屋根の上の物語
2
シャオと太助
ある満月の夜、シャオは時折そうするように屋根の上で月を眺めていた。
ただ、普段と違うとしたら横に太助がいる事だろうか。
「綺麗な月ですね、太助さま」
「ああ。本当に綺麗な月だね、シャオ」
しかし、太助は月ではなく、月の光に淡く照らされて輝くシャオの横顔に見とれていた
(シャオってこんなに綺麗だったんだな......)
出雲であればシャオさんの方がもっと綺麗ですよ、とでも言うところだが太助は思っていても口にだせるほどキザではなかった。
「あのね、太助さま。私、この時代に出てこられてとっても幸せです。今まで気付けなかった事や知らなかった事、色々な事を知る事が出来たから」
「そっか。良かったな、シャオ。俺は、シャオがこの時代に、いや、俺の所に来てくれてとっても幸せだよ。シャオは俺を孤独から救ってくれた。そして、とても大切な家族が出来たから」
穏やかな月の光のせいか、太助はさほど照れを感じずに言う事ができた。
「ありがとうございます、太助さま。私達の事を家族のように思って下さって」
「星神達は家族だけど、シャオは<家族>とはちょっと違うかな?」
太助の言葉に驚いたような顔をするシャオ。
「シャオは....家族よりもっと大切な人だから」
「太助さま.........ありがとうございます。嬉しいです、とっても」
さすがに今の台詞には照れてしまう太助に、シャオはとても嬉しそうに微笑んだ。
しかし、その後でどこか寂しげな、悲しげな表情をする。
「シャオ......?どうしたんだ?」
「私は守護月天、月の精霊です。今までの主様と同じように、いつか太助さまともお別れしなければいけない時が来てしまう、そう想ったら......胸が苦しくって.....」
顔を伏せ、肩を震わせるシャオ。
今までだって大切な主との別れは何度も経験してきた。なのに、シャオは太助との別れを想像しただけで、身を裂かれるよりも辛い想いを感じているのである。
「シャオ.......」
別離の恐怖と不安におびえるシャオの手をそっと太助が握る。
「太助、さま....?」
「大丈夫だよ、シャオ。絶対、俺がシャオが悲しまなくてすむ方法を見つけて見せるって言ったろ?そのためにも俺はキリュウの試練を頑張って受けてるんだから」
そう言って優しく微笑む太助の手をシャオはぎゅっと握り返す。
「私の為に、頑張ってくれてたんですか?」
「え?あ、いや、別に恩着せがましく言うつもりは無かったんだけど......」
太助が慌てて言う。
「太助さま、私のために無茶はしないで下さい。私は守護月天、主様をお守りするのが使命。私のために、太助さまに無理や無茶をさせる訳にはいきませんから」
「でも、俺はシャオの為なら無理でも無茶でも、何だってして見せる。それでシャオが悲しまなくてすむ方法が見つかるなら。あ、でもそれでシャオを悲しませるのは....本末転倒になるかも知れないけど...」
太助の言葉に嬉しさを感じながらも不安をどうしても拭いきれないシャオ。
「私は、太助さまと出会わない方が良かったのでしょうか....?こんなに別れる事に不安を感じてしまうのなら、いっそ出会わない方が良かったのかも。そうすれば太助さまに無理や無茶をさせなくてすんだのだから。私......守護月天じゃなければ良かった」
太助はシャオの言葉に静かに首を横に振る。
「シャオ、それは違うよ。シャオが守護月天だったから、俺達は出会う事が出来たんじゃないか。それに、別の悲しみにおびえていたら何も出来ないよ。いつか来てしまうかも知れない別れにおびえて関わりを断ち切るんじゃなくて、それを越えていく事が大切なんだと想う」
「太助さま.......太助さまは、私と出会った事を後悔してないですか?」
不安そうに瞳を揺らして言うシャオに太助はとても優しい目で答える。
「後悔なんてしてないよ。俺は、ルーアンやキリュウと出会えた事にも後悔してない。
俺にとって大切な家族が出来たんだから。そして、シャオとの出会いもそう。俺にとって本当に大切な人と出会えたんだから、後悔なんてしてない。だから、シャオ。出会わなければ良かったなんて悲しい事言わないでくれよ」
太助の言葉に涙をこぼしそうになるシャオ。しかし、それでもシャオの心の中の不安は消えてはくれなかった。
「ごめんなさい、太助さま。でも、本当に怖いんです。太助さまをいつか失ってしまうんじゃないかって考えたら、胸が張り裂けそうな程苦しくなるんです。いつか太助さまは私に言ってくれましたよね。太助さまにもっと頼ってもいいんだって。翔子さんは、私が変わってもいいって言ってくれました。でも、私は変わるのが怖いんです。太助さまに頼って、太助さまへ迷惑をかけてしまうんじゃないかって事と、太助さまに頼る事で自分でもわからない感情がどんどん大きくなってしまう事が......怖いんです」
シャオの、今にも泣き出してしまいそうなせつなげな表情に太助は胸に痛みを覚えてしまう。
どうして、どうしてお互いが近づこうとするとこうなってしまうのだろう?まるで磁石のS極とS極のように、近づけば近づくほど見えない力が働いて遠くにいってしまう。
自分はシャオともっと近づきたいのに、シャオにもっと近づいて欲しいのに。
そう想うとせつなく、苦しく、それでもシャオの事が愛しいという自分でもどうしようもない気持ちになってしまう。
そして太助は思わず、自分でも信じられないような行動にでていた。
「!?た、太助....さま......」
太助にぎゅっと抱きしめられ、最初はびっくりしたシャオだったが、やがて太助の胸に頬を埋めて少し安らいだ表情で目をつむった。
「シャオ.....怖かったら、俺が側にいる。悲しかったら側で手をつないでる。俺に出来ることはまだあんまりなくて、シャオの不安や怖さを完全には取り除けないとしても、俺はシャオの事を守りたいから。シャオの側にずっといたいから、シャオにずっと側にいて欲しいから。だから、俺はずっとシャオの側にいる。シャオが、本当に大切な人だから......」
自分を包んでくれる温もりと太助の自分を想ってくれる言葉に涙をぽろぽろとこぼしてしまうシャオ。
「太助.....さま。ありがとうございます..........」
「泣かないで、シャオ。俺は......シャオの笑顔が好きだから。笑顔のシャオが一番、輝いて見えるから」
「ごめんなさい、太助さま。私、守護月天なのに太助さまに迷惑をかけてしまってますね。主さまを守るのが私の使命なのに.....」
「迷惑なんて、そんな事ないよ、シャオ。もっともっと迷惑かけてくれてもいいぐらいなんだからさ。シャオが俺に迷惑をかけてるって想うって事は、俺に頼ってくれているって事だろ?だったら、迷惑をかけて貰える方が嬉しいよ。それに、俺だってシャオにたくさん迷惑や心配かけてるんだから、おあいこだよ」
少しおどけていう太助にシャオは少し微笑む。
「ありがとうございます......太助さま。私、そんな風に言ってもらったのって初めてです」
太助の腕の中で、シャオは胸の痛みや不安、そういったものが少しづつ消えていくのを感じていた。
しばらくして、そっと太助の腕の中からシャオは出て、太助に寄り添うようにもたれる
「シャオ.........」
太助は自然にシャオの肩に腕を回して優しく引き寄せる。
「太助さま......あたたかいです....」
「シャオも、あったかいよ........」
二人はお互いの温もりは感じながら、太助はシャオが、シャオは太助が、自分の側にいるのだという事を強く実感していた。
いつか守護月天の運命から解き放ってみせると誓ってはいても、それが本当にできるのかという不安。
いつか大切な人との運命の別れが来てしまうかも知れない事への不安。
その不安に震えながらも二人は心から想った。
<この人となら越えていける。悲しみも不安も、そして運命さえも>
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