小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!)


≪第三話≫
『ルーアン危機一髪!!』

七梨家のいつも通りの朝が始まる。
シャオが一番に起きて朝食のしたく。
太助たちも起き出して、挨拶を交わしてキッチンへ。
朝食、ヨウメイはいないので五人のはずなのだが・・・。
「あれ?キリュウさんはどうしたんですか?」
「キリュウなら寝てる。一応起こそうと思ったんだけどさ・・・。」
太助がわき腹の辺りを痛そうにさすっている。
キリュウに蹴られてしまったのは、暗黙の了解で皆に伝わった。
「太助、朝っぱらから良い試練になったな。」
「良くないよ。しょうがないなあ、キリュウは寝かせておくか。」
太助の元気のない声に、ルーアンはちょっと昨晩の事を後悔し始めていた。
(まいったわあ、たー様に被害が及ぶなんて。
たー様を守るってのが冗談じゃなくなってきたみたい。やれやれね・・・。)
少し不安になりながらも、ルーアンはがつがつと食べている。
「なんだか不思議ですね。昨日は七人もいたのに今日は四人なんて。」
シャオが唐突にこんな事を言った。太助がそれに応える。
「なんだかほんのわずかな間にいろいろあったって気がするよな。
明日は九人くらいいたりして・・・。」
太助の冗談に皆が笑う。
そして、昨日までとはいかないが、寡黙な食事が終わった。
「じゃあ行ってきまーす。那奈ねぇ、キリュウの事よろしく頼むよ。」
「ああ、自分から起きたらな。」

七梨家を出発する三人。途中、しきりに考え込んでいるルーアンに太助が尋ねた。
「どうしたんだ、ルーアン?何か忘れ物か?」
「いや、ちょっとね。キリュウがちゃんと来るかなって・・・。」
「キリュウさんなら来ますよ。お友達のヨウメイさんと仲直りしなくちゃいけないし。」
「「はあ?」」
シャオの言葉に思わず聞き返す太助とルーアン。
その様子を見て、シャオはぽけっと聞き返した。
「違うんですか?」
「シャオリン・・・。どこをどう見たらそんなふうに思えるのよ。
一致番最初に言ってたでしょ、キリュウとヨウメイは宿敵同士なのよ。」
「でも、私とルーアンさんみたいに仲良く出来るはずですわ。
きっとヨウメイさんは、それを考えるために花織さんの家に泊まりに行ったのかも。」
真剣なシャオの言葉に、ルーアンはまたも『はあ?』というような顔をして言った。
「仲良しぃ?そこまで言われるとどうしようもないわね。
たー様のこともあるし、そういう事にしといてあげるわ。」
二人のやりとりを聞いていた太助は再び話を戻す。
「シャオの言うとおり、ヨウメイがそういう事を考えてくれてるんならいいけどな。
俺はちょっと嫌な予感がするよ・・・。」
昨日の弾き飛ばした不安が再び舞い戻ってきたのだろうか。
深刻そうな太助を見て、ルーアンが力いっぱい言う。
「心配しないで、たー様。あたしがしっかりキリュウの代わりを果たしてあげるから。
シャオリン、あんたもちゃんとたー様を守りなさいよ。」
「は、はいっ!太助様、ルーアンさんもこう言ってくださってるんですから、
元気を出してくださいね。」
笑顔の二人に応えるように、太助は元気を取り戻したように言った。
「ありがとう、シャオ、ルーアン。俺、しっかりするよ。
でもルーアン、キリュウの代わりってなんだ?」
「さあね。なるべくそんな事態に成らない事を願うけど・・・。」
そして三人は学校に到着。いつも通りの足取りで、教室を目指していった。

ルーアンは職員室へ、太助とシャオは教室に向かった。
「おはようシャオ、七梨。」
二人にまず会ったのは翔子だった。
「おはようございます、翔子さん。」
「山野辺、おはよう。珍しいな、俺達より早く来てるなんて。」
太助が感心したように言うと、翔子は少しうつむいていった。
「心配事があってさ、それでできるだけ早く来たんだよ。」
「心配事ってまさか・・・。」
太助が言いかけたその時、
「七梨先輩、おはようございまーす!」
花織が挨拶混じりに教室にやって来た。しかし一人である。
「お、おはよう愛原。・・・ヨウメイは?」
「楊ちゃんは・・・秘密です!」
秘密ということばに首を傾げる三人。
しばらくそのままでいると、たかしと乎一郎がやって来た。
「おはよう、太助、シャオちゃん。新しい先生が来るって話聞いたか?」
「新しい先生?」
いきなりのたかしの言葉に聞き返す太助。
それに乎一郎は怒りながら答えた。
「そうなんだよ。ルーアン先生が学校での仕事をちゃんとしないから、
新しい先生に担任を替わってもらうんだってさ。冗談じゃないよ。」
「ちょ、ちょっと待て遠藤、それ本当か?」
慌てて聞き返す翔子。乎一郎は更に怒りながらもうなずいた。
「一応替わるのは一日授業をやった後で、その様子を見てからだって言うんだけど、
それでもひどいよ。どうしてルーアン先生を・・・。」
怒って言った後でしゅんとなる乎一郎。
シャオもそれに同調したかのようにしゅんとなる。
「ルーアンさんはしっかり授業をなさっているのに。
ひどいですわね、太助様・・・。」
「シャオ、あれでしっかり授業をしてるってのは無理があるんじゃ・・・。
でもルーアンにもとうとうやばい時が来たか。
もしその新しい先生がルーアンより認められちゃったら・・・。」
そして太助の言葉に、深刻そうに翔子が言う。
「担任が替わるって事だよな。でもルーアン先生は他のクラスではやっていけないかも。」
「となるとルーアン先生が、クビ!?そんな事にはならないよね、たかし君?」
いきなり乎一郎にふられるたかし。戸惑いながらもなだめるように答える。
「俺にふるなって。心配しなくたって、俺達のクラスはルーアン先生しか担任できないさ。」
「そ、そうだよね。ルーアン先生なら大丈夫だよね。」
たかしの言葉にホッとする乎一郎。そして、シャオ、翔子、太助。
「たかしさんの言う通りですわ。ルーアンさんは頑張ってらっしゃるもの。」
「そうそう。なんだかんだいっていろいろ授業してるしな。」
「確かにルーアン以外に俺達のクラスは担当できないよなあ。」
しかし花織はふっとため息をついて言った。
「もう一人いますよ、先輩のクラスを担任出来る人が。」
「「「「「えっ!?」」」」」
驚いて振り向く五人。それと同時に、前のドアがガラっと開き、
ルーアンが、そしてヨウメイが入ってきた!
「あっ、授業が始まるみたいですね。それじゃあ、あたしはこれで失礼します。」
そしてそそくさと出ていく花織。
「あ、新しい先生って、・・・ヨウメイ!?」
五人はただただ唖然としてルーアンとヨウメイを見つめていた。

ざわめきの中、生徒達は席についた。
ルーアンが教壇に立ち、ヨウメイがその横で待機。
「えー、みなさんに悲しいお知らせが・・・」
その時、教室の後ろの扉が開いたかと思うと、何人かの先生が入ってきた。
その中に校長、教頭の姿も混ざっている。
全員が入ったかと思うと、教頭が扉を閉めて言った。
「ルーアン先生、区切ってしまってすみませんでしたな。では続けてください。」
その声におほんとせき払いするルーアン。そして再び口を開いた。
「悲しいお知らせというのは、私に代わって、
このヨウメイ先生が担任になるかもという事です。
それじゃ、ヨウメイ先生、どうぞ。」
そしてルーアンとヨウメイが場所を交代する。
にこやかに笑ったかと思うと、ヨウメイが喋りだした。
「えー、昨日みなさんに授業しました、ヨウメイです。
一応、今日一日ルーアン先生と交代交代で授業をし、
このクラスにどっちが適しているかを、後ろの先生方に見てもらうわけです。
もしルーアン先生が適しているとなったら、今まで通りのままで、
私は他のクラスを教える事になるでしょうね。
でも、私のほうが適しているとなったら、
ルーアン先生には、事務の仕事でもやってもらうようになると思います。」
しかし、そこで教頭がつけくわえてきた。
「ヨウメイ先生、そうじゃありません。
事務ではなく、別の学校へ移ってもらうという事です。」
「ああ、そうでしたね。でも、他の学校でルーアン先生を使ってくれるでしょうか?」
「よ、ヨウメイ!!」
さらりと言うヨウメイに対して、怒りで震えるルーアン。
しかしヨウメイは、そんなルーアンをものともせずに続けた。
「はい、それでは授業をはじめる前に、皆さんの質問を受け付けます。
疑問に思ったことなど、なんでも訊いてください。」
そして皆を見まわすヨウメイ。まず手を挙げたのは乎一郎だった。
「はい遠藤さん、なんですか?」
ヨウメイはにこにこ顔だが、乎一郎は厳しい顔のまま、がたっと立ち上がった。
「どうしていきなりそんな事になったんですか!?
僕はルーアン先生が良いです!!」
するとヨウメイは急にきりっとした顔になり、乎一郎に諭す様に話し始めた。
「私が授業をした方が、学校としても良いし、クラスの皆さんのためにもなるからですよ。
昨日授業をして、それが良くわかったと思いますが?」
しかし負けじと乎一郎は言い返す。
「そんなの、一日の授業で分かる訳がないじゃないか!横暴だよ!」
ついつい言葉に熱が入る。ヨウメイは動じなかったが。
「では訊きますが、ルーアン先生の授業で、ためになったものはありましたか?」
「そ、それは・・・。」
ここでぐっとなる乎一郎。ほかのみんなも、それには黙るしかなかった。
太助がなんたらかんたらという授業ばかりだったから。
おとなしく席に座る乎一郎。次にシャオが立ち上がった。
「シャオリンさん、手を挙げて質問してください。」
「す、すいません。でもヨウメイさん。
いきなりルーアンさんを押しのけて先生になろうなんて、ひどいんじゃないですか?」
そこでみなのざわめきが起こった。
シャオがこんなに積極的に意見を言う姿を、はじめてみたのだから。
「押しのけるだなんて人聞きの悪い。これはちゃんと合意の上での結果なんですよ。
ね、ルーアンさん。それに、校長先生、教頭先生。」
ヨウメイの言葉にこくりとうなずく三人。
仕方なくシャオは席に座った。次に手を挙げたのは翔子。
「山野辺さんですか。あんまり極端な事はおっしゃらないで下さいね。」
「うるさいな、そんなの人の勝手だろ。
ヨウメイ、あんたが授業をやるといっつもあんな面白味のない授業になるんだろ。
あたしはそんなのごめんだからな。言いたい事はそれだけだ。」
翔子はふんという感じで座った。もちろんヨウメイはそれに屈することなく、
「心配なさらなくても、ルーアンさんよりもっと面白い授業をしたりもしますよ。
まあ、それは今日おこなう授業というわけですが。」
翔子が“ええっ!?”という顔で反応する。
そして、“へえ、それだったらいいかもな。”とかぶつぶつ言い出した。

・・・そんな調子で、ルーアン派の生徒は、
ほとんどと言っていいほどヨウメイ派に変わっていった。
「みなさん、納得していただけましたね。でも後一人。
主様、あなたは質問等ありませんか?」
太助はその呼びかけに反応し、立ち上がってヨウメイに告げた。
「一つ教えてくれ。どうしていきなり先生をやろうなんて思ったんだ?」
ヨウメイの頭の中に一つの言葉がよぎる。もちろんそれを言うわけではなかったが。
「一番最初に理由を言ったと思いますが、個人的理由として、
主様のためです、とだけ言っておきましょうか。
私の役目は主様に知識を教える事。だからですよ。」
「本当にそれだけか?何か他に企みがあるんじゃないだろうな。」
太助の言葉に内心どきりとしたヨウメイだが、平静を装って答えた。
「企み?ひどい事言いますね、主様は。
私がそんなちまちました企みなんか考えるとお思いですか?」
「・・・まあいいや。とにかく授業で決める事だしな。」
そして座る太助。それを最後に、ヨウメイが切り出した。
「それでは授業を始めます。まず私からです。」
ルーアン、そして幾人もの先生が見守る中、ヨウメイの授業が開始された。
「えーと、それでは授業を・・・と言っても昨日ほとんど終わってしまったんですよね。
ああそうか、英語が残ってましたね。ではそれをしましょうか。」
言うなりぱらぱらと統天書をめくるヨウメイ。教科書は手に持っていない。
不思議に思ったたかしが質問した。
「ヨウメイ先生、教科書は使わないんですか?」
「教科書ですか?先生自身を教科書だと思ってください。
というわけで皆さん、机の上は何もない状態で良いですよ。」
いきなりの発言に教室中がざわめく。
統天書のあるページを開いたかと思うと、ヨウメイが手を叩いて言った。
「はいはいみなさん、なるべくなら私語は慎んでください。
英語なんですから、いくらでも喋れますよ。それでは始めます。」
そして本格的に始められるヨウメイの授業。
以前の主の教師でもしていたのだろうか。教え方は見事この上なく、
生徒達は魔法がかかったかのように、一心不乱にヨウメイの授業を聴いていた。
「はい、これでもう終わりにしますね。
それでは休み時間の後、ルーアン先生に授業をしてもらいましょう。」
ヨウメイの終わりを告げる声と同時に、教室中が拍手やら歓声やらでうめ尽くされた。
授業が終わると同時に、生徒達すべては、
先日の授業と同じように知識が備わっていた。
違うのは、シャオや翔子も満足げな表情であったという事。
すなわち、本当にすべての生徒達へ知識を教えたという事である。

休み時間、例のごとく太助の席の周りに人が集まってくる。
「どうでしたか?主様。なかなかのものでしょう。」
「うん、すごいよ。さすがって言うかなんて言うか・・・。」
ヨウメイの声に感服したようにうなずく太助。
さらにシャオや翔子も、
「ヨウメイさんてこんなにすごい方だったんですね。私とっても驚きましたわ。」
「ほんと。初めてだよ、あんなすごい授業受けたの。感激だなあ。」
と、かなりの上機嫌である。その言葉に少し照れるヨウメイ。
「いえいえ、これが私の本職みたいなものですから。
それにしても、なんでこんな日に限ってキリュウさんは居ないんでしょう。
私の華麗なる姿を見せつける良い機会だったのに。」
キリュウの名を口にしたものの、普段のようないやらしさはかけらもなかった。
それほどまでに、ヨウメイ自身も感動しているようである。
そしてたかしが一言。
「これで多分もう決まったようなもんじゃないかな。
ヨウメイ先生に担任が代わるってことでさ。」
そこで急に皆がだんまりになった。“?”といった顔で見回すたかし。その時、
「陽天心召来!」
と声がしたかと思ったら、たかしは椅子に吹っ飛ばされ自分の席に戻っていた。
「さ、授業始めるわよ!私はいつも通りにやるからね!」
「ルーアン先生、頑張ってください!」
ヨウメイの授業が終わった後も沈黙したまま居たのは、ルーアンと乎一郎の二人。
ルーアン派はこの二人といってもよさそうなものだろう。
苦笑いする太助達。ヨウメイは教壇の横で不敵な笑みを浮かべている。
ルーアンは気合満タンの顔で教壇に立った。
「それでは授業を始めるわ!」
ルーアンの大きな声が響き渡り、緊張がはしるなか開始される授業。
「では、教科書を読みます。えー、七梨大帝王は・・・」
そこで皆が一斉にこけた。もちろん後ろに座っていた先生たちも。
太助は、ふうとため息をついたかと思うと、ルーアンをあきれた顔で見つめた。
「ルーアン先生、真面目に授業しないんですか?」
「いつも通りやるっていったでしょ。黙って聞きなさい。」
ルーアンの答えに、やれやれと頭を抱える生徒達。
唯一、乎一郎だけは真剣なまなざしでいたが・・・。

一方その頃、花織のクラスでは、自習時間となっているのをよい事に、
皆が好き勝手におしゃべりしていた。
「ねえ花織、楊ちゃん大丈夫なのかな?無事先生になれると思う?」
「ゆかりん、そんな心配は無用よ。楊ちゃんてほんとすごいのよ。
さっすが、様々な知識を与えるのが役目だってだけのことはあるわ。」
得意そうに胸をはる花織。続いて熱美が尋ねる。
「でもよく考えたわね。ルーアン先生の代わりに担任になろうなんて。
花織、あんたでしょ、考えたの。」
「なんだ、気付いてたの。」
「あったりまえでしょ。来たばかりの楊ちゃんが、
そんな事いきなり言い出すはずがないじゃない。」
それを聞いたゆかりんはびっくりして言う。
「ええっ!?そうだったんだ。・・・でもなんで?」
すると花織は、ゆっくりと言った。
「それはね、七梨先輩ゲット計画のためよ。
お願いだから、この事は楊ちゃんには内緒にしといて。」
そして黙り込む二人。しかし数秒後には、やれやれといった顔でうなずいた。
(頑張れ、楊ちゃん。あなたが先生になるのは、
あたしにとっても楊ちゃんにとってもいい事なんだから。)
花織は心の中でそうつぶやき、話題を変えた。

「・・・というわけで、華麗なる七梨さまは素晴らしい人生を送ったのでした。
はい、みなさん拍手ー!」
ルーアンの声に、笑いながらも拍手する生徒達。
最初はシンとしていたのだが、途中からはいつものテンポに戻ったようである。
授業の終わりと共に、ヨウメイは“へえ”と感心してうなずいていたが、
後ろに座っていた教頭先生が立ち上がって言った。
「先生方を代表して言います。ルーアン先生に替わり、
ヨウメイ先生にこのクラスの担任を任せる事とします。」
その言葉に“えー!?”を声をあげるルーアンと乎一郎。
他の皆は“しょうがないか”というような顔でうなずいていた。
「ちょ、ちょっと待ってよ教頭先生。まだ一回しか授業してないじゃないの!」
「ルーアン先生、確かにあなたの授業は面白いかもしれません。
ですが、もうちょっとためになる事を教えてください。
七梨大帝王が・・・なんて。ふざけるにも程がありますぞ!」
そこでしゅんとなるルーアン。もはやどうしようもないといった顔である。
「では先生方、ありがとうございました。詳しい事はまた放課後にお話願えますか?」
と、ヨウメイ。
「ええ、分かりました。よろしくお願いしますよ。」
と教頭先生。そして次々と先生達が立ち上がり、教室を出ていった。

休み時間、太助の席の前(つまり乎一郎の席)に、
ルーアンががっくりとうなだれて座っていた。
「元気出せよルーアン。別に会えなくなるわけじゃないんだしさ。」
「そんな事言ったって・・・。別の学校に行ったら、
たー様にほとんど会えなくなっちゃうじゃないの。
あたしがこの学校の教師をやっているのは、たー様がいるからなのに・・・。」
そして沈黙が漂う。慰めの言葉も見つからないまま居ると、
扉が開き、三人の女の子が教室に入って来た。
「あ、花織ちゃんに熱美ちゃんにゆかりん。」
「ヤッホー、楊ちゃん。どうだったの?結果は。」
なぜかごきげんの声で尋ねてくる花織に、たかしが答えた。
「ヨウメイちゃんが担任する事に決定したよ。
ルーアン先生は他の学校へ行くんだってさ。」
「そうなの!良かったじゃない、楊ちゃん。」
「う、うん・・・。」
ヨウメイはうなずいたが、何かを真剣に考えているようだった。
そこでルーアンがキッと花織を睨む。
「良くないわよ!あたしは別の所へ行っちゃうのよ!?」
しかし花織は、
「でもお、負けたんじゃしょうがないじゃないですか。
素直に七梨先輩から遠ざかってください。」
と、嫌味気に言った。ルーアンは言い返せずに黙る。
「ひどいよ、花織ちゃん。
ルーアン先生がこんなに落ちこんでいるのにそんな事言うなんて。」
「遠藤先輩、楊ちゃんはあたしの親友なんです。
親友の成功を賞賛して何がいけないんですか?」
そして乎一郎も黙り込んだ。
次にたかしが言う。
「でもさあ、ルーアン先生に慰めの言葉くらいは・・・」
「いいえ、七梨先輩のためにも、そういう事は言うべきじゃないんです!」
そこで太助と翔子ははっとなった。“なるほど、そういう事か”というふうにうなずく。
そして、顔を見合わせたかと思うと、おもむろに口を開いた。
「シャオ、ルーアン、ちょっと出掛けようぜ。どうせ次は自習なんだしさ。」
いきなりの太助の誘いに戸惑う二人。
「え?私は別にかまいませんけど・・・。」
「珍しいわね、たー様がそんな事を言うなんて・・・。
ま、いいわ。屋上にでも行きましょう。」
当然花織は引き止めようとしたのだが、
太助のすごい勢いに圧倒され、それを見送るしか出来なかった。
「さてと、それじゃあヨウメイと、そこのお二人さんはあたしに付き合ってくれ。
購買部にでも行こうか。」
今度は翔子が熱美とゆかりんの手を捕まえて言う。
「山野辺さん・・・?まあいいでしょう。じゃあ花織ちゃん、また後でね。」
「花織、ちょっと待っててね。」
「よくわかんないけど、行ってくるね。」
なすがままに教室を出て行く四人。
今回も、花織はおとなしく見送るしか出来なかった。
「どうしたんだ、一体?ねえ、花織ちゃん。」
「さ、さあ。あたしにも何がなんだかさっぱり・・・。」
たかしにそう答えるものの、花織は内心あせっていた。
(まずいな、ひょっとしてもう作戦がばれちゃったのかな・・・。)

屋上にやって来た太助、シャオ、ルーアン。この三人以外に人影は無い。
太助は安心したように口を開いた。
「ルーアン、ヨウメイが教師になるなんて言い出したのはどうしてか分かるか?」
するとルーアンはさらりとそれに答えた。
「そんなの、授業の前に言ってたでしょ。
あの子は主様にいろいろ教えるのが役目だもの。教師になったって不思議じゃないわ。」
その言葉に、太助は首を横に振った。
「違う。確かにそう考えてもおかしくは無いさ。
でもな、わざわざ教師になんかならなくたって、
普段の俺に教えてくれるだけで、十分やっていけると思わないか?」
それに、シャオがよく分からないといった顔で尋ねる。
「どういう事ですか、太助様?」
「愛原がいろいろ言ってただろ。七梨先輩から遠ざかれ、とか・・・。」
そこで“あー!”というような顔をするルーアン。
「そうか!ヨウメイをたー様のクラスの担任に仕立て上げて、
あたしを引き離そうって魂胆ね!くうー、なんてことなの・・・。」
「そんな、花織さんがそんな事を・・・。それにヨウメイさんも・・・。」
ところが太助は腕組をして言った。
「愛原はいつもルーアンといろいろ競争してるから、
そういう考えをしててもおかしくないと思うけど・・・。
ここで分からないのがヨウメイなんだ。わざわざルーアンを押しのけなくたって、
普通に先生になればいい事なんじゃないかなって・・・。」
「どういう事、たー様?」
「つまり、ヨウメイはよくわからないうちに教師になったんじゃないかなって。
俺に色々な知識を教えるために教師になったって言うんなら、
むりに俺のクラスの担任になる必要なんて無いだろ。」
「太助様ぁ、よく分からないですぅ。」
考え込む太助に、シャオが分かり易い説明を求める。
さらに考え込む太助に、ルーアンが助け舟を出した。
「要は、ヨウメイが教師になろうなんていう今日の出来事は、
あのじょーちゃんがすべて仕組んだ事だって言いたいんでしょ、たー様。」
「そう、そうだよ。・・・つまり、
ヨウメイは、本当はどうして自分が教師になったのかを知らないんだ。
愛原から深い事情を聞いてないんだろうな。
まさかルーアンを追い出すために教師になった、なんて気付いていないと思うぜ。」
「えーと、ということは・・・」
言いかけたシャオをさえぎり、ルーアンが大きな声で言う。
「ヨウメイはあのじょーちゃんに利用されているのよ!
とんでもないわ。シャオリン、懲らしめに行きましょ!」
走り出そうとするルーアンを、太助は慌てて止めた。
「落ちつけって。これはただの推測に過ぎないんだ。
それにそんな事でヨウメイを傷付けたくないし・・・。」
「でも、たー様!」
そんな二人のやり取りを見ていたシャオは、にこりとしてこう言った。
「大丈夫ですわ。翔子さんやキリュウさんがきっと何とかしてくださいます。
とりあえず教室に戻りましょう。」
一体どこからそんな自信が来るのか。悠々と歩き出すシャオに圧倒されながらも、
ルーアンと太助はそれに続き、屋上を後にした。

所変わって購買部。翔子、熱美、ゆかりん、ヨウメイの四人が、
出雲からパンをご馳走になっていた。
「いやー、気がきくねえ。さっすがおにいさん。」
上機嫌にパンを食べる翔子に、出雲は呆けたように言った。
「いきなりおしかけて“パンを四つ無料でくれ”なんて言ったのは翔子さん、
あなたじゃないですか。まだ昼休みにもなってないのに・・・。」
「翔子さんて良い場所知ってるんですね。無料でパンがもらえるなんて・・・。」
感心するヨウメイに、熱美とゆかりんが言った。
「楊ちゃん、宮内出雲さんは女性には無料で品物を配ってくれる事で有名なのよ。」
「そうそう、あたし達今まで結構ごちそうになったんだ。」
「へえ、そうなんだ。さすがナンパ師ですね、宮内さん。」
ヨウメイの一言にずるっとこけそうになった出雲だったが、それをこらえて翔子に言った。
「で、わざわざここに来たのはどうしてなんですか?
まさかパンをもらいに来た訳ではないでしょう?」
その出雲の声に、翔子は最後の一切れをごくんと飲みこんで、真剣な顔をして切り出した。
「そうなんだ、お腹が好いたらここに来るようにって、
ヨウメイに教えておこうと思ってさ。というわけでごちそうさん。
じゃあ三人とも、行こうぜ。」
そして歩き出す翔子を、慌ててヨウメイは止めた。
「ちょ、ちょっと山野辺さん。ほんとにそんな事でわざわざここに来たんですか?」
「冗談だよ、冗談。ヨウメイが先生になった件なんだけどさ・・・。」
翔子は、ヨウメイが先生になったのは、花織が関係しているのではないかという事。
わざわざ太助のクラスの担任になったのも、
花織がルーアンを追い出すために立てた計画ではないかという事を、事細かに話した。
そして、最終的には太助を自分だけのものにするつもりではないかという事も。
「・・・と、あたしは思うんだ。いや、絶対そうにちがいないな。
そこのお二人さんは知ってるんじゃないか?愛原の本当の目的をさ。」
翔子が喋り終わると同時に、力いっぱいにヨウメイは否定する。
「そんなことありません!花織ちゃんが、主様の独占のために・・・。」
泣きそうなヨウメイを見た熱美とゆかりんは、
ごまかすわけにはいかないと、花織の魂胆を話し出した。
全てを聞き終えたとき、ヨウメイは信じられないといった表情で固まっていた。
「そんな・・・。じゃあ、私と仲良くしたのも、そのため・・・?」
ヨウメイの悲観的な声に、二人は首を横に振る。
「ううん、そんなために人を騙したりするような子じゃないよ、花織は。
だから、今まで通り仲良くしましょう。」
「そうそう、私達は親友なんだから。でも楊ちゃん、先輩のクラスの担任になるの?」
懸命にヨウメイをなぐさめようとする二人。
するとヨウメイは、がっくりとなだれていた顔を上げて、にこやかに言った。
「先生になるのはやめるわ。シャオさんみたいに、
学生としてこの学校に来ようと思うの。その方が良いかなって・・・。」
「だったら、うちのクラスに来てよ。ね?」
「うん、そうする。さっそく職員室に行こうと思うの。二人とも付いて来てくれる?」
「もっちろん、早く行きましょう。」
「そういうわけですから山野辺先輩、出雲さん、また今度。
花織ちゃんにちゃんと言っといてくださいね。」
あっという間にことが進んで、取り残されてしまっていた翔子は、
つっかかりながらもそれに答えた。
「あ、ああ。」
そして駆け出そうとする三人。翔子はふとそれを呼びとめた。
「ヨウメイ!先生には本当にならないのか?
あたしは結構あんたの授業が気に入ったんだけど・・・。」
するとヨウメイはふりむいてこう言った。
「今日来ていない誰かさんに文句をつけられたくありませんしね。
よく考えたら、無理に先生にならなくても教えられる事はたくさんありますし。
でも、ありがとうございます。授業を誉めてくださって。では!」
元気よく三人は職員室へと去っていった。
しばらくして出雲が一言。
「なんにしても一件落着ですね。お疲れ様でした。」
「ほんと、結構楽に片付いて良かったよ。お腹好いちゃったからもう一個パンくれない?」
「はいはい。まったく・・・。」
あきれながらもパンを手渡す出雲。
翔子はそれを受けとって、意気陽々と自分の教室へと帰って行った。
全ては丸く収まりつつあったように思えた。
後は花織に話をつけるだけで終わるはずなのだから。

屋上から降りてくる太助、シャオ、ルーアン。そして職員室へ向かうヨウメイ、熱美、ゆかりん。
この二組が、廊下でばったりと出会った。
「ヨウメイ!どこへ行くんだ?」
太助が驚いて尋ねると、ヨウメイが落ちついて話し出した。
「職員室です。ルーアンさん、よーく聞いてくださいね。実は・・・」
全てを語り終えた時、ルーアンが大声をあげた。
「ほら、やっぱりー!!あんの小娘ぇー!!」
今にも飛び出しそうな勢いのルーアンを、太助は慌てて押さえる。
「落ちつけってルーアン。とにかく学校を変わらなくて良くなったんだからさ。」
すると、“ふう”と落ち着きを取り戻した。
「とにかくそういう訳なんです。ご迷惑をかけてしまってすいませんでした。」
ぺこりと頭を下げるヨウメイ。それに他の二人も慌てて続いた。
「私達からも謝ります。花織にちゃんと言っておくとかしておけば良かったのに・・・。」
「後で私達からも言っておきますから、あんまり責めないでやってください。」
三人の様子に、太助が“もういいよ”と言わんばかりに手を振った。
「迷惑だなんて、そんな事は思ってないしさ。
それに、ルーアンにも良い刺激になったんじゃないかな。」
「そうですよ。これでルーアンさんも、
これからは素晴らしい授業をしてくださるようになるに違いありませんわ。」
続いて言ったシャオを、ルーアンがじとーっと睨む。
「あんたも結構言うようになったわねえ・・・。ま、いいわ。
あたしもこの子達と職員室に行くから、たー様とシャオリンは先に教室に帰ってて。
じゃあ行きましょ、ヨウメイ。」
「ええ。主様、それではまた後で。」
四人を見送り、太助とシャオは再び歩き出した。
しばらくして教室に到着。二人が目にしたのは半泣きの花織と、苦笑いの翔子、たかし。
そして怒り顔の乎一郎だった。二人に気付いた翔子が声をかける。
「おっ、帰って来たな。あれ?ルーアン先生は?」
「途中でヨウメイ達に会ってさ。職員室へ一緒に向かったよ。
それより愛原、ヨウメイ達から聞いたんだけど、
とんでもないことをやらかしたもんだな・・・。」
太助の低い声にビクっとなる花織。花織ではなく、それに乎一郎が答えた。
「そうなんだよ!ルーアン先生を追い出そうなんてひどすぎると思わない!?
太助君、もっと言ってやってよ!!」
その声にますます泣き顔になる花織。太助はやれやれといった感じで言った。
「反省してるか?俺がとやかく言う前に、ルーアンがおもいっきり言ってくると思うけど。
それより、ヨウメイにもちゃんと謝っとけよ。ごめんなさいって。」
「うう、すいませんでしたぁ。あたしの計画にもプラスになるし、
楊ちゃんのプラスにもなるはずだったんですけど・・・。とにかく、ごめんなさいー!!」
泣きながら頭を下げる花織。周りのみんなは、苦笑いしながらそんな花織を慰める。
本来なら、花織の言うとおりになるはずだったのだが、
休み時間の花織の言動により、皆は花織が太助を独占するためだけのものと完璧に思いこんでいた。
そのため、太助たちに不信感が募り、ヨウメイのためにならないという結果に陥ってしまったのである。
と言っても、そのきっかけとなったのが太助と翔子でもあるが・・・。
さて、その頃七梨家では・・・
「ね、寝過ごしたー!!急いで学校にゆかねばー!!」
キリュウがようやく目を覚まし、時間を見て慌てていた。もうすぐ三限目突入という時間である。
キッチンに降りていった彼女を出迎えたのは那奈ねぇ。にこにこしながら待っていた。
「よーし、ようやく起きたな。朝(?)ごはんだぞ・・・って無視すんなこらー!」
しかし、那奈が差し出した朝(?)ごはんに目もくれず、キリュウはキッチンを後にした。
なぜキリュウがキッチンにわざわざ行ったのかと言うと、たんに慌てていたからである。
その証拠に、キッチンを覗いたかと思うと、“間違えたー!”とぽつりと叫んだのだから。
素早く家を飛び出し、短天扇を大きくし、それに飛び乗って学校を目指すキリュウ。
「なぜこんな時間まで・・・。目覚ましをかける前にルーアン殿が眠らせたりするからだ!!
大変な事になっていなければ良いが・・・。」
猛スピードで学校を目指す。ほんの数分で学校に到着し、急いで校舎に入っていった。

≪第三話終わり≫


あとがき:なんだか強引な話で、ちょっと・・・あれですね。
うまい人ならもっと上手に書くんでしょうけどね、授業風景とか・・・。
私はこんなもんです、勘弁してやってください。
むつかしいなあ・・・。

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