小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!)


≪第九話≫
『出雲への試練!』

「はい、どうぞ。」
「うわあ、ありがとうございますー。」
「いえいえ、女性にこれくらいは当然ですよ。」
ここは購買部。出雲はいつもの笑顔を振り撒き、いつものように女性に無料でパンを配っていた。
数え切れないほど(いや、実際そんなに居るわけではないが)の女子生徒すべて。
その子らに対して無料で配っているのだから、相当な赤字のはずなのだが・・・。
「なあ宮内、そんなに無料で配って、困ったりしないのか?」
那奈がついさっきもらったパンにかぶりつきながら尋ねる。
ちなみに手前にもらった十個のパン。それらはすでに那奈の胃の中に収まっていた。
「心配無用ですよ、那奈さん。それなりに対処してるんですから。」
「ふーん、まあいいや。」
何をそれなりにという事は訊かないでいた。わざわざ聞くものでもないと那奈は判断したのだろう。
大量のパンを配り終え、(男子にはしっかりと売りつけ)購買部の前に居るのは那奈のみとなった。
昼休みもそろそろ終わりという時間である。
「さあてと、後は放課後を待つのみ。でも暇だなあ。なんか面白いこと無いかな?」
「そんなもの有るわけが無いでしょう。適当に本を読んですごしたらいかがですか?」
「本ねえ・・・。図書室に行くってみようか。じゃあな。」
そして購買部を去って行こうとした那奈。
しかし、向こうから面白い事の種になりそうな人物が歩いてくるのを見て、ぴたっと立ち止まった。
その人物は二人組。話をしながら仲良さそうに並んで歩いてくる。
そう、キリュウとヨウメイである。
「すっかり仲が良くなったみたいだな。なあ、宮内。」
「は?誰が・・・よ、ヨウメイさん!そしてキリュウさん!」
二人が歩いてくることに気がつかなかった出雲。那奈に言われて振り向き、そこでその姿を確認した。
出雲自身、試練が有るとかそう言うことを、今の今まで忘れていたのだ。
読んでいた本を慌てて取り落としそうになったが、何とか平静を装おうとする。
「どした?あの二人となんか有ったのか?」
「い、いえ別に。それより那奈さん、図書室にはいかないんですか?」
「ああ、やめにしたよ。ここに居る方が面白そうだし。」
「は、はあ、そうですか・・・。」
出雲としては那奈にはあんまり居て欲しくは無かったのだが、
無理に追い出そうとすれば、後で那奈やヨウメイに何を言われるか分かったものではない。
覚悟を決めたように座り込んで、二人が近づいてくるのを待った。
やがて笑顔の二人が購買部に到着。それでも出雲は普段の顔で座っていたが。
「こんにちは、那奈さん。どうしてこんな所に?」
質問でも笑顔を絶やさないヨウメイに、那奈はこれまた笑顔で答えた。
「ちょっと暇だったからさ。でもこうして面白そうなイベントに巡り会えたみたいだ。結構結構。」
その言葉に、あきれながら頭を掻くキリュウ。
「あまり面白いものではないぞ。ただの試練だからな。
あんまり邪魔はしないでもらいたいのだが・・・。」
もちろん那奈は引き下がらなかった。それどころか更に目を輝かせる。
「邪魔なんてしないよ〜。で、誰に与える試練なんだ?」
「それは宮内さんです。ちゃんと約束したんですものね?」
ヨウメイが購買部の中を覗き込むように身を乗り出す。
それと目が合った出雲は、やれやれというように立ちあがった。
「ええ、一応そうなんですが・・・しかしなんで私に?」
さりげなく逃れようとする出雲。
それを拒むかのように、キリュウが前にずいっと出た。もちろんヨウメイもそれに続く。
「昨日の一件を忘れたわけではあるまい?あの時は皆に言われて中止しただけだからな。」
「だから、昼休みに二人だけで続きをやろうと思って。まあ、今は二人だけじゃないですけど。」
そして二人同時に那奈を見る。なんとも言いがたい表情だったが、那奈は軽く手を振ってそれに答えた。
「はあ、結局こうなるんですか・・・。まあいいでしょう。
あんまり激しすぎるのは勘弁してくださいよ。じゃあ始めてください。」
両手をだらんとして、いつでもどうぞのようなポーズを取る出雲。
キリュウはそれに反応するかのように短天扇を広げ、万象大乱を唱えた。
巨大化した椅子が出雲を廊下に吹っ飛ばす・・・が、出雲は華麗に着地して見せた。
昨日の試練が身についたのだろうか。
「ほう、うまいな。宮内殿、なかなかやるではないか。」
「ふっ、これくらいは当然ですよ。」
そしてふぁさっと髪の毛をかきあげる。
こんな所を見たら、すかさず何か言うヨウメイなのだが・・・。
「どした?ヨウメイ。あんたは何もしないのか?」
那奈のそんな声にも反応せず。実はさっき那奈の方を見た時から何やら考えているのであった。
しばらくそんな時間が流れたかと思うと、ヨウメイがきりっとした顔で言った。
「那奈さん、少し判断というか審判というか、それをしてもらえませんか?」
「はあ?どういう事だ?」
「つまり、宮内さんへ与える試練が、それ相応にふさわしいものかどうかを見て欲しいのです。
もちろん、こんな試練はどうだとかいう提案でもかまいませんよ。」
それを聞いた那奈は少し考えていた。
しかし、昨日の詳しい説明を受けると、顔をにぱっとさせて快く承諾した。
「あの、那奈さん。あなたまで無理に加わらなくても・・・」
「来れ、洪水!」
出雲の言葉をさえぎって大量の水を呼び寄せるヨウメイ。
しかし、出雲は昨日のヨウメイの言葉のとおり、ちゃんと泳いで抵抗した。
それでも、ある程度流されてしまったのは言うまでも無いが。
「なんだ、宮内の奴結構やるじゃないか。さすが、軟派神主。」
「あのねえ、那奈さん・・・。」
あきれながらも、出雲の顔にはまだまだ余裕があるようだ。
そんな出雲の顔を見たキリュウとヨウメイは、にやあっと笑いを浮かべた。
「さすが宮内殿だな。うむ、いいぞ・・・。」
「これでキリュウさんと相談した甲斐があったというものですよ。ああよかった。」
一言ずつ喋ったかと思うと、二人はそれぞれの道具を構えた。
出雲はそれに素早く反応し、油断無く身構える。
「来れ、転石!」
「万象大乱!」
突然石が現れたかと思うと、それが一瞬で巨大化した。
当然出雲は唖然とする。どんなにすごいものかと思いきや、
普段キリュウがしているものと変わりなかったのだから。
「まったく、私もなめられたもんですね。でもこの程度なら・・・。」
そして廊下を走り出す出雲。それを追いかける巨大な石。
もちろん、キリュウ、ヨウメイ、那奈もその後を追う。
それと同時に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
上手い具合に、廊下に出ている生徒達を巻き込まずに済んだわけである。

「はあ、はあ。なんだ、これくらいの試練なら楽勝じゃないですか。
おまけにいい運動にもなるし。一時はどうなることかと思いましたが。」
まるで意志を持つかのように、出雲の後を追う石。
ある程度のところまで来たかと思うと、意思はぱっと姿を消した。
それに合わせて、出雲も走るのをやめる。
しばらく遅れて、那奈、キリュウ、ヨウメイの三人が走って追いついてきた。
「三人とも遅いですよ。試練を与えるならちゃんと後を付いて来て頂かないと。」
那奈は平気そのものだったが、キリュウ、ヨウメイの二人は息をゼイゼイと切らしていた。
それを見て“ふふっ”と笑みを浮かべる出雲。
「まったく、あれしきの運動で息が切れるか?ふつー。それより全然宮内は平気そうだな。
もうちょっと厳しくした方が良いんじゃないのか?」
「そ、そうですね。ふう、ふう・・・。」
息もたえだえに答えるヨウメイ。出雲は更に笑みを浮かべた。
「大丈夫ですか、ヨウメイさん。キリュウさんも、少し休まれてはいかがですか?」
「・・・・・・。」
出雲の声に、無言で腰を下ろしたキリュウ。もちろん息を激しくしているのは変わらない。
「おいおい、キリュウまで・・・。だらしないなあ、いつもの元気はどこへ行ったんだ?」
那奈の声にもキリュウは黙ったままだ。更にヨウメイも座り込んだ。
あきれ顔になる那奈。出雲は精霊二人の様子を見て、少し渇を入れるように言った。
「試練を与える二人がそんなことでどうするんですか!もっと真面目にやってくださいよ!」
それでも二人の様子は変わらない。相変わらず苦しそうに呼吸をしている。
那奈はそれを止める気にもなれず、出雲は更に続けて言った。
「聞いてあきれますね、昨日あんなにすごんでいたくせに。
お二人で相談してこれなんて、よほど相性が悪いんですかね!!」
“なっ!”という感じで出雲を見る那奈だったが、
キリュウとヨウメイの様子を見て、言葉を返す気にもなれずに座り込んだ。
那奈が座った瞬間、キリュウとヨウメイの息がぴたっと止まる。いや、通常に戻ったようだ。
「宮内さん・・・。」
「なんですか、ヨウメイさん。」
余裕の表情を浮かべる出雲。それに対しての答えなのだろうか。
ヨウメイとキリュウはすっと立ちあがった。
「ようやく試練再開ですか。今度はしっかり頼みますよ。」
出雲の声に、ヨウメイが顔を上げてにたあっと笑う。
その様子もなんのその。出雲は相変わらず平静で居た。
「今度はどんな試練ですか?」
出雲がそう言った後、ヨウメイはゆっくりと統天書をめくり出した。
「来れ・・・突風!!」
ヨウメイの声が廊下に響いた瞬間、出雲の姿はそこに無かった。
突風によって、窓から外へと放り出されたようである。
慌てて窓に駆け寄る那奈が見たものは、まっ逆さまに地面へと落ちてゆく出雲だった。
付け加えておこう。実はここは三階である。
「ちょ、ちょっと。うわー!!」
落ちながら叫ぶ出雲を笑顔で見ながら、ヨウメイとキリュウは同時に叫んだ。
「来れ、竜巻!」
「万象大乱!」
出雲の真下に竜巻が出来あがったかと思うと、それは一瞬で巨大化した。
もちろん出雲をしっかり巻き込んでいる。
竜巻の影響により、出雲は地面に落ちずに空へ空へと舞い上がっている。
「ひ、ひええー!!」
叫び声をしっかり上げているが、もちろん周囲の人間に届くことは無かった。
唖然としてその情景を見つめる那奈。
しばらくして我に帰った彼女は、慌ててヨウメイとキリュウに訊いてみた。
「さっきのさっきまでやる気が無くて、いきなりこんな事をやりだすなんてどういう事だよ!
あれじゃあ宮内の奴死んじゃうんじゃないのか!?」
すると二人はにこりとしてこう言った。
「休憩・・・いや、あれは“ふり”かな。
あそこで宮内殿が調子に乗らずに居たのなら、軽い試練をしようと思っていたのだが。」
「あまりにも私たちを馬鹿にしてるもんだから、結局打ち合わせ通りの試練を行ったんです。
まったく、昨日で少しは素直になったのかと思ったのに・・・。全然懲りてませんね。」
再び唖然とする那奈。しかしすぐに元に戻ってもう一度訊いてみた。
「あのさあ、だからって・・・。
宮内の奴が死んじゃうんじゃないかって思うんだけど。」
キリュウがそれに答える前に、ヨウメイがさらりと言った。
「大丈夫でしょう、真面目にやれだとか散々威張ってたんですから。
やれやれですね。昨日と比べて手加減したってことに気付いてないんだから・・・。」
手加減というのは、洪水のことだ。
あきれ顔になりながらも笑い出すヨウメイ。キリュウがそれをつつく。
「ヨウメイ殿、ではそろそろ本格的に行こうか。」
その声にヨウメイが反応する前に、那奈は大声を上げた。
「ちょっと待てよ!あれで未だ本腰じゃないってのか!?」
無理も無い。人間を竜巻に巻き込む自体恐ろしいことなのだから。
「当たり前でしょう?あんなのまだまだ序の口ですよ。
一応の目標として、あの竜巻に乗って空中散歩してもらわなくちゃ。」
「そういう事だ。では行くぞ。・・・と、那奈殿はここで見ておられよ。」
「ま、待てって二人とも!」
那奈が止めるのも当然聞かず、二人はそれぞれ飛ぶ道具に乗って、窓から校庭の上空へと飛び出した。
ちなみに校庭に人影は無い。だからこそ二人はこの試練(?)を選んだのである。
出雲は依然竜巻の中。幾度となく体をまわされたのだろう。
気を失ってはいなかったが、完全に目を廻していた
もちろん竜巻の強さ自体は、ヨウメイがちゃんと調整してある。
「た、たひゅけて〜・・・。」
飛んできた二人を見かけた出雲は、情けないながらも助けを求める。
ヨウメイはにやりと笑って統天書をめくり出した。
「来れ、上昇気流!」
「うわああ!!」
出雲の体が竜巻から出たかと思うと、天高くへ昇って行った。
竜巻は一定の高さで途切れているのである。
つまり、空中洗濯機というような状態を思い浮かべれば分かりやすいだろう。
やがて出雲が一定の高さまで来たかと思うと上昇を止め、今度は落下して行く。
「ううう、うわあああ!!」
落ちながら叫び声を上げる出雲に、キリュウが大声で叫んだ。
「宮内殿!購買部で華麗に着地したように、見事竜巻に上手く着地して乗って見せよ!
さすれば試練を超えたものとするぞ!」
「そそそ、そんな無茶なああ!!」
必死に叫びながら竜巻へ落ちてゆく出雲。
当然キリュウの注文通り出来る訳もなく、最初と同じように竜巻に巻き込まれてしまった。
ぐるぐると回る出雲を見て、ヨウメイが一言。
「たくう、ちゃんと予習ぐらいしといてくださいよ。
キリュウさんが親切にも練習までさせてくれたっていうのに。」
それは一応那奈の耳にも届いた。那奈の反応は、
「予習なんてそんな無茶な。それにキリュウの時と比べられるもんじゃないだろ・・・。」
と、普通通りの反応である。そしてキリュウは、
「完全にサボりだな。まったく、宮内殿は昨日何をしていたのだ!」
と、少し怒り気味である。そしてヨウメイは、出雲に向かって大声で叫んだ。
「言っときますけど、ちゃんと出来るまで何回でもやりますからね!」
「えええ〜!?それってどういう・・・」
「来れ、上昇気流!」
再び竜巻の更に上空へと放り出される出雲。
「ま、またですかああ!!?」
悲惨な叫び声が辺りに響く。当然、こんな状態を学校の生徒達が気付かないわけは無いのだが、
ヨウメイが前もって蜃気楼を呼び出しておき、校舎からは常にいつもの景色が見えるようになっている。
つまり、この試練を知っている者は、出雲、キリュウ、ヨウメイ、那奈、の四人であるという事だ。
二度目の落下。いうまでもなく最初と同じ結果になった出雲。
それを見て怒鳴りつけるヨウメイ。
「何やってんですか宮内さん!!私は授業をぬけてまでこんな事やってるんですよ!!
とっとと終わらせちゃってくださいよ!!本当に根性無しなんですから!!!」
この際根性とかそういうものは一切関係が無いのだが、ヨウメイにはそんな事はどうでも良かった。
そうして、何度と無く上空へ放り上げられる出雲。次第に飛ばされ方が荒っぽくなってきた。
「よ、ヨウメイさ〜ん。もうちょっとソフトに〜。」
「甘ったれてんじゃないですよ!!ほら、もう一回!!」
だんだんと厳しい目つきになるヨウメイに、キリュウはため息をついていた。
「必死だな・・・。何もそこまでならなくてもよいと思うのだが・・・。
まあこれも試練だ。耐えられよ、宮内殿。」
一方那奈は、ずうっと校庭での様子を見ていた。
もはや何も言う気になれず、ただ見ているだけの状態である。
そしてポツリとこうつぶやいた。
「あの二人には逆らっちゃいけないな・・・。あと怒らせるのも厳禁だ・・・。」
それでも、相変わらず続けられている試練。
「また失敗!たくう、軟派師ならこれくらい出来ないとだめじゃないですか!!」
「ヨウメイ殿、それは違うのでは・・・。」
二人は相変わらずだったのだが、出雲はもう声をあげる元気すら失っていた・・・。

何十回出雲は上空へ飛ばされたのだろうか。元気どころか、すっかり気を失っていた。
「・・・さっきから何にも反応が無いと思ったら。中止にしますか、キリュウさん。」
「そうだな。これ以上は無意味だ。」
二人でごにょごにょと相談し、ヨウメイが統天書を開き、キリュウが唱える。
「万象封鎖!」
「万象大乱!」
出雲が統天書に吸い込まれたかと思うと、竜巻は小さくなってパッと消えうせた。
ちなみに、当然キリュウが乗っているのはヨウメイの道具の上である。
「さてと、それじゃあ戻りますか。」
「ああ、今度は放課後だな。」
二人して那奈の居る窓へと向かう。校舎に入ったところで、ヨウメイは出雲を統天書から出した。
当然気絶した状態である。そのまま壁にもたれかけさせるようにした。
「それじゃあ三人とも、後はお任せします。私は授業にもどらないといけないので。」
ヨウメイがぺこりと頭を下げ、その場を去ろうとした時、那奈はヨウメイを呼びとめた。
「あのさ、言いにくいんだけどもう授業終わっちゃって放課後なんだよね・・・。」
「へえ、そうなんですか・・・放課後!?」
「それは本当か!?那奈殿!」
ヨウメイとキリュウ、二人して那奈に詰め寄る。
と、そこで那奈は笑って答えた。
「ははは、冗談だよ。でももうすぐ午後最初の授業が終わるな。
つまり、一時間近く宮内への試練をやってたってことだよ。」
「なんだ、そうなんですか・・・大変!先生に怒られちゃう!!
それじゃああとよろしくお願いします!」
そしてヨウメイは急いで走り去って行った。手を振って見送る那奈。
結局那奈は見ていただけだったのだが、出雲への試練はここで終了という事になったのである。

「さて、那奈殿。今回のこの試練についてどう思う?意見を聞きたいのだが。」
キリュウの真面目な顔に戸惑う那奈。やがて決意したようにまっすぐに向いて言った。
「はっきり言っとくと、あんなの出来る奴は絶対居ないと思う。
あたしは、単に宮内への仕返しじゃないかなって思うんだけど。」
それを聞いたキリュウは、真剣に考え込んでしまった。
「そうか、無理か・・・。では主殿への試練は難易度を下げねばなるまいな・・・。」
そして腕組みをしたまま歩き出した。慌てて那奈は呼びとめる。
「ちょっと待てって、宮内どうすんだよ。ここに放っておくのか?」
「おお、そうだったな。万象大乱!」
出雲があっという間に小さくなる。いわゆる小人くらいの大きさに。
那奈は苦笑いを浮かべながら、小さくなった出雲をひょいっと手で持ち上げた。
「では行こうか。購買部に着くころには目が醒めると思う。」
再び歩き出すキリュウに、那奈は慌てて追いつき、もう一つ訊いてみた。
「あのさ、太助に与える試練のことなんだけど。
さっきまで宮内にやってたやつは、宮内への仕返しなんだよな?
という事で、太助に与える試練はそんなにむちゃくちゃじゃないだろ?」
キリュウは驚いた顔をしながらも、歩きながらそれに答えた。
「何を言うのだ、那奈殿。宮内殿へやったのは試練だ。決して仕返しではない。」
「うそだろお。あれはどう考えても試練じゃないよ。あんなむちゃな・・・」
「だから最初は軽くいくつもりだったと言っただろう。
しかし宮内殿は更に難易度の高いものを要求した。
だからこの試練を実行したのだが・・・このざまだ。」
ここで那奈は言い返すのをやめた。どうせ悪いのは宮内だし、と納得することにしたのである。
「あ、一つ答えてもらってないよな。太助に与える試練なんだけど。」
「おお、主殿へか。宮内殿が超えられた物より少し難しくする予定だったのだが。
まあ、事前にヨウメイ殿と相談して決めることにする。今は何も聞かないでくれ。」
「そうか。でもあんまりすごすぎるのはやめてくれよ。太助が死んじゃったら困るしな。」
那奈の言葉を聞いたキリュウは少し不思議そうな顔をした。
その顔に反応したのか、那奈も“?”というような顔をする。
「心配しなくても主殿をそんなに危険な目に遭わせたりはせぬ。
ちゃんと考えて試練を行うから、あんまり気にされるな。」
それでも未だ那奈は疑問符を浮かべていたが、二人を信頼することとして納得した。
そのうちに購買部へ到着。そこで授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。

「それでは那奈殿。後を頼んだぞ、万象大乱!」
購買部の椅子に置かれた出雲を大きくするキリュウ。
出雲は、普段座っている姿と同じような格好となった。もちろん気絶したままではあるが。
「わかったよ。じゃあまた放課後な。」
「うむ。」
キリュウが太助のクラスへと歩いて行く。
それと入れ違いになるように、大勢の女子生徒達(出雲ファン倶楽部の人間だろう)
が、購買部へと押し寄せてきた。
あっという間に那奈は押しのけられ、購買部は人で埋め尽くされる。
「な、なんなんだよ、一体・・・。」
体を揺り起こしながらも、近くに居る生徒に訊いてみた。すると、
「さっき風のうわさで流れてきたんです。出雲さんが倒れたって!」
という答えが返ってきた。“はあ?”と思いながらも那奈はそこを立ち去ろうとした。
すると、新たに人の団体が駆けつけてきた。それに呑まれて押し戻される那奈。
「出雲さんが大怪我したんですってー!?でもなんで購買部に居るのかしら。」
「違うわよ!出雲さんが悟りをひらいたのよ!だからこうして目をつぶって座ってるじゃない!」
「あたしは大冒険をしてきたって聞いたけど?」
「何いってんの!購買部で冬眠に入っちゃったのよ!!」
何やら訳のわからない声を聞きながら、ようやく那奈は人ごみを脱出することが出来た。
「ぷはあ、宮内のやつすごいんだな。しっかし一体誰が流したんだろ。
ひょっとしてヨウメイかな。いや、多分間違い無いな。
さあてと、こんなところはおさらばして太助のクラスにでも・・・うわっ!!」
またしてもやってくる人の波。那奈は素早く身をかわして、三度目呑まれることは免れた。
「出雲さん、彼女にふられたんですって!!」
「うっそお!?それで相手は誰なの!?」
「良くわかんないけど、そのショックでかかしを十日間しなきゃなんないって!」
「あたしは校庭を逆立ちで百周とか聞いたよ!」
「みんな、聞いてよ!これは絶対確実!」
後から来た一人の女子生徒に皆がしんと黙り込んだ。
「なんと購買部の品物を全部ただで持っていって良いんですって!!」
「そうなの!?じゃああたしこれもらった!!」
「あたしはこれ!!」
「ああー!!ずるいよ、それわたしのー!!」
一転して修羅場と化す購買部。
その騒ぎに出雲がようやく目を覚ます。
「う、うーん、ここは・・・ああっ!?何やってるんですか、あなた達!!」
「きゃあ、出雲さんが起きた―!!」
「でもただよ、ただ!!早い者勝ちよ―!!」
ひたすら物を取りつづける女子生徒達に、パニック状態になる出雲。
そうこうしているうちに授業の始まりを告げるチャイムが鳴り、
女子生徒達はあっという間に居なくなってしまった。
すっかり品物がなくなった購買部を目の前にして、抜け殻のようになっている出雲。
一部始終を見ていた那奈は唖然としていた。とそこへ、笑いながらヨウメイが現れた。
「あははは、どうですか宮内さん。ずいぶん良い試練に成ったんじゃないんですか?」
その声に那奈が尋ねてみる。
「やっぱりあれはヨウメイの仕業だったんだな。」
こくりと頷くヨウメイ。出雲は半泣き状態で言った。
「ひどいじゃないですか。いらぬうわさを流してこんな仕打ちを・・・。
私に何か恨みでもあるんですか!?」
すると笑いを止めてきりっとした顔になるヨウメイ。と思ったら、すぐににやけた顔になった。
「うわさなんて流してませんよ。あれは幻です。」
「「ま、まぼろし?」」
二人同時に叫ぶと、ヨウメイは再び頷いて言った。
「さっきの竜巻の試練で蜃気楼を作ったじゃないですか。
あれでちょっと思い出しましてね。昔は幻の軍勢で、敵方を良く騙したもんです。
包囲されてるときなんかは特に有効でしたね。ああ、懐かしいなあ・・・。」
しみじみしているヨウメイに、那奈は再び尋ねる。
「幻の割には妙にリアル感があったし、だいたい現に品物が無くなっているじゃないか。」
「ああ、そういう幻にしたもんですから。元に戻しますね。
消えよ・・・幻影!」
ヨウメイが叫ぶと同時に、購買部に置かれてあった品物がパッと現れた。
もちろん最初置かれてあった状態で。
ほっとしながらも、出雲は念のために訊いてみた。
「どうしてこんな仕打ちを私にしたんですか。」
「結局先生に怒られちゃったもんですから、ちょっと仕返しをね。」
「仕返し!?先生に怒られたのは私のせいだというんですか!?」
激しくなる出雲の口調。それに対して、ヨウメイは黙って統天書をめくり出した。
那奈が慌ててそれを止めにゆく。
「も、もういいって。あれだけやれば宮内も・・・」
「いいえ、那奈さん。今の態度を見る限り、全然懲りてません。
もっと厳しいやつをやるしかありませんね。」
再びめくり出すヨウメイを見て、出雲はもう一度言った。
「だから、先生に怒られたのがなぜ私のせいになるんですか!
その理由をちゃんと言ってくださいよ!!」
するとヨウメイはめくる手を止め、“きっ”と出雲を見た。
「宮内さんがとっとと試練をクリアしないから私が授業に遅れたんですよ!!
授業にサボってまでしていたのに・・・。
大口叩いといてあのざまなんて、ふざけんじゃないですよ!!」
「うっ、いや、それは・・・。」
出雲自身、“あんな試練なんて出来る訳無い”と言いたかったのだが、
自分からヨウメイたちを挑発してしまう形となってしまったのだから、
当然そんな意見は通るはずも無かった。
そして那奈も、“これはしょうがないな”と思ってとりあえず止めるのをあきらめた。
沈黙の中、ヨウメイが統天書をめくる音だけが聞こえてくる。
「ところでヨウメイ。授業には出なくていいのか?」
何気無しに尋ねる那奈。無理だとは思いつつも、一応止めるきっかけを作ろうと思ったのである。
「以前私が終わらせてあった授業だったんです。それで私は一人で抜けてきたんです。」
「へえ、そうなんだ・・・。」
正確には、それがわかっていたから、ヨウメイは休み時間から帰らないで居たのだ。
もちろん抜かり無く、花織達には話し済みである。
「今度は何にしようかな・・・。」
なんだか怒り気味に統天書をめくっているヨウメイを見て、出雲は初めて震えた。
本当ならここから一刻も早く逃げ出したかったのだが、
そんなことをすれば更にひどい目に遭うことは目に見えている。
だから、じっとヨウメイを見ている那奈が止めてくれる事に望みをかけながら、
我慢して購買部の椅子に座っているわけである。

更に時間が経過する。そのとき、キリュウがひょっこり顔を出した。
授業が始まったから、太助へ与える試練を中止して、購買部へ様子を見に来たのである。
「なんだ、ヨウメイ殿も居たのか。何をしている?」
「ちょっと宮内さんへ与える試練を探して・・・。」
不機嫌ながらも答えるヨウメイに、キリュウは“?”という顔をする。
「またやるのか?あれは後日にすれば・・・。」
「いいえ、私が探しているのは違う試練・・・失礼、仕返しです。
これは私が個人的に行うものですから、キリュウさんは黙って見てて良いですよ。」
ぽかんとしてヨウメイを見るキリュウ。出雲はそおっとキリュウに近づいた。
そしてヨウメイに聞こえないくらいの声でささやく。
「すいません、キリュウさん。ヨウメイさんを止めていただけませんか?
このままだと、私は殺されかねませんよ。」
「一体ヨウメイ殿に何をしたのだ?かなり怒っているようだが・・・。」
「それが・・・。」
ヨウメイの言い分を説明する出雲。
すべてを聞き終わると、キリュウはふうとため息をついた。
「まったく、そなたも懲りぬな。自分の非を素直に認めぬからヨウメイ殿が怒ったりするのだ。」
「そんなこと言ったって・・・。」
「とにかく私に止める権利は無い。あきらめられよ。」
「そ、そんなぁ。」
小声で二人が言い争っている様子をちらりと見る那奈。
やはりヨウメイを止めることは無理のようだと思い、ヨウメイの肩をぽんと叩いた。
「なんですか?那奈さん。」
「仕返しは結構だけどさ、どうせなら太助に与えるはずだった試練をやってくんないかな。
それをあたしが判断したりするからさ。」
「済みませんが、それは出来ません。試練と仕返しは違いますから。」
そっけなく言うと、再び念入りに統天書をめくり出すヨウメイ。
那奈は出雲の方を見ると両手を横に曲げて肩をすくめた。
もうどうしようもないというような格好である。
それを見て気が遠くなった出雲。
しかし、何かひらめいたような顔になり、慌ててヨウメイに話しかけた。
「ヨウメイさん、あなたは主の太助君のために動くんですよね?」
「ええ、そうですよ。」
「だったら、こんなところで私に仕返しなんてしている暇があったら、
太助君にもっと為になるような事を考える方が良いんじゃないんですか?」
その言葉にぴたっと統天書をめくる手を止めるヨウメイ。
ばたんとそれを閉じたかと思うと、出雲の方を向いてにっこりした。
「それもそうですね、こんなところで油を売っていては主様のためになりませんし。」
「そう、そうですよ。いやあ、分かっていただけて良かった。」
ヨウメイはくるりと向きを変えて購買部から去って行く。
その姿を見て、キリュウも那奈も“へえ、上手く説得したなあ”と感心していた。
「さあてと、仕事に戻りますか。」
出雲がそう言って購買部のカウンターへ戻ろうとした途端、ヨウメイがくるっと反転した。
そして笑顔のままとたたっと戻ってくる。
那奈とキリュウは“おや?”とか思っていたが、出雲は内心どきりとした。
何をされるのかという恐怖感で、心拍数があがってゆくのがはっきりとわかった。
しかし、戻って来たヨウメイはにこっとしてこう言った。
「お礼をしなきゃと思ってこうして戻って来たんですよ。
いろいろとお世話になった宮内さんにね。」
その声にくたあっとなる出雲。しかしようやく安心したのか、笑顔でヨウメイに告げた。
「別に良いですよ、お礼なんて。その笑顔だけで十分です。」
“何言ってんだ”と頭を掻く那奈。
ヨウメイは笑顔を崩さずにそれに答えた。
「まあまあ、そう言わずに。地震雷火事竜巻。どれが良いですか?」
「へ?あの、それって仕返しじゃ・・・。」
「いやだなあ。お礼ですよ、お・れ・い。今は季節的に冬に近いから火事が良いですかね。」
体中から血の気が引く出雲。そして猛ダッシュでその場を逃げ去った。
「ああーっ!!逃げるなんてー!!この私のせっかくのお礼を受け取らずに!!!」
出雲が見えなくなると、ヨウメイは“はあ”とため息をついてうつむく。
那奈があきれたような顔をして近づいた。
「どこがお礼なんだよ。絶対に仕返しだったって。」
「違いますよ!!最も怖いといわれている四つの自然現象。
まあ、火事は人為的なものが多いですが。それを防ぐ対策を教えようと思ったのに。
なのに、逃げるなんてあんまりです・・・。」
再びうつむくヨウメイ。那奈はぽかんと口を開いてそれを聞いていた。
と、今度はキリュウがヨウメイのそばに寄った。
「ヨウメイ殿、少し言い方が悪かったのでは。
いくらなんでも省略しすぎだぞ。」
「そんなこと言ったって、主様のためになんて重要な事を思い出させてくれた宮内さんなら、
絶対に分かると思ってたのに・・・。例え分からなくてももう少し尋ねるとか・・・。
もう・・・せっかく・・・お礼しようと思ったのに・・・。」
ますます落ちこむヨウメイ。キリュウはもう一度声をかけた。
「あまり気にされるな。また今度お礼をすれば良いことではないか。」
「今度・・・ですか。でも、人の気持ちは変わりやすいもんです。
今度はお礼をしようなんて思いませんよ、きっと。」
「そうか、それではあきらめるとするか・・・。」
そしてとぼとぼと歩き出すキリュウとヨウメイ。
那奈はそこでやっと我に帰り、急いでヨウメイに呼びかけた。
「よ、ヨウメイ!ちょっと今のは無理がありすぎるんじゃ?
だいたいあれだけ宮内にやった後でいきなりお礼だなんて、普通分かるもんじゃないよ!」
するとヨウメイはゆっくりと振り返ってこう言った。
「女性に誰にでもやさしくをモットーとしているんだから、
あれぐらいは分かってもらわないと・・・。
・・・なんだか腹が立ってきました。やっぱり仕返しに行ってやる!!」
するとキリュウも、それに呼応したかのように言った。
「私も少し手伝うぞ。あれだけやって未だ懲りてないのには我慢できぬ。
一つ宮内殿の性根を叩きなおすとしよう。」
「さっすがキリュウさん。よろしくお願いしますよ。」
がっちりと握手する二人を見て、那奈が思ったことはこうである。
(いくらなんでもそれは理不尽じゃねーか?確かに宮内も悪いと思うけど、
あんたら二人も良くないところがいっぱいあるんじゃ・・・。)
しかし口に出していう事はしなかった。
反論すれば何をされるか分かったものではなかったから。
「那奈さん、何か言いたそうですが、言いたいことがあるんならどうぞ。」
ヨウメイが那奈の方をきりっとした顔で見る。
おもいっきり慌てた那奈だったが、恐る恐るさっき思ったことを口にしてみた。
すると、二人はそれを予想していたかのように答えた。
「もとはといえば、昨日宮内殿がいいかげんに私達を扱ったのが始まりだ。
相談に乗るといいながら全然やらない。だからこそ今日の試練を行ったのだ。
まあ、その試練も、宮内殿が調子に乗ったからだがな。」
「とりあえず試練を中止にした時点でその件は終わり、だったんですが、
私にはそれは予定外のことだったんです。本来ならもっと軽い試練で終わって、
私は授業を途中からでも受けられるはずだったんですから。
それで宮内さんへ仕返し、まあ個人的な恨みですから、理不尽なもののはずなんです。
だから幻っていう精神的なものにとどめたんです。それなのに宮内さんは、
“どうして私のせいになるんですか”なんて言って・・・。
ここで頭に来て更に仕返しをしようと思ったんです。」
はあ、と頷く那奈。確かに、話を聞けばこの二人に非があるって訳ではないようだ。
「しかし宮内殿がヨウメイ殿に主殿のことを思い出させて、
それでヨウメイ殿は急いで別の事をしようと思ったわけだ。」
「けれども、こんなに大事な事を言ってくれた人に、
お礼もしないで立ち去るなんて失礼じゃないですか。
だから私にできる精一杯の事をしようと思ったのに。あー!!やっぱり腹が立つ!!
キリュウさん、早く行きましょう!!」
「そうだな。では那奈殿、失礼する。」
急いで走って行こうとする二人。それでもやはり那奈は呼びとめた。
「あのさ、やっぱり理不尽だって。
仕返しだとか言ってた直後にお礼なんて言われて、誰が信じると思う?
もう少し落ちついて考えてみろよ。」
「那奈さん、それは間違ってますよ。第一宮内さんはこう言ったじゃないですか。
“あなたの笑顔だけで十分ですよ”なんてキザったらしいセリフを。
そこでこっちがお礼とか言って、どうして向こうが逃げるんですか。おかしいですよ。」
「ああ、そういやそうか。あれ?じゃあ何がいけなかったんだ?」
「要はヨウメイ殿の言いかただ。地震雷火事竜巻の対策とでも言えば良かったのだ。」
「・・・やっぱり理不尽だって。普通お礼に地震雷火事竜巻なんて言われて、
素直にその対策なんて思う奴は居ないって。」
「そうか、そうですよね・・・。」
長い長い口論の末、ようやくここで落ちついた。
結局ヨウメイの言い方が悪かったのだということになり、出雲への仕返しは止めにしたのである。
しかし出雲がそこで帰ってくるわけではない。
ということで、とりあえずここで適当にのんびりと待つという事になった。

「ふう、平和ですねえ。さっきまでの口論が嘘みたい。」
「原因はヨウメイだろうが。これからはもう少しちゃんと動いてくれよ。
太助もたまったもんじゃないだろうからさ。」
「分かってますよ。これからはもう少し考えて行動します。」
「まあこれも試練だ、耐えられよ、ヨウメイ殿。」
「あのね・・・。」
なんとなくのんきに言葉を交わす三人。
しばらくそうしていると、出雲が恐る恐る帰ってきた。
「宮内さん!」
一番最初にその姿を発見したヨウメイが、声を上げて立ち上がる。
すると出雲は距離を置いてぴたっと立ち止まった。
遠巻きながらも笑顔を振り撒き、手を上げて挨拶する。
「や、やあ、ヨウメイさん。それにキリュウさんと那奈さん。
三人で何をしてらっしゃるんです?」
すると那奈が立ち上がった。
「何って、あんたを待ってたんだよ、宮内。」
その言葉を聞いて、一歩下がる出雲。続いてキリュウが告げる。
「一応購買部の担当は宮内殿だろう?
だからそなたが帰ってこないと、私たちはここを離れられないのだ。」
「そ、そうなんですか。それはご親切に。」
顔は笑っているが、やはり一歩下がる出雲。ヨウメイは不思議そうに尋ねた。
「あの、宮内さん。怒ってらっしゃるんですか?
笑いながら、私達から遠ざかったりして・・・。」
「い、いえいえ、そんなことは有りませんよ。」
そして今度は五歩ほど近づいた。
「だったらこっちへ来いって。あたし達が別の場所へ出かけられないじゃないか。」
「そ、そうですね。」
今度は十歩近づく。しかしまだまだ購買部には程遠い。
「宮内殿、心配しなくとも私達はそなたに何もせぬ。
さっきの話し合いで、ヨウメイ殿は誤解を招いてしまったことを後悔したのだ。
だから早くこちらに来られよ。」
「そ、そうなんですか。それなら・・・。」
やっと購買部までやってきた出雲。ヨウメイがぺこりと頭を下げて言った。
「すいません、いろいろ迷惑かけて。さっきは言い方が悪かったですね。
地震雷火事竜巻の対策をお教えしようと思ったんです。」
「なんだ、そうだったんですか。こちらこそすいません、一目散に逃げたりして。
もっとちゃんと尋ねるべきでしたね。てっきり仕返しかと思ったもんですから。
だってあんなにひどい目に遭っちゃねえ。あははは・・・・。」
そこでヨウメイのこめかみがぴくっと動く、那奈は慌てて小声でなだめた。
「落ちつけって。こいつも慌てて言ってるだけだしさ。」
「わ、分かってますよ・・・。」
なんとか落ち着きを取り戻したヨウメイ。再び出雲を見上げて言った。
「それで、どれが良いですか?火事がお勧めだと思うんですが。」
「心配要りませんよ、私よりは別の人に教えてあげてください。」
「宮内殿、せっかくヨウメイ殿がこう言ってるのだ。教えてもらってはどうだ?」
キリュウの横からの言葉に、出雲はふぁさっと髪を掻き上げて言った。
「それもそうですね。ではヨウメイさん、教えて・・・ヨウメイさん?」
どうやら、出雲の“ふぁさっ”がヨウメイの気に触ったらしい。
那奈が必死になだめているが、そんな事はまるで聞こえている様子も無く、
厳しい顔つきで、勢いよく統天書をめくっている。
またもや血の気が全身から引いた出雲。慌てて逃げようとしたが、
「万象大乱!」
と、巨大化した消しゴムに道をふさがれてしまった。
「ちょっとお、キリュウさん。」
「そうやって逃げていたのでは一生ヨウメイ殿と仲良くなれぬぞ。
自分でちゃんと説得するのだ。」
「そ、そんな・・・。」
出雲がヨウメイの方を振り返る。やはり必死に統天書をめくっているヨウメイが見えた。
そして再びキリュウを見る。キリュウは無言のまま頷いた。
出雲は天に祈るようなしぐさをし、ヨウメイに素早く駆け寄った。
「よーし!来れ・・・」
「ヨウメイさん!!」
那奈をおしのけ、ヨウメイの手をがしっとつかんだ出雲。
もちろんヨウメイは驚いて出雲を見た。
「な、なんですか、宮内さん・・・。」
「すいません!私が悪かったのです。
ヨウメイさんのことも考えずに軽はずみな行動をしてしまい・・・。
二度と、そんな事はしないとここで神に誓います。
そしてヨウメイさん、那奈さん、キリュウさんにも誓います!
だからお願いします。ご立腹とは思いますが、この辺で怒るのをやめてください!!」
必死になっている出雲にぽかんとする那奈、ヨウメイ。
キリュウはうんうんと何か納得したように頷いていた。
そして沈黙の時が流れる。数十秒後、ヨウメイがけらけらと笑い出した。
「あ、あの、ヨウメイさん?」
「もう、そんなに必死になったって、人間て絶対軽はずみな事をしちゃったりするもんですよ。
でも、宮内さんの誠意はよくわかったつもりです。今度からは気をつけてくださいね。」
「は・・・はいっ!」
そしてヨウメイは統天書を閉じた。
「ふう、なんとか収まったみたいだな。宮内、ほんとにこれからは慎めよ。」
「わ、わかってますよ。」
「一つ試練を乗り越えたようだな、宮内殿。うむ、良い事だ。」
「試練て私と仲良くするってことですか?キリュウさん、それってあんまりですよ・・・。」
ヨウメイの言葉に、那奈が笑い出した。
出雲もそれとなく笑うが、別にヨウメイにとやかく言われることは無かった。
そして四人で一ヶ所に寄り、楽しくおしゃべりする。
しばらくしたところで、ヨウメイが歩き出した。
「さてと、それじゃあ私は自分のクラスに戻ります。皆さん、また放課後に。」
「ああ、またな。」
「私もお手伝いしますから。」
「太助をびしっと鍛えような!」
手を振って挨拶。ヨウメイが見えなくなったところで、キリュウが言った。
「ところで宮内殿、手伝いをしてくれるのなら一つ頼みがあるのだが。」
「なんですか?もう竜巻は勘弁してくださいよ。」
出雲が少しおびえながら言うと、キリュウは笑って答えた。
「良く分かっているな。さすがだ。」
「ええっ!?またやるんですか!?」
「おいおいキリュウ・・・。」
呆れ顔になる二人を、キリュウは“まあ聞いてくれ”となだめた。
「さっきほど強力なものではない。軽いもので、
宮内殿が手本というか、例のようなものを見せて欲しいのだ。」
「というと・・・。」
考え込む那奈が答える前に、出雲は分かったように言った。
「私が太助君に、“こうすれば試練終了ですよ”みたいなものを実際にやって見せるんですね?」
「そういう事だ。心配せずとも大事にはならぬ。
なんと言ってもヨウメイ殿が試練に加わるのだからな。」
キリュウのその言葉に、“ん?”となる那奈と出雲。
「それって逆なんじゃないのか?」
「そうですよ。ヨウメイさんが加わるからこそ、大事になってしまうのでは?」
キリュウは、“いいや”と首を横に振って答える。
「私と違って、どの程度ならば大怪我もせずに試練ができるか、ヨウメイ殿は細かく知っている。
実際昼休みの竜巻の試練。宮内殿は気絶だけで済んだだろう?」
「そういえば・・・。」
「確かに私は、どこも怪我してませんでしたよ。」
「そういう事だから大丈夫だ。一応あんな性格でも知教空天だからな。
逆にいうと、性格さえ良ければ問題無いのだが・・・。」
一転して顔を変えて考え込むキリュウ。
それを見て那奈と出雲は、“はあ、確かに”と頷かざるをえなかった。
三人があれやこれやと話し合っているうちに鳴り出すチャイム。
授業がすべて終わり、掃除の時間が始まったのだ。
その掃除時間も終わり、いよいよ放課後となる・・・。

≪第九話≫終わり



あとがき:はっきり言って、こんな試練があってたまるかー!ですよね。
まあ、せっかくだし。(こらこら)
いろいろ細かい矛盾や間違い等はあると思いますが、適当に突っ込むなり納得するなりしてください。
太助への試練は、さらに厳しいものとなります・・・。


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