所変わって保健室。統天書より出されたキリュウがベッドに寝かされていた。
保健室の先生は、何やら驚きの表情で立ち尽くしていた。
「それじゃあ先生、キリュウさんをよろしくお願いしますね。」
花織に言われて、慌てて振り向く保健室の先生。
「え、ええ・・・。大丈夫なの?頭に強い衝撃があったみたいで・・・。
病院へつれて行った方が良いんじゃないかしら・・・。」
「平気平気。キリュウさんの生命力をなめちゃあいけません。
というわけでよろしくお願いします。昼休みには迎えに来ますから。」
楊明が付け加えて、四人は礼をして保健室を出て行った。
「さあてと、教室に戻ろうよ。いくらなんでもずっと抜け出したままってのは良くないから。」
「そうね。先生に怒られたくないし。」
熱美の提案に楊明が賛成する。しかし花織とゆかりんの二人は、
「ええ〜、もうちょっと遊ぼうよ。」
「そうそう。普通じゃできないことだもの。」
といって、反対した。すると楊明は、
「でも私は帰るよ。遊ぶんならお二人でどうぞ。」
と言った。花織とゆかりんはそれに黙り込む。
「花織もゆかりんも、楊ちゃんがそう言うんならしょうがないでしょ。
もう帰ろうよ、ね?」
しかし二人とも首を縦には振らなかった。
それどころか、花織は何やらごにょごにょとゆかりんに耳打ちし出した。
「花織ちゃん・・・?」
ヨウメイが尋ねると同時に、二人はにっこり笑って振り向いた。
「よ〜うちゃん。一つお願いがあるんだけど。」
「なにかしら?」
ヨウメイが不安げに答えると同時に、ゆかりんが擦り寄ってきた。
「さっきのじゅうたんみたいな奴になった物。あれを貸して欲しいんだけど・・・。」
何やら揉み手するゆかりんに、あきれたようにつぶやくヨウメイ。
「あのねえ、ゆかりん。それで二人でどこかへ行こうって事なの?
まったくもう・・・。」
熱美もため息混じりに、ヨウメイと一緒になって言う。
「大体あれは楊ちゃんにしか扱えないと思うよ。だからもうあきらめて・・・」
このとき、ヨウメイにかなりの隙ができていたのだろう。
そのチャンスを逃さず、花織はヨウメイの持つ統天書を奪い去った。
「ああっ!!ちょっと花織ちゃん、返してよ―!!」
「お願い〜。親友にこんな事はしたくないんだけど、あの道具貸して、ね?」
言わずとも交換条件だという事は明らかのようである。
ヨウメイは仕方なく、じゅうたんのもととなる水晶球を取り出した。
それをじゅうたんの形へと変える。
「はい、これでいいでしょ。さあ、統天書を返してよ、花織ちゃん。」
「ちょっと、楊ちゃん・・・。」
ヨウメイを止めようとする熱美だったが、ヨウメイに制された。
「さんきゅう、楊ちゃん。次の授業までには戻ってくるから。」
「それじゃあ、これ返すね。ほんとありがとう。」
二人がじゅうたんに乗ったかと思うと、花織は統天書をヨウメイに手渡した。
「それじゃあ気をつけてね。」
「うん、また後でね〜!」
ヨウメイの言葉に、悠々と手を振ってそこを去って行く花織とゆかりん。
二人が少し遠ざかったところで、ヨウメイはすばやく統天書をめくり出した。
「よ、楊ちゃん?」
「これくらいしないと、花織ちゃんに気づかれちゃうからね。
えーっと・・・、来れ、強風!」
突然学校内に突風が吹き荒れる。
しかしそのころには、花織とゆかりんは校舎の外へと飛び出していた。
「あ、あれー!?いつの間にあんなところへ・・・。」
窓から身を乗り出すヨウメイに、熱美はため息をついて答えた。
「楊ちゃん、花織の遊び能力をまだまだ甘く見てたんだよ。
あれだけの短時間のうちに、花織はじゅうたんの素早い運転方法を身につけたんだよ、きっと。」
熱美のその言葉に呆然とするヨウメイ。
二人は、すごすごと教室へ帰るしかなかった。
ところで、先程の突風がどこへ被害を及ぼしたかと言うと、
「まったく・・・。ヨウメイさんの仕業でしょうね。どうして私がこんな目に・・・。」
購買部では、突然の風に散らばった品物を、出雲が懸命に拾い集めていた。
なぜかは分からないが、那奈もそれを手伝っている。
数十分後、ようやく商品は元の位置に戻ったようだ。
「いやあ那奈さん、ありがとうございます。おかげで助かりましたよ。」
「なあに。その代わりにあたしの好きなもの十個くらいは余裕でくれるよな?」
「え?」
いきなりの那奈のおねだりに固まる出雲。しかしいやとは言えない。
女性にやさしくをモットーとしている出雲をわざわざ手伝ってくれたのだから。
「分かりました・・・。それではどうぞ・・・ってそれはだめですって!!」
「え?なんでさ。」
那奈がもらおうとしたのは、まだ箱詰めになっている新品同様の文具セット。
当然それだけで十個という数は軽く超えている。
「なんでもなにもありませんよ!十個という約束でしょう!?」
「そ。だから箱を十個。」
またもや固まる出雲。いくらなんでもそれだけ持って行かれたのでは、赤字もいいところだ。
慌てて那奈を止める出雲。しかし那奈はそれを振り払った。
「なんだよ。なんか文句でも?」
「だって、それはあんまりですよ。箱を十個なんて・・・。」
うつむきながらも文句を言う出雲に、那奈はこう言った。
「ふうん、さっきのは嘘だったわけなんだ。
やっぱりヨウメイの言う通り、軟派師はうそつきなんだな。」
「別に嘘をついたわけじゃ・・・。」
「・・・わかった。パンを十個もらうよ。それでいいから。」
その声にぱあっと顔を輝かせる出雲。
「ほんとですか?よかった・・・。」
そしてうれしそうに袋にパンを詰め始めた。
十個のパンが入った袋を那奈に手渡したところで、那奈が一言。
「その代わり、昼休みに天罰を与えに来るから。逃げるなよ。」
そして那奈は去って行った。出雲は三度目固まっている。
昨日の悪夢がよみがえったのだろうか。
出雲ははたと我に帰ると、いそいそと帰り支度を始めた。とその時、
「宮内さん、こんにちは。もうお帰りなんですか?」
と、出雲は声をかけられた。びくっとなって振り返ると、そこにはヨウメイと熱美が立っていた。
結局この二人も、教室に帰らずにうろうろしているのであった。
「よ、ヨウメイさん、それに熱美さん。帰るわけないですよ。こんにちは・・・。」
「こ、こんにちは。出雲さん、私の名前覚えてくれたんですね。嬉しいです。」
熱美が少しほほを染めながら答える。そんな熱美をちらりと見ながら、ヨウメイが言った。
「まあ、これくらいは当然ですよね。女性にはやさしいというのがモットーなんですから。」
「は、はは、そうですね・・・。」
それに熱美が反応した。先程の照れはどこへやらという感じで。
「ちょっと楊ちゃん!」
「だって、本当の事だもの。別に熱美ちゃんが好きだからって訳じゃないでしょ。」
「・・・それもそっか。まあいいや、出雲さんに名前を覚えてもらっただけで。」
そして三人で笑う。購買部は和やかな雰囲気に包まれたようであった。
ところが、ほんの数秒と経たないうちにヨウメイがずずいっと前に出た。
その姿に、当然出雲は後ずさりする。昨日の悪夢を再び思い出したようだ。
恐る恐る出雲が尋ねる。
「な、なんですか、ヨウメイさん。」
「鉛筆を一本いただこうと思って。だってここは購買部でしょう?」
予想外の質問にしばし立ち尽くす出雲。
反応が無い出雲に、ヨウメイは“?”という顔をしてもう一度言った。
「宮内さん?鉛筆は置いていないんですか?」
「あ、ああはいはい。有りますよ、いくらでも。さあ、お好きなのをどうぞ。」
そして鉛筆の入った箱を見やすい位置に持ってくる。
ヨウメイが覗くと同時に、熱美もそれを覗きこんだ。
「いろいろ有るわね。どれにしようかな・・・。」
「でも楊ちゃん、鉛筆よりシャープペンシルの方が良くない?」
「ううん、鉛筆じゃないとだめなの。・・・あ、これにしますね。」
ヨウメイは一本鉛筆を選び、それを出雲に見せた。
出雲は“はい”と頷いたかと思うと、
「代金は払わなくて良いですから。無料で差し上げますよ。」
とにこやかに告げた。相手がヨウメイでも、いつもの行動を成し遂げる姿はさすがといえよう。
しかしヨウメイは首を横に振ったかと思うと、財布を取り出した。
「そんな事を言っては鉛筆さんに失礼でしょう?ちゃんと払いますから。」
そして代金を出雲の手にしっかり手渡す。戸惑いながらも出雲はそれを受け取った。
新品の鉛筆を改めて手に持つヨウメイに、熱美は感心したように言った。
「楊ちゃんてしっかりしてるね。あたしなら絶対無料でもらうけどなあ。
それに鉛筆さんに失礼なんて普通言わないよ。」
「あれはちょっとした例えよ。まあ、気まぐれってやつだからあんまり気にしないで。
さてと、さっそく使ってみましょうか。」
片手に鉛筆、片手に統天書という格好でヨウメイは統天書をめくり出した。
・・・いや、統天書がひとりでにめくれているのである。
まるであるページを指し示すかのように。
「よし、ここね。・・・来れ、小竜巻っ!」
ヨウメイが小さく叫んだかと思うと、鉛筆の周りに空気の渦が発生した。
それは見る見るうちに鉛筆を削り・・・。やがてとがった黒い芯をあらわにした。
満足の笑みを浮かべて、ヨウメイは統天書を閉じる。
「うん、なかなか良いわね、この黒いつやといい・・・。
これなら十分書きこむのに使えそう。良かったわ。」
にこにこしているヨウメイに、出雲が少し尋ねた。
「ヨウメイさん、それは他の鉛筆と何か違うんですか?」
「ええ、見た目はほんの少しですけど。」
ヨウメイの言葉に、今度は熱美が尋ねた。
「でも、普通のと変わらないような・・・。いったい何が違うの?」
するとヨウメイは、再びにっこりとしてこう言った。
「さっき竜巻で削ったでしょ?
それで、この鉛筆でも統天書に書きこめるようになったって訳。」
「「ええっ!?」」
熱美と出雲が同時に声をあげる。そしてそれぞれが質問した。
「他の筆記用具じゃ書きこめないって事なんですか?」
「ええ、そうですよ。無理やり書きこんでも、すぐにそれは消えちゃうんです。」
「楊ちゃん、それで何を書きこむの?」
「キリュウさんの試練日記よ。統天書にとって無意味な事は残らないから、
私自身が書きこまないといけないの。試練なんてキリュウさんの専門分野だし。
それによって得られる統天書でも分からないものは、
私じゃないと統天書に残せない、ということなの。」
そこで二人が“へえー”と頷く。それと同時に心の中で少しにこりとした。
統天書の新たな秘密を一足早く知ったという優越感から。
「でも、せっかく削ったのに今はつかえないか。まあいいや、また後で。」
そう言うと、ヨウメイは鉛筆を統天書に挟み込んだ。
それを確認した後で熱美が言う。
「さてと、それじゃあ教室に戻りましょ。そろそろ帰らないと、ね、楊ちゃん?」
「それもそうね。じゃあ出雲さん、ありがとうございました。」
ぺこりと礼をして購買部を去って行く二人。出雲は手を振ってそれを見送った。
しかし、二人が出雲から完全に見えなくなる前に、ヨウメイがくるりと振り向いた。
「宮内さん、昼休みもちゃんと居てくださいよ。試練があるんですから。
もし逃げたら、天罰が待ってますよ。ふふふ・・・。」
不気味な笑いを残して、ヨウメイは再び向きを変えた。
振っていた手を止め、出雲は再び立ち尽くす。
しかし、やがて観念したように、購買部の椅子に座りなおした。
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
そして休み時間が終わり、授業が再び始まる・・・。
今は、次は昼休み、という手前の授業だ。
「ふう、なんだかんだ言っておきながら、結局ヨウメイは試練をしに来なかったな。
キリュウも保健室から戻ってこないし。これじゃあなんのために気合入れたんだか・・・。」
席につくと同時に、なんだか疲れたようにため息をつく太助。
気合を入れるだけで疲れるとは、太助特有の性質だろうか。
「太助様、もしかしてヨウメイさんやキリュウさんに何かあったのでは・・・。」
席に座らずに太助の傍にやってきたシャオが言う。
それを聞いて太助も考え込んだ。
あの二人の性格からして、試練をすっぽかすなど考えられなかったのだから。
「うーん、ちょっと心配だな。顔をあれから一度も見せてないってのが。」
「ですよね。探しに行った方が・・・。」
シャオが言っていることは、いわゆるさぼりである。
ちなみに、太助の言う“あれから”というのは、窓の外からじゅうたんでやって来たとき。
キリュウを統天書に封じて、保健室へつれて行ったときのことである。
太助はしばらく考え込んでいたかと思うと、シャオの方へ向いて黙って頷き、そおっと立ちあがった。
シャオが少し顔を輝かせる。ヨウメイたちを探すために授業を抜け出そうという事だ。しかし、
「たー様!!そんでもってシャオリン!!二人してどこへ行こうっての!?」
ルーアンにあっさり見つかってしまった。その声に、生徒達も振り返る。
びくっとしながらも二人は振り返って言った。
「休み時間にヨウメイが来なかっただろ、だからちょっと心配になってさ・・・。」
「そうなんです。だから今から探しに行こうかと・・・。」
ルーアンは黙って黒天筒を取り出した。そしてくるくると回しだす。
「陽天心召来!」
陽天心をかけたのは教室の扉。当然二人を外へ出させないようにするためだ。
「ちょ、ちょっとルーアン!二人が心配じゃないのか!?」
「そうですよ!陽天心を解いてください!」
「だまらっしゃい!!あたしの授業を聞かないで無愛想娘と歩くなんでも辞典を探しにいくですって―!?
そんなことはこのあたしが絶対に許さないわよ!!」
なんとなくいつもより気合の入った声に、二人は圧倒されてしまった。
そしてすごすごと自分の席へと戻る。
「まったく、そんなに心配ならあたしが様子を見てあげるわよ。よっ、と・・・。」
ルーアンが懐からコンパクトを取り出した。
これでキリュウとヨウメイの様子を見ようというわけである。
「まずはキリュウ・・・保健室で寝てるわよ。相変わらず寝相悪そうね・・・。」
ルーアンが生徒達に向かってコンパクトを見せる。
写っていたのはもちろんキリュウ。
キリュウの寝顔に何やらうっとりする男子生徒もいたが、寝相の悪さを見てすぐもとの顔に戻ったりした。
「キリュウは無事なんだ。ヨウメイは?」
「はいはい、せかさないでよ、たー様。えーと・・・。」
コンパクトの画面が真っ暗になり、別の風景を写し出す。
やがてヨウメイの姿を確認することができた。いつもの三人と一緒である。
しかし、何やらうつむいてしゅんとしている。四人とも・・・。
「どうしたのかしら、四人とも。」
「ルーアン、声を聞こえるようにできないのか?」
太助に言われて、ルーアンが何やらいじる。すると、
「大体おまえ達は!!」
という大きな声が響き渡った。どうやら、四人は先生に怒られているようである。
とっさの出来事にしばし呆然としていた生徒達だったが、
やがてあちらこちらからくすくすという笑い声が聞こえ出した。
「どうやら授業サボってて先生にしかられてるみたいね。
ヨウメイともあろうものが・・・こんな事くらい予想できなかったのかしら。」
そして怒られつづけるヨウメイ達をみんなは見る。そしてまたもや笑い出す。
こんな調子は、ルーアンがコンパクトを片付けるまでそれは続いた。
場所を変えて一年三組。つまり花織のいるクラス。
コンパクトが写し出した情景そのままに、四人は怒られ続けていた。
「まったくおまえ達という奴は・・・。特にヨウメイ!
おまえがちゃんとしていないとだめじゃないか!」
「先生!楊ちゃんは悪くありません。あたしが楊ちゃんの道具を取ったから・・・。」
「愛原!!どっちにしてもヨウメイ自身も授業をサボっていたのだからな。
もちろんおまえらも同罪だぞ。編入初日で教室を抜け出すなど・・・。」
こんな調子で、先生のお説教は果てしないと思えるほど続いているのである。
今のこの状態、ヨウメイはちゃんと予想していた。
ただ、花織のペースに惑わされて予想をはずれの方向へと自分なりに持って行ったのであろう。
しかし、結局最初の予想通り、先生に怒られる羽目となったのである。
約半時間も説教が続いたろうか。そこでようやく先生はこう言った。
「まあ、これに懲りて二度とそう言うことはするなよ。分かったな!」
「「「「はいっ。」」」」
しっかり返事をして答える四人。
「よーし、それじゃあ席に座れ。授業を始めるから。」
先生に言われて、それぞれ自分達の席へ向かう。
今回は、ヨウメイが教えた部分とはまったく違うので、授業がちゃんと行われることとなった。
「それじゃあみんな、教科書の76ページを開いて。」
先生に言われて教科書を開く生徒達。しかし・・・。
「こらっ、そこ、寝るな!」
なんと、生徒達の大半はやる気を出さずに授業に臨んでいるのだ。
授業を開始して数分のうちにそういう生徒がほとんどとなった。
もちろんこんな状態で授業など出来るはずも無く、
最初は注意だけしていた先生も、ついには怒り出してしまった。
「おまえ達!授業を受ける気は無いのか!!」
すると男子生徒が一人手を上げて立ちあがった。
「だって、ヨウメイちゃんが普通に授業してくれた方が断然面白いって。
二年の先輩達が言ってましたよ。それなのにこんな・・・。」
続いて今度は、女子生徒が立ちあがる。
「ヨウメイちゃんは最初の挨拶のとき、楽しくやりましょうって言ったんです。
なのに、こんな授業だと全然楽しくありません!」
それに続き、あちこちから野次が飛ぶ。
先生は一応叫び返すものの、それらに呑まれそうに成っていた。
しばらくそんな時間が続いたかと思ったら、ヨウメイが立ちあがって叫んだ。
「来れ、真空!」
文字通り真空。つまり空気がまったく無い状態である。
一瞬のうちに騒ぎは収まり、そしてヨウメイは統天書を閉じた。
そこで皆がぐたっとおとなしくなる。あちらこちらから咳をする声が。
隣にいた熱美が、むせ返りながらヨウメイに言った。
「・・・げほげほ。楊ちゃん、今のはちょっとやり過ぎなんじゃ・・・。」
「だって熱美ちゃん、これくらいしないと止まりそうに無かったもの。
みなさん、確かに私は楽しくやろうと言いました。
でも、だからと言って授業を投げ出して良いはずが有りません!
・・・そりゃあ、私はさっきまで授業をサボってました。
でもでも、先生がせっかくいらっしゃるんだからみんなきちんと聞かなきゃ。
この先生の授業は、今しか受けられないんですよ。
私の授業じゃないと受けられないなんて、そんな悲しい事言わないで、ね?」
みんなを見まわしながら、演説風に言うヨウメイ。
数秒の間沈黙の時が流れる。そして、ぱらぱらと、やがて大きく拍手が繰り出された。
生徒達の笑顔を確認し、ヨウメイは椅子に座った。
「すごいね、楊ちゃん。みんなを納得させて。」
「これくらいは出来ないと。一応人に物を教える立場だし。」
拍手が未だ鳴り止まない中、花織が立ちあがって元気良く言った。
「それじゃあ先生、授業を再開してください。なるべく楽しい授業をお願いします。」
花織の声にどっと笑い出す生徒達。先生はふうと一息ついてから、授業をし始めた。
一悶着有ったものの、なんとか無事に昼休みを迎えられたわけである。
昼休みを継げるチャイムが鳴り響く。
待ちかねたように弁当を広げる者、そして猛ダッシュで購買へと向かう者。
昼休みの過ごし方は様々である。ヨウメイ達四人は、仲良く弁当を広げてそれを教室で食べていた。
もちろん、これはシャオが作った弁当である。朝は七梨家に四人とも居たのだから。
「うーん、おいしい。シャオ先輩ってお弁当も作るの上手なんだね。」
「ほんと。こんな弁当を毎日食べてる七梨先輩がうらやましいな。」
声を上げたのは熱美とゆかりん。この二人にとって、シャオのお弁当は初めてだったので無理もない。
ヨウメイは相変わらずにこにこと。花織は少し複雑そうな表情を浮かべていた。
花織本人は、いつかこれよりおいしい弁当を作ってやる、と意気込んでいた。
しかし同時に、本当に作れるのかな、という不安もあった。
それで複雑な表情となっていたわけである。
「花織ちゃん、どうしたの?ひょっとして花織ちゃんにとってはおいしくないとか?」
ヨウメイはそんな花織が気になったのだろうか。心配そうな顔をして尋ねた。
すると花織はすぐに笑顔に戻って、勢い良く食べ始めた。
「ううん、そんなことないよ。楊ちゃん、気にしないで。」
「そう?私は人の心はわからないの。不安な事が有ったら遠慮無く言ってよ。」
「そうよ、花織。楊ちゃんの言う通り、あたし達は親友なんだから。」
「一人で悩まないでね。」
三人の言葉に、花織は更に笑顔になる。大丈夫だ、と言わんばかりに。
心配事や不安をすべてプラスへと変え、悩みをふっきったようであった。
一方、仲良く話をしながらお弁当を食べる太助達。
いつもの平和な、のどかな昼休みもようである。
「やっぱりおいしいなあ、シャオちゃんのお弁当は。」
「たかし、ここんとこ毎日たかりに来てるな。ちゃんと自分の持ってきた奴を食えよ。」
「まあまあ太助君、これだけおいしいとそれもしょうがないよ。」
「いっぱい有りますから、みなさん沢山食べてくださいね。」
「とーぜんよ。がつがつ・・・。」
例によって、シャオのお弁当を食べるために周りにやってきているたかし、乎一郎、そして翔子。
いつもと変わらない、メンバー達である。
「それにしても、昼休みだってのにキリュウの奴戻ってこなかったな。」
「まだ寝てるんじゃないのか?それとも昨日の続きをしに行ってるとか。」
ポツリと言った太助に、翔子がさらりと答えてやった。太助がそれに聞き返す。
「昨日の続きってなんだ?」
「おにーさんへ与える試練だよ。昨日はみんなに言われて引き下がったけどさ、やっぱりやる気なんじゃない?
廊下で立ってたときにヨウメイ達と会って、その時言ってたんだ。
“昼休みの件は忘れていないだろうな”って。」
翔子の言葉に、はたと手を止めるみんな。
確かに、あっさりと引き下がったままで居るとは思えない。
なにしろあの時、道具を返してくれと必死に頼んできたのだから。
「大丈夫でしょうか、出雲さん・・・。」
シャオがぽつりと言ったその時、ガラッと戸が開いたかと思うと、キリュウが入ってきた。
ついさっきまで眠っていたようであるという事は、その目が語っている。
「ふああ、済まぬな、主殿。ついつい寝すぎてしまった。
まあ、ヨウメイ殿に少し頼んであったから大丈夫だろう。試練はどうだった?」
つかつかと寄ってきて椅子に腰掛けるキリュウ。シャオに箸を手渡されて、お弁当を食べ始めた。
太助はしばらく間を置いてキリュウに言葉を返す。
「それがさ、ヨウメイの試練自体受けてないんだ。なんかいろいろ忙しかったみたいで。」
しかしキリュウは動じることなく、お弁当を食べつづけていた。
ある程度食べたところで一休みして太助に言う。
「なるほど、それなら仕方ないな。では放課後に本格的にやるということで。」
そして再び食べ出す。なんとなく様子がルーアンに良く似ているものの、
やはりキリュウらしい、パクパクというペースで食べていた。
一生懸命に食べている途中で悪いと思ったものの、たかしは少し気になって尋ねてみた。
「ところでキリュウちゃん、出雲に試練を与えに行くの?」
するとキリュウは、ご丁寧にも食べる手を止めて答えた。
「誰がそんな事を言ったのだ?確かにその予定だったが・・・。」
「あたしだよ。廊下で言ってたことを思い出してさ。やっぱりそうだったんだな。」
翔子のほうをちらりと見るキリュウ。しかし反応はそれだけで再び食べに戻った。
「ずいぶんとそっけないな。実は秘密に動く予定だったんじゃないのか?」
太助の声に再び手を止めるキリュウ。いや、もう終わったようだ。
飲み物を二口ほど飲むと立ちあがる。
「廊下で翔子殿が居る側で喋ってしまった以上、秘密に動くのは不可能だろうしな。
それに、そんなに向きになって隠すものでもないと思った。それだけだ。」
そしてキリュウは廊下へ出ようとした。慌ててシャオが立ちあがる。
「待ってください、キリュウさん。出雲さん、昨日あれだけ反省していたじゃないですか。
それにあんなすごい試練をしてしまうと、出雲さんどうなってしまうやら・・・。」
「心配無用だ。これは天罰ではなくて試練だからな。
無論、出雲殿の態度によってどんなに変わるかは予想できぬが。」
最後に気になるセリフを残し、キリュウは去って行った。
もちろん太助達はそれを止めたかった。しかし去り際のキリュウは、
心なしか気合に満ちた感じであった。おそらく止めることは出来なかっただろう。
それでも、おそらく死ぬほどまではするまいと思い、皆は再び食事に戻った。
そして再び花織のクラス。花織達四人は、お弁当を食べ終わったところであった。
「ふう、おいしかった。最高のお弁当だね。」
「ほんと。七梨先輩達がうらやましいな。」
「やっぱりシャオリンさんのお弁当だもの。仕方ないよ。」
「三人とも良く聞いて。あたし、絶対にこれよりおいしいお弁当を作ってみせると断言するから。
シャオ先輩に負けっぱなしじゃ、七梨先輩に振り向いてもらえないもの!」
落ち着いた三人とは違って、気合十分の炎を燃やす花織。
三人とも少し苦笑いを浮かべてそれを見ているしか出来なかった。
ちょうどその時、
「ヨウメイ殿、約束の時間だぞ。さあ、早く行こう。」
と、教室の入り口にキリュウがやってきた。
「あ、キリュウさんだ。そっか、もうそんな時間なんだ。
熱美ちゃん、ゆかりん、先生が聞いて来たら、遅れてきますって言っておいて。
ちょっとキリュウさんと約束してるもんだから。」
「いいけど。・・・約束って何?」
ぽかんとして聞き返すゆかりん。熱美が思い出したように言った。
「そういえば言ってたね、出雲さんに試練をやるって。それのことなの?」
「うん、そう。放課後の練習って形でね。
昨日途中で帰っちゃったし、丁度いいかなって思って。」
そしてヨウメイガ立ちあがる。ゆかりんは納得して頷いたが、熱美はもう一つ聞いてみた。
「ねえ、どうして私とゆかりんなの?花織は?」
「だって花織ちゃんは忙しそうなんだもの・・・。」
花織の方に指をさすヨウメイに、二人も花織の方を見る。
“先輩にあーんしてもらって・・・”とかなんとかつぶやきながら、
夢見る乙女状態に入っている。つまり、他からの影響を何も寄せ付けない状態だ。
確かにこれは忙しそうである・・・。
「それじゃあ頼んだよ。」
「うん、任せといて。」
「あんまり無茶しないでよ。」
熱美とゆかりんに手を振って、入り口に立つキリュウの側へと駆け寄るヨウメイ。
笑顔で一言ずつ交わしたかと思うと、仲良く並んで歩き去って行った。
「・・・うーん、最初のころじゃ考えられないよね。」
「そうだね、あんなにいがみ合ってたとは思えないよ。
・・・そうだ!いつかキリュウさんも友達に誘ってみよう。仲良し五人組とか言って。」
「ゆかりんらしいなあ。でもキリュウさんの地ってどんなだろうね。」
「意外ときゃぴきゃぴしてるかもよ。普段はその反動でおとなしいとか。」
「・・・それってなんかやだなあ。試練よ〜、耐えて〜。
なんて言われたら、笑って試練どころじゃないよ。」
「それもそうか。あはははは。」
二人の話に花が咲く。花織は相変わらず乙女モードに入っていた。
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