孤独
---寂しさは君と会う為の試練---
1
独りの家
チュンチュン、チュンチュン...........小鳥達のさえずりとカーテンの隙間から射し込む朝日に太助は起こされる。
「んっ、ふわぁぁぁぁぁぁぁ......」
大きく伸びをし、まくら元の時計に目をやると10時少し過ぎだった。
「もう10時か........もう起きないとな」
今日は日曜日。そうでもないとこんな時間まで寝てられはしないのだが。
カーテンと窓を開けると気持の良い風と日差しが射し込む。
「んーっ!!いい天気だなぁ。っと、早く朝飯を食べないと今日の予定がこなせなくなるな」
少し慌てて部屋を出て階段を降りる。
洗面所に行く途中、ふっとリビングとキッチンに目が行く。
そう言えば最後に家族の誰かと食事をしたのはいつだったろうか?
もう、覚えていない。そんなに前のことだったはずはないのに..........
「っと、いけね。感傷にひたってる場合じゃなかった」
手早く洗面所で顔を洗い、寝癖のついた髪をとく。
それから家中の窓やドアを開けて、家のなかに風を通す。
「今日の朝は何にしようかな.......」
買いだめたインスタント食品を物色しながら考える。
独り暮らしが長いおかげで、同世代の男子のなかでは家事能力は高い方ではあるが、いちいち作るのはやはり面倒くさいのである。
「カップラーメンでいいや。お湯沸かしてる間に布団とか干そっと」
やかんを火にかけ、自分の部屋にいきベランダに布団を干す。
「今日はいい天気だから、布団も洗濯物も気持良く乾きそうだな」
少し強い日差しに眼を細めた後、太助は洗濯物も干した。
ちなみに太助は、洗濯物は毎日だと不経済なので、ある程度ためてから洗濯するのだ。
洗濯物を干し終え中に入ると、丁度お湯が沸いていた。
お湯を注ぎ3分待つ間、冷蔵庫の残り物を電子レンジで暖めたり、お茶を出したりと
食事の準備を進める。
3分たち、カップラーメンのふたをあけて太助は元気良く
「いただきまーす!」
と言って食べ始める。その声に答える者はもちろんなく、むなしく部屋に響くだけであった。しかし、それでもそうせずにはいられないのだ。一人で食べると味気ない食事が更に味気なくなるから。
「テレビでもつけるか」
しばらく黙々と食べていたが音のなさ、沈黙に耐えかねてTVをつける。
<本日は非常に天気が良く、休日を利用した家族連れが..........>
プチッ!
即座にTVを消す太助。
「家族、か............」
もう慣れた。自分ではそう思っていたのにどうしてこんなに寂しくなるのだろう?寂しさに慣れるなんて事はやはり出来ないのだろうか?
「全く、みんな自分勝手だよな。俺一人ほっぽり出して自分達はあちこち旅行なんて」
今まで何度となくこぼしてきた愚痴。
「もう、いいや............」
食べ掛けのカップラーメンを流しの三角コーナー(網を張ってある)に長し、片付け始める。食欲がなくなってしまったのだ。
一人でとる食事はこれが初めてな訳ではない。もう何年とそうし続けているのに、まだ時々こうなってしまう。
「あ、いけね。新聞いれるの忘れてた」
慌てて玄関にいき新聞を郵便受けけから取り出す。
「あら、太助くんじゃないの。おはよう」
「あ、お隣の......おはようございます」
隣の家のおばさんである。一人暮しの太助に時折料理の差入をしてくれたりするので太助はこの人に少し頭が上がらない。
「太助くん、今起きたの?駄目よ、休みだからって遅くまで寝てちゃ」
「え?何で分かったんですか?」
「だってパジャマのままだし、新聞を今頃いれてるんだもの。誰でも想像つくわよ」
「えっ!?」
自分の今の格好を見ると、確かにパジャマのままだった。昨夜遅くに寝たせいか、起きたとき少し寝惚けて着替忘れていたのである。
「いっけね。あ、すいません。僕着替えないといけないんでこれで失礼しますね」
「はいはい。いつも一人で大変だろうけど、頑張ってね。何かあったら遠慮なくおばちゃんに言うのよ」
「はい、ありがとうございます。それじゃ、失礼します」
そう言って太助は急いで家に帰り、部屋で着替える。
「まったく、みっともないとこ見られちゃったな........」
着替を終え、時計を見ると11時ちょっと前だった。
「えっと、今日は家の掃除して、買い物にもいかないといけないけど........昼からでいいか」
そのまま布団のないベッドに転がる。
寝るつもりはないが、何となく他の事をする気がおきないのだ。
「父さん、母さん、姉貴......今頃どうしてるのかな?どーせ元気にあっちこっち飛び回ってるんだろうけど」
まだ自分が幼かったころ、父が旅でいないときは寂しかったし、今頃どうしてるんだろう、怪我や病気をしていないだろうかと心を痛めていた。その頃はまだ姉が比較的頻繁に帰ってきてくれてたが、いつの頃からか帰ってくる回数がめっきり減ってしまった。
帰ってくる度に、寂しかっただろー?とか言われ、子供の意地でそんなことないと強がっていた。本当はとても寂しくて、帰ってきてくれた事がとても嬉しかったのに。
「子供だったなぁって、まだ子供か、俺は」
最後に姉をみたのは多分一年前。2、3日でまた旅行に行ったが。
「どうして俺の事一人にするんだよ........信頼してくれてるのかな?」
しかし、自分が物心がつき、自分のことが大体出来るようになり手がかからなくなったぐらいから父は旅に出た気がする。
「そんなちっちゃい頃から信頼してくれるわけないし、自分勝手なだけか。親父も姉貴も............母さんも。俺の事なんてどうでもいいのかな」
自分が物心つく頃にはもういなかった母。自分の事を捨てていった訳ではないのだろうがそれでも心の中に暗いものが満ちる。
「みんな.......どうして俺を一人にするんだよ。寂しいのに、独りは嫌なのに.....」
少し声に涙がまじる。中学二年、もう親に甘えるような年ではないが、親に甘える事そのものがほとんど出来なかったのだ。
目覚めても誰とも挨拶をかわせず、一人で食事をとり、一人で眠る。寂しかった、一人は嫌だった。孤独に耐えきれず、泣いた夜もあった。誰かに側にいて欲しい、ずっとそう願っていた。かなわぬ事と分かっていても。
しばらく腕に顔を埋め、嗚咽を噛み殺す。今までに幾度となくそうしてきたように。そして太助はそのまま眠ってしまう。まどろみの中に寂しさをとかし、消し去るように。
2
買い物
「さって、と。いつまでもこうして落ち込んでてもしょうがないし、行動開始と行くか!!」
眼が覚めて、さっきまでの落ち込みを消し、自分に活をいれるように少し大きな声を出して立つ。目が、少し赤い。
時計を見るともう1時だった。
「いっけね、随分寝ちまったな。取りあえず掃除して、それから買い物だな」
1階に行き、物置から掃除機とハタキを出す。
ハタキをかけほこりを落し、掃除機をかけて吸い込む。一人でやると時間がかかってしょうがないのだが、使われていない部屋も一応掃除する。
「ほこり溜めた状態の所に帰ってきたら、文句言われるかも知れないからな」
ぶつぶつと文句を言う。
本心はきちんと掃除をしておけば、誰かが早く帰って来るのではないか?という想いなのに。そして広い家を時間をかけて綺麗に掃除する。
「ふーーーーーーーーっ、疲れたぁ。ちょっと休憩」
台所に行き、冷蔵庫から冷たい缶ウーロン茶を出してあけつつソファに座る。
少し親父臭い仕草である。
「あと買い物いかないとなぁ。あ、今日の晩飯はコンビニで何か買うか。洗濯物と布団はどうしようかな?少し早いけど取り込んでおくか」
布団と洗濯物を家のなかに取り込んだ後、いるものをメモした紙と財布をもって太助はスーパーに買い物に行く。
スーパーは休日のせいか客が多かった。太助は本当はスーパーが余り好きではない。人
混みが嫌なのもあるが、本当に嫌なのは..............
「ママー!あれ買ってー!!」
「えー、なぁに?お菓子?駄目よ、虫歯になるから」
「えーっ!?買って買って買ってぇ!!」
子供がじたばたし、母親が困った顔をする。
「もう、しょうがないわね。一つだけよ」
「わーい!ありがとう!ママ大好き!」
「もう、調子いいんだから」
お菓子を買ってもらえ、喜んで母親に抱き付く子供、少し困ったように、それでもどこか嬉しそうに優しく穏やかに微笑む母親。どこにでも見られるような、日常。
「良かったな、優しいお母さんにお菓子買ってもらえて」
その光景を見るとはなしに見ていた太助はぼそっと誰にも聞こえない声で呟く。
母子の微笑ましい光景。それが彼にはとっては眩しく、そして寂しく感じられる。
自分があのように母に甘えた事がないから、甘えたくても母がいなかったから。
「だから、こういうとこに来るのは嫌なんだよ............」
太助は早く店を出たくて買い物を急いで済ませようとする。
しかし、泣きっ面に蜂。売り切れだった。
「特売日はもっと早くこないと、欲しいのがすぐになくなるんだよな。迂濶だった」
主夫してる太助。苦労しているだけの事はある。仕方ないのでコンビニに晩飯を買いに行くだけで帰ることにした。コンビニはそんなに嫌いじゃない。ここなら、余り親子連れをみかけないから。コンビニを出るともう夕暮れどきだった。
「思ったより掃除に時間かかったし、寝ちゃったからなぁ.........」
本当はもう少し早く用事を終わらせてゆっくりするつもりだったのに。
「寝た俺が悪いんだし、仕方ないか」
コンビニを出、帰路につく。
エピローグ
夕日を背に受け、道を歩いていた太助はやっと家に着く。
「あれ?小包来てる」
郵便受けに小包がある。誰からだろうと思いつつ小包をとる太助の前を、親子が仲良さそうに通りすぎる。
「...................」
公園か何処かからの帰りだろうか?自分もあんな風に歩いてみたかったと思う太助。
何故だろう?今日はこんなに寂しさを感じるなんて。
ふと小包を見る。
「父さんからだ............」
そして運命の歯車は回り始める...............
| TopPage |