ドスン。大きな音が部屋に響き渡った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・?
どうやらベッドから落ちたらしい。
「夢・・・か。」
周りが暗かったので、ふと時計を見ると、外の街頭の光に照らされて薄らとみえる短針は3時を指していた。
「何だ、まだ夜中じゃないか」
そう思い、ベッドに戻ろうとしたときに、蒸し暑かったので寝る前に開けておいたベランダに人影があるのを視界の隅で捕らえた。
「誰だろう?」
そう思った俺は反射的に窓から身を乗り出しベランダを見た。
或日の夜
そこには夜空を見上げるルーアンの姿があった。
「げっ、ルーアン。」
あんな夢を見た後だから、ついうっかりこんな言葉が口から漏れた。
あぁ、これでルーアンに見つかって「いやーん、たー様ったらルーアンがここにいるのに気付いて来てくれたのね」とか言われて抱きつかれるんだろうなぁ、と一人で覚悟を決めていたら、俺の姿を認めたルーアンは以外にも
「あら、たー様。」
とそっけない返事をしただけで、また視線を夜空に戻した。
予想を裏切られた俺は少し拍子抜けしながらもルーアンに話し掛けた。
「一体、こんな時間にどうしたんだルーアン?」
「ん。ちょっと、ね。」
ルーアンは夜空を見上げながらそう応え、俺も次の言葉が見付からなかったので、そこであっさりと会話は途切れ、沈黙が訪れた。
・・・・・・・・・
それにしても、いつも陽気なルーアンがこんな様子を見せるとはただ事ではない。
しかし、思い当たる節は・・・、もしかしたら昼間、キリュウが大切に取ってあったルーアンの大福を思いっきり小さくしたから・・・って、んなわけないだろうし、だとしたら職員会議中に寝て、他の先生方に思いっきり怒られたから・・・って言う性格でもないし・・・。
という感じで、あれこれ考えて見ても、それらしい原因は一向の見当たらない。
そうやって物思いに耽っていると、不意にルーアンが話し掛けてきた。
「ねぇ、たー様。あたしって、やっぱり邪魔?」
「えっ?」
そりゃ確かに邪魔だと思うときもあるけれど、なんて思ったけど、そんな科白が言えるはずもなく口篭もっていると、更にルーアンは続けて話しはじめた。
「たー様にも何度か言ったと思うけど、私達精霊はそれぞれ役目があるの。例えば、守護月天は主を不幸から守る役目。万難地天は主に試練を与えて成長を促す役目。そしてあたし、慶幸日天は主様に幸せを与える役目・・・。」
俺はコクリと頷く。
「確かにシャオリンは、たー様を不幸から守っている。キリュウも自分の役目を果している。でも、あたしは?」
潤んだ瞳で俺の目を見つめる。
「あたしは本当にたー様に幸せを与えている?」
「も、もちろんルーアンがいてくれて幸せだよ。」
とっさに言い訳をする俺。
「うそ!! たー様に幸せを与えているのはシャオリンよ。
決してあたしじゃない!!」
図星だった。
確かに、シャオがいてくて俺はとても幸せだ。
いや、逆にシャオが居なければ決して幸せには成れないといってもいい。
でも・・・
「役目の果せない精霊は居る意味が無いわ。
あたし、黒天筒に戻る!」
そう言って、黒天筒を振り回しはじめるルーアンに向かって俺は叫んだ。
「待ってくれルーアン!!」
「止めても無駄よ、たー様。」
「俺の話を聞いてくれ!!」
そう言うと悲しそうな顔を見せて一言、言い放った。
「さよなら、私の主様。」
ルーアンの姿は闇に掻き消え、後には黒天筒だけが残った。
でも、俺は諦めない。
黒天筒を胸に抱き、それに向かって俺は話しはじめる。
「なぁ、ルーアン聞こえているんだろう?
もし聞こえているのなら聞いてくれ。」
ここで一呼吸おいて、決意を込めて次の科白を言う。
「確かに、俺はシャオが好きだ。そして、シャオが居ると幸せというのも当たっている。」
でも・・・
「だけど、それだけじゃ駄目なんだ。
ルーアンは知らないかもしれないけど、シャオが来るまでは俺は一人でこの広い家に住んでいた。誰にも言った事は無いけど、本当はとても寂しかった。
でも、シャオが来てくれて俺は一人でなくなった。」
「そしてルーアンが来てくれてからは家の雰囲気がとっても明るくなって、俺は寂しさから開放された。」
「だから、シャオがいて、キリュウがいて、そしてルーアンがいる。こういう今の生活が俺には、とても幸せなんだ。」
ここまで言っても黒天筒には何も変化がない。
俺は黒天筒を握り締め叫んだ。
「だから、お願いだ。帰ってきてくれ、ルーアン。」