気神大天飛騨 4
飛騨とキリュウの共同試練

上編

日曜日、なぜかとても早くに目が覚めた飛騨。
なんとなく階段を降りた。ふと右を見ると、「シャオの部屋」という張り紙があった。
「・・・これを活かさない手はありませんね・・・」
飛騨はシャオに気付かれないように部屋へ入り、神武玉を握る。
「神武封印」
そう言うと飛騨は何事も無かったかのように部屋を出た。

朝、太助が目覚めると、飛騨が一人で朝ご飯を作っていた。そしてテーブルにはキリュウが向かっている。
「おはようございます。主様」
太助はぽかんとしながら飛騨に聞いた。
「・・・シャオは・・?」
「シャオリン様は部屋にいます。ですが、シャオリン様を呼びに行っても無駄でしょう」
太助は怪訝そうな顔をした。
「と言うと?」
二人にキリュウが割って入る。
「要するにだな、主殿。飛騨殿がシャオ殿の気を神武玉の中に封印したという訳だ」
飛騨はすでにキリュウにまで話を付けているようだった。
「へ?」
「これも試練だ、主殿」
「は?」
太助はまだ事態を飲み込めていないらしい。
「つまり、シャオ殿の部屋にいるのは抜け殻だ、ということだ」
「え!?」
太助はやっと事の大きいことに気付いた。
「じゃ・・じゃあ念のために聞くけどさ・・・ルーアンは?」
飛騨が食器の気を操って一気に配膳をしながら言った。
「ちょっと黒天筒に戻ってもらいました。あの人がいると、何かとうるさいですからね」
キリュウが言った。
「主殿、これが今回の試練だ。私の試練を乗り越え、飛騨殿から神武玉を奪うのだ」
「ああ・・・」
飛騨はテーブルにつきながら言った。
「主様、何だか乗り気でないようですね。ですが、もしこの試練を乗り越えられないようなことがあれば・・・」
太助は押さえるように言った。
「わかってるよ。シャオがいなくなるってことだろ」
「そういう事です。主様、まずは腹ごしらえ。食べて下さい」
「あ、ああ」
太助は目の前の料理に箸を付けた。やはり日本製の精霊(笑)。シャオと違って何だか親しみやすい料理だ。
「飛騨、結構美味いよ、コレ」
飛騨は笑顔になった。
「はい、ありがとうございます

しばらくすると、飛騨とキリュウが椅子から立った。

「主殿、そろそろ行こうか」
「主様、キリュウ様。お先に失礼します」
そう言って飛騨は外に出た。

「よし、キリュウ、俺達も行くか!」
「フフッ、そう来なくてはな、主殿」

「万象大乱」
キリュウがそう叫ぶと、近くにあったサッカーボールが巨大化し、太助めがけて転がってきた。
「へっ、こんなもの、横に行きゃ素通りするよ」
太助もやはり負けてはいない。
「主殿、さすがだな。これまでの試練もそう無駄ではなかったようだ」
「そりゃそうさ。さあ、次、かかってこい!」
キリュウは短天扇を開き、
「万象大乱」
と唱えた。
「今度は何だ?・・・てえええ!!!」
太助が驚くのも無理はない。
坂道の上からわずかに巨大化した野球のボールが、雨アラレのように転がってきたからだ。「主殿、これでは避けようにも避けられまい」
キリュウは短天扇に乗って何処かへ飛んで行った。
「こ・・これは逃げるしかねえな・・・」
そう言っている内にもボールの大群はスピードを上げて迫ってくる。
「うおおおおおおお!!!!!」

太助は逃げる。もう10分は全力疾走を続けていることだろう。その様子を上空から眺めていたキリュウは、短天扇を下げ、太助の前に降り立った。
「主殿、まだまだこんなものは序の口だ。万象大乱!」
太助の目の前にあった自動販売機が突如として大きくなり、太助の逃げ道をふさいだ。
太助、ピンチ!

「く、ここでやられてたまるか!」
太助はそう言って自動販売機をよじ登りはじめた。

ドゴーン!ドゴゴゴゴゴゴ!!!

ボールが次々と自動販売機に激突していく。
だが太助はその時すでにボールのはるか上まで登っていた。
「へへ、そう簡単にやられるかってんだ」
そのとき、キリュウはその自動販売機の上にいた。そして太助のその一言を聞くと、
「主殿、まだまだ甘いな。万象大乱」
と言った。
巨大化されたまな板が、太助の脳天に直撃!
「ぐああ・・・」
太助は力無く墜落していった。

三時間後

「キリュウ・・・何だか今日は一段と気合入れてるなぁ・・・」
「主殿、とりあえず今は終わろう。家で飛騨殿が待っている時間だ」
太助はうなずく。
「ああ。そうしよう。・・・でも・・・ここって、一体何処!?」
キリュウは、その一言を聞いたとたん、力が失せていくようだった。
「・・・私に聞かないで欲しいな、主殿・・・」

二人がなかなか帰ってこないのを不審に思った飛騨に彼らが「救出」されたのは、それから二時間後だったという・・・

そして午後(と言ってももう三時)

「万象大乱!」
キリュウはいつものように万象大乱を唱えた。だが、それからの様子がいつもとは違った。
「あれ・・・なんだか・・・物がみんな大きくなったような気がする・・・」
キリュウは物を大きくしたのではなく、太助を小さくしたのだった。
「主殿、試練だ。その大きさで学校まで来られよ」
ちなみにここは太助の家の二階。
「では主殿、先に失礼させてもらう」
そう言ってキリュウは短天扇に乗って学校の方へ飛んで行った。

「・・・まずはこのドアをどうやって開くかだな・・・」
そのドアのノズルは結構高い所にあり、今の太助には届きそうも無かった。
仕方なく、太助はドアに突撃してみた。
案の定ドアはピクリとも動かない・・・はずが、何と開いてしまった。
「???・・・まあいっか。開いたんだし・・・」

太助は階段についた。
今の太助にとっては、一段が身長の倍以上ある。
太助は飛び降りを決行。
「ていっ!」
「うわあっ!」
傍から見ればゴミが落ちながら何か声を出している、という感じだっただろう。

途中で何度も着地に失敗し、そのたびに転倒していたが、何とか一階についた。
玄関は幸いなことに開いている。
「よし、今日は日曜日だし、人通りもそう多くないだろう」
太助は自らを励ますように言った。

家から学校までは15分。
今の太助のサイズでは普通に歩いて四時間かかる。
だが、太助にそんな事を考える余裕はなかった。
意に反して、人通りがいつもの倍はあったのだ。
その足をよけるために、全力で走り回っていたのだから。

四時間後、もう辺りは暗くなっており、道路には人影はほとんど見えない。
だが、ここから最大の難所である歩道橋が待っているのだ。
「ここまで来たのにこれかよ・・・」
高さは軽く見ても五メートルはある。今の太助にとっては、100メートル近くある事になる。
「ここまで来て負けられるか!」
太助は自らに鞭を振るうようにそう言ったが、無理なものは無理である。
仕方なく、太助は何か道具になる物を探しに行った。

しばらくしてから、太助はどこからか飲み干してあるペットボトルと紐を持ってきた。(皆さん、ゴミはゴミ箱に。ポイ捨てはいけません

ペットボトルに穴を開け、それに紐を通す。そしてその紐を首にかけた。
ペットボトルを階段の奥に運ぶと、それを倒して、一段を二段のようにした。
「ヨイショッと。これなら楽勝楽勝。でも、今度はペットボトルを上に上げなきゃな」
太助は紐を首から外し、それを手に持ち替えて、思いっきり引っ張った。
だが、これがなかなかきつい作業だった。
「はぁ・・・何とか一段目終了・・・・・・」

それを何回繰りかえしただろうか。
もう自動車でさえもほとんど通らない。

「あと一段・・・ヨイショッ・・・・・・ふう・・・」

太助は一番上まで登り切った。しかし太助の体は限界に近かった。

「はぁ・・・何とか登り切ったぞ・・・あとは降りるだけだ・・・」

太助の体には飛び降りるほどの余裕はもう無い。
登ったときのやり方の逆で降りるようにした。
いくら下りといっても、きついことに変わりはない。
「はぁ・・・はぁ・・・」
太助の息が荒くなってきた。

どれ程の時が経っただろうか。太助はついに、最大の難所である歩道橋を突破した。
後は学校まで平坦な道が続くだけだ。
だが、太助の体は疲労で限界に達していた。
「く・・・シャオ・・・・・・」
太助は薄らぐ意識の中、自分はどうしても学校に行かなければならない、と思いかえした。
そのおかげか、朦朧としている意識の中、太助は学校に向かって歩いていた。

「万象大乱」
キリュウがそう唱えると、そこには普通の大きさに戻った太助の姿があった。
「キリュウ・・・これで・・・お前の試練・・・越したな・・・」
「主殿・・・」
太助は完全に力尽き、その場に倒れた。
キリュウは短天扇を開き、それに太助を乗せて家に帰った。

キリュウが家に帰ったのは、夜の10時のことだった。


次回予告
圧倒的な強さを誇る飛騨の前に全く歯が立たない太助。
だが、そんな太助に仲間が現れる。


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