遠い日のキリュウ

「主殿、試練だ」
「ひっ・・・・・」
ここは今よりずっと昔の中国、キリュウは当時の主に今から試練を与えるとこだった。
「万象大乱」
「わぁぁぁぁぁ!!」
どかぁぁぁぁん!
そこら辺の物を片っ端から巨大化させ、そのせいで屋敷の一部が壊れてしまった。
「まだまだこれからだ。万象・・・・」
「や、やめてくれ!これ以上やったら死ぬ!!」
「生半可な試練では成長できん」
「だ、だからって・・・・」
その時たくさんの兵士達が屋敷の中に飛び込んできた。
「将軍様の危機だ!我々の手で将軍様を救えー!!」
どうやらこの主の部下であるらしい。兵士達はキリュウへと襲いかかる!が、
「森の木よ。我に力を」
キリュウがそう唱えると床を突き破って大きな木が生え、キリュウと兵士達を隔てる壁のようになった。
「こ、これはっ・・・・」
立ちふさがる木で先へと進めなくなった兵士達は狼狽している。
「さぁ、主殿。試練の続きを・・・・」
「もうやめて下さい!!」
今度は一人の女性がかばうようにたちはだかった。主の奥さんである。
「これ以上この人を苦しめないで!!」
「苦しめている訳ではない。これは試練だ。主殿が成長するためのな・・・・」
「嘘よ!!私はそんなの信じないわ!!」
女性は涙声になっていた。それを見た主が口を開いた。
「いい加減にしろ。私だけじゃなく部下達や妻までまきこんで。
これ以上こんな事を続けるつもりなら、もうお前をここに置いておくわけにはいかない。
・・・・・・はっきり言って迷惑なんだ、お前は。」
主の言葉にキリュウはただ一言、
「・・・・そうか」
と言った。
「わかった。出ていこう。もう会うこともないだろう・・・・」
そう言ってキリュウは大木を引っ込めて、屋敷の出口へと向かった。
周りにはたくさんの兵士達。さっきの会話を聞いていたので襲いかかることはなかったが、
「やれやれ。やっと出ていってくれるのか」
「まったくずいぶんと好き放題やってくれたよなぁ」
「これでやっと平和になるな」
兵士達の陰口が聞こえてくる。キリュウはただ黙っているだけだった。

ここは城下の町。人々が行き交う中キリュウは一人歩いていた。
「・・・・寒いな・・・・」
それは肉体的にもそうだが、精神的にもとても寒かったのかもしれない。
と、そこへ、
「あら、キリュウさんじゃないですか」
突然の後ろからの声に驚き、そっちの方を振り返った。
「シャオ殿?なぜここに・・・」
「私はご主人様のお使いでここに・・・キリュウさんこそどうしてここに・・・」

「そうだったんですか・・・・ご主人様に追い出されて・・・・」
「いつものことだ・・・・」
シャオとキリュウは町外れの広場で二人っきりで話していた。
「これからどうするんですか・・・」
「しばらくしたら短天扇に戻るつもりだ・・・それでまた主との出会いを待つことになる・・・」
そう答えたキリュウの声はどこか寂しげであった。
「大丈夫ですか?なんだか元気がなさそうですが・・・・」
「ふと考えたんだ・・・・これからのことを・・・・私はどうなるんだろうって・・・・
私の役目は主に試練を与えることだ・・・・でも・・・誰も試練なんか受けてくれない・・・・
いつも嫌われては・・・数日で帰ることになる・・・・今回だって3日ともたなかった・・・・・
ずっとこうなんじゃないかって・・・・一人のままで・・・孤独なままでいるんじゃないかって・・・・・
そう考えると・・・・怖いんだ・・・・・・・」
いつの間にかキリュウは泣いていた。そして、とても悲しそうだった。
「キリュウさん・・・・大丈夫ですよ。いつかきっとキリュウさんを必要としてくれる方が現れますよ」
「・・・・ぐすっ、本当か?」
「ええ、だってキリュウさんは優しい方ですもの。わかってくれる人がいつか現れます。
私はそう信じてます」
「・・・ぐすっ、そうか・・・・」
まだちょっと泣きやまないキリュウはそう答えた。

「じゃあ・・・・私は短天扇に戻るとするよ・・・・今日はありがとう、シャオ殿」
「キリュウさん、また会えるといいですね・・・・」
「・・・ああ・・・それじゃ・・・」
キリュウはシャオの目の前で短天扇の中へと消えていった。残されたのは一枚の扇だけ・・・・
シャオは短天扇を手に取ってつぶやいた。
「キリュウさん・・・今度会う時は・・・・幸せな笑顔を見せて下さい・・・・」

「うーん・・・・」
キリュウは自室のベッドで目覚めた。いつにも増して寝起きが悪い。
「ふぅ・・・夢か・・・・あんな昔の夢を見るなんて・・・・」
その時部屋のドアがコンコンと鳴り、中に誰かが入ってきた。
「遅いから起こしにきたけど・・・なんだ。起きてるじゃないか」
「主殿・・・・」
それはキリュウの今の主、七梨太助であった。
「早く降りてきなよ、シャオが朝ご飯作って待ってるぞ」
「ああ、今行く」
キリュウはまだ眠そうな目をしたまま、台所へと降りていった。
「あっ、キリュウさん。おはようございます」
台所ではシャオが朝ご飯の用意をしながらあいさつしてくれた。

「いっただっきまーす!」
今日も一日が始まった。昨日と変わらない一日。とても平和な一日。
しかし今日のこの光景はキリュウにとってとてもかけがえのないものに見えた。
(みんな本当に幸せそうだな・・・その中に私が入っているのが夢みたいだ・・・・)
ふいに涙がこぼれそうになり、キリュウはこらえた。
「シャオ殿・・・・」
「はい?」
「いや、なんでもない・・・」

あの時は・・・・孤独に対する不安で胸がつぶれそうだった。
しかしこの時代に来て初めて私は私を必要としてくれる人に出会った。
こんな私でも・・・人の役に立てる事があるのだな・・・・・
ありがとう、シャオ殿・・・・ありがとう、主殿・・・・・
「どうした、キリュウ」
「いや、別に・・・・主殿。食べ終わったら早速試練だぞ」
「え・・・・・」

シャオ談 
キリュウさん、この時代で笑顔を見せることが多くなりましたわ。
本当に良かったですね。


あとがき
今回は短編です。これは予想外に早くできました。キリュウの性格がでてればよろしいのですが。
ともあれ今のキリュウは幸せそうですね。あなたには「この人に出会えてよかった」って人いますか?
シャオ達精霊と違って私達の人生は限られています。その中でそういう人に出会えたら、
きっと幸せでしょうね。


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