屋根の上の物語

ルーアンとキリュウ

もぐもぐもぐ..............とある蒸し暑い夏の夜、寝付けないルーアンはお茶と饅頭をもって屋根の上で涼んでいた。
「やっぱり、外は風がある分だけ涼しいわね。星も綺麗だし、月も満月で明るくて綺麗だし..........ってあら?」
自分の言葉に妙なものを感じるルーアン。
「あー!!月といえばシャオリン!あの子は月の精霊なんだから、月なんか誉めるんじゃなかったわ」
少しむっとしてルーアンは屋根をかかとでどんどんと蹴る。
「ルーアン殿、人の部屋の屋根の上で騒がないでくれぬか?近所迷惑にもなろうし」
下からキリュウの声が聞こえてくる。
ルーアンが屋根の淵から下を見るとキリュウが窓から顔を出してこちらを見上げていた
「そういうあんただって、夜遅くまでトンテンカンテン何かつくってうるさくしてるじゃないのよ。安眠妨害よ、それって」
「む.............それはすまなかった。しかし、ルーアン殿。そのような所で何をしているのだ?」
訝しげに言うキリュウ。
「ちょっと蒸し暑くて寝付けないから涼んでたのよ。どう、あんたも来ない?饅頭とお茶もあるし、何してるかは知らないけど一休みしたら。ところで......いい加減首が痛くならない?」
少し無理のある姿勢だったキリュウは首の辺を揉みつつ、
「そうだな.......作業のせいで部屋が大分暑くなってしまったし、部屋の空気が少し冷めるまで私も涼むとするか」
そう言うとキリュウは短天扇を大きくし、それに乗って屋根上まで上がって来た。
「はい、お茶」
「すまぬな、ルーアンどの」
お茶を受取り、キリュウはルーアンの隣に座る。
「ねぇ、紀柳。お饅頭大きくしてくれない?」
「...........まさか、それが狙いだったのか?ルーアン殿」
「や、やーね。違うわよ。言ってみただけよ」
じーっと少しあきれ気味に見つめられたルーアンは少々あせりながら否定する。
「ならよいが......私の力はそういう事に使うためにあるわけではないのだからな、ルーアン殿」
「分かってるわよ、もう」
それからしばらく二人は無言でお茶と饅頭を食べていた。
もちろん、ルーアンの方が多く食べていたのは言うまでもない。
「ねぇ、紀柳。ちょっと聞きたい事があるんだけど、いいかしら?」
「ルーアン殿が私にか?珍しい事もあるものだな。で、何かな?」
しばらくルーアンはどう話そうか考えていたが意を決したように切り出す。
「主様に<帰れ>って言われるのって、どういう気持ち?」
ルーアンの問いに紀柳は少し驚いた顔をする。
「なかなか唐突な質問だな.........。私はもう慣れてしまったが、それでもやはり寂しいものだ」
ふっと遠くを見るような眼をして紀柳は続ける。
「誰でも試練なんて好んで受けたがりはしないからな。大抵2、3日で短天扇に戻らなくてはならなくなる事が多い。それゆえ私は主殿との間の情で悲しんだり苦しんだりすることはないのだが。しかし、何より辛く感じるのは.........」
ふっと紀柳は言葉を途切らせる。
「辛いのは?」
ルーアンが先をうながす。
「主殿に、いや誰にも私は必要とされてないのではないか、と感じる事だな」
「そっか、なんとなく分かる気がするわね....」
しばらく紀柳はルーアンを見て、そして尋ねる。
「それにしてもいきなりそのような質問をされるとは、どうしたのだ?ルーアン殿。主殿に何か言われたのか?」
「まさか。何も言われてないわよ。でもね、時々想うのよ。あたしはたー様に必要としてもらってるんだろうかって。おかしいわよね、幸せを与える慶幸日天のあたしがこんな事考えるのって。あんたもそう想うでしょ?」
紀柳はなんと答えていいか分からず、困惑した表情を浮かべて黙ってしまう。
「あのね、紀柳。あんたが来る前にこういう事があったのよ」
そういってルーアンはシャオが南極寿星によって支天輪に戻らされた時の話をかいつまんでした。
「なるほど、それで主殿は私の試練を自分から受けると言ったのか.......」
「たー様は、ちょっと悔しいけどシャオリンの事をそれだけ想ってるって事よ。でも、もし私がシャオリンのように黒天筒に戻らなくてはならない事になったとき、たー様は私のために頑張ってくれるかしら?って想ったら、なんだか憂鬱な気分になっちゃてね」
「大丈夫だ、ルーアン殿。主殿はきっとルーアン殿の為に頑張られるよ。主殿はそういうお方だ」
優しい声で答える紀柳にルーアンは少しびっくりした顔をする。
「あんたがそういう風にあたしに言ってくれるなんて、ルーアンちょっとびっくり」
一瞬、きょとんとして少し照れたように頬を朱くする紀柳。
「悩んでも変らない想いなら、悩むだけ損、か」
ぽつりと呟くルーアン。
「どういう意味だ、ルーアンどの?」
紀柳が不思議そうに聞く。
「あたしがたー様に言った言葉よ。たー様が自分はシャオリンの事を好きにならない方がいいんじゃないか、そう想い悩んでた時にあたしが言った言葉よ」
「そうか........なかなか良い言葉だな、ルーアン殿」
「ありがと。そうよね、悩んだってどうしようもないんだし、あたしはあたしらしく、たー様に幸せを授ければいいのよね」
ルーアンは自分に言い聞かせるように言う。
「ルーアン殿、主殿を幸せにしたいのなら主殿の想いを応援されたらどうだ?」
「やーよ。何であたしがシャオリンとたー様の仲を応援しなきゃいけないのよ」
あっかんべーっとするルーアンに紀柳は少し苦笑する。
「いつものルーアン殿に戻られたようだな。主殿は良くないかも知れぬが、良かったなルーアン殿」
「なんか、今一素直に喜べないけど、ありがとね、紀柳」
「いや、私は話を聞いただけで何もしておらぬのだから、礼を言われる事はない」
紀柳の言葉に苦笑するルーアン。
「珍しくあたしがありがとうって言ってるんだから、どういたしましてって言えばいいのよ。とりあえず、話を聞いてもらえてかなりすっきりしたわ。ありがと、紀柳」
「いや、うむ。どういたしまして」
自分の言う通りに言う紀柳に少しくすっとしてルーアンは立ち上がる。
「さて、と。そろそろ私は寝るわね。紀柳、何してるんだか知らないけど、早く寝なさいよ。寝不足は美貌の大敵なんだから」
「うむ、分かった。しかし、美貌が云々は私にはあまり関係ないと思うが」
屋根を降りかけていたルーアンが振り向いて言う。
「あたし程じゃないけど、そこそこ美人なんだから謙遜しなくてもいいわよ。それじゃおやすみなさい、紀柳。あ、それと.........今夜は話聞いてくれて本当にありがとね。今度いつか、何かでお礼させて頂戴ね」
照れたように早口に言ってルーアンはさっさと屋根を降りて自分の部屋に帰って行く。
一人屋根に残った紀柳もまた部屋に戻り、明日の目覚ましの準備の続きを始める。

エピローグ

準備を終え、床に入った紀柳はなかなか寝付けないでいた。
「いつも悩み事などないかのように明るく振る舞われているルーアン殿でも、あんなに悩まれる事があるのだな............」
そして数回寝返りをうち、天井を見上げる。
「私は一度主殿に<帰ってくれ>と言われたが、再び呼んで貰えた。それは主殿の優し
さとシャオ殿を宿命から解き放つ為の力を身につける為だが............」ころんと寝返りをうち、想う。
(もし、私がシャオ殿のような理由で短天扇に戻らなくてはならなくなったとき、主殿は私の為に頑張ってくれるだろうか...........?)


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