帰り道、たかし、乎一朗、翔子と別れた後、とんでもないことになっていた。
「ええーっ!?今日家に泊まりに来るって!?」
驚きの声を上げる太助。それに花織が笑って答えた。
「ええ、もう三人で決めたんです。楊ちゃん歓迎パーティーをやろうって。ね?」
花織の呼びかけに熱美が答える。
「そうなんです。せっかく同じクラスの生徒になったんだから。」
更に続けてゆかりんが言う。
「なんといってもあたし達の親友だもん。それくらいはしないと。」
三人の笑顔に、ヨウメイは少し赤くなりながらも、うれしそうに言った。
「花織ちゃん、熱美ちゃん、ゆかりん・・・。ありがとう。
私とってもうれしいわ。」
しかしそこですかさずルーアンが反発した。
「あのねえ、いきなりそんな大勢で押しかけられちゃ迷惑でしょ。
だいたい、どうしてたー様の家でやることになるのよ。」
ヨウメイ達がしゅんとなる前に、シャオがルーアンに答えた。
「だって、今日はヨウメイさんにお料理を教えていただく約束ですもの。
それにちょうど良いじゃないですか。大勢のほうが楽しいですわ。」
「シャオリン、あんたねえ・・・。」
「ルーアン、俺は全然気にしてないしさ。
それに三人がやりたいって言うんならその気持ちを尊重しないと。
ヨウメイにできたせっかくの親友なんだしさ。」
太助の言葉にやれやれとうなずくルーアン。
シャオもヨウメイ達も喜んで“ありがとう”を告げた。
「ところでキリュウさんはどうなんですか?別に良いですよね。」
「良いも何も、私は全然気にしておらぬぞ。みなが楽しいのならそれで良いではないか。」
「さっすが。じゃあ決定ですね。
今晩は七梨先輩の家で『楊ちゃん歓迎パーティー』です!」
一応キリュウ自身は、“明日は学校があるのに大丈夫なのか?”と小声でつぶやいていたのだが、
もちろんそんな声は誰に聞こえるわけでもなく、お喋りが交わされ続けた。
途中で花織、熱美、ゆかりんはそれぞれの家に帰り、
お泊まりセット等を持って、七梨家に後からやってくることとなった。
ライバル関係などがすっかり無いかのように、楽しく喋る精霊4人。
太助は(良かった。もうこれでいつものように普通の生活が送れそうだな。)
と、安堵の念を浮かべていた。そうこうしているうちに家に到着。
五人そろって元気よく言った。
「「「「「ただいまー!!」」」」」
「よっ、お帰り。お、今日はヨウメイは帰ってきたんだな。」
那奈が五人を出迎える。那奈の姿を見たとたん、ヨウメイはうれしそうに言った。
「那奈さん、今日ここで私の歓迎会があるんです。ぜひ一緒に楽しみましょう。
さ、シャオリンさん、早く支度してきてください。料理をお教えします。」
「はい、わかりましたわヨウメイさん。」
そしてシャオは自分の部屋へ、ヨウメイはキッチンへと駆け出していった。
「歓迎会だって?どういう事だ、太助。」
「後で説明するよ。姉貴はリビングで待っててくれ。」
残りのみながそれぞれの部屋に戻る。と思ったら、すぐさまリビングに集合した。
ヨウメイとシャオはもちろんキッチンで料理を作っている最中である。
リビングでは太助、那奈、ルーアン、キリュウが座っていた。
まず太助が那奈に説明する。
「・・・というわけなんだよ。分かった?」
「うんうん、よくわかった。それで、歓迎会はいつ始めるんだ?」
「それは・・・」
太助が言いかけると、呼び鈴が鳴った。
太助は立ち上がって・・・の前に、ヨウメイがすばやく駆け出していった。
「よほどうれしいんだな、ヨウメイのやつ。」
「ふむ、これでヨウメイ殿も柔らかくなるだろうな。」
リビングでそんな会話が交わされる中、玄関のドアが開けられた。
「楊ちゃん!エプロンつけてお出迎えなんて、はりきってるわね。」
「はっ!ごめんね、慌ててたもんだから。
いらっしゃい、花織ちゃん、熱美ちゃん、ゆかりん。さ、あがって。」
「「「おじゃましまーす!」」」
三人がリビングへとやってくる。ヨウメイは再びキッチンへと戻った。
「いらっしゃい、三人とも・・・って、その荷物、何?」
太助が驚いてたずねる。無理もない、大量の物を三人とも持っていたのだから。
花織が持っていたのは沢山の遊び道具。
熱美が持っていたのは沢山の花。
ゆかりんが持っていたのは沢山のお菓子。
三人とも、遊ぶ気満々、騒ぐ気満々である。
「七梨先輩、今日はばっちり楊ちゃんを歓迎しましょうね!」
「名づけて、『楊ちゃん鶴ヶ丘中学校編入記念パーティー』です!」
「ますます友情が深まること間違いなし!楽しくやりましょう!」
三人の元気な声に圧倒されながらも、太助はとりあえず座るように促した。
太助に言われて座った三人だったが・・・。
「七梨先輩、楊ちゃんがお料理を作ってるっていうのに、あたし達は何もしなくて良いんですか?」
座ったと思った花織が立ち上がって尋ねた。それにゆかりんも続く。
「そうですよ。これは楊ちゃん歓迎パーティーなんですから。」
そわそわしている二人にルーアンが答えた。
「いいから座っときなさいよ。とりあえず料理ができるまで。」
すると、今度は熱美が花を持って立ち上がった。
「そうだ、今のうちにお花を飾っておきますね。手伝ってください。」
「そうよ!そんな大事なことがあったんじゃない。七梨先輩、花瓶とかありませんか?」
それに“なるほど”と手を打ったかと思うと、太助は立ち上がった。
「リビングいっぱいに飾らないとな。よし、いくつか持ってくるよ。」
「よし主殿、私も手伝う。」
立ち上がるキリュウ。周りのみなはぽかんとしてキリュウを見た。
「・・・どうしたのだ?私に何かおかしなところでも?」
キリュウの疑問に、ぱかっとあけた口を閉じて、ゆかりんが答える。
「だって、あんなに楊ちゃんと仲が悪かった方なのに、率先して歓迎会の手伝いをするなんて。」
そこで太助は、軽く笑みを浮かべてこう言った。
「キリュウもそれだけ打ち解けられたって事だよ。な、キリュウ。」
「うむ、そういう事だ。いつまでもいがみ合っていたのでは周りに迷惑だしな。」
そして二人はリビングを出て行く。見送ったところで、感心したように那奈が言った。
「昨日とはえらい違いだな。これもあんた達三人のおかげかな。」
「いえ、そんな。楊ちゃんもがんばったし。」
「そうそう、それに帰る前に二人を見てたけど、結構仲が良くなってましたし。」
熱美とゆかりんは少し遠慮気味に答えたのだが、花織だけは、
「あたしもかなり頑張りましたから。
それにしても七梨先輩のおねえ様に誉めてもらうなんて、花織うれしいな♪」
と、なんだか有頂天な気分であった。
那奈はその様子にあっけに取られ、熱美、ゆかりんは苦笑いを浮かべていた。
そしてルーアンは・・・、
「ちょっと、あんただけの手柄じゃないでしょ。このあたしも関与しているって事忘れないでよね。」
と、花織につっかかった。普通ならそこで花織も言い返すところなのだが、
「そうでしたよね、ルーアン先生お疲れ様です。これからもよろしくお願いしますね。」
と笑顔で答えた。花織の意外な態度に拍子抜けしながらもこう答えた。
「そ、そう。わかれば良いのよ。」
その言葉に更に笑顔で返す花織。熱美とゆかりんも同じように返した。
雰囲気がそこで和んだのだろうか。五人でお喋りを始めた。
「・・・へえ、世界中を旅行されてるんですか。」
「ああそうだよ。日本へはついこの間帰ってきたんだ。」
「七梨先輩の家族って、旅行好きなんですね。」
「そう、だからこそあたしはたー様に巡り会えたの。
これを運命といわずしてなんて言うのかしら。」
「ルーアン先生ったら花織みたいな事言って・・・。」
お喋りが続いている中、太助とキリュウが花瓶を持って帰ってきた。
「おまたせ。ふう、なかなか良いものが見つからなくってさ。」
「とりあえず綺麗なものを二,三持ってきた。これで大丈夫だろう。」
二人が花瓶をテーブルの上に置く。
おそらく、倉庫か何処かにしまわれていて埃だらけだったのだろう。
それを洗った跡がはっきりと見て取れた。しかし、飾りはさすがに綺麗そのものであった。
那奈置かれたそれらを見て、不思議そうに太助に尋ねた。
「こんなもんうちに有ったっけ?あたしは見たこと無いんだけど。」
「倉庫の奥から引っ張り出してきたんだ。怪しいもんじゃないから大丈夫だよ。」
「よーし、それじゃあさっそくお花を飾りましょう!」
そしてみなで沢山の花を飾り出す。綺麗に綺麗に・・・。
太助達が花を飾っているころ、キッチンでは・・・。
「・・・と、これを入れて出来上がり。簡単でしょう?」
「まあ、ほんとですわ。ありがとうございます、ヨウメイさん。」
ヨウメイがシャオに新たな料理を教え終わったところであった。
テーブルの上には、すでに色とりどりの品が沢山並んでいる。
もちろん作ったのはシャオで、すべての作り方を教えたのはヨウメイである。
「うーん、それにしてもずいぶん作っちゃいましたね。ちょっと多く教えすぎちゃったかな。
こんなに沢山だと、みんな食べきれないかも・・・。」
「大丈夫ですわ、ヨウメイさん。これだけ素敵なお料理ですもの。
皆さん、喜んで全部食べてくれるに違いありませんわ。」
少し心配顔のヨウメイに、シャオは笑顔で答える。
そんなシャオに安心したのか、ヨウメイも笑顔になって言った。
「そうですよね。それになんといってもルーアンさんもいることだし。」
「ええ。じゃあお料理をリビングへ運びましょう。」
そしてシャオはお皿を持って行き出した。ヨウメイもそれに続く。
シャオはリビングに入って、まず感嘆の声をあげた。
「まあ、綺麗なお花!」
そう、部屋内に沢山の花が飾られているのだ。
花瓶に入りきらなかった分は、部屋のあちこちに模様を描く様にされてある。
パーティーのための飾りといわんばかりに、華やかであった。
「あ、シャオ。料理が出来上がったんだな。運ぶの手伝うよ。」
シャオに気づいた太助達がキッチンへと足を運ぶ。
それと入れ違いになるようにリビングに入ったヨウメイも、
シャオと同じく感嘆の声をあげた。
「すっごく綺麗・・・。熱美ちゃんが持ってきてくれたのよね。
ああ、なんだか幸せな気分・・・。」
そしてヨウメイがその幸せに浸っている間に、みなはすべての料理を運び終えた。
バリエーションに富んだ料理を見て、みなは口々に“うわー、すごいなあ”とか、
“おいしそう。これならいくらでも食べられそうね”とつぶやいていた。
そうこうしているうちに全員が料理を食べる支度が整った。いや、一人はまだである。
「楊ちゃん、早く座って食べようよ。」
花織が呼びかける。そう、ヨウメイは花を見たまま立ち尽くしているのだった。
手にも、自分が持ってきた料理を持ったまま。
数秒ほど送れて、ヨウメイは花織の呼び声に反応した。
「あ、ああ、ごめんね花織ちゃん。あんまり綺麗なもんだから・・・。」
「えへへ、喜んでもらえて良かった。これで沢山花を持ってきた甲斐が有ったよ。」
ヨウメイの感極まる声に、熱美がうれしそうに言う。
そしてヨウメイは料理を置いて座った。
「それでは、今から楊ちゃん歓迎パーティーを始めます!
まず楊ちゃん、何か一言。」
「えっ、えっ、私が何か言うの?」
「当然よ。楊ちゃんが主役なんだもの。はい、どうぞ。」
花織の言葉に再び立ち上がるヨウメイ。そして、
「とにかく、皆さんありがとうございます。
えーと、あんまり長話してもあれなんで、早くおいしい料理を食べましょう!」
と、短く区切って座り込んだ。その様子に、みなははっとしてルーアンを見る。
みなが思った通り、ルーアンは待ちきれないとばかりにそわそわしていた。
「ははは、ルーアンらしいな。」
「だってたー様、あたし今までこんな料理見たことないんですもの。早く食べてみたいわあ。」
「もう、ルーアン先生ったら・・・。それでは、いただきます!」
丁寧な、そして元気良い挨拶がつげられ、パーティーは開始された。
「もぐもぐ・・・うーん、おいしい!さすがシャオリンさんですね。」
食べ初めていきなり声をあげたのはヨウメイ。
夕食は厳かにとかいうモットーは、すでにどこかへ消えうせているみたいだ。
「ありがとうございます、ヨウメイさん。
でもこれら全部は、ヨウメイさんが作り方を教えてくださったものじゃありませんか。
私はいう通りに作っただけですよ。」
「いえいえ、シャオリンさんの料理の腕があってこそですよ。」
互いに謙遜するヨウメイとシャオを見て、ルーアンが食べながら言った。
「もう、二人ともそんな細かいことは良いじゃない。おいしけりゃいいの、がつがつ・・・。」
いつも通りのルーアンを横目で見ながら、那奈も感嘆の声を上げる。
「ほんとおいしいよな。これを本当のご馳走って言うんだろう。な?太助。」
「ああ、ほんと。なんていうかさ、食べててすごく幸せな気分に成れるよ。
愛原達はどうだ・・・って、食べるのに夢中だな。」
花織、熱美、ゆかりんの三人は、ルーアンとまではいかないが、
目を輝かせて必死な手つきで料理を次々とほおばっている。
そんな三人の様子に笑みを浮かべる太助。それに気づいた花織がはたと手を止めた。
「あ、すいません先輩。あまりにもおいしいもんだからつい。
さすが楊ちゃんとシャオ先輩のコンビが作っただけありますよね。」
それに熱美とゆかりんも続く。
「うちでは絶対に味わえない料理ですよね。」
「というわけで、今は食べるのに夢中になっている訳なんです。」
それだけ言うと花織達は再び食べに戻った。
“愛原の気持ちもわかるな”などと思いながら、太助も食べに戻る。
みながそうして食べるのに夢中になっている中、
ヨウメイはまだ一言も発していない人物に向かって呼びかけた。
「キリュウさんはどうですか?何か感想はないですか?」
黙々と食べていたキリュウ。ヨウメイの声にぴたっと止まり、箸を置いて答えた。
「ヨウメイ殿、厳かに食べるのではなかったのか?」
「もう、例外もあるって言ったじゃないですか。そんな事より料理の感想は無いんですか?」
「ふむ、そうだな・・・。ヨウメイ殿の知識、そしてシャオ殿の技術。
この二つが合わさっているからこそ、これだけのものができるのだろう。
他では絶対に味わえない料理だな。それに、とても心がこもっていて良い。
・・・とまあ、こんなところだ。これでよいかな?」
なんとなく不安げな顔をするキリュウに、ヨウメイは立ち上がった。
そしてキリュウの手を取りに行き、ぶんぶんと振りながら握手する。
「その通りですよ!実にキリュウさんらしい意見ですね、ありがとうございます!」
「い、いや、なんの・・・。」
笑顔をこぼすヨウメイに、顔を赤くして照れているキリュウ。
みんなはそんな二人の様子に非常に驚いていたが、やがて、笑顔のまま食べに戻った。
実はキリュウ自身も驚いている。こんな顔のヨウメイは見たことが無かったのだから。
しばらく二人は握手したままであった・・・。
にぎやかな食事、そしてその後片付けが終わる。
例によってシャオがお茶を入れてテーブルの上にそれを並べる。
みなが座って落ち着いたところで、ゆかりんが立ち上がった。
「えー、それでは私が持ってきたものを出します。私が持ってきたのはお菓子。
つまり、おやつタイムでーす!!」
そして大きな袋を取り出し、テーブルの上に開ける。
これまた、食事に負けず劣らずの豪華なお菓子であった。
「うわー、綺麗。ゆかりんの家ってお菓子屋さんなの?」
感嘆の声をあげるヨウメイ。ゆかりんは首を横に振って答えた。
「ううん、そうじゃないの。この間いろいろお土産をもらっちゃって、
うちじゃ食べきれなくて、ちょうど良いかなって思って持ってきたのよ。」
「へえー、そうなんだ。」
「すごいですわね、お土産だけでこんなに沢山・・・。」
「そうだな、シャオ。でもさ、食べたすぐ後でこれだけは食えな・・・ルーアンは食ってるな。」
太助の声にみながルーアンのほうを向く。食事の時よりスピードは落ちているものの、
いつもの姿を見ることができた。あきれたように那奈が言う。
「ルーアン先生、何も今すぐ食べなくて良いだろ。おやつってのはゆっくり食べるもんだぜ。」
しかしルーアンは聞く耳持たずといった感じでこう言い返した。
「だって、ぼやぼやしてると他の人に食べられちゃうでしょ。早い者勝ちよ。」
その言葉に唖然とするみんな。“こんなときまで・・・”と思っているようであった。
とはいうものの、黙って見ていたのではルーアンに全部食べられかねない。
そこでキリュウが、ルーアンが食べているものをすばやく奪い取った。
「ちょっとー、何すんのよキリュウ。」
「みなの分まで食べられてはかなわぬからな。万象大乱!」
キリュウによって、クッキーセットのひとつが、見る見るうちに巨大化した。
「ほら、これを食べると良いだろう。また少なくなったら私に言うが良い。」
「さっすがキリュウさん、食い意地がはってるルーアン先生をよくわかってますね。」
花織の誉め言葉に顔を赤くするキリュウ。
ルーアンは、さりげなくけなされたにもかかわらず笑顔でそれを受け取った。
「どーもありがと。そんじゃパーティーの続きやってて頂戴。」
再び食べ出すルーアン。やれやれと頭を掻きながら、太助が切り出した。
「愛原も何か持ってきたんだろ。って、確かゲームセットだよな。それでもやろうか。」
「わかってるじゃないですか先輩。いろいろもってきたんですよ。
トランプ、すごろく、オセロ、将棋・・・。さあ、みんなで盛り上がりましょう!!」
そして開始されるゲーム大会。もちろんおやつを食べながらである。
途中からはルーアンも参加。キリュウが何度となくおやつに万象大乱をかけながら。
総勢九人で、かわるがわる対戦相手を変えながら、ゲームを変えながら、
時のたつのも忘れてゲームに熱中していた。
夜も更けたころ、眠気を訴える者が出だしたところでゲーム大会はお開きとなった。
まだ元気なものは・・・、
「花織ちゃん、どうしたのよ。いつもの遊び元気は何処へいったの?」
「さすがにおもいっきり遊んだようだからな。皆疲れたのだろう。」
と、ヨウメイとキリュウの二人である。昼間に睡眠時間を取っていたせいもあるのだが。
「だって楊ちゃん、もう夜中の一時過ぎよ。もう眠い・・・。」
そう言って、大きなあくびとともにまぶたをこする花織。
その他の面々も、それに伝染したかのように、次々とあくびをし始めた。
「ところで七梨先輩、あたしたちは何処で眠れば良いんでしょうか?」
と、熱美。いつものメンバーならリビングで寝ると言うことで解決するのだが・・・。
「俺がリビングで寝るよ。姉貴とシャオが俺の部屋で寝て、
愛原達三人のうち二人がシャオの部屋で寝て、
ルーアンと残りの一人でルーアンの部屋で寝て、
キリュウとヨウメイがキリュウの部屋で寝る、ってのはどうかな?」
なんとも淡々とした提案であったが、皆はそれに喜んで賛成した。
「太助、なかなか言うようになったじゃないか。
確かに、今この家で唯一の男のおまえがリビングで寝るのが普通だよな。」
と、那奈。その言葉にはっとする太助。
太助自身はそのことにはまったく気づいていなかったのだから。
「たー様ったら気付かずに提案したみたいね。
でもまあ良い提案よ。じゃあおやすみなさい。」
ルーアンの挨拶を皮切りに、次々と寝場所へ移動する面々。
もちろん挨拶もきちんと交わされている。
そして最後に、キリュウ、ヨウメイ、太助の三人がリビングに残った。
「では主様、今日は本当にお疲れ様でした。おやすみなさい。」
「主殿、試練はまた明日から始めるから覚悟しておくようにな。ではおやすみ。」
「ああ、二人ともおやすみ。二人が仲良くなってほっとしたよ。」
太助の言葉に、笑みを少し浮かべてヨウメイとキリュウはリビングを後にした。
階段を上り、キリュウの部屋へと入る。そこで、キリュウが言った。
「少し月を眺めてくる。・・・ヨウメイ殿も一緒にどうだ?」
「いいですね、お月見ですか。ではお言葉に甘えて・・・。」
そして屋根の上へとあがり、並んで腰を下ろす二人。
満月でもなく、まったくの晴天でもなかったが、二人が月を見るには十分であった。
うっすらとかかるくもにより、時折薄暗くなる辺り。
ほんのしばらくすると、月夜の明るさを取り戻したかのようにもとに戻る。
それが幾度となく繰り返された後、キリュウがゆっくりと口を開いた。
「なあ、ヨウメイ殿。そなたはここに来て変わったな。」
「そうですか?私は私ですよ。」
何気なしに言葉を返すヨウメイ。キリュウふふっと笑って答えた。
「花織殿達のおかげだろうな。昔はもっと硬い性格だった。
私と手を取って握手など、絶対に考えられなかったしな。」
「そ、それは・・・そうですね。昔と比べて変わったのかもしれませんね。」
そして再び月を眺め出す二人。しばらくの後、今度はヨウメイが口を開いた。
「キリュウさん、どうして試練を与えているんですか?」
その言葉に驚いてヨウメイの方を見るキリュウ。
戸惑いつつも、さも当たり前かのように言葉を返す。
「それが私の役目だからな。主に試練を与えて成長させる。他に理由など無い。」
すると、ヨウメイは再び質問した。
「でもキリュウさん、私がすぐ教えられることまで、
長い時間をかけて教えたりなんかしてますよね。それも試練なんですか?」
「そうだ。どんな物事でもすぐに分かってしまって良いものではない。
人間楽ができると成ると、必ずそちらのほうへ行ってしまう。
となると、人間的に成長できる機会を失ってしまうことになるのだ。」
そこでヨウメイは考え込み、更に質問した。
「でも、人間の寿命は限られてます。
約百年・・・いえ、もっともっと短い人だっているんですから、
そんな人に少しの事に長時間費やせなんてのはちょっと・・・と思いませんか?」
「何が言いたいのだ?ヨウメイ殿。」
「つまり、人生短いんだから、もっともっと色んな事を経験したほうが良い。
そうしたほうが、楽しくって成長も沢山できると思うんです。
だから、キリュウさんみたいに遠回りな教え方は、私はしたくないんです。」
キリュウはふうとため息をつき、空を見上げに入った。そしてゆっくりと言う。
「そういう考え方も有るか・・・。だがヨウメイ殿、
苦労して一つの事を得るからこそ、その人生を一生懸命生きた、
という感じになる.という事が言えると思わぬか?」
すると、ヨウメイもキリュウと同じような格好をして、ゆっくりと言った。
「ま、それもそうですね。大体、全てのものがすぐにわかるわけでも無し・・・。」
再び沈黙の時が流れる。
やがて月が分厚い雲に隠れ始めたころ、ヨウメイがキリュウの方を向いて言った
「キリュウさん、ものは考えようですよ。たわいも無いことは私がすべて教えます。
学校の勉強とか、何所のスーパーで品物を買ったら安くておいしいものが手に入るとか。
シャオリンさんを宿命から解き放つなんて難しいことは、キリュウさんが試練によって教える。
もちろん私も手伝いをしますよ。」
「ふむ?つまり・・・。」
ヨウメイの説明に横を向いたものの、まだ完全にわかりきっていない様子のキリュウに、
ヨウメイがじれったいといわんばかりに、身振り手振りを交えて言う。
「もう、何でわからないんですか。そこんところが鈍いって言うんですよ。
いいですか、つまり協力して主様のために頑張ろうって事です。
せっかく同じ主に仕えているんですし。
私達が協力すれば、絶対に主様は立派に成長するはずです!」
思わず力が入るヨウメイに、キリュウは少しあきれ顔になって言う。
「そんな事は百も承知だ。だったらもうちょっと簡単に言ってくれれば良いものを・・・。」
すると、ヨウメイは少し怒鳴り口調になって返した。
「嘘!大体最初ここで会った時に、いきなりいちゃもんをつけてきたじゃないですか。
とても、協力しようなんて態度じゃありませんでしたよ。」
「い、いや、それは・・・。ま、まあそんな事は置いといて、これからもよろしく、ヨウメイ殿。」
気まずい顔で手を差し出すキリュウに、ヨウメイはふふっと微笑んで握手した。
「さてと、話もついたことだしそろそろ眠りませんか?」
そして立ち上がるヨウメイ。キリュウもそれに続いて立ち上がった。
「それもそうだな・・・目覚ましはかけて良いのか?」
「目覚ましですか・・・。私が仕掛けるんじゃだめですか?」
その言葉に少し考え込んだキリュウだったが、やがてこくりとうなずいた。
二人は屋根の上を後にして、キリュウの部屋に入る。
布団を敷き、(前回と同じくヨウメイがベッドの上)二人とも横になった。
「キリュウさんも変わりましたよね。もっと無愛想な人だったのに。」
「ヨウメイ殿の影響だ。それよりヨウメイ殿、口が悪いのは直したほうが良いぞ・・・。」
一言ずつ交わし、ヨウメイとキリュウは寝に入った・・・。
≪第六話≫終わり
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