小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!)


≪第二話≫
『楊明の授業』

七梨家の朝が始まった。
シャオが朝食の仕度をし、太助がみんなを起こしてまわる。
那奈はすでに起きていて、太助と廊下で出会った。
「あ、おはよう那奈ねぇ。ルーアンは・・?」
「もう少ししたら来るよ。寝起きは良いから。」
そして那奈は一階へ降りていった。
「そういや、ヨウメイは寝起きは良いのかなあ。
キリュウみたいだとちょっと困るかも・・・。」
そしてキリュウの部屋をノックする太助。すると、ガチャッとドアが開いた。
中から顔を出したのは、少し寝ぼけ気味のヨウメイ。
そして、なぜか真っ黒にになっているキリュウだった。
「お、おはようキリュウ、ヨウメイ・・・。その格好、何があったんだ?」
「おはようございます主様。ふあ〜あ、ねむ・・・。
なんでもないですよ。お気になさらずに・・・。ぐー・・・。」
そしてヨウメイは立ったまま寝にはいってしまった。
「ヨウメイ殿、そんな所で寝るな。主殿、おはよう。
まったく・・・。今日は危うく死ぬところだった・・・。」
そしてキリュウは眠ったままのヨウメイを引っ張って一階へ降りていった。
それを見送りながら首を傾げる太助。
「・・・一体なんなんだ?二人ともどんな起き方をしたんだ?」

真相はこうである。
夜中の落雷によってキリュウはすぐに寝に入った。
ところがヨウメイは枕が変わると眠れないという体質から、
ずっと寝つけずにいた。普段から頭を使いすぎているというせいもあるが。
結局ヨウメイの睡眠時間は四時間にもみたず。それで眠そうだったのである。
キリュウが死ぬところだったというのは落雷のせいではない。
実は、夜中眠れなかったヨウメイは、
「もう・・・、キリュウさんの部屋だから眠れないんだ!」
という自分流の解釈をつけ、独自の目覚ましをしかけたのである。
もちろんしかけたのは自分にではなくキリュウに。
ちなみにその目覚ましとは、
時間になると落石が起こるというとんでもないものである。
いつもの反射神経で目覚めたキリュウは、
危うく被害を免れた、というわけである。

そして、いつも通りの朝食だ。
しかしいつもと違って今日はにぎやか。全部で七人もいるのだから。
「いっただきまーす!」
きちんと感謝の意をこめた挨拶がかわされ、食事が始まる。
相変わらずがつがつと食べるルーアン。
無言のままゆっくりと食べつづける、
太助、シャオ、キリュウ、那奈、翔子。
ヨウメイは・・・寝ている。
「ヨウメイ、ちゃんと起きて食事しろって。」
「・・・んん?ふわあい・・・。むにゃむにゃ・・・。」
太助の呼びかけに一度は反応したものの、再び眠ってしまった。
「ヨウメイさん、ご飯が冷めてしまいますよ。」
「んん・・・。じゃあ後であっためます・・・。ぐう・・・。」
シャオの言葉にも意味不明な言葉で返し、またもや眠りにつく。
「ほっとけよ、本人が寝てるんだったら、かまう必要ないって。」
「そうそう、翔子の言うとおり。どうせ時間が迫れば起きるだろ。」
翔子と那奈はそっけなく言って、ご飯を食べつづけた。
「でもなあ、せっかくシャオが作ってくれたんだし・・・。
おい、ヨウメイ。きちんと目を覚ましてご飯食べろって。
昨日のこだわりはどこへ行ったんだよ。」
「明日は明日の風が吹く・・・です。むにゃむにゃ・・・。」
ダメだこりゃ、と太助が思ったその時、キリュウが一言発した。
「ヨウメイ殿は私より朝に弱いからな。」
その言葉にばちっと目を開け、キリュウの方をきっと睨むヨウメイ。
「なに言ってんですか!もとはといえば、
キリュウさんが大きないびきなんか掻いて寝たりするから、
私が寝不足になったりするんです!!」
もちろんキリュウはいびきなどかいていない。
これは完全にヨウメイの八つ当たりである。
「な、なんだと!?私はいびきなどかいておらぬ!!
ヨウメイ殿こそ私を殺すような目覚ましをしかけて!一体どういうつもりだ!!」
「うるさいです!!とにかく、昨日眠れなかったのはキリュウさんのせいなんです!!」
「なぜ私のせいになるのだ!!
だいたい人に雷を落として眠らせるなど、非常識にもほどがあるぞ!!」
「それは、目覚ましの騒音を聞きたくなかったからです!
なんで目覚ましをしかけるのに、
ズガガッとかいうわけわかんない音を聞かされなきゃならないんですか!?」
「ヨウメイ殿こそ、今朝の目覚ましをしかけるのにどんな騒音を発したのだ!」
「ふーんだ。私はキリュウさんとは違うから騒音なんて出ませんよーだ。」
二人の口論は三十分近く続き、他のみんなは、
キリュウの部屋で何があったかをすべて知ることが出来た。
当然太助の疑問もすべて解かれた訳であるが・・・。
やがて朝食も終わり、みんなで学校へ行く時間に。
翔子はもちろん制服を着ている。女御にきがえさせてもらったのである。
総勢七人が七梨家を出発する。太助は、新たな疲労感に襲われていた・・・。

・・・そして学校に到着。
教室に入ると、ヨウメイはあっという間に注目の的となった。
太助に付いてきたという事もあるが、なにより自己紹介で、
様々な知識を教えてくれると言うことが、皆の目をひいたらしい。
「太助、すごいじゃねーか。とうとう四人も。
しかもありとあらゆる知識を教えてくれるなんて・・・。ちくしょう、羨ましいぜ。」
「あのな、たかし。キリュウはヨウメイの登場事態が試練だって言ってたんだぜ?
あんまりうかれてもいられないよ・・・。」
深刻そうな顔をする太助。それでもたかしは、目を輝かせていた。
「はーい、みなさーん。授業始めますよー。」
ルーアンの声に皆が着席する。ヨウメイは教壇の横に立っていたが。
「それじゃあ今日は、このヨウメイに授業やってもらうから。
というわけでお願いね、ヨウメイ。」
「ええいいですよ。学校の先生なんて何百年ぶりかしら・・・。」
ルーアンが教壇を退き、ヨウメイがそこに立つ。
ごほんと一つせき払いをしたかと思うと、おもむろに統天書をひらいた。
「では授業を始めますね。皆さん、教科書の裏表紙を見てくださーい。」
「???」
ヨウメイの言葉に皆がざわめき始めた。
当然だろう。いきなり裏表紙を見てくださいなんて言うのは聞いた事がない。
「まったく・・・。早速あれを使うつもりか?ヨウメイ殿は・・・。」
「キリュウ、あれってなんだ?」
ため息混じりにつぶやくキリュウに、翔子が尋ねる。
それにキリュウはさらっと一言。
「十を聞いて一から知る、だ」
「はあ?なんじゃそりゃ。それを言うなら一を聞いて十を知る、じゃないのか?」
「まあ、みていれば解る。」
ルーアンはその真相を知っているらしく、横でにこにこしている。
他の皆はわからずといった状態だが・・・。
ざわめく皆をせいし、ヨウメイは再び、裏表紙を見るように言った。
疑問を感じつつも従う生徒達。
「はーい、そのまま見つめていてくださいよー。
おおいなる空の知よ・・・。天を統治する知となれ・・・。
万知創生!!」
その言葉に統天書がぱしっと光ったかと思うと、パタン、と閉じた。
「はーい、授業終わりまーす。お疲れ様でしたー。」
そして教壇を退くヨウメイ。翔子は疑問符いっぱいの顔でそれを見ていたのだが・・・。
「すげえ・・・。俺、この教科書の全部がわかったよ!!」
「私も!!へえ、これってこういう意味だったんだ・・・。」
あちこちから生徒達の感嘆の声が聞こえてきた。
その中にもちろん、太助達の声も混じっている。
「キリュウ、ひょっとして・・・。」
「ああそうだ。その本の内容すべてを頭の中に吸収させる術だ。
しかも一瞬で、なんの苦労もせずにな。」

そして早くも休み時間。
皆は早速さっきの授業(授業と呼べるかどうかはわからないが)
についてあちこちで喋り出した。
「すごいじゃないか太助。この調子じゃ、エリートになるのも夢じゃないぜ。」
「ああそうだよな。ヨウメイってすごい事ができるんだな。」
「いえいえ、これぐらいは出来ませんと。時間の短縮にもなりますしね。」
「ほんと助かるわあ。ヨウメイ、次もお願いね。」
太助の席に集まり、わいわい言う中で、乎一郎がぽつりと言った。
「僕は、ルーアン先生の授業が聞きたいな・・・。」
「気が向いたらね。ヨウメイがやってくれた方が断然楽で良いでしょ。」
「あの、ヨウメイさん。」
シャオが申し訳なさそうにヨウメイを呼ぶ。
「私にはさっぱりわからなかったんですけど・・・。」
「ああすいません、シャオリンさん。この術は精霊には利かないんです。」
「そうなのよねえ、そこが不便。
まあ、分からない事はなんでも訊けばすぐ教えてくれるから、
あんまり気にしなくて良いわよ。」
「そうですね、よろしくお願いします。」
「はい、任せてください!野村さんも遠藤さんも、
なんでも訊いてくださいよ。」
「おお。さんきゅう、ヨウメイちゃん。」
「うん、よろしく頼むね、ヨウメイちゃん。」
教室のすみっこでそれを見つめる翔子とキリュウ。
ちなみに翔子は、裏表紙をその時に見ていなかったので、何も解らずじまい。
しかし、へえと思いつつも残念がってはいなかった。
「たしかにすごいな。けど・・・キリュウが試練だとか言ってた理由が、
なんとなくわかった気がするよ・・・。」
「翔子殿は感づいたようだな。さすがだ。もしもの時は協力をよろしく頼むぞ。」
「ああ、任せとけって。・・・あれ?那奈ねぇはどこいったんだ?」

那奈はもともと授業には出ていなかった。
校内をふらふらとうろつき、購買部にいたのである。
「・・・なるほど。すべての知識、ですか。」
「ああそうだよ。一応あんたには話しといてやろうと思ってね。」
那奈が出雲にヨウメイのことを話したのは作戦があるからであり、
出雲もまた、ヨウメイの存在により、一つの作戦を立てようとしていた。
短い授業、長い休み時間が重ねられ、昼休みになろうとしていた・・・。

そして昼休み。
太助達は、シャオが作ったお弁当を、楽しく会話を弾ませながら食べていた。
「うーん、おいしい。シャオはやっぱり料理が上手だなあ。」
「ありがとうございます、太助様。たくさん食べてくださいね。」
もちろん周りにはたかしや乎一郎もいる。
その二人も、シャオの弁当をおすそ分けしてもらっていた。
「・・・珍しいわね、ヨウメイ。お昼は、きちんと食べろとか言わないの?」
ルーアンの問いに、ヨウメイは箸を置いて答えた。
「朝は静かに、お昼はにぎやかに、そして夜は厳かに。
これが私の基本モットーなんです。まあ例外もありますけど。」
そして再び食べ始めるヨウメイ。その様子を見て翔子が言った。
「にぎやかってわりには自分は静かなんだな。どうして?」
「例外もあるって言ったでしょう。そういう事です。」
ヨウメイの言葉に、キリュウがボソッと一言。
「要は屁理屈なのだろう・・・」
もちろんそれはヨウメイの耳にしっかり届いた。
ヨウメイが食器を置いてがたっと立ちあがる。
「なんですって!?どうせさっきの私の授業に文句があるんでしょう!?
無知な人はこれだから困るんですよ!!あれはあれで良いんです!!」
さりげなく悪口を言うヨウメイ。それにキリュウも怒る。
「誰が無知だ!!自分こそ試練に文句をつけるのはやめてもらおうか!!」
「そんな大昔のことをほじくり返すってところが無知だって言ってるんです!!
だいたい授業もろくに出来ないくせに、いちゃもんをつけるのはやめてください!!」
「私は教師ではない!!それに・・・」
「うるさーい!!二人とも喧嘩するんなら外行ってやれー!!」
翔子の鶴の一声で、二人の喧嘩はぴたりとやんだ。
そして不機嫌そうに椅子に座り、黙々と弁当を食べ始める。
「・・・まったく仲悪いなあ。もうちょっと仲良くしろよ。」
太助のあきれた声にも、二人は黙ったままだ。
結局、にぎやかな食事というものがそこで途切れてしまい、
静かな食事で終わってしまった。

みんながわいわい騒ぐ中、ヨウメイとキリュウは黙ったまま。
距離は離れているものの、お互いを警戒しているようである。
太助達は、やれやれといった感じで二人を見守っていた。
そして本当の昼休みが始まった。
じつは、ヨウメイの授業によって、太助のクラスだけは昼休みが早く始まっていたのだ。
そして・・・、
「しちーり先輩。一緒にお昼御飯食べましょう!」
愛原花織が教室にやってきた。
「愛原・・・。悪い、もうお昼は・・・」
「シャオさん!特注のサンドイッチを持ってきました。
どうぞ召し上がってください!」
「おーい太助、昼飯くらいは一緒に食おうな。」
更に宮内出雲、そして那奈が教室にやってきた。
その時はいって来た三人は気付く。
ヨウメイとキリュウの様子がおかしい事に・・・。
キリュウはまさに怒りの絶頂といった心境だった。
(とはいうものの、常に落ちついた表情だったが)
そしてヨウメイは、統天書を開いて少し見ていたかと思うと、
それを閉じて無言のまますっくと立ちあがった。
「おや、あなたが那奈さんが言っていたヨウメイさんですね。私は・・・」
「神主の宮内出雲さんですね。」
出雲が言い終わる前に答えるヨウメイ。
そしてつかつかと三人が立っている場所に近づく。
「宮内さん。主様にかなり嫌がらせをしているみたいですね。
主様とシャオリンさんの仲をさこうなんて・・・。」
「い、いや、そういうことは・・・」
弁解しようとする出雲をきっと睨むヨウメイ。
「言い訳はしなくていいです!私にはちゃんと分かっているんですから!
今後主様を苦しめるような事をすると、この私が許しませんからね!!」
その迫力に圧倒され、何も言えずに立ち尽くす出雲。
「もう一つ言っておきます。
私は、あなたのような軟派氏はだいっ嫌いです!」
那奈は“あーあ”という感じで、頭をぽりぽりかいていた。

ここで出雲と那奈の案を解説しておく。
出雲は、ヨウメイの知識力をうまく使って、自分がシャオの主になれるような作戦を考えていた。
しかし、ヨウメイが主である太助側についてしまった。
那奈は、ロリコン(那奈の視点)である宮内出雲が、
ヨウメイを気に入ったなら、シャオから引き離せるという事を考えていた。
しかし、さっきのヨウメイの態度から、
それは無理だということが判明。
というわけで、二人の作戦は却下となったわけである。

ヨウメイの勢いに押される事無く、花織だけは明るい声で尋ねる。
「あのー、あなたはいったい誰なんですか?
七梨先輩のお知りあいですか?」
依然険しい顔のまま、ヨウメイは花織のほうを見た。
「私は知教空天楊明と言います。七梨太助様は、私の主様です。
愛原花織さん。あなたもあんまり主様に迷惑を掛けないでくださいね。」
「迷惑だなんてそんな・・・。
あたしは七梨先輩に全然そんな事してませんよ。」
「嘘はいけません!私は統天書を読んで知ってるんですから!」
「嘘だなんてひどい・・・。えーん七梨先輩〜。」
そして半泣きになる花織。慌てて太助がヨウメイに言う。
「ヨウメイ。そりゃ愛原はたまに迷惑になったりするけど、
俺の大事な後輩なんだ。あんまりからまないでくれよ。」
「主様・・・。そうですね、すいません。」
「ぐすっ、分かってくれたんですね。よかった。
七梨先輩、ありがとうございます。」

そして落ち着いた所で、昼休みの事の顛末を三人に説明。
そこで花織は立ちあがった。
「だったらヨウメイさん、一緒に学校を見て回りましょう。
仲直りをしたっていう事で。」
「仲直り・・・。私は別に喧嘩してたつもりじゃ・・・。」
「いいじゃないですか。どうせここに居ても、
キリュウさんと喧嘩しちゃうかもしれないんだったら・・・。」
「そうですね。くらーい人よりは明るい人の方がいいし。」
そこでがたっと立ちあがるキリュウ。
当然周りの人達はなだめ役にまわったが。
「じゃあ七梨先輩。ヨウメイさんと遊んできますね。」
「あ、ああ・・・。」
花織はヨウメイの手を引っ張って教室から出ていった。
よく分からないといった表情でそれを見送る太助達。
(ヨウメイさんと仲良しになって、
七梨先輩のハートをゲットする作戦をあみ出すのよー!)
そういう花織の心中を知るものは誰一人としていなかった。

「愛原のやつ、どうしたんだろう・・・。」
「花織ちゃんのことだから、遊びたいんじゃないの?」
「やっぱり色々便利だもんねえ・・・。
それより、ちゃんと午後の授業が始まるまでに戻ってくるのかしら。」
「もし戻ってこなかったらルーアン先生の授業ですよね。
僕としてはそっちの方がいいなあ・・・。」
「あら?出雲さん、那奈さん、もうお帰りですか?」
そそくさと立ち去る二人にシャオが声を掛ける。
二人はチラッと振り返って答えた。
「ええそうですよ。ヨウメイさんに嫌われてしまった以上、
ここに居るのは得策とは言えませんしねえ・・・。」
と出雲。那奈は、
「なんだか疲れたから先に帰るよ。じゃあな。」
とそれだけ言うと教室を出ていった。
しばらくしてキリュウが一言。
「ヨウメイ殿を自ら連れに行ってしまうとは、
花織殿は大丈夫だろうか・・・。」
無事かどうかは太助達には分からないまま、
昼休みが終わって、ルーアンの授業が開始された。

太助達とは場面を変えて、花織とヨウメイ。
二人が今どこにいるかというと、花織の教室。
案内せずとも統天書で全て分かる、とヨウメイが申し出たからだ。
珍しい来客に、花織の友達が駆け寄ってきた。
「花織、どうしたのよ。出かけたと思ったらまたすぐに戻ってきて。」
「熱美、聞いて驚いてよ。この人、七梨先輩に仕える、
なんと四人目の精霊さんなのよ。知教空天の楊明さんですって。」
花織の紹介に、ヨウメイがぺこっとあたまを下げる。
「初めまして、ヨウメイです。
私の役目は様々な知識を教える事。どうぞよろしく。」
「へえー、知識。花織、いい機会だから勉強教えてもらいなよ。
この前赤点すれすれだった数学とか。」
「もう、ゆかりん。そんなもの後でいいでしょ。
ヨウメイさん・・・じゃなかった、楊ちゃん。
これからあたしと熱美ちゃんとゆかりんで、
楽しくおしゃべりしましょ。」
「楊ちゃん・・・。そんな名前で呼ばれたの生まれて初めてですよ。」
花織の言葉にヨウメイは戸惑ったが、
他の二人はそれに合わせる様にヨウメイに言った。
「そうよ、楊ちゃん。これからは丁寧後も無し。
私の事もゆかりんって呼んでね。」
「さっすが花織ね。お友達は多い方が良いし、
楊ちゃん、仲良くしましょ。」
「え、ええ・・・じゃなくて、ええと・・・。」
顔を赤らめながらもじもじするヨウメイ。
その様子があまりにも誰かにダブって見えたので、
花織はこう言った。
「楊ちゃんて、キリュウさんに似てるね。てれやさんなところが。」
そこではっと顔を上げるヨウメイ。
さっきの照れはどこへやら、きつい顔に変えて言った。
「失礼な事言わないで!誰があんな無愛想な人に・・・。
今度言ったら許さないわよ!!」
しかし花織は圧倒されはしなかった。逆に喜びの表情になる。
「何がおかしいの!?」
「良かった。あそこまで言って地で喋ってくれなかったら、
どうしようかなあ、なんて思ったんだけど。決定ね。
私達といい友達になれそうで良かった。」
「え?あ、そうか、そういうこと・・・。」
まんまと花織の作戦に引っかかったヨウメイ。
動揺しつつも、現代はこんなにも昔と違う人が居るんだ・・・。
としみじみ思っていた。
花織としては、とりあえずヨウメイとものすごく仲良くなっておくことで、
太助との仲を取りもってもらおうという考えを抱いていた。
出雲にヨウメイが言った言葉により、それを実行に移したわけである。
「それで楊ちゃん、さっそく花織に数学教えてやってよ。
やっぱり親友として見過ごしておけないもの。」
「うんいいわよ。じゃ花織さん・・・じゃなかった、
花織ちゃん、数学の教科書の裏表紙を見て。
そうだ、ついでにクラスのみんなにも見てもらおうか。」
「さっそくあの能力の実行ってわけね、わかったわ。
ねえみんなー!ちょっとあたしの言う通りにしてー!!」
花織が教室中に響き渡る声で叫ぶ。
こうして花織のクラスでもヨウメイの授業が行われる事となった。
しばらくして後から来た先生は、生徒達の様子にびっくりして、
授業をせずに職員室に帰っていった事を付け加えておく。

そして放課後。太助達のクラスにヨウメイが戻ってきた。
もちろん花織、熱美、ゆかりんという親友を連れて。
「ヨウメイ、なかなか戻ってこないから心配したんだぞ。」
「すみません主様。いろいろとしてたもんですから。」
「いろいろって・・・。なるほど、友達ができたってわけね。」
改めて花織たちの存在に気付いた太助達。
それぞれが自己紹介をした。
「熱美です。よろしく。」
「ゆかりんです、よろしく。」
「そして花織です。・・・って知ってますよね、あははは。」
あっけにとられる太助達。三人の言葉にヨウメイが付け加えた。
「三人とも、もう私の友達です。ああ、うれしいですぅ。
というわけで主様、今日は花織ちゃん達と一緒に帰りますね。」
「七梨先輩、楊ちゃんはあたしの家で泊まりますから。」
「よ、楊ちゃん?」
太助の驚いた声に、熱美が応える。
「ええ、花織が考えた愛称なんです。なかなかいいですよね。」
「は、はあ・・・。楊ちゃんねえ・・・。」
ちなみに、キリュウは必死で笑いをこらえていた。
それに気付いた翔子がキリュウをつつく。
「おい、我慢しろよ。せっかくおとなしくしてるんだから。」
「う、うむ、しかし、楊ちゃんとは・・・。花織殿もなかなかやるな・・・。」
二人のそんな様子も知らず、今度はゆかりんが喋り出す。
「楊ちゃんてすごいんですね。まさかあんなにぱっぱと勉強を教えてくれるなんて。
おかげでテストはばっちりいけそうですよ。」
「そうそう、これでゆかりんの勉強にうるさいのも少しはましになるかなって。ねえ、七梨先輩。」
「そ、そう。よかったな。」
太助は少し戸惑っていた。主以外の人といきなり仲良くなっている精霊ははじめてだから。
今度はシャオがヨウメイに言った。
「それではヨウメイさん、夕食はいらないんですか?」
「ええ、そういうことですね。料理はまた今度教えて差し上げます。」
「じゃあ楊ちゃん、帰りましょ。七梨先輩、また明日。」
「ああ、またな、愛原・・・。」
そしてぞろぞろと四人で教室を出ていこうとする花織達。
しかし、教室の入り口付近でけたたましい笑いが起こった。
「はははは!!もうだめだ、がまんできぬ。楊ちゃんとは・・・あははは!!」
キリュウだ。キリュウ一人の笑い声が教室に響き渡る。
あちゃー、と額を押さえる翔子。
太助、シャオ、ルーアンはぽかんとしてそれを見ていた。
「何がおかしいんですかキリュウさん!あたしが考えた名前にけちを付ける気ですか!!」
「い、いや、そうではない。楊ちゃんとなると、
私は、楊殿か楊ちゃん殿と呼ばなくてはならないのだな、
と思って・・・。あははは。」
みんなはその言葉に唖然としていた。しかしヨウメイは、
「くっだらない。やっぱり頭の中がおかしいのね、キリュウさんて。」
と、はっきりとキリュウに聞こえるように言った。
当然キリュウは笑いを止め、ヨウメイを睨む。
「くだらないだと?そんな私のくだらない事に、
いちいち悪口を言う方こそくだらないのではないのか?」
「なっ・・・。早く帰りましょ、花織ちゃん、熱美ちゃん、ゆかりん。」
「う、うん・・・。」
そして四人は教室を出ていった。
それを見送ったあと、キリュウはボソッと一言。
「ふふ、勝った。」
その言葉にあきれかえる太助達。翔子はすっと立ち上がった。
「あーあ、あほらし。じゃあな。」
「ああ、また明日。」
翔子が出ていくのを見送ったあと、ルーアンが言う。
「さてと、あたし達も帰りましょ。」
そして学校を後にする。

帰り道、ルーアンがキリュウに言った。
「それにしてもキリュウ、あんた性格変わったわねえ・・・。」
「ふん、朱に交われば赤くなるものだ。」
「はいはい、すっかりヨウメイに影響されちゃって、まあ・・・。
そんなことよりシャオリン、今日の夕食はなあに?」
「えっと、今日は・・・。」
三精霊が話をするなか、太助は考え事をしていた。
(愛原のやつ、ヨウメイと仲良くして何をするつもりなんだろう・・・。
うーん、なんだか嫌な予感がするなあ。)
その太助の嫌な予感が的中するのは、もう少し先の話である。

そして家にたどり着いた太助達。
「お帰り。あれ、ヨウメイは?」
先に帰っていた那奈が四人を出迎える。
そして那奈の質問に太助が答えた。
「ヨウメイなら愛原の家で泊まるってさ。
よくわかんないけど、すごく仲良くなったらしいよ。」
「そうなんですよ。楊ちゃんなんて呼んで・・・。よかったですわ。」
再びキリュウは笑いそうになっていた。ルーアンはそれとなしにキリュウを止める。
「はあ、楊ちゃんねえ。まあいいや、シャオ夕食作ってよ。」
「はい、分かりました。」
早速シャオは夕食の準備に取りかかった。
それぞれは部屋に戻り、そしてリビングに下りてくる。
すると、すでに夕食が出来あがっていた。
「ずいぶんと早いなシャオ。一体どうしたんだ?」
「那奈さんがほとんど用意してくれてたんです。
だからすぐ出来ちゃったわけなんです。」
「そういう事。ちぇ、ヨウメイに見せつけて、
すごい事を教えてもらおうと思ったのにさ。」
「なんなんだよ、すごい事って・・・。」
あきれかえりながらも太助は少しほっとした。
そしてヨウメイを連れていった花織に感謝の意をこめる。
夕食・・・。ヨウメイはいないのに、なぜか五人とも静かに、
ヨウメイの言う、厳かに夕食を食べていた。
ルーアンだけはいつもと同じようにがつがつと食べていたが・・・。
「なぜそんなに静かなのだ?せっかくヨウメイ殿がいないのだから、
話でもすればよいと思うのだが・・・。」
珍しくキリュウが話をはじめた。少しごきげんである。
「キリュウ、俺は今そんな心境じゃないよ。
愛原が何考えてるのかと思うとさ・・・。」
「え?太助様、花織さんとヨウメイさんは仲良しになっただけじゃないんですか?」
「だと良いんだけどな。」
暗い雰囲気で話す太助に、那奈が渇を入れた。
「男だったら悩むな!だいたいお前はヨウメイの主なんだろうが。
だったら強気で構えてろって。」
その言葉に、太助の頭の中から不安な要素がスーっとひいていったようだった。
「そうだよな。昼の様子からして、俺を困らせるような事はしないはずだ。
ふう、ちょっと安心したらもっと食べたくなってきたな。シャオ、お代わり。」
「あ、はい。」
お茶碗を差し出す太助を見て、ルーアンが食べる手を止めてその方を見る。
「その意気よ、たー様。あんな小娘の立てる作戦なんて、おそるるに足らずよ。
それに、キリュウがいる限り、ヨウメイもまともに動けるとは思えないしね。」
「・・・どういう意味だ、ルーアン殿?」
「試練をしっかり与えなさいって事よ。」
いまだによく分からなかったキリュウだが、やがて納得し、ご飯を食べ始めた。

そのころ、愛原家では花織の部屋である作戦が立てられていた。
立案者は花織、実行者はヨウメイである。
「うーん、難しいな。花織ちゃん、ちょっとこれは無理があるんじゃない?」
「えー、そうなの?だったら別の方法を・・・。」
もちろん、花織が太助の心をいとめるために立てている作戦とは、
ヨウメイは知る由もない。
花織も、もちろんそれがばれないように作戦を立てているのである。
(ふっふっふ、見てなさいよ。まずは小さい所からこつこつと行くんだから。)
花織のそんな心の声も分からず、ヨウメイは第一の作戦、題して、
『七梨太助のためになる事尽くし!』という、
いかにもヨウメイ好みの作戦の計画を練っていた。
「で、花織ちゃん。この作戦の真の目的はなんなの?」
ヨウメイはなんとなく聞いたつもりだったのだが、花織は少しビクっとなった。
しかしそこは恋する乙女。目的の為にこんな所で詰まるわけにはいかない!
と、平静を装って答える。
「七梨先輩を幸せにする事よ!」
「幸せ・・・。ルーアンさんじゃあ無理なの?」
「無理に決まってるでしょ!楊ちゃんは知らないだろうけど、
普段のルーアン先生を見てると、七梨先輩は絶対幸せなんかじゃない。
だからこうやってあたしがしっかり計画を立ててるんじゃないの。」
「へえ、そうなんだ。よし、主様のためにも、頑張りましょ!」
「そう、その意気よ!!」
そして再び作戦会議に入る二人。夜が更けていくのも忘れるほどに夢中になっていた。

夜もふけた頃、七梨家では活発に動く人物の姿があった。
そう、キリュウである。朝起きる計画、そしてヨウメイ対策を練っているのである。
「ふーむ、目覚ましはこれでよし、と。
さてと、明日ヨウメイ殿をどう対処するか・・・。」
計画を立てるだけなのに、なぜか騒音が鳴り響いている。
それに等々耐えきれなくなった者が、キリュウの部屋へノック無しに入って来た。
「キリュウ!うるさいからさっさと寝なさいよ!」
ルーアンである。昼間はヨウメイのおかげでたっぷり睡眠時間を取っていたので、
(長い休み時間の間におもいっきり眠っていた。)
なかなか寝つけなかったのである。
やっと寝ついたと思ったら、
キリュウのおかげで目がさえてしまった、というわけだ。
「ルーアン殿、私は今大事な事をしているのだ。邪魔はしないでくれ。」
「へーえ、大事な事?ヨウメイを懲らしめる計画かしら?」
怒り半分に言うルーアンに、キリュウは感心したようにうなずいた。
「その通りだ。なんだ、ルーアン殿も解っているな、それでは協力を・・・」
「い・や・よ!!だいたい自分勝手にやってるだけじゃないの、
あんたもヨウメイも。似た者同士だわ!」
「な、なんだと!?」
ルーアンに言わせれば、二人とも太助のためとかいうものではなく、
お互いをどれだけ負かせられるか、
という行動を取っているようにしか思えなかったのだ。
「ルーアン殿、いくらなんでもそれだけは許せぬな。取り消して・・・」
「陽天心召来!!」
キリュウが冷静に迫る前に、ルーアンが行動に出た。
部屋の中にあった物に陽天心をかけたのである。
「ルーアン殿、私はこんな物で・・・うっ!?」
キリュウの後頭部を分厚い本が直撃。そしてキリュウは気絶した。
「やれやれ、やっと眠ったわね。よっこいしょっと。」
キリュウを持ち上げ、ベッドに寝かせるルーアン。
「そう言えば目覚ましはちゃんとしかけたのかしら。
このこったら寝起きが悪いからねえ・・・。
ま、もし遅刻したって、あたしが替わりにたー様を守ってあげるわよ。
安心しておやすみなさいな。」
そして部屋を後にするルーアン。
ルーアンの頭の中には太助を守るなどという大それた考えはなかったが、
花織の行動には気をつけようという事は考えていた。
ようやく静けさが訪れた七梨家。
それは、嵐の前の静けさを表わしている様でもあった。

≪第二話終わり≫


あとがき:どうも、空理空論です。
あんまり第二話とかくぎっても関係無いみたいですけどね。まあ一応。
ヨウメイの口が悪いのは、まあ大目に見てやってください。
誤字も結構あると思いますが、それもご勘弁を・・・。
強引な展開でもありますが、まあ許してやってください。
これから続きを投稿していくかどうかは・・・私の気分次第ですけどね。

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