしなくても・・・・・」
花織がそう言うと閃光は軽く首を振って言う。
「大丈夫ですよ、花織さん。私はもう現在と前世の記憶の整理はできてますから。事の発端はあの時ですね。私達と聖将達との決戦の、一月前。私は魔将である事を捨て、聖将から離反した偵の聖将と共に残りの人生を送ろうと戦線を離れました。ですが、結局聖将達から送られてくる刺客に偵の聖将は生命力を削られ、元々病で弱っていた体を壊してしまったのです。そして、偵の聖将がひっそりと息絶えたとき、私は送られてきた刺客達と相討ちで命を落としたのです・・・・・」
「そうだったんですか・・・・・・」
花織がすまなそうな顔をするのを見て閃光は苦笑しながら言う。
「でも、短い間でしたが、愛する人と一緒にいられて幸せだったみたいですよ。前世の闇の魔将は」
「そうなんですか?」
「転生体である私が言うんですから、本当ですよ」
記憶を受け継ぎ、一時は混乱したものの整理のついている閃光は微笑みながら言う。
「花織さんも、早く記憶の混乱が無くなるといいですね」
「はい・・・・・・・・」
少し俯いて花織が答える。
前世の記憶が蘇り、情緒不安定になっているのである。
前世の記憶が戻ったと同時にその時の人格、考え方などまで戻ってしまう為、性格や喋り方にも影響が出ているのだ。太助達が感じた違和感の正体はこれである。
「それじゃ、私はこっちですから。おやすみなさい、花織さん」
「はい、おやすみなさい、橘先輩」
そして二人は別れて帰路についた。


邂逅の海へ

「青い空!白い砂浜!きらめく太陽!海が俺を呼んでいる!!」
ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!
叫ぶたかしの後に、激しい雨音が聞こえてくる。
「どこが?」
「しくしくしく・・・・・・」
翔子の突っ込みに涙するたかし。
「出掛けは晴れてたのにね・・・・・・・」
乎一郎がフォローするように言うが、余り効果は無かったようだ。
そう、彼等が海に着くのを見計らっていたかのように、突然雨が降り出したのである。
「で、今日はどうするのよ?外がこんなじゃ泳げないでしょ」
ぼーっと外を見ていたルーアンがため息をつくように言う。大胆な水着で太助を悩殺しようと思っていたのにこれじゃ駄目じゃない、と心の中で愚痴る。
「愛原、何か遊ぶもの持って来てないのか?」
いつも率先して遊び道具を出してくるため、翔子は花織に向かって言う。
「え?あ、ちょっと待って下さい」
そう言うと花織はバッグからごちゃごちゃと双六、ケン玉、ボードゲームなどを取り出す。
「今回はバッグか・・・・・・・・」
ぼそっと何気なく太助が呟く。
「あの・・・・・その前に部屋割りを決めませんか?遊ぶのはその後でも出来ますし」
閃光がおずおずと言い、全員が「おおっ!!」という顔をする。実はさっきから入り口すぐのロビーにいたのである。
「じゃ、どういう分け方にしようか?3部屋使っていいらしいけど」
たかしの言葉にルーアンがたーさまと一緒!!とかたかしのシャオちゃんと!という声を筆頭に喧々囂々討論が始まる。
「ストーップ!!こういう場合、男3人で一部屋、後は女子!これが常識だろ!」
騒ぎに耐えかねた翔子が大声で叫び、その剣幕に全員が黙りこむ。
「じゃ、男共は先に荷物置いてきな。後はあたし達で決めるから」
「はーい・・・・・・」
翔子の言葉に促され、太助達は部屋に向かう。
「で、部屋割りはどうやって決めるのだ?翔子殿」
聞いてくるキリュウに手をにぎにぎとしながら翔子は答える。
「そうだな。6人で2部屋だから、3人ずつにするとして・・・じゃ、二人一組でジャンケンして、勝った組と負けた組で同じ部屋って事にするか。いいよな?」
翔子の言葉に全員頷き、ジャンケンを始める。結果、シャオ、翔子、キリュウ組とルーアン、花織、閃光組というような部屋割りになった。

「ふーん、そういう部屋割りになったんだ?」
荷物を部屋に置き、再びロビーに来た太助はソファにキリュウと座って話していた。
「ああ。しかし、残念だな。せっかく海に来たのに雨とは」
「そうだな。今日はずっと降るだろうから、一日目はこれでつぶれちゃったな」
雨の降りしきる海を眺めながら太助が言う。
「試練をすぐに始めようと楽しみにしていたのだがな」
「それは・・・・・・残念だったな」
心中、少しほっとする太助。
「で、キリュウは傘を持って何処に行くんだ?」
「ああ。せめて明日行う試練に備えて、下見に行こうと思ってな。主殿も参られるか?」
外の様子を見て、首を振る太助。
「いや、俺はいいよ。もう少し休んでる」
「そうか。ではまた後でな、主殿」
「ああ。また後でな、キリュウ」
外に向かうキリュウを見送り、自分も部屋に戻るべく立ち上がる。
「あ、そー言えば・・・・・シャオやルーアン達はどうしてるんだろ?ロビーに来るかと思ったんだけどな」
ちなみに乎一郎は御風呂、たかしは旅館の手伝いである。
「昼間から御風呂に入るのって、何だか贅沢でいいなぁ」
「なんで、遊びに来たのに旅館の手伝いしなくちゃいけないんだよ!」
ただで借りているのだから、少しくらい手伝わされても文句は言えないと思うが。

さて、外に出たキリュウだが、ノートに熱心に何事か書き込んでいた。
「ふむ・・・・・この地形なら、こういう試練が出来るな」
呟きながら手にしたノートに再び何やらメモをするキリュウ。
「しかし、足の取られやすい砂地を利用した試練も幾つかしようと思っていたのだが、この雨では砂が乾くまでは出来ぬな。となると、やはり障害物水泳か、巨大魚と競泳してもらうか・・・・・っと!!」
何気に恐い事(巨大魚に太助が食われたらどうする気なのだろうか?)を言いながら歩いていたキリュウは、強い風に傘を飛ばされそうになり慌てて支える。が、ノートに雨がかかってしまい字がにじんでしまった。
「むう・・・・困ったな。これでは折角のひらめき(アイデア)が・・・・・」
「どうかなされましたか?」
「っ!?」
突如、声が聞こえて来たので驚くキリュウ。慌てて辺りを見回すと、海岸にある少し大きめの岩に、22、3歳ぐらいの中肉中背、これといった特徴のない顔をした一人の青年が傘もささずに座って海を眺めいた。
「ああ。ノートに雨があたって、字がにじんだんですね?」
「そうだが・・・・お主、いつのまにそこに・・・・・・」
さっきまで誰もいなかったはず、少なからず動揺しつつも警戒して言うキリュウ。
「まぁ、ついさっき、と言ったところですか。しかし、相変わらず喋り方が堅いですね。大地の魔将、いや、今は万難地天と御呼びした方がいいですか?キリュウさん」
「なっ!?お主、何者だ!!」
にこっと微笑みながら言う青年から少し距離をとり、警戒態勢に入るキリュウ。
「少し、寂しいですねぇ。昔々のそのまた昔、共に肩をならべて戦った仲間にそういう態度をされるのは」
そう言って青年は拳大の石を懐から出し、軽く握る。するとパキパキという音と共に手から砕けて砂になった石が、さらさらとこぼれる。
「ま、まさか・・・・・砕の兇将裁心!?」
驚愕の表情で言うキリュウをにっこりと見ながら青年が頷く。
「そう。私は砕の兇将。三兇将の一人、砕の兇将ですよ。ちなみに今の名は才蔵です」
「くっ!万象大乱!地走撃!」
万象大乱で才蔵の座る岩を小さくし、バランスを崩したところに大地を走る衝撃波を放つキリュウ。
「砕!」
しかし、彼は空中でバランスをとって余裕で着地し、衝撃波を砕く。
「くっ!ならば」
「お待ちなさい、キリュウさん。これ以上やるなら・・・・・あなた、死にますよ?」
そう言って表情の無くなった顔でキリュウを見る才蔵。
「うっ」
(な、なんという威圧感だ・・・・・・・体が動かぬ)
才蔵から放たれる凍えそうな程に冷たい気と威圧感に、キリュウは動けなくなる。
「取りあえず、今日はあなた達と戦うつもりで来た訳じゃありません。ちょっと、話がしてみたくて来たんですよ」
「話・・・・・・?」
「そう、話です」
そう言って才蔵はふっと体の力を抜く。するとキリュウの感じていた威圧感が消え、キリュウは動けるようになった。荒くなっていた息を整えるキリュウに、才蔵は無表情なまま問い掛けた。
「あなた方魔将は、なぜ闘うのか。何の為に命をかけて闘うのか、聞きたいんです」
「我々が何の為に闘っているか、だと?決まっている。聖霊王の復活を防ぐ為だ」
才蔵の質問にキリュウは当然、というように答える。
「なぜ?」
「なぜ、だと?」
「そう。なぜ、聖霊王を復活させたらいけないんです?そもそも聖霊王は心清き者を救い、そうでない者を滅ぼし世界を浄化する存在。復活して困るようなものではないでしょう」
一息に言って、返答を待つ才蔵。
「確かにそういう存在かも知れぬ。だが、本当にそうなのか分からぬではないか。それに、過去に聖将達がどういう事をしてきたか・・・・・・・・覚えているだろう?」
「確かに、過去に於いて彼等は誤った道を進みました。しかし、今の彼等はこの腐敗した世界を本当に救いたい、心清き者が苦しみ、そうでないものが栄える。犯罪、絶望、そして悲しみに満ちた世界を救いたいと思っているのですよ」
ほとんど無表情に話していた才蔵だったが、この時だけ悲しみと怒りの感情が瞳に浮かぶ。
「そこまで、この世界が腐敗しているとは思わぬが・・・・・・・・・」
「ニュースや新聞を見てみなさい。目を覆い、耳を塞ぎたくなるような事件ばかり起きているでしょう?詳しくは思い出すだけでも吐き気がするので言いませんがね・・・・少なくとも、人間やこの世界に絶望してもおかしくないと思いますよ・・・・・・・」
「っ・・・・・・・!?」
言い放つ才蔵の気の質が明らかに変わり、狂気と殺意、憎悪、悲哀、そして絶望。そういった感情が入り交じった気がキリュウを圧倒する。
(なんで、こんなにも暗い気を放てるのだ・・・・・・)
「さて。最後にもう一度問いましょう。貴方は何故闘うのですか?守るべき価値も無いこの世界のために。誰かの大切な人を奪っても平然とした顔の出来る人間なんかを守る為に、なぜ、命をかけてまで闘うのです?」
「それは・・・・・だが・・・・それは・・・・」
才蔵の気に圧され、答える事が出来ずがっくりと膝を着くキリュウ。それを再び感情の無くなった瞳でしばらく見つめ、才蔵はきびすを返して立ち去りながら言う。
「最後に、一つ情報を上げましょう。来てますよ、ここに聖将が。貴方達を倒す為にね。まぁ、気を付けて下さい」
そう言い残し、キリュウの視界から彼は消えた。苦悩の表情を浮かべたキリュウを残して。

「キリュウさんでも、答えられなかったか・・・・・」
軽く首を振り、つまらなそうに呟いて才蔵は海沿いの道を歩いていた。しかし、しばらく行ったところで地元の暴走族だろうか、髪を奇天烈な色に染め、いかにもといった服を着た集団が明らかに改造されていると分かるバイク数台の側にたむろっていた。
「やれやれ。こういう輩は何処にでもいるもんだな・・・・・雨の中、ご苦労な事だ」
関わるのも馬鹿馬鹿しい、とばかりに溜め息をついて迂回しようとしたとき、彼等の会話が聞こえてきた。その瞬間、才蔵の表情が一変した。不愉快そうにしていたのが一気に無表情に変わったのだ。そして、暴走族の方へと歩を進める。
「なんだぁ?てめえは」
ねめつけるようにこちらを見て、肩を張って近づいてくる暴走族の男に才蔵は静かに呟く。
「お前らごときに彼女達をどうこうできるとは思えないが、私の耳に入ったのが不幸と思うんだな」
「あぁ?何言ってんだ、おめぐはぁっ!!」
胸倉を掴もうと伸ばしてきた手を逆に掴み、一瞬でその骨を砕く才蔵。
「おいっ!?どうした!!」
慌てて駆け寄ってくる暴走族に男を突き飛ばすように放り、彼等に近づきつつ才蔵は薄く笑みを浮かべる。悪魔すらも恐怖に凍り付いてしまいそうな、凄絶な狂気の笑みを。
「いらないんですよ、あなた達みたいな存在は」


花と大地の惑い

「あーあ、たーさまと一緒の部屋が良かったのに。どーしてこうるのかしらね。こうなったら、たーさまを夜這いしちゃおうかしら?」
「・・・・・・」
窓の外を見ながらルーアンがぶーたれる。
「ルーアンさん、先生が生徒の前でそういう事を言うのは、教育上良くないですよ」
「・・・・・・」
微苦笑を浮かべながら閃光が言う。
「先生とか生徒って言われてもねぇ。魔将だって分かってるんだから、そういうのあんまり気にならないわよ、あたしは」
「・・・・・・」
そう言った後、ルーアンはしばらく黙っていたが大きく溜め息をついて言う。
「さっきからずーっと黙り込んでるけど、どうしたわけ?」
「花織さん、大丈夫ですか?」
ルーアンの言葉にも閃光の言葉にも先程から花織はほとんど反応せず、窓の外をただ黙って眺めていたのだ。普通ならルーアンに食ってかかるだけに、この沈黙が気になったのだ。
「何でも、ないですから・・・・・ご心配かけてすみません」
そう言って少し頭を下げる花織。
「あんた・・・・・もしかして・・・・・」
「な、何でしょう?」
ルーアンが自分をまじまじと見るので少し怯えたようになる花織。
「花梨でしょう?小娘にしちゃ、態度がおどおどしてると思ったんだけどね。その反応の仕方は間違いなく、花梨。あんたなんでしょ?」
「あっ!?」
ルーアンの言葉に驚いたように、しかし納得したような声を出す閃光。
「確かに、私は花梨です。・・・・・でも私は、本当なら消えなくてはなりません。でも、花織さんは私に消えたら駄目だと・・・・・・」
「ややっこしいわね。で、なんで小娘は花梨に消えたら駄目だって言ってるのよ?下手をすれば自分が消えちゃいかねないのに」
ルーアンの言葉に俯き加減で答える花梨。
そう、過去の記憶、人格が蘇った際、今までの自分を保っていられるか、それとも過去の人格に主導権を取られるかでその人格の存在の有無が決まるのである。消えた人格は幾らかの影響を残った人格に与えて消えてしまうのだ。
「私の、後悔。前世(かこ)に起きた事件を、私がまだ未練に思ってるから・・・・・」
「前世で起きた事件?何なの?」
「それは・・・・・・」
ますます俯いてしまう花梨。
「ルーアンさん・・・・無理に聞いたら花梨さんが・・・・・」
「花梨が可哀想?でもね、このままだと小娘、ごほんっ。愛原さんが消えてしまうのよ?」
小娘と言うと閃光がむっという目をする為、愛原と呼び直すルーアン。
「それはそうなんですが・・・・・・」
自分にも似たようなところがある為、閃光は口篭もる。
「ありがとうございます、閃光さん。気遣って頂いて。でも、私のせいで花織さんを消滅させる訳にはいきませんから、お話しします。私の未練、それは・・・・・私のせいである人を死なせてしまった事なんです」
「火の魔将の事ね?」
ルーアンの言葉にびくっと体を震わせる花梨。
「火の魔将さんの事が・・・・・・そうだったんですか」
閃光が少し悲しげに言う。
「前世(過去)で私の為に命を落としてしまった火の魔将火棘(かきょく)さん。もし、あの方も転生されているなら、あの時の事を謝りたい。私の為に、ごめんなさいと・・・・」
ぽろぽろと双眸から涙をこぼす花梨。
「花梨さん・・・・・・」
花梨の背中を優しくさする閃光。
「そう・・・・・じゃ、あたしに考えがなくもないわ」
「えっ!?」
ルーアンの言葉に驚いたように花梨が顔を上げる。
「どうやるんですか?」
「シャオの星魔、離珠の力を使うのよ。あの星魔の力は強力な精神感応。きっと花梨の人格を一時的にせよ封印する事が出来るはずよ。それも、何かのきっかけで花梨の人格が出てこれるようにも出来るはずだし」
ルーアンの言葉に閃光が確かに、という顔をする。
「確かに、離珠ちゃんなら出来るかも知れないですね」
「それじゃ、善は急げ。早くシャオリンのところに行きましょう」
ルーアンはそう言うと花梨の腕を取り、ささっと部屋を出る。
「ちょ、ルーアンさん、引っ張らないで下さいって、うっきゃぁっ!」
突然立ち止まったルーアンの背中に顔をぶつけ、花梨が悲鳴を上げる。
「どうしたんですか?」
閃光が訝しげに言う。
「キリュウ・・・・・・どうしたのよ、そんなずぶ濡れになって」
「ルーアン殿か・・・・・」
そこには雨に濡れ、水を滴らせたキリュウが立っていた。
「キリュウさん、どうしたんですか?いくら夏でもそれだと風邪ひきますよ?」
驚いた閃光が慌てて荷物からタオルをだし、キリュウの体を拭く。
それにならって花梨もタオルを持ってきて閃光を手伝う。
「水もしたたるいい女、っていう冗談をかましたい訳じゃないでしょうけど、とにかく着替えないと。本当に風邪ひくわよ」
ルーアンは呆れたように言うと、一足先にシャオ達のいる部屋の方へ行こうとする。
「砕の・・・・・砕の兇将に会った」
キリュウがぽつりと呟き、それを聞いた3人が驚いたようにキリュウを見る。
「それ、ほんとなの?見間違いとかじゃなくて」
「本当だ。このような冗談を言ってもしょうがないし、彼の力もこの目で確認した」
振り向くことなく聞いてくるルーアンに淡々と言うキリュウ。
閃光が青ざめた顔で言う。
「砕の兇将がいたという事は、他の二将もいるんでしょうか?」
「それは、分からぬ。だが、可能性はあるな」
キリュウの言葉に花梨が自らの震える体を抱きしめるようにして言う。
「無源の兇将、鬼の兇将。そして砕の兇将の三兇将が転生してるなんて・・・考えたくないですね。でも・・・・・・」
「転生しているだろうな・・・・・・」
深く溜め息を吐いて、キリュウは壁にもたれかかる。
「キリュウ、あんたどうしたの?なんか、随分と疲れてるみたいだけど。まさか、砕の兇将と戦ったの?」
「相対して、こちらから少し仕掛けた。だが、私は彼の発する気に圧されて動けなくなってしまった。情けない話だがな」
俯いて話すキリュウ。
「でも、無事で済んで何よりでしたね。とにかく、話よりも先に着替えた方がいいですよ。濡れた服を着たまんまだと、体に悪いですし。
部屋に行きましょう」
「そうです。それに、今の話をシャオさん達にもしないと。三兇将の対策もしないといけないですしね」
花梨と閃光に促され、キリュウは自分達の部屋に入る。
「キリュウさん!どうしたんですか!?そんなに濡れられて」
入ったとたん、シャオが驚きの声をあげ、慌てて荷物からタオルを出す。
「雨、そんなに強かったのか?そうでもなさそうだけど」
窓の外を見て翔子が言う。雨は小降りになっており、傘をさしていればこんなに濡れるはずはないと思ったのだ。
「それが、砕の兇将に会ったらしいんです」
閃光の言葉に翔子とシャオが驚きの声を上げる。
「本当なんですか!?」
「マジかよ!?」
二人の言葉にキリュウは頷き、肯定の意を示す。
「強力無比な力を誇る三兇将。聖将達の相手だけじゃなくて、あいつらの相手もしないといけないとなると、今の戦力じゃ厳しいな。せめて水、火の魔将がいればいいんだけどな」
「光の魔将がいたら、一番心強いのですけど」
未だ見つからない4人の魔将のうち、水、火、光の魔将は個体戦闘力が魔将の中でも高い方なのである。もう一人の魔将、鋼の魔将はどちらかというと後方支援の為、こういうときは余り役に立たないのだ。
「で?キリュウが落ち込んでるように見えるのはそれだけが原因って訳じゃないんだろ?一体、他に何があったんだ?」
翔子が腕を組んでキリュウの方をちらっと見て言う。
「それは・・・・・・」
キリュウの話を聞いてシャオは悲しげな顔をし、翔子は何だかなぁ、という顔をした。
「ま、あいつの言う事も確かに一理あるかも知れないけどな。でも、だからと言って大人しく滅ぼされる理由はどこにも無いはずだぜ、キリュウ。確かに今の世の中は乱れてるけどさ、いい奴だってたくさんいる」
「だが、そういう者ほど苦しめられ、傷つけられていると」
翔子の言葉にキリュウが苦悩した声で言う。
「あのさ、キリュウ。そのいい奴が心の清い奴だって限らないんだぜ?それに、心の清い人間だけを残したからって、その後の世界が救われるとは限らないだろ?失われた人間の中に、心清い奴の大事な人間だっているかも知れない。そしたら、そこからまた新しい悲しみや苦しみが生まれるって事になるだろ?」
翔子の言葉にはっとするキリュウ。
「それに、あたしにとって大事な生徒達も、みんながみんな心清いって訳じゃないですものね。それを勝手に滅ぼされちゃ、たまらないわ」
「ルーアン先生・・・・・・・」
驚いたような声を出す閃光に照れを誤魔化すように軽くウィンクするルーアン。
「それに、それじゃ何の解決にもなりません。砕の兇将が、聖将達がやろうとしている事は只の逃げです。強い力に頼って一気に変化をもたらそうとしている。本当は、みんなが地道に世の中を変えていく努力をしなければならないのに。聖霊王の力を使うのは逃げ以外の何物でもありません」
花梨の言葉にはっとするキリュウ。
「そうだな・・・・・確かに、皆の言う通りだ。誰かにとって大切な人が失われる可能性。そして辛い事を避け、楽な方に逃げようとしている事。これを彼等は考えていない。万難地天としては、見過ごせないな。そして、大地の魔将としても」
力強く言うキリュウにほっとする一同。
「心配かけてすまなかったな。私はもう大丈夫だ。ありがとう、みんクシュンッ!!」
盛大なくしゃみをするキリュウにみんなどっと笑う。
「ほらほら。濡れた格好でいつまでもいるからよ。着替えるついでに温泉にでも入ってらっしゃいな」
ルーアンが呆れたように言い、キリュウもそうすると頷く。
「折角ですから、みんなで一緒に入りませんか?」
「そうだな。たまにはそういうのもいいよな」
シャオの言葉に賛成し、翔子が皆を見まわすと別に異議はないようだった。
「じゃ、晩飯までにはまだ時間があるようだし、ひとっ風呂浴びてこようぜ」
「「おー(ですぅ)(です)!!」」
翔子の掛け声に全員が応え、着替えを持って風呂へと向かう。束の間の休息を楽しむ為に。


水を司るもの

「青い空、白い雲、輝く砂浜!!今度こそ、夏が俺を呼んでいるー!!」
次の日、青く晴れ上がった空を見上げ、たかしが絶叫する。
「野村のヤロー、誰のおかげだと思ってるんだか・・・・・」
ピーチパラソルの影で、青を基調とし、体の横側に白いラインの入ったスポーツタイプの水着の上にヨットパーカーを羽織った翔子が疲れた声を出す。
「本当に、昨夜はご苦労様でした」
白いビキニの上に翔子同様パーカーを着たシャオが翔子にアイスボックスからジュースを出して渡す。
実は、昨日の晩、翔子は皆が寝静まった頃に上空の雲を全て風で吹き飛ばしたのである。そのおかげで、ぐったりしているのであるが。
「昨日の夜、凄い風が吹いてたときはどうなるかと思ったけど、晴れて本当に良かったね、たかしくん」
「おうっ!!」
意味なくポーズをしながらたかしが乎一郎に答える。
「やっだー先輩、なんなんですかそれ。かっこわるーい」
黄色のワンピの水着を着た花織が冷たい声でぐさっとくる台詞を言う。
昨夜、離珠の力で花梨の人格と記憶を封印してもらい、元(?)に戻ったのである。
「全く、無駄に元気だけはいいわねぇ、野村君は。ね、たーさま。サンオイル塗ってぇ」
黒の大胆なカットのハイレグ水着を着たルーアンが太助に色っぽく迫る。
「おわぁぁぁ!!ひっつくな、ルーアン!!」
トランクスタイプの水着にパーカー姿でずだだだだっと凄まじいスピードで逃げ去る太助。
「あ、逃げた!ま、いいわ。この美しい白い肌を焼くなんてもったいないものね。遠藤くん、泳ぐ練習付き合ってあげるから、いらっしゃいな」
「は、はい!!」
嬉しそうに乎一郎はルーアンの後に着いて行く。
「あ、あづい・・・・・死んでしまふ」
ビーチパラソルの中、先程までルーアンがいた側とは反対の方に、赤い水着の上にTシャツを着たキリュウがぐったりとしていた。恥ずかしがりのキリュウが水着を着る事を承諾したのは、シャオが「折角みんなで買ったのに、キリュウさんだけ着られないんですか?」と悲しそうに言ったからである。
さしものキリュウも、シャオのこれには降参し、渋々ながらも水着に着替えたのである。もっとも、これをするように指示したのは翔子だったのだが。
「大丈夫ですか?キリュウさん。海に浸かれば少しは気持ちいいですよ」
オレンジ色の水着とパレオをつけた閃光が短天扇でキリュウをあおぎながら言う。
「そうかも知れないが、海までの日差しが辛い・・・・・・」
「じゅ、重傷ですねー。暑がりもここまで来ると病気かも」
苦笑して閃光はアイスボックスからミネラルウォーターを出してキリュウに渡す。
「はい、どうぞ。暑いときに冷たいものを取り過ぎると体に毒ですから、一気に飲まないで、ゆっくり飲んで下さいね」
「すまぬな、閃光どの」
「どういたしまして」
ぼーっとキリュウの横であおいでいる閃光とあおがれながら冷たい水を飲むキリュウ。
二人の間に奇妙な沈黙が流れる。
「キリュウさん、やっぱり泳ぎましょう!泳げない訳じゃないんでしょう?せっかく海に来たのに泳がないなんて損ですよ!」
いい加減、沈黙に耐え兼ねた閃光がキリュウの腕を取り立ち上がらせる。
「い、いや。私はいい。閃光殿だけで行ってくれ。それにまだ飲みかけだし」
閃光の剣幕に押されながらもそう言って抵抗するキリュウ。
「もう、それ貸して下さい!!」
そう言ってキリュウの飲みかけを奪い取り、一気に飲み干して閃光はキリュウを引きずって海へ連れて行く。
「暑いーーーー!!」
「海に浸かれば涼しいですから、それまでちょっとの我慢です!」
強い日差しを受けて音を上げるキリュウをずるずると引きずり、閃光は海に入る。
「ほら、気持ちいいでしょう?キリュウさん」
「う、うむ・・・・・・確かに、冷たくて心地よいな」
意外、と言った顔でキリュウが頷く。
「さ、ひと泳ぎしましょう。まさか、本当に泳げない訳じゃないんでしょう?」
「いや、実は・・・・・」
照れくさそうに言うキリュウ。
「泳げないんですか・・・・・・」
「少しは、泳げるんだがな」
もう少し泳げるようになろう、という事で閃光はキリュウに泳ぎを教える事にした。

一方、花織とたかしはまたシャオと太助を引き離す作戦を立てようとしていた。
「ですからぁ、先輩のその作戦は駄目ですってば。前も似たような事して失敗したのもう忘れたんですかぁ?」
「うっ」
花織の鋭い台詞にたかしは言葉を詰まらせる。そんなたかしを呆れたように見た後、花織は海岸を見回す。
「まぁ、それはそれとして。何で今日はこんなに海水浴客がいないんでしょうか?」
「そーいえばそうだな。俺達以外、泳いでる奴って一人もいないし」
そう、快晴にも関わらず、たかし達以外の客がいないのである。幾ら昨日雨が降って水位が上がり、突風が吹き荒れるなど気象条件が不安定に見えても、こんな晴れた日に海水浴客がほとんどいないというのはおかしい・・・・・と思う。
「そういえば、この海岸のあっち側でなんか事件があったらしいよ。なんか、殺人事件らしいけど」
「あ、乎一郎。それほんとか?」
何時の間にか後ろに来ていた乎一郎にたかしが聞き返す。ルーアンも一緒の所を見ると、休憩しに来たのだろう。
「うん。しかも、かなり現場が凄かったらしいよ。専門家でも思わず吐くぐらいに」
「それじゃ、人がいない訳ですよねぇ。でも、何でそんなに詳しいんですか?」
「朝のニュースとか、朝刊に載ってたわよ?ま、地元でも相当に悪名高い奴等だったみたいで、住民は自業自得だって言ってるみたいだけど。一体、誰がやったのかしらね」
ルーアンの言葉に二人は顔を見合わせた。
「知ってた?」
「知りませんでしたぁ。でも、そのおかげでプライベートビーチみたいになったんですから、ラッキーと言えばラッキーでしたね。死んだ人には悪いですけど」
笑顔で言う花織に、ルーアンと男二人は背筋に寒いものが走るのを感じたという。

「やれやれ、私の忠告を知ってか知らずか。そんな風に遊び惚けてていいんですかねぇ、魔将達は。聖将が来てるって教えて差し上げましのに。しかも、聖将の中でも屈指の力の持ち主である彼が来てるというのに」
海が見える公園に備え付けてある双眼望遠鏡(お金を入れると見れるタイプ)を覗き、彼は呟いてちらっと腕時計を見る。
「さて。そろそろ彼が動く時間ですね。さ、どう戦うか、拝見させて貰いましょうか」
双眼望遠鏡を持ち直して彼―殺人事件の犯人―は呟く。
「しかし、暑いですねぇ。どうせなら私も、海の側にいるんでした」

その頃、シャオと太助はちょっと高台になった所に来ていた。昨晩、翔子が雲を吹き飛ばした時に見つけた場所である。翔子はシャオに 「そこに男女二人が行くと、すっごく幸せになれるっていう言い伝えがあるんだ!」と言って太助と行くように仕向けていたのである。
純真なシャオは翔子の言葉を疑う事すらせずに太助とこの場所に来たのである。
「太助さま、あのね。この場所に男女が二人で来ると、すっごく幸せになれるんだそうです。太助さま、幸せですか?」
満面の笑みを浮かべて言うシャオに、太助は頬を朱に染める。それは、夏の日差しのせいだけでなく、シャオの水着姿に照れている訳でもなかった。自然とそうなってしまう程、シャオの笑顔が可愛かったのである。多分、翔子の吹き込んだ嘘だろうと分かっていた太助だったが、シャオと二人でいられて幸せである事には変り無いので
「ああ。とっても幸せだよ」
と答えた。
太助のその言葉にシャオは、また、嬉しそうに微笑む。そして、二人が何気なく海を、空を見たとき。
二人の頭上を一人の少年が飛んで行った。置き土産を残して。
「開!異界門」
瞬間、二人は突然生まれた空間の穴に飲まれて姿を消す。咄嗟に互いの手をしっかり握り締めながら。

「取りあえず、月の魔将は封印完了。意外とあっさり片付いたなぁ、つまんないの。一緒にいた男の人はだれだったんだろ?ま、いっか。
恋人同士みたいだったし、それなら異空間でも寂しくないだろうから」
独り言を言いながら、彼―宙の聖将―は残りの魔将を倒す為に空を飛んで行く。

「シャオ、うまく太助と二人きりになれたかなぁ?」
二人がいるであろうはずの岸壁を眺めやり、翔子は呟く。
「またシャオ殿に何か吹き込んだのか?翔子殿」
休憩をとるために閃光と一緒に海から上がって来たキリュウが翔子に聞く。
「また、って事は、翔子さんってよくそういう事されるんですか?」
咎めるように言う閃光に翔子は苦笑しながら説明をする。
「つまり、太助くんとシャオさんの仲を進展させる為に、色々と作戦を練ってるって事なんですか」
「実際、私も知らぬ間に協力させられている事もあるぐらいだからな。かなりの策士だぞ、翔子殿は」
二人にじーっと見つめられて翔子は困ったように頬をかく。
「太助は見てていらいらするくらいに奥手って言うか、優柔不断なとこがあるし、シャオはぽけぽけしてるし。見ててもどかしいんだよなぁ」
「さしずめ翔子さんは二人のキューピッド役なんですね」
閃光にキューピッドと可愛らしい言われかたをして苦笑する。
「開!異界門」
突如子供の声がして空間が歪み、3人を飲み込む。
「うわっ!」
「きゃぁっ!」
「しまった!?」
「一丁上がりっと。なんか、本当に歯ごたえないなぁ。こんなに弱いんなら次は不意打ちじゃなくて、真正面から行こうかな?」
余りの手応えの無さに、彼は趣向を変えてみようと思案する。
「だったら、正義の味方らしくかっこいい出場方法しないとなぁ。どうしよっかな」
少し楽しそうにいいながら、少年は次の獲物である花織達の方へと飛んで行く。

「ね、あんた達。たーさま見なかった?他のみんなの姿も見えないんだけど」
「いいえ、見ませんでしたけど。ね、野村先輩」
「ああ、俺達は見てないぜ」
「たかし君達、また、変な作戦考えてたんでしょ?」
乎一郎の突っ込みにたかしは頷く。
「あのねぇ、それで肝心のたーさまやシャオリンを二人っきりにしたら、作戦も何もあったもんじゃないでしょうが」
ルーアンの冷たい突っ込みに、はっとする花織。
「そーですよぉ!こんなとこでこんな事してる場合じゃないです!」
「そうだ!早くシャオちゃんを探さないと!」
いつかの二の舞にならぬよう気をつけていたつもりだったのに、とたかしは心の中で呟く。
そんなたかし達の様子を苦笑して見ていた乎一郎がふと空を見上げると、空にぽっかりと黒いものが浮いていた。
「何、あれ?」
乎一郎の声に皆が空を向き、花織が顔を青ざめさせてルーアンをつつく。
「ルーアンさん、あれって、もしかしたら・・・・・・」
「多分、間違いないわね・・・・宙の聖将の・・・・・」
ルーアンが言い掛けたところで中から少年が現れる。
「宙の聖将、参上!悪いけど、魔将さん達。消えてもらうよ♪」
子供ゆえの無邪気さでそう言い、彼は力を発動させる。
「開!異界門!」
「危ないっ!!」
宙の聖将の力が発動した瞬間、ルーアンは手近にいた乎一郎を小脇に抱えてジャンプする。
「「わぁぁぁぁ!?」」
乎一郎の叫びとたかし達の叫びが重なり、ルーアンがたかし達の法を見ると、すでに姿が見えなくなっていた。
「る、ルーアン先生!?たかしくんと、花織ちゃんが!」
「分かってるわよ・・・・厄介ね・・・」
震える乎一郎を地面に降ろし、ルーアンは小さく呟く。
「遠藤くん、3つ数えたら、目を閉じて。いいわね?」
そういうとルーアンは乎一郎の返事を待たずに宙の聖将の方へ掌をかざす。
「1、2、3!閃輝掌!!」
「わぁっ!!」
乎一郎が目を閉じると同時にルーアンの掌が眩い光が放たれ、宙の聖将の目をやく。
「目が!!見えない!!」
ショックで墜落こそしなかったものの、目を押さえて空中でもがく宙の聖将。
「悪いけど、貰ったわよ!紅炎っ!!」
気合と共にルーアンが宙の聖将を指差すと指先から紅蓮の炎が噴出し、聖将目掛けて飛んでいく。
「歪宙理!!」
手を上にかざし、宙の聖将が叫ぶと彼の周りの空間が歪み、ルーアンの放った紅炎を飲み込み、逆にルーアンの方へと放つ。
「うそっ!?」
慌てて海に飛び込み炎をかわすルーアン。
「せ、先生!?い、今のは一体・・・・・・?」
展開に驚きながらもルーアンの方に走って行く乎一郎。
「遠藤くん、逃げなさい!!」
「で、でも・・・・・・」
「いいから!危ないから早く逃げて!」
「危ないって、だったら先生も!」
ルーアンと乎一郎が話している間、宙の聖将はうっすらとではあるが、視力を取り戻し、ルーアンの方へと手をかざす。
「よくもやったなぁ!乱宙律!」
宙の聖将の手から黒いボールのようなものが放たれ、乎一郎目掛けて飛んでいく。
視力が完全に回復していない為、目に映った人影をルーアンだと思い込んでしまったが、実は乎一郎だったのだ。
「遠藤君、危ないっ!!」
慌てて乎一郎を突き飛ばし、その反動を使って横っ飛びにジャンプするルーアン。
しかし、海に少し入っていた為か、避けきれずに黒いボールが僅かにルーアンの腕に当たる。
「つっ!!」
瞬間、その部分の肉が消え去り、少し遅れて血がしぶく。
「ル、ルーアン先生!!」
「どじったわね・・・・・・・・・」
宙の聖将が使う技の一つ。小さなワームホール(空間の虫食い穴)を作り、相手にそれをぶつけて相手の一部分を異空間に葬る技である。
当たり所によっては一撃で相手を葬り去る事も出来る、恐ろしい技である。
「ごめんなさいっ!僕のせいで・・・・・・」
「いーから、あんただけでも逃げなさい。多分、あんたまで追い掛けたりしないでしょうから。狙いは、あたし達魔将だけのはずだから・・・・・・」
「魔将って・・・・・確か、夢に出てた・・・・」
乎一郎の言葉にはっとするルーアン。
「夢って・・・・じゃ、遠藤くん。あなたも魔将の転生者・・・・?」
「分かりません、でも、僕のせいで先生に怪我させたのに、置いてくなんて・・・」
じわっと目に涙を浮かべる乎一郎の顔に、ある少女の顔がだぶって見える。
「一水・・・・・・?」
「ルーアン先生・・・・・・ごめんなさい・・・・」
そして乎一郎の瞳から涙がこぼれ、それが海面に落ちた瞬間、乎一郎とルーアンを中心に海が渦巻きだす!!
「こ、これは・・・・・・水の、水の魔将の力?」
「ど、どうなってるの!?」
やはり、という顔をするルーアンと横で狼狽する乎一郎。
「そんな!?あのお兄ちゃんも、魔将だったの!?」
どうにか視力を完全に取り戻し、下の光景に驚く宙の聖将。今まで無関係と思っていた乎一郎に技を当てかけた事に気付いて、視力が戻るまで攻撃を控えていたのである。
「くっそー!だったら、遠慮せずに攻撃しとくんだった!」
そう言うと宙の聖将は両方の掌を二人に向け、叫ぶ。
「歪壊宙理!!」
先ほどよりも数段大きいワームホールが複数個表れ、ルーアン達へと放たれる。
「う、うわぁぁぁぁ!!」
「遠藤くんっ!?」
乎一郎が叫んで屈んだ瞬間、海がまるで壁のように隆起し、波となってワームホールと接触。ワームホールは海水を異空間に運び、消滅する。
「う、嘘・・・・・?」
最強と信じていた自分の力が破られて呆然とする宙の聖将。そしてそこに波が襲い掛かる!
しかし、宙の聖将の周りは空間が歪められており、それはそのまま乎一郎達の方へと帰る。
「くっ、陽光破!遠藤くん、落ち着いて!しっかり力の制御をなさい!!」
水の壁に破壊力を伴った光を放ち、一瞬で波を打ち消すルーアン。
しかし、次の波が宙の聖将に襲いかかろうとする!
その様子を見たルーアンは慌てて乎一郎を揺さぶる。このまま力を暴走させ続けると、自分達の命が危ういのである。
しかし、乎一郎は屈みこんだまま震えており、ルーアンの言葉も届いてないようだった。
「仕方ないわね・・・・・」
意を決し、ルーアンは乎一郎の両頬を両手で挟み、自分の方を向かせ大きく叫ぶ。
「一水!!いい加減にしないとぶつわよ!!」
「ご、ごめんなさい!!ルーアンさん!!謝ります!だからぶたないでー!!」
叱られた子犬のように頭を抱える乎一郎。
「あ、あれ?一体、ここは・・・ルーアンさん、何でここに・・・・」
「まさか、一水?」
「は、はい。ええと、何がどうなって・・・・・って、きゃぁぁぁ!!」
慌てて胸元を隠す乎一郎=一水。
「何やってるのよ、あんたは・・・・」
「だって、胸が・・・って、ない?えっ、ええ!?あ、あたし、男の子になってる!?」
「転生先が男だったってことでしょ!!それより、あれをどうにかしなさい!」
ルーアンの一喝にほとんど条件反射的に従い、水の壁を消す乎一郎=一水。そして片手を空にかざして叫ぶ。もう片方の手は相変わらず胸を隠していたが・・・・
「水よ!その姿を大いなる竜に変え、我が敵を飲み込め!!」
その声に呼応し、海面が何箇所も渦を巻きそこから水の竜が何頭も現れ宙の聖将へと襲い掛かる!!
しかし、歪められた空間のせいで、全て宙の聖将には当たらなかった。
「消えて!」
自分達の方へと飛んできた水竜を消す一水。
「あれって、反則ですよぉ!!」
「あたしに言っても知らないわよ!!」
思わず叫び返しながらも、どうしたものかと思案するルーアン。
(ほんとに、どうしろって言うのよ)

「ほぉ・・・・・水の魔将が覚醒しましたか。ま、場所的に一番妥当ですが・・・・」
そう呟いて神の聖将に携帯電話で連絡をとる才蔵。
「才蔵だ。水の魔将が覚醒した。で、どうする?・・・・いいんだな?後で怒るなよ。じゃ、切るぞ」
そう言って携帯を切り、再び双眼望遠鏡を覗く才蔵。
「もうしばらく様子を見るか、今すぐに行くか・・・・っと」
ガシャンッと音を立て、望遠鏡が見えなくなる。
「時間切れか・・・・小銭、小銭と・・・・ん?」
ポケットを探っていると、ズボンが引っ張られるのを感じ、振り向く才蔵。
「おじちゃん、私も見たいよぉ」
ちっちゃい女の子が才蔵のズボンを引っ張っていた。
「あー・・・・・ごめんごめん。じゃ、変わろうね」
「うん!」
そう言って女の子は望遠鏡を覗くが、すぐにこちらを振り向いて言う。
「見えないよぉ?」
「あー・・・・・ちょっと待って」
小銭を入れ、女の子にもう一度見るよう促す。
「わぁ、すっごーい!ありがと、おじちゃん!」
「ははは・・・どういたしまして」
意外と子供には優しいのだ。まぁ、泣かれるのが嫌というのもあるが。
そして才蔵はその場を離れ、高台からジャンプし海に向かう。
「これぐらい、近づけばいいですかね」
電柱や民家の屋根を数回跳び、海まで500mぐらいの所に立ち止まる才蔵。
「じゃ・・・・・いきますか・・・・・はぁぁぁぁぁ!!」
両掌を宙の聖将に向かってかざし、気を、力を集中させる才蔵。
「空間よ、砕け散れ!!空砕撃!!」
才蔵の掌から力が放たれ、宙の聖将の歪めている空間を砕く。
その瞬間!宙の聖将の保持していた空間の歪みと砕の兇将の力で砕かれた空間が一気に収縮し、ねじれ、目に見えない大爆発を起こす。
「えっ!?何!?う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
「きゃぁぁぁぁぁ!!!」
「きゃぁぁっ!!」
爆風と衝撃波によって一水とルーアンは吹き飛ばされる。
全てが収まった所で砕の兇将もルーアン達の下へと向かう。
「大丈夫ですか?まさか、ここまで威力が凄いとは思わなかったもので」
「あんた・・・・誰よ?」
ルーアンが訝しげに問う。
「砕の兇将ですよ。どーも、初めまして」
おざなりに言うと、すたすたと歩き始める才蔵。取り敢えず二人が無事かどうかを確認しにきたのである。
「さっきの、あんたがやったの?宙の聖将はどうなったのよ?」
「そうですよ。宙の聖将が歪めていた空間に少し干渉しただけなんですが・・・・空間が自己修復する際に発せられるエネルギーが思ったよりも凄まじかったので、あなた方が無事かどうか調べにきたんですが。無事で良かったですねぇ。で、宙の聖将。忠太くんと言うんですが、どうなったんでしょうね?さっきの爆発でかけらも残さず消えたか、異次元に迷い込んで出れなくなったのか。私にもわかりません」
「・・・・・・で。なんであんたがあたし達の安否を気にしなくちゃいけないのよ?」
ルーアンの問いに背を向けたまま答える才蔵。
「それは・・・・・・・秘密です。ま、そのうち宙の聖将の作った空間も壊れて、他の魔将達も出てくるでしょうから。それでは、ご機嫌よう」
そう言って一瞬振り返って少し気障に挨拶すると彼はそのまま高く跳躍し、何処ともへとなく消え去った。
「助けられたのはいいけど・・・・・何を企んでるのかしら、あいつは・・・・?」
「んー・・・・もう食べられませんですぅ・・・・・」
「って、気絶しながら寝言を言うなっ!!」
さっきの衝撃波で気絶していた一水の寝言(?)に、思わず突っ込みをいれてしまうルーアンだった。

エピローグ

宙の聖将がどうなったのかは分からずじまいだったが、シャオ達は宙の聖将の作った異空間から無事、出てくる事が出来た。何がどうなっるのか質問してくるたかしをなだめすかして、シャオ達はルーアンと一水を残して宿へと戻った。
そして二人は海岸を並んで歩いていた。
「ルーアンさん・・・・・こうやって、また会えて嬉しいです」
「あっそ。良かったわね」
ルーアンの素っ気無い言葉にうりゅうりゅと涙目になる一水。
「・・・・泣くんじゃないの。まったく、昔っから泣き虫なんだから・・・・」
そっと一水の頬の涙を拭ってやり、ルーアンは優しく微笑む。
「ルーアンさん・・・・・・」
「ほれっ」
突然、涙を拭っていた指で一水の頬を引っ張るルーアン。
「いひゃい!いひゃいでふぅ!!」
「前世(まえ)に、言ったでしょ。おしおきするって」
「まだ、覚えてたんですかぁ・・・・・・」
痛む頬を撫でながら一水がむーっという感じで言う。
「当たり前でしょ。大事な子を、失った時のことなんだから・・・・・」
「・・・・・・・・ごめんなさい」
「いーわよ、昔のことなんだし。でも、遠藤くんがあんただったとはねぇ。道理であたしの事を好きになる訳だわ」
砂浜に座り、ルーアンが苦笑しながら言う。
「あ、それは違いますよ。ルーアンさん」
隣に座りながら言う一水にルーアンは不思議そうな顔をする。
「違うって・・・・・違うの?」
「違いますよ。乎一郎くん、彼は彼自身の意思で、ルーアンさんの事を好きになったんですから。そんなこと言ったら、彼が悲しみますよ。それに、あたしのルーアンさんを好きな気持ちは、乎一郎くんよりもずっとおっきいんですから」
大きく手で輪を描く一水をルーアンは懐かしそうな、優しい目をして見る。
「えへへ・・・・・でも、本当に嬉しいです。こうやって、ルーアンさんにまた会えて。あたしの想いを受け継いでくれる人がいて。これで、心置きなくあっちに行けます」
「あっちって・・・・・?」
「天国、かな?私も、そろそろ消えないと。乎一郎君が消えちゃいかねませんから」
そう言って微笑む一水だったが、不安からか体が震えていた。
「そう・・・・・じゃ、これで本当にお別れね」
「はい・・・・・それじゃ、お別れの握手です」
立ち上がり、砂を叩き落として一水はそっと手をルーアンに差し出す。
「いいわよ、それっ!」
「きゃっ!?」
一水の手を引っ張り、自分の方に引き倒すようにしてルーアンは彼女の頬に軽く口付ける。
「ル、ルーアンさん・・・・・・」
唇のふれたところをびっくりしたように押さえて一水が目を真ん丸くする。
「お別れなんだから、握手じゃ寂しいでしょう?サービスよ。じゃ、元気でねってのも変だけど・・・・・・ね」
「はい。ルーアンさんも、お元気で。それと、絶対に聖将達に負けないで下さいね。もし、すぐに死んであたしのとこに来たら、怒っちゃいますからね!」
そう言うと駈け出して一水はルーアンから少し離れる。
「じゃ・・・・・さよなら。ルーアンさん・・・・・・」
淡く微笑み、すっと瞳を閉じる一水。そして再び目を開けたとき、そこにいるのは乎一郎だった。
「ルーアン先生・・・・・泣いてるんですか?」
「やーね、目にごみが入っただけよ。あたしが泣いたりするわけないでしょ!ほら、馬鹿なこと言ってないで、宿に戻るわよ。今ごろ野村君をどう説得するか考えてるでしょうから」
乎一郎に背を向け、歩き出すルーアン。
「あ、待って下さい、ルーアン先生!」
慌ててルーアンを追いかける乎一郎だったが、ふと立ち止まって誰にも聞こえないような小声で呟く。
「僕がルーアン先生を好きになったのは・・・・・・他の誰かの想いを継いだ訳じゃない。僕が自分の心で、好きになったんです・・・・」
「えーっ?何か言ったぁ!?」
「いえ、何でもないですー!!」
そう言って乎一郎は駆け出した。大好きな人目指して。


次回予告!
うぉぉぉ!!夏が最も似合う男、野村たかしだ!海で起こった事件について問い詰める俺だったが、聞いてびっくりだぜ!シャオちゃん達が聖将とかいう奴等と戦ってるなんてさ。こうなったら俺も戦わなくちゃ男がすたるってもんだ!
シャオ達の話を聞き、自らも戦うと言うたかしと彼を止めようとする魔将達。そんな彼らの前に聖将の刺客として鬼の兇将が現われる。激闘のなか、彼等の前に現われた者とは!?
次回異界守護月天5 燃え上がる魂―火の魔将覚醒―
てめぇ!人の勝負の邪魔するんじゃねぇ!!


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