小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!)


≪第五話≫
『出雲の受難』

所変わって購買部。あっという間にパンが売り切れた(女子にほとんど無料で配られていた)、
更には他の物資もそんな感じであったので、出雲はのんびりと本を読んでいた。
「ふう、今日も結構早く終わってしまいましたねえ。
さてと、そろそろ帰る仕度でも・・・おや?あれは。」
向こうから並んで歩いてくるキリュウとヨウメイ。二人とも不機嫌そうに何やらぶつぶつ言っている。
出雲はなんとなく気が進まなかったのだが、女性にやさしくをモットーとする出雲は、二人に声をかけた。
「やあ、キリュウさんにヨウメイさん。二人してどちらへお出かけですか?」
するとその二人は購買部の前でぴたっと足を止め、じとーっと出雲を見る。
「ど、どうしたんですか、二人とも。私でよければ相談に乗りますが・・・。」
出雲の言葉に、キリュウが喋り出した。
「聞いてくれ、宮内殿。ヨウメイ殿が喧嘩を売って来たりするから、私は教室を追い出されてしまったのだ。」
「は、はあそうなんですか。喧嘩を売るのはいけませんよ、ヨウメイさん。」
それに対してヨウメイは、
「宮内さん!私はキリュウさんの寝相の悪さにあきれて、口を滑らせただけなんです!!
喧嘩を売っているのはキリュウさんだと思いませんか!?」
「そ、そうですか。キリュウさん、寝相が悪いのは治した方が・・・。」
「なんだと!?もとはと言えばヨウメイ殿が暴走したりするからいけないのだ!!
だいたい教室を猛吹雪で荒れさせてどうするのだ!?」
「何言ってんですか!キリュウさんが私を邪険に扱ったのがそもそもの原因じゃないですか!!
だいたい寝坊して遅れてきたくせに、ずうずうしいにも程がありますよ!!」
「だからといってあそこまでして良いという道理が通るものか!!だいたいヨウメイ殿は・・・。」
いつのまにか出雲はすっかり忘れられ、二人の口論を聞く羽目になってしまった。
そこで改めて後悔する出雲。心の中で、
(やれやれ、こんな事なら声をかけるんじゃありませんでしたよ。)
と、つぶやいていた。

それから十数分経過。今だ購買部の前で口論を続ける二人。
出雲はいやになっていて、とっくに聞くのを辞めて本を読んでいた。そんな折、
「宮内殿!さあ判断してもらおう。私とヨウメイ殿のどっちが悪いのか!!」
と、突然キリュウが出雲に向かって言った。いきなりの事にビクっとなってあわてふためく出雲。
「キリュウさん!こんな軟派神主に聞くなんて間違ってますよ!!
でもまあ、一応聞いてみましょうか。相談に乗るって言ってたことだし。」
そして出雲の方をじっと見る二人。
当然出雲はそれにすぐ応えられるわけがなく、しばらく黙り込んでいた。
「ちょっと宮内さん、黙ってたんじゃ分からないじゃないですか。早く答えてくださいよ。」
出雲にせかすヨウメイ。すると出雲は、
「そ、そうですね。やはりキリュウさんが悪いんじゃないかと・・・」
「なんだと!?宮内殿、それはあんまりではないか!!
私の言い分を無視して、いきなりそんな事を言うのか!?」
キリュウの反発に、出雲は慌てて言いなおす。
「す、すいません。やはりヨウメイさんが・・・」
「まってくださいよ!どうして私が悪い事になるんですか!
どう考えたってそれは違うんじゃないんですか!?」
今度はヨウメイが途中で反論した。そこで出雲は黙り込む。
しばしの沈黙。・・・やがて、ヨウメイが口を開いた。
「もういいです。やっぱりこんな軟派師に聞いてもらおうとしたのが間違いだったんです。」
それにキリュウも続く。
「まったくその通りだな。全然人の話を聞いていない。無駄な時間を過ごしてしまった。」
そして二人はそこを去ろうとしたが、出雲が慌てて呼びとめた。
「待って下さいよ、二人とも!!」
出雲の声に足を止め、振りかえる二人。
「なんですか、宮内さん。まだ言い足りない事でも?どうせくだらない事でしょうけど。」
「出来るだけ手短に済ませてくれ。そなたの意見など、長々と聞きたくないのでな。」
二人のいちゃもんをつけるような言葉に、少し引いてしまった出雲だったが、
心を落ちつかせて、再び口を開いた。
「いきなりやってきて喧嘩をするだけして、挙句の果てに私に判断しろなんて。
それこそ横暴というものじゃないですか!?
そりゃ、途中から話を聞いていなかった私も悪いですが、
ふっかけてきた二人とも悪いんじゃないんですか!?
更には私をけなして・・・。そこんところはどうなんですか!!」
出雲が懸命に言う。キリュウは少し反省の色を浮かべて言った。
「そうか、それもそうだな。済まなかった宮内殿。私達が・・・」
「キリュウさん!!」
謝ろうとするキリュウを、ヨウメイが止めた。そして出雲に向かって言う。
「私達は悪くないんですよ!!どうしてキリュウさんが謝るんですか!!
だいたいね、相談に乗るとか言ってたのは宮内さん、あなたじゃないですか!!
それを話をよく聞きもしないで、“あなた達二人も悪いですよ”!?
ふざけるんじゃないですよ!!ああやだやだ、なんでこんな人に神主がつとまるのかしら。」
それを聞いたキリュウも、うんうんと頷いて続けて言った。
「ヨウメイ殿の言う通りだな。私達をたぶらかそうとは、良い度胸をしているではないか。
ますますもって許せぬな。シャオ殿やルーアン殿、そして花織殿にも十分注意するように言っておかねば。」
唖然としたまま二人の言葉を聞く出雲。
そして、この二人に声をかけてしまったことをますます後悔するのであった。
その念が顔色にはっきりと出てきたのが見えたのだろう。
ヨウメイが更に言う、いや怒鳴る。
「なに一人で犠牲者みたいな顔してるんですか!!
黙ってないで、言いたい事があったら言って下さい!!!」
すると、出雲はおそるおそる口を開いた。
「すいません、私が悪かったです。お二人は別の人に意見を聞いてもらって・・・」
「なんだと!?自分の不始末を他人に擦り付けるつもりなのか!?
ますます見そこなったぞ宮内殿。ここは一つ試練を与えねばなるまいな。」
そしてふところから短天扇を取り出そうとするキリュウ。
出雲はビクっとなって慌ててそこから逃げようとした。しかし、
「・・・そうか、短天扇は翔子殿に取られたままだったのだ。ううむ、私としたことが・・・。」
事情は分からないがとにかく助かった、と胸をなでおろす出雲。
ヨウメイは悔しそうに唇をかんで言う。
「そうでしたね。くうう、とりあえず屋上に行きましょうか・・・。」
そして二人が購買部から去っていこうとする。
改めてホッとする出雲だったが、その時ルーアンや翔子達が購買部にやって来た。
「あら?どうしたのよ二人ともこんな所で。屋上へ行ったんじゃなかったの?」
「そうだぜ、さっさと喧嘩してこいよ。じゃないと返さないからな。」
購買部の新たな来客に二人は足を止め、再び購買部に引き返した。
その時の出雲の心の中は嫌な予感でいっぱいだった。
しかし、少しは気が楽になった。二人の相手を無理にせずに済みそうだったので。
だが、そんなものはすぐにかき消される事になる。
「山野辺さん、お願いです。一瞬でも良いですから統天書を返してください。」
ヨウメイが深刻そうに言う。もちろんそれにすぐに応じる翔子ではなかったが。
「あのな、ヨウメイ。屋上で喧嘩してからじゃないと返さないって言っただろ。」
と、つっかえした。するとキリュウが、
「そう言わずに、私も少しの間だけ返して欲しい。実は・・・」
と、購買部での出来事を語り出した。当然、ヨウメイも出雲もそれに混じって。
数分の後、声をあげたのは・・・。
「出雲さん、せっかく仲直りしている二人になんてことをしたんですか!
いくらなんでもひどすぎますわ!」
シャオである。驚いてシャオを見る出雲、そして太助達。
「そんな、シャオさん。誤解ですよ、私はただ・・・」
「出雲さん!!言い訳をするなんてあんまりです。
キリュウさんとヨウメイさんがかわいそうですわ!!」
そしてしばらくの沈黙の後、翔子は瓠瓜に言った。
「瓠瓜、二人に返してやってくれ。キリュウ、ヨウメイ、一瞬なんて言わず、もう返すから。
これからも二人仲良くな。」
「え?ええ・・・。」
「・・・心得た。」
そして瓠瓜が短天扇、統天書をはきだす。二人はそれを嬉しそうに受け取った。
「災難だな、宮内出雲。ふだんちゃんと仕事をしないからばちが当たるんだよ。」
「太助君、私はちゃんと仕事をしているじゃないですか。そんなことより、あとでシャオさんの誤解を・・・」
「さて宮内殿。」
出雲の言葉をさえぎるようにキリュウが口を開き、短天扇を広げた。
その不敵な姿にずざざっと後ずさりする出雲。
「試練を与える約束だったな。ではいくぞ、万象大乱!」
出雲がついさっきまで読んでいた本が巨大化し、出雲を廊下の方までふっとばす。
「ふむ、やっぱり主殿と違って鈍いな。もっともっと精進する必要があるぞ。」
「ちょ、ちょっと待って下さいよキリュウさん。私は・・・」
「きたれ、洪水!」
今度はヨウメイが叫んだ。
大量の水が廊下の向こうからやって来たかと思うと、あっという間に出雲を遠くまで押し流した。
水が突き当たりの所までいったところで、ヨウメイはパタンと統天書を閉じる。
すると、不思議な事に、全ての水が消えうせた。
「あっさり流されるなんて・・・。宮内さん、ちゃんと泳いで抵抗しなきゃだめじゃないですか。」
そんな無茶な・・・、と太助達は唖然とヨウメイを見る。
出雲はといえば、大量の水を飲んでしまったのか、激しく咳き込んでいた。
「ごほ、ごほ・・・。うう・・・。」
「気が済んだ?キリュウちゃん、ヨウメイちゃん。もう帰ろうよ。」
出雲の悲惨な姿に同情したのか、乎一郎が帰る案を申し出た。すると、
「何言ってんですか遠藤さん。今のは準備運動に過ぎませんよ。
だいたいキリュウさんの試練は、本当はこんなもんじゃないんですし。
ね、キリュウさん、主様。」
「うむ、その通りだ。主殿はもっともっと厳しい試練に耐えてきた。
この程度で終わってしまっては試練にならん。」
ヨウメイとキリュウの言葉に、太助はおそるおそる説得するように言った。
「あ、あのさ、二人とも。こんな事で時間つぶさなくても、もっと他にやる事があるんじゃ・・・。」
「そういえばそうですわ。お料理を教えていただかないと・・・。」
シャオも一緒になって二人を止めようとする。しかし、
「他にやる事はいつでも出来るじゃないですか。宮内さんに試練を与える事は今やっておかないと。
明日になったら逃げ出すかもしれませんし。」
「ヨウメイ殿の言う通りだ。というわけで皆は先に帰るがよろしかろう。」
と言ったかと思うと、出雲に向かって行った。
その二人の姿にぶんぶんと手を振る出雲。
「ま、待って下さい!もう良いです、ここまでで今日は勘弁してくださいよ。
明日逃げたりなんてしませんから!!」
しかしヨウメイとキリュウは、きわめて冷静に言葉を返した。
「嘘をつくのは軟派師の必要十分条件でしょう?騙されませんよ。」
「主殿を見ろ。明日にのばしてくれなどと言った事は一度も無いぞ。」
もはや二人は止められないようである。他の皆がそう思ったその時、
「楊ちゃん!やっと見つけた。教室にいなかったから探しまわったんだよ!!」
と、明るい声がしたかと思うと、花織、熱美、ゆかりんが、購買部に向かって駆け出してきた。
「花織ちゃん。ちょっと待っててね、宮内さんに試練を与えてるところだから。」
振り向いたヨウメイが発した言葉に首を傾げて止まる花織達。
「楊ちゃん?試練を与えるなんてキリュウさんみたいよ。」
「そうそう。キリュウさんと何かあったの?」
熱美とゆかりんの言葉にヨウメイははっと我に返った。
「そうだった!!いつのまにか試練なんて言い出して・・・。
キリュウさん!あなたって人は・・・!!」
そしてキリュウに詰め寄る。驚いた顔でキリュウは言葉を返す。
「ヨウメイ殿、そなたが勝手に言った事ではないか。私のせいなのか?」
「あ、それもそうですね。悪いのは宮内さんでした。
でも試練だなんて・・・そうだ、天罰とでも言えば良かったんだ。」
そう言ったかと思うと、ヨウメイは統天書を開いた。
「来れ、・・・えーと何にしようかな・・・。」
突然止まるヨウメイにこけそうになるキリュウ。そして話し掛ける。
「あのなあ、ヨウメイ殿・・・。」
「待ってくださいよ。1つ大きなのをやって、それで今日はおしまいにしようかと。
花織ちゃんたちを待たせても悪いし。」
その言葉にほっとしたようなしないような顔の出雲。
他のみんなは黙ったままそこに立ち尽くしている。
花織は小声で太助に尋ねた。
「七梨先輩、一体何があったんですか?出雲さん、楊ちゃん達に何したんですか?」
「よくわかんないけど、かなりこけにされたと言うかなんと言うか・・・。
とにかく、それで二人とも怒っちゃって、試練みたいなのを与えているわけだよ。」
「そうなんです。せっかく二人とも仲直りしていたのに出雲さんが・・・。
でも、今はなんだか仲良くやっているみたいで、良かったですわ。」
シャオの最後の付け足しに、“・・・”といった顔でシャオを見る面々。
そんな事も全く気にとめず、ヨウメイは相変わらず考えている。
「それならヨウメイ殿、早く終わらせてしまおうではないか。」
「ちょっと待ってください。えーと、溶岩につける・・・いまいちかなあ。
水深一万mに放り込む・・・めんどくさそうね。えーと・・・。」
ヨウメイの恐ろしい言葉に出雲はあわてて立ちあがったかと思うと、すぐさま土下座し始めた。
「す、すいません!!この通りです!!お願いですからもう勘弁して下さい!!
も、もう二度とあんな軽はずみな行動とかはとったりしません!!
ちゃんと考えて行動します!!太助君達にも迷惑をかけないと誓います!!
だから、だから、もう許してくださーい!!!」
そのほかの面々は、ヨウメイの突拍子も無い案に、ぴしぃっと固まっていた。
土下座する出雲を見て、キリュウが冷ややかに告げる。
「宮内殿、一度くらいは死ぬ覚悟で挑んでみたらどうだ?
あれしきの事で投げ出すのはたるんでいる証拠だぞ。」
「で、でも、いくらなんでも死んでしまっては・・・」
「それも試練だ。耐えられよ。」
「う、うそでしょう!?」
出雲が悲痛な叫び声を上げたところで、ヨウメイが声高らかに叫んだ。
「竜巻に乗って空中散歩!これでいきましょう!!」
ヨウメイの案にぽんと手を打つキリュウ。
「うむ、なかなかに良い試練ではないか。さっそく実行しよう。」
「キリュウさん、試練じゃなくて天罰ですってば。さてと、来れ・・・」
「ま、待ったヨウメイ!!」
竜巻を呼び出そうとするヨウメイを太助が止めた。それにヨウメイが振り返る。
「何ですか、主様。用事なら後にしていただけませんか?」
「あ、あのさ、いくらなんでも宮内出雲が死んじゃうだろ。だからもうよせって。」
太助に続き、ほかのみなも口々に言った。
「太助様の言う通りですわ。いくらなんでもそこまでするのは・・・。」
「そうそう。無料でパンがもらえなくなっちゃうだろ。せっかくあたしが教えてやったのに。」
「いつも僕達のお世話をしてくれたりする、気の良いおにーさんなんだよ。」
「楊ちゃん、何でもやりすぎは良くないわ。
さっきだって、キリュウさんが危うく死にかけたじゃない。」
「ゆかりんの言う通り。ここはあたし達に免じて、ね?」
「普段は確かにいやな奴だけど、いなくなったらやっぱさびしい。
そう思わない?キリュウちゃん、ヨウメイちゃん。」
「野村先輩、それじゃ説得になってませんよ。
楊ちゃん、出雲さんはそりゃあうっとおしい時もあるかもしれないけど、
シャオ先輩を追っかけて、購買のバイトまでしだしたところくらいは感心してやらないと。」
「あのね、じょーちゃん・・・。二人とも聞きなさい。
いずぴーは、お饅頭とかをくれたりする、あたしの大切な人なの。
だからこれ以上やろうってんなら、あたしも容赦しないから。」
途中からだんだんわけがわからなくなってきたキリュウとヨウメイ。
しかし、しばらくして納得したかのようにうなずいた。
「みながそこまで言うのなら仕方がないな。宮内殿への試練はもう終えることにしよう。」
「キリュウさん、だから試練じゃないんですって。
まあいいでしょう。いずぴーさん、これからはほんとちゃんとしてくださいね。」
「い、いずぴーさん・・・。」
ヨウメイの呼びかけに面食らった顔になる出雲。
返事がないことに対して、ヨウメイがきりっとした顔で言った。
「いずぴーさん、返事は!!」
「は、はい!これからはちゃんとします!!
でもヨウメイさん、いずぴーさんってのは・・・。」
「なんですか、何か文句でもあるんですか!?」
「い、いえ、ありません!!」
“よろしい”といった感じで出雲を見るヨウメイ。
キリュウはぽかんとしてヨウメイを見ていたのだが、
ほかのみんなは笑いを必死にこらえていた。
「いずぴーさんだって。やっぱり楊ちゃんて違うね。」
「ほんと。あの出雲さんに向かって・・・。」
そしてなんとか購買部での騒ぎが収まり、太助達は学校を後にした。

≪第五話終わり≫


あとがき:というわけで、仲が良くなった(?)キリュウとヨウメイです。
まあ、ちょっとおまけのエピソードって感じで、あはははは・・・。
それではー。


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