小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!)


≪第十二話≫
『みんなの試練な一日(大地の章)』

昼の三時間くらい前の朝という時刻。この町の上空を飛ぶ四つの影があった。
一つは何やら竜のようなもの、一つは長い竿のようなもの、
一つはとっても大きな扇、そして最後の一つは絨毯のようなものである。
それぞれに何人か人が乗っており、わいわいと騒いでいる。
そう、太助達だ。結局昨日のメンバーのまま試練を行おうという事になり、
こうしてみんなで遠くの試練場へと向かっているのである。
とは言うものの、試練を与えるのはキリュウとヨウメイ、
そしてそれを受けるのは太助、あとは全て見物&応援という事であるが・・・。
「一体どこまで行くんでしょうねえ、ルーアン先生。」
乎一郎が何気なく尋ねる。実は行き先を知っているのはキリュウとヨウメイのみ。
他のみんなはそれに従っているだけなのである。
ルーアンはちょっと振り返って首を振って答えた。
「知らないわ。でもかなり遠くなんだって、ヨウメイは言ってたわ。
相当すごい試練をやるみたいだから・・・。」
「へえ、そうなんだ。」
ルーアンと会話が出来て嬉しそうな乎一郎。
たかしはその横で不機嫌そうに座っていた。
なんと言ってもシャオが乗っている軒轅の上ではないのだから。
短天扇に乗っている翔子がそれを見て呟く。
「野村のやつ機嫌悪いな。たく、自分でくじを作ってきやがったくせに。」
「でもまあ、ばっちりうまく分かれたもんだよな。太助とシャオが二人っきりになるように。」
そう、翔子の言う通り、たかしが乗る場所を決めるくじを作ったのである。
しかし、ヨウメイと花織と熱美とゆかりんはそれを引くことを拒否。
四人で仲良く一緒の絨毯に乗って飛んでしまった。
それぞれ二人ずつ、残るメンバーで席を決めたわけである。
くじの結果、出雲と那奈はキリュウの短天扇に。
たかしと乎一郎はルーアンの陽天心竿に。
翔子と太助がシャオと一緒に軒轅に乗ることになったが、
翔子は遠慮して、キリュウの短天扇に無理矢理乗ったのである。
それで、太助とシャオは二人っきりで軒轅に乗っているのだ。
「それにしても翔子さん、強引ですねえ。
キリュウさん、定員オーバーじゃなかったんですか?」
出雲がそれとなしに尋ねると、キリュウはきりっとした顔で言った。
「試練といわれたのだ。耐えねばなるまい。
それにしてもこんな事で主殿の試練にもなるとは思えないのだが・・・。」
翔子にいろいろささやかれたのが周囲の皆によく分かった。
しかし、軽く笑いながら頭を掻く翔子に、皆は何も言えないままであった。
一方シャオと二人っきりの太助。いつものようにうじうじしているのではなく、
気合ばっちりな顔でシャオと話をしていた。
どうやら、二人とも試練のことで頭がいっぱいのようである。
それでも仲良く話をしていることには変わりないのであるが・・・。
「みなさーん、もうすぐ着きますよ―!」
ヨウメイが前の方から叫ぶ。見ると、前方にだだっ広い空き地が姿を現した。
校庭の十倍はあろうかという広さである。
目的地がせまったことに、太助は再び気合を入れなおした。
「太助様、頑張ってくださいね。
「ああ、ばっちり見ていてくれよ、シャオ。よーし、頑張るぞ―!」
太助が上げた声と同時に、それぞれの乗り物は高度を下げて行く。
そして数分後にはその空き地へと着地した。

昨日と同じく、試練を受けるもの、与えるもの、それを見物するものと分かれて座る。
座っている席順は左から順に、
シャオ、翔子、那奈、出雲、ルーアン、乎一郎、たかし、熱美、ゆかりん、花織、である。
まずはキリュウが前に出て説明を始めた。
「では説明するぞ。これから主殿はこの位置から向こうまで走ってもらう。
向こうまで辿り着いたらこちらまで戻ること。以上だ。」
“はあ”と頷く太助。しかしすぐにヨウメイがフォローを入れた。
「キリュウさん、もう少し言わなくちゃ駄目じゃないですか。
主様、当然私とキリュウさんの障害が入りますからね。
生きて帰ってきてくださいよ。」
「・・・・・・。」
今度は太助は固まった。キリュウがヨウメイをつつく。
「ヨウメイ殿・・・。」
「あ、ああ、すいません。大怪我をしないように頑張ってくださいね。」
ヨウメイの言い直しにもなんとなく納得がいかない太助だったが、やがてもう一度頷いた。
たかしと乎一郎は、お互い顔を見合わせてひそひそと話する。
「昨日と同じって感じだな。ヨウメイちゃんもすらっと言うかなんというか・・・。」
「ほんとだね。でもあんまり余計な事を言わない方が良いよね。昨日のこともあるし・・・。」
他の皆も同じようなことを喋る。ヨウメイはそれを静めるように“ごほん”と咳払いした。
「それでは試練開始です。キリュウさん、お願いしますよ。」
「うむ。では走られよ、主殿。」
あっさり開始が告げられ、太助はおもいっきり走り出した。
結構な距離があるので、ただ走るだけでもかなりの運動になる。
加えてキリュウとヨウメイが障害をつけるというのだから、試練になる事間違いなしだ。
太助が二百メートルくらい走ったところで、
キリュウが短天扇に乗って、太助へと近づいて行った。
しかし途中でひょいっと降りる。とはいっても、地面では無くちょっとした物の上に。
遠くからキリュウとヨウメイは頷き合い、それぞれの道具を構えた。
「万象大乱!」
太助の前方の石が巨大化して、太助の前に立ちふさがる。
「いつもやってるやつじゃないか。よーし!」
一言声を上げたかと思うと、素早くそれを上り始める太助。
あっという間に石の山を越えて、再び走り出した。
「来れ、地震!」
今度は太助の足元がぐらぐらと揺れ出す。
しかしバランスを失うことなく太助は走りつづけ、あっという間に向こう側に辿り着いた。
すぐさま引き返して、かなりの速さで走り戻ってくる。
それを見た見物客達は、次々に言葉を発した。
「すごいですわ、太助様―!」
「なかなかやるじゃね―か。この程度なら楽勝って訳だな。」
「おおげさな事言ってたけど、大した事無いじゃないか。ヨウメイも人が悪いなあ。」
「この程度なら私がまず走っても良かったかもしれませんね。」
「えらく簡単に済ましたわね。でも、後半どうなる事やら。」
「太助君、さすがだなあ。僕なら最初の石でダウンしてるかも。」
「ふっ、俺ならもっと速く走ってやるのに!」
「またまた嘘ばっかり。野村先輩が七梨先輩に勝てるわけ無いじゃないですか。」
「それにしてもずいぶんおとなしいね。地震ったってほとんど揺れてなかったし。」
「うーん、楊ちゃんのことだから絶対にすごいのを用意してると思うなあ。」
一通り喋り終わった頃には、太助はもう半分まで来ていた。
その時には、キリュウもちゃっかりヨウメイの居る場所へ戻っていた。
「どうでしたか、キリュウさん。」
「まあ大丈夫だろう。ではいこうか。」
キリュウの言葉に頷くヨウメイ。そして二人は再び道具を構えた。
「来れ、地割れ!」
ヨウメイが叫ぶと同時に、太助の前方の地面に小さな裂け目が発生した。
しかし、悠々と飛び超えられそうなものである。
太助は気にもとめずに走るスピードを上げたのだが・・・。
「万象大乱!」
キリュウの声により、それは五メートルはあろうかという巨大なものに変わった。
慌てて太助は急ブレーキをかける。ぎりぎりの位置で止まることが出来た。
恐る恐る覗きこむと、底が見えない深さだということが確認できた。
「・・・これを飛び越えろってか?よーし、やってやろうじゃないか!」
太助は助走を付けるために素早く後戻りし始めた。しかし戻った直後、
「来れ、地震!!」
と、ヨウメイが叫んだ。太助が居るところはもちろん、なんと見物客達の方まで揺れ出した。
いきなりの事にパニックになるみんな。
「きゃああああ!!地震、地震―!!」
「お、落ちついてって花織!」
「うわあ、先生、怖いですう―。」
「遠藤君、ドサクサにまぎれて抱き着いてこないでよ!!」
ルーアンの怒りの声を聞いた出雲とたかし。
急いでシャオの傍へ行こうとしたが・・・、
『ボカッ!!』という那奈と翔子のカウンターを食らって、あえなく撃沈となった。
「たく、シャオに抱き着こうなんてふてえやつらだ。」
「ち、違いますよ、那奈さん。私はシャオさんをお守りしようと・・・。」
出雲の弁解を聞いて、翔子がきょとんとしているシャオを指差す。
「シャオなら全然平気だよ。あんたらのお守りなんて要らないの!」
再び攻撃を食らってまたもや沈む出雲。
後ろの様子をやれやれと見ながら、ヨウメイは統天書を閉じた。
ぴたっと収まる地震。そしてキリュウが一歩前へ出た。
「主殿、地割れが大きくなってしまったぞ。それでもちゃんと超えられよ!」
太助は太助で戻ったところでおとなしく居た。
しかしキリュウの言う通り、そうしている間に地割れが広がったのである。
なんと幅十メートルはある。とてもジャンプして飛び越えるなど不可能だろう。
地割れに近づいてそれを確かめた太助は、“そんな無茶な”という顔で叫んだ。
「こんなの飛び超えられるわけないだろ!どう考えたって無理だよ!!」
するとヨウメイはそれを押し返すように言った。
「飛び越えろなんて言ってないでしょう。超えるんですよ!」
その言葉に黙る太助。“そんな事言ったって・・・”
とぶつぶつ言いながら考え込んでしまった。
しばらくして、太助の様子を見ていた那奈が、ふと呟いた。
「ひょっとして、地割れを降りて行って来いって事なのか?」
それを聞いたみんなが“ええっ!?”という顔で振り返る。
キリュウはゆっくりと振り向いて言った。
「その通りだ。いったん下まで降りて行って、それから上へ登ってくる。
下で必ず繋がっているはずだから問題あるまい?」
顔色一つ変えずに語るキリュウに、那奈たちは固まらざるを得なかった。
遠くに居ながらもそれが聞こえてきた太助は更に固くなった。
驚愕の表情で、しばらくの間地割れを見つめる。
顔を上げて向こう岸を見ると、キリュウとヨウメイはうんうんと頷いた。
再び地割れを見つめだす太助だったが、やがて意を決して地割れを降り始めた。
当然命綱など無しである。
普段の試練の成果を発揮するつもりで、ゆっくりと確実に降りていった。
シャオは声も立てられずにそれを見るしか出来なかった。
やがて太助の姿がみんなから見えなくなると、不安な声で皆は話し始めた。
という前に、ヨウメイが皆の方を振り返る。
「皆さん、私とキリュウさんはこれから地割れに下りて行きます。
当然試練を更に行わなければならないし、知らない所で事故が起きても困りますからね。」
「皆はルーアン殿のコンパクトで見られるがよろしかろう。
くれぐれも地割れに降りてこないように!では、行こうか、ヨウメイ殿。」
二人は再び背を向け、ヨウメイの飛翔球に乗りこんだ。
ふわりと飛んでったかと思うと、あっという間に地割れの方へと姿を消す。
ルーアンはため息をつきながらコンパクトを開けた。
とそこへ、我先に太助の様子を見ようと、皆が一気に押し寄せた。
もみくちゃにされながらも、ルーアンはなんとか皆を静めることに成功。
(当然陽天心召来を使ったことは言うまでも無いが)
コンパクトを囲んで皆でおとなしく見ることになった。
「真っ暗ですわ。こんな所に太助様は・・・。」
太助はなんとか写ったものの、きわめて暗い。すでに相当深いところに居るのだろう。
周囲の景色がかろうじて見えるという光ぐらいしか届いていないようだ。
「これじゃあすぐに見えなくなりますねえ。ルーアンさん、なんとかなりませんでしょうか。」
「そうだ!ルーアン先生、明るさをあげるとか出来るんじゃないんですか?
あと、色合いとか色の濃さとか。」
「花織ちゃん、テレビじゃないんだから・・・。」
たかしが突っ込んだにもかかわらず、ルーアンは何か操作しようとした。
驚いて乎一郎が尋ねる。
「先生、本当にテレビみたいなことが出来るんですか?」
「そんな訳無いでしょ。ちょっと角度を変えただけよ。」
ルーアンの声に“なーんだ”と残念そうな顔になる面々。
しかし、一つ思いついた熱美は、急いで地割れの方へ駆け出して行った。
慌ててゆかりんがその後を追う。キリュウに近づくなといわれていたのだから。
地割れのところで立ち止まった熱美の手を、慌ててゆかりんはつかんだ。
「危ないよ、熱美ちゃん。早く戻らないと。」
「待って、一応ちょっとだけ。」
そして熱美は頬に両手をあて、地割れのそこへ向かって叫んだ。
「楊ちゃ〜ん、聞こえてたら、七梨先輩を明かりで見えるようにして―!
こっちは暗くてなんにも分からないのー!!」
するとしばらく経ってから、
「うん、わかった―!!」
という声が返ってきた。OKサインを出して、
熱美はゆかりんと共にみんなのところへ戻った。

一方、キリュウとヨウメイ。
かなりゆっくりなスピードで降りているせいか、なかなか太助に辿り着けないでいた。
「ヨウメイ殿、今の声は・・・。」
「熱美ちゃんですよ。まったく、危ないって言ったのに・・・。
よーし、来れ、雷光!」
一瞬で昼間のような明るさになる地割れ内部。
二人は遥か下を降りつづけている太助を確認することが出来た。
「早くもあんなところに居るとは・・・。ふむ、なかなかのものだな。」
「ほんと、さすがは主様。さあ、早く行きましょう。」
二人はスピードを早めて下へ下へと降りていった。

こちらは太助。いきなりの閃光に目が眩んで危うく落ちそうになったものの、
なんとか壁にしがみついて、ゆっくりとゆっくりと下りていった。
そのうちに、ふわっと上から降りてきたキリュウとヨウメイに声をかけられた。
「主殿、頑張っているではないか。早くもこんなところまで来ているとは。」
「この調子だとすぐにも終わりそうですね。・・・主様、その怪我は?」
ヨウメイに言われてぴたっと止まる太助。
そしてゆっくりと苦笑いしながら振り向いた。
「最初にちょっと滑り落ちちゃってさ。危うく全部落ちちゃうところだったよ。
やっぱりこれを降りるってのは無理があるんじゃ・・・。」
弱気な発言をしながらも下りて行く太助に、ヨウメイは笑顔で言った。
「こうしてちゃんと生きているじゃないですか。大丈夫、主様なら超えられますよ。」
「そうだとも。もし落ちたとしても私達がしっかり助ける。
主殿は安心して降りて行かれよ。」
「はは、ありがとな・・・。」
軽く答えて、太助は降りるスピードを少し上げた。
一刻でも早く底に辿り着きたかったから・・・。
キリュウとヨウメイは、更に試練をするわけでもなく、ただじっと太助を見守っていた。

ところ変わって見物客達。地割れ内部がよく見えるようになってからは、
皆は軽く喋りながら三人の様子を見ていた。
「しかしこんな所を本当に降りているなんてなあ・・・。俺は今だ信じられないよ。」
たかしがそれと無しに呟く。無理も無かった。
ヨウメイが明かりを灯してからみんなは初めて気付いたのだ。太助が降りているがけの様子を。
がけはほぼ垂直。ベテランのロッククライマーでも遠慮しそうなものだ。
それを太助は命綱も付けずに降りているのだから・・・。
「あの太助が・・・成長したなあ・・・。くうう、ね―ちゃんは嬉しいぞお。」
「那奈ねぇ、それ昨日もやっただろう?」
あきれながらも那奈の手を取る翔子。那奈はうれしそうに握手した。
「けど、どこまで続くのかなあ。見た感じ相当深かったよ。」
熱美の声に乎一郎が少し考えて言った。
「光が届かない、という事は少なくとも数十メートルはあると考えていいかもしれないなあ。
ひょっとしたら百メートルを軽く超える深さなのかも・・・。」
皆がごくりとつばを飲み込み、静かになる。
とんでもない深さだという事が、今の発言で改めてよくわかったから。
しばらく無言のまま見守る。と、写っていた太助が危うく滑り落ちそうに成る。
それをみて、悲鳴を上げる者や、慌てて顔を手で覆う者が居る。
しかし、なんとか落ちずに居た太助が再び降りて行く姿を見ると、皆でほっとして再び見守り始めた。
昨日のキリュウとヨウメイの話ではないが、遠くに居ながらも太助と試練に参加しているようである。
「太助様・・・。」
祈るような目で見つめるシャオの手に、翔子がそっと触れる。
「大丈夫。七梨なら絶対に成し遂げる。無事を祈って見守っててやろうぜ。」
「はい。」
もちろん心配しているのはシャオだけではなかった。
それは、皆の真剣な表情と目つきを見れば一目瞭然であろう。
ただ太助が降りて行く光景を映し出しているコンパクトを、皆は一心不乱に見つめていた・・・。

地上でそんな緊張が走っているとは知らず、キリュウとヨウメイは試練について話し合っていた。
「キリュウさん、上りの時の試練なんですけど、こんなのは・・・。」
「・・・ふむ、なかなか良いな。さすがはヨウメイ殿だ。」
「いやあ、それほどでも有りますけど。」
「満足するのは早いぞ。もう一つの試練・・・。」
「・・・・ですか。でも・・・。」
当然、太助には途切れ途切れに聞こえてくるだけであった。今はがけを降りるのに精一杯なのだから。
それでも時々聞こえてくる二人の笑い声に、少しいらだって居たりもしたが。
「たくう・・・。人が命がけだってのに何二人で笑ってんだよ・・・。」
ちょっと耐えきれなくなって呟く太助。
すると、絨毯がすうっと太助の傍に下りてきたかと思うと、ヨウメイが身を乗り出して言った。
「これも一つの試練だと思ってください。精神を乱さないような。」
「という事だ。それに、もっと集中すればこんなものは気にならないはずだが?」
続けて言うキリュウに、太助は“はいはい”と頷いた。
二人はそれで納得し、距離を置いて再び話し始めた。
集中してはいるもののやはり気になる笑い声。それでも太助は慎重に降りていった。
その様子をコンパクトで見ていた地上の見物客達に、
少しばかりの怒りが芽生えたことを付け加えておく。
ともかくこんな調子で、太助はなんとか底に辿り着くことが出来た。
「ふう、やっと到着。疲れたあ・・・。」
腰をどさっと下ろす太助。それを見てキリュウとヨウメイが降りて来る。
しかし二人は絨毯に乗ったままこう告げた。
「休憩は上りながらしてくださいね、主様。さあ、出発です。」
「こんな所で休まれては試練にならんからな。早く立ち上がられよ。」
そして無理矢理に立たされ、恨めしそうに二人を見る太助。
当然の反応だ。ここに降りて来るまでにも相当な体力を使った。
上りは更にきついはずなのに、すぐさま出発しろというのだから。
「あのさあ、せめて後少しくらい休ませてくれよ・・・。」
「主殿、試練だ、耐えられよ。」
キリュウのお決まりの言葉にため息をつく太助。
更にヨウメイに促されたところで、がけを上り出した。
地上に居る見物客達。ついにルーアンの我慢の限界が来たのか、
いきなりがけの方へ走り出して、底の方へ向かって大声で叫んだ。
「こら―、あんた達―!!たー様を少しは休ませなさいよ―!!」
今にもがけを降りていきそうな勢いである。慌てて乎一郎とたかしがそれを止めに行った。
腕を捕まれながらもがくルーアン。そうしているうちにばらばらっと石が落ちてゆく。
「ちょっと、離しなさいよ!」
「落ちついてください、ルーアン先生。ここはおさえて!」
「そうですよ。試練の邪魔しちゃいけませんって。」
あきれながらルーアン達を見るほかの面々。と、花織がコンパクトを見て叫んだ。
「ちょっと!楊ちゃんが何かしようとしているよ!」
その声に慌ててコンパクトを見る熱美とゆかりん。
それと同時に、統天書を開けたヨウメイが叫んだ。
「来れ、湧水!」
途端に地面のそこから水が噴出してくる。キリュウが慌てる太助の腕を素早くつかみ、
ヨウメイは絨毯を水と同じ速度で上昇させた。
しばらくして、割れ目を斜め方向に飛び出す太助達。それと同時に飛び出す大量の水。
いや、水だけではない。大量の土砂やら岩やらも一緒である。
ルーアン達三人はそれに驚いてひっくり返った。
一体何が起こったのか分からずに唖然とする見物客達。太助がゆっくりと地面に下ろされる。
ヨウメイは水を静め、そして消す。キリュウも万象大乱を唱えて裂け目を小さくした。
今だほうけているルーアン、乎一郎、たかし。
キリュウとヨウメイはそんな三人にゆっくりと近づいた。
「とんでもない事をしてくれたな。試練の邪魔をするとは・・・。」
静かにキリュウが言ったかと思うと、ヨウメイが鬼のような形相で激しく言った。
「ルーアンさん、何大声で叫んでるんですか!!おまけに石を落としたでしょう!!
あんな事をしたから上の方の壁が崩れ始めて・・・一体どういうつもりですか!!!」
いきなり言われて、呆然とするルーアン達。
最初は訳がわからなかった者がほとんどだったが、
ヨウメイの言葉によってどういう事が起こったのかなんとなく理解できた。
つまり、ルーアンが大声で叫んだ時にいくつかの石も落ちたのである。
その衝撃でがけ崩れが起き始めた。早い段階でそれを知ったヨウメイが、急いで対策を取ったのである。
かんかんに怒ったヨウメイが、そしてキリュウがルーアンに説教する。
ルーアンはただじいっとうつむいてそれを聞いていた。
それが数分続いた頃に、太助が怒る二人に言った。
「まあまあ、もう一度同じ事をすれば・・・。」
「主様!!降りた時にすでにくたくただったじゃないですか!
もう一度降りて行って登って来させるなんてつもりは、私はありませんからね!!」
くるっと振り返って怒鳴るヨウメイに、太助は黙り込んだ。
事態を重く見た熱美は、ヨウメイに近寄った。
「楊ちゃん、私も地割れに走り寄って叫んだから・・・。
私もルーアン先生と同罪だよ。」
「熱美ちゃん、それは違うの。ルーアンさんの場合石を落としたから。
それに・・・まあいっか。この辺で止めときましょ。」
ようやく落ちついたヨウメイだったが、キリュウはそれとは関係無しに言った。
「ヨウメイ殿!という事はここで試練を終えるのか!?
地割れの中で話していたものはどうするのだ!!」
それを聞いて考え込むヨウメイ。だが、しばらくしてから“うん”と頷いた。
「こうなったら山を作りましょう。
さっきより規模は小さくなりますが、それなら実行できるはずです。」
「そうか。まあ仕方あるまいな。ルーアン殿!」
「は、はいっ!!」
キリュウに言われて慌てて姿勢を正すルーアン。
二人に長時間(のようにルーアンに思えた)怒られていた所為か、すっかり弱気である。
「今後二度とああいう事はしないようにしてもらいたい。」
「今度やったらただじゃおきませんからね。」
「分かったわ、肝に銘じておくから。」
ルーアンの素直な答えに頷く二人。
そして最初に位置に戻ったところで、二人は太助に向き直った。
「主殿、今度は山を登ってもらう。なあに、先程のがけと比べればたやすいものだ。」
「もちろん、私達がいろんな難関を作りますからね。
見事頂上に辿り着いてください。そこでこの試練は終了といたします。」
それだけ言ってそれぞれ道具を構えた。
「来れ・・・あ、別に要らないんだった。」
「・・・万象大乱!」
あっさり言って統天書を閉じるヨウメイをチラッと見て、万象大乱を唱えるキリュウ。
見る見るうちに地面にあった土の一部が大きくなり、それは巨大な山と化した。
なんとなく見上げていた出雲が一言発する。
「別にここでやらなくても、どっかの山へ行けば良いんじゃないですか?」
それに皆が振り返った。見物客のほとんどはうんうんと頷いている。
しかしヨウメイは、
「ここでやるから意味があるんです!余計な口出しはしないように!」
とだけ言って山の方へ向き直った。
しかしその顔には気まずい様子が見て取れ、見物客達はひそひそと話をする。
(どうやら痛い所を突かれたみたいですね。)と出雲は思ったものの、口には出さないで居た。
当然ヨウメイは、(そう言えばそうですよねえ。でも今更後に引けないし。)と、悩んでいた。
ところがそんなヨウメイの気持ちを知るよしも無く、キリュウは腕組みをした。
「確かに無意味だな。こんな山で試練をするよりももっと他の・・・」
「キリュウさん!」
出雲に賛同するかのようなキリュウの言葉をヨウメイが遮る。
なんだか必死な顔でキリュウを見つめるその目に、キリュウはそれ以上言うのを止めた。
そんなヨウメイの様子を見て、熱美とゆかりんがぼそぼそと話をする。
「なんだか一生懸命ね、楊ちゃん。」
「楊ちゃんて結構負けず嫌いだから・・・。」
それがチラッと聞こえたシャオは、思わず二人に聞いてみた。
「あの、ヨウメイさんは誰かと勝負をなさってるんですか?」
「いや、そうじゃなくて。うーん、なんて言ったら良いのかな・・・。」
「勝負してるんじゃなくて・・・いや、やっぱり勝負してるよ。」
何気無しに答える二人。更に翔子が加わってきた。
「つまり、おに―さんの意見が正しいと従っちゃうのが悔しいんだ。」
「ええ、そういう事ですね。」
「やっぱり普段から物事を教えつづけていると・・・。」
「なるほど。出雲さんと勝負をなさってたんですね。
ヨウメイさんてとっても頑張りやさんなんですね。」
四人の会話は全て見物客に筒抜けであった。小さな笑い声やらがあちこちで起こる。
出雲は出雲で、やれやれとため息を一つついていた。
やがて太助が“よし!”と気合の入った声を上げる。
「難易度が下がったんだ。あっさり登って昼食にしよう!」
そして太助は勢いよく登り始めた。昼食という言葉に空を見上げる面々。
確かに太陽がそれぐらいの位置に居る。
地割れを下って行くのに、かなりの時間が経っていたことを物語っていた。
少し遅れてキリュウとヨウメイは、顔を見合わせて頷き合う。
地割れの時にも使った飛ぶ道具を取り出し、二人は山の中腹へと飛んで行った。

太助が山を登る登る。先程までの疲れも何のその、とにかくすごい勢いである。
ものの数分も経たないうちに何十メートルも登ってしまった。
しかし休憩する様子は無い。登るスピードを少しも落とすことなく登りつづけていた。
すぐに太助が見えなくなってしまい、見物客達は例によってルーアンのコンパクトで観戦する事に。
今度は先ほどと違ってそんなに緊張することも無い。なんと言ってもただの山登りなのだから。
「ただの山登りねえ・・・。こんなんで試練になるのかなあ・・・。」
翔子の呟きに皆は頷かざるをえなかった。
竜巻を登り、嵐を超え、断崖絶壁を降り・・・。これらに比べれば山登りなどたやすいものだ。
もちろん、キリュウとヨウメイが何をするかによって状況は大きく変わるのだが。

そのキリュウとヨウメイは、飛翔球によって、ようやく太助に追いついた。
上空から、太助が山を登る様子をじっと見ている。そしてヨウメイがキリュウに話しかけた。
「どうしましょうか、キリュウさん。何をやれば効果的だと思いますか?」
「とりあえず私が普段やっていることで時間を稼ぐ。その間に考えられよ。」
キリュウが短天扇を広げる。そして・・・。
「万象大乱!」
太助の前方にあった小石その他もろもろがあっという間に巨大化した。
中には重みに耐えきれず転がってくるものもあったが、
太助はそれをうまく避けながら石山を超え始めた。
「・・・あれくらいならすぐに超えられそうですよね。
うーん・・・しょうがない。来れ、土砂崩れ!」
ヨウメイが叫ぶと同時に、太助の前方が“ゴゴゴ”とうなり始める。

「なんだ?」
太助がきょとんとしてみていると、前方から大量の土砂が流れてきた。
びっくりして飛び上がり、太助は慌てて石山を降りる。
「ちょっと待てよ―!土砂崩れなんて起こすなってのー!!」
叫びながらも懸命に逃げる太助。
もと来た道を引き返しながら、懸命に土砂の流れから逃れようとする。

その様子を見て、キリュウは感心していた。
「さすがはヨウメイ殿だな。これならまだまだ試練が行えそうだ。」
「感心してないでキリュウさんも考えてくださいよ。私だけじゃあ限界があるんですから。」
「うむ、分かっている。しかしこんな土砂しかないような山では・・・。」
何やら遠慮がちなキリュウに、ヨウメイはそれ以上言えなかった。
もともとこの山を登るという試練は予定外なのだから。
それに山といえど、キリュウの言う通り土砂と呼べるものしかない。
木々でも生えていればそれなりにやりようがあるだろうが、これははげ山なのだから。
「しょうがない。ちょっと方針を変えてみますか。」
「方針?」
「あんまり気にしないでください。とにかくキリュウさんは万象大乱を駆使してくださいよ。」
「うむ、心得た。」
二人が言葉を交わしているうちに、太助は土砂の難を逃れ、再び勢いよく山を登っていた。
まるでスピードが落ちていない、疲れ知らずという感じである。

一方、太助の様子だけを見ている見物客達。
土砂崩れに少し驚かされたが、今はのほほんと見ているだけである。
「やはりただの山登りみたいですね・・・。」
出雲の声に、再び皆で頷くのであった。

「さてと。主様、ちょっときつくなりますが許してくださいね。来れ、大雪!」
途端に太助の視界がゼロになる。それもそのはず。
いきなり一面真っ白になるほどの大量の雪が降り出したのだから。
突然のことに立ち止まってしまった太助だが、やはり走りつづけた。
雪が積もってしまっては、それこそ山を登りきれなくなってしまう。
上空では、衰えることの無い太助のペースを見て、ヨウメイがキリュウに太助を求めた。
「キリュウさん、ちょっと手伝ってください。」
「これ以上沢山振らせるのは無理だという事だな。
では、万象大乱!」
頂上付近に積もっていた雪が大量のものとなる。
もちろん、太助が今だ足を踏み入れていない場所全体の雪の量が増したのだ。
あっという間に、その山は雪山と化してしまった。
大量に雪が積もっている場所に辿り着いた太助は絶句する。
それでも立ち止まることなく、雪を掻き分けながら懸命に歩を進めた。

「雪・・・。さすが楊ちゃん・・・。」
唖然とする花織に、皆も頷く。
なんの変哲も無いはげ山が、あっという間に試練いっぱいの雪山に化けたのだから。
「雪山って言えば、当然雪崩が起きるよな・・・。」
那奈の一言に、安心しきっていた皆の顔が、あっという間に不安でいっぱいとなる。
ヨウメイの力なら、雪崩を起こすことなど造作も無いだろう。
いくら太助といえど、雪崩に巻き込まれれば無事で済むわけが無いのだから。
「楊ちゃんがちゃんと手加減してやると良いんだけど。」
熱美がぽつんと言うと、皆は更に不安な顔になった。
雪崩の細かい計算までしてくれるかどうかが不安なのである。
とはいえ、何か言いに行けば、またもや文句が返ってくるに違いない。
太助の無事を祈って、皆はコンパクトにくぎ付けになっていた。

ペースは落ちたものの、それなりに頂上へ近づいている太助。
雪は今だ激しく降っているが、吹雪というわけではないのでそんなにつらくないようだ。
「よーし、あともうちょっとだ!」
太助がそう叫んだ頃には、頂上が見える位置まで来ていた。
もちろん太助は油断無く確実に進んでいたが・・・。
「そうは問屋がおろしませんよ。来れ、雪崩!」
上空からヨウメイが叫ぶ。と同時に、頂上から大量の雪が太助めがけて流れてきた。
「こんどは雪崩!?やっぱりかー!!」
そう。太助はなんとなく予想していた。
だから、意識的に少しペースを上げつつ山を登っていた。雪崩が起きる前に頂上に辿り着こうと。
しかし結局雪崩が起こってしまい、太助はそれに呑まれてしまった。
「う、うあああ!」
叫び声は雪崩の“ゴオオオ”という音にかき消された。
結果、太助は雪の中に埋もれてしまったのである。

「太助様!」
コンパクトで様子を見ていたシャオが立ちあがった。
すぐさま軒轅を呼んで山へ向かおうとしたが、
「シャオ、座ってろ。」
と、翔子に手を掴まれた。
「翔子さん・・・。でも!」
「今は七梨の試練中なんだ。七梨を信じて待つんだよ。」
「・・・はい、分かりました。」
力無く座るシャオに、那奈がそっと告げる。
「大丈夫、太助のことだ。雪に呑まれたって平気で這い出してくるよ。」
シャオはこくりと頷くしか出来なかったが、じっと座って待つことにした。
そのいたいけな表情を見て、沈んだ気持ちになるその他の面々。
確かにいろんな試練を超えてきた太助だが、雪崩は初体験だろう。
それだけに、無事に出てくるという確証を持てるわけではなかった。
「あの二人、容赦無いな。どんなに簡単に見える試練も、あっという間に難しくしちまう。」
呟くたかしに、みんなはますます重苦しい表情でコンパクトを見つめるのであった。
とその時、雪の一部がもぞもぞと動く。そして太助が“ぷはあ”と顔を出した。
「太助様!」
「ほーら、やっぱり無事だったろ?」
「さすがわが弟。雪崩なんてめじゃないってね。」
雪の中から這い出し、太助は頂上へ向かって走り出した。
「たー様ったらまだまだ元気じゃない。この調子だともうすぐ終わりそうね。」
「すごいですね、七梨先輩って。あたしほんとそう思いますよ・・・。」
「ゆかりん、それって今更って気もするけど・・・。
でも無理もないかあ。雪崩に呑まれて這い出してくるんだものね。」
「そしてすぐに頂上目指して走る。素敵ですう、せんぱあい・・・。」
ぽーっとしている花織の視界に、乎一郎が手をぶんぶんと振る。
「花織ちゃん?とろけてないで応援しなきゃ。」
「遠藤先輩、花織はこうなっちゃうとしばらく元に戻りませんから。」
「ほんと、あいもかわらず乙女チックだよねえ。こんな試練のときまで。」
熱美とゆかりんに、“はあ”と促される乎一郎。
見物客がそうしている間にも、太助は確実に山を登って行った。

「はあ、はあ。後少しだあ!一度雪崩が起こったんだ。
二回連続なんて無理だろう。今のうちに・・・!」
そう、積もったすぐの雪を全て雪崩に使用したため、山の斜面にはほとんど雪は残っていない。
もちろん雪はどんどん降っているものの、雪崩を起こすにはしばらく時間がかかりそうである。

「・・・さすがと言うかなんというか。まさか雪崩をああもあっさり超えてくるとは。」
少々驚きの顔で太助を見つめるキリュウ。
ヨウメイも感心してはいたが、キリュウとは違って少し難しい顔をしていた。
「うーん、これ以上難易度を上げるべきか止めるべきか・・・。
それが問題ですね・・・。」
何処かの本に載っていそうな言葉を呟いていると、キリュウがやれやれという顔で振り向いた。
「まだ何かするつもりなのか?これ以上やるのはどうかと思うぞ。」
「でも、雪崩を超えたくらいで崖登りと同等に扱うのは・・・。」
「まあヨウメイ殿が好きにするが良いだろう。私はとりあえずこの辺でよいと思う。」
「ずいぶん甘いんですね。ま、あんなのを見れば・・・。
では後一つだけにしましょう。来れ・・・濃霧!!」
途端に雪が止んだかと思うと、一瞬にして辺りは濃い霧に包まれた。
とっさのことに驚いて立ち止まる太助。なんといっても視界がゼロになったのだから。
「・・・何も見えない。ちょっと待てよー!!どうやって頂上に行けってんだよ―!!」

叫んだのはもちろん太助だけではなかった。
見物客達も、その霧によってコンパクトで太助が見えなくなってしまったのだから。
「きいーっ!!なんでた―様が見えないような試練をやるのよ―!!
後で絶対に文句を言ってやるー!!」
興奮しながら立ちあがったルーアンだったが、叫んだだけでおとなしく座りなおした。
「何も見えませんね。大丈夫でしょうか、太助様・・・。」
「霧程度なら大丈夫だろ。高いところへ行くだけなんだし。」
「それもそうか。じゃあなんでヨウメイちゃんは霧なんか?」
「ひょっとしたらそれに気付かずに霧を出したのかも。
結構楊ちゃんて抜けてるところがあるから。」
「なるほどね。いくらヨウメイさんでも失敗することはたまにある、という事ですか。」
顔を見合わせて笑い合う見物客達。
とりあえず太助を見ることが出来ないから、話に花が咲いてもおかしくない。
ちなみに花織は、霧を見てまたもや乙女モードに入っていた。

「どうしたのだ?ヨウメイ殿。」
上空では、少しヨウメイの様子がおかしいのに気付いたキリュウが声をかけていた。
どうやら見物客達の話の内容を統天書によって知り、それでわなわなと震えているのである。
「熱美ちゃんたら・・・。失敗じゃないもん!!ちゃんと試練になるんだから!!」
なんだか荒れ出したヨウメイを、キリュウは慌てて落ちつかせた。
今は太助の試練中なのだから、八つ当たりなどされてはとんでもない。
その太助も、霧の中落ちつきを取り戻して、那奈の言った通りに斜面を登り始めた。
つまり、自分の平衡感覚を頼りに頂上を目指しているのである。
「・・・はあ、はあ。」
「落ちついたか?ヨウメイ殿。試練中にそんなのでは困るぞ。」
「すいません。さて、気を取り直して続きを・・・来れ、狂重力!」

ヨウメイが叫ぶと同時に、太助はぴたっと止まってしまった。
そして急いで地面に体をつけて、平衡感覚を確かめ始める。
「おっかしいな、こっちが頂上じゃなかったっけ?
えーと・・・こっち、いやまてよ、そっちかな・・・あれ・・・?」
霧の中うろうろとする太助。正しい方向が分からなくなったようである。

「ヨウメイ殿、何をしたのだ?」
「ちょっとあの山の重力を狂わせたんです。
これでどっちが高いか分からなくなるってことですね。」
「そうか、あの山は斜面はそんなにきついものではないからな。
しかし重力が狂うなど・・・それは自然現象なのか?」
「実際にそういう地方があるんですよ。多分キリュウさんは知らないでしょうけど。
けどねえ、結構疲れるんですよ。やっぱり地球に逆らっているわけですから。」
「ふむ・・・?」
なんとなくわかったような分からない顔のキリュウ。
しかし、重力を狂わせるという点で、やはり“ヨウメイ殿はすごい”と感心したのである。
しばらくの間、何も変わらない時間が流れる。
相変わらず太助は、頂上が分からず霧の中をうろうろ。
見物客達は見物を投げ出してお話。(霧の所為で太助が見えないから)
そしてキリュウとヨウメイは、何もせずにそのままであった。
「何かしたいのだが・・・。このままぼーっと居るというのはどうも・・・。」
ボソッと文句を呟いて霧のかかった山を見るキリュウ。
とその時、その霧がだんだんと薄くなってきだした。ふもとの方から徐々に晴れてゆく。
キリュウが慌ててヨウメイを見ると、つらそうにしている様子がとれた。
「ヨウメイ殿、霧が・・・。」
「ええっ?やっぱり重力を狂わせるなんてことやったから・・・。
仕方ない。手前の状態に・・・戻れ、重力!」
再びあっという間に濃くなる霧。それと同時に、ヨウメイはがくっとひざをついた。
なんとなしに息もたえだえである。しばらく息を止めていた後のような、そんな感じだ。
「大丈夫か?ヨウメイ殿。」
「え、ええ、なんとか。・・・よくよく考えてみたらキリュウさんに頼めば良かったんだ。
大地の精霊なんだから・・・。キリュウさんがやってくださいよ。」
「重力を狂わせることか?そんなもの、私が出来るはず無いだろう。」
「うそでしょう?だって大地の精霊なのに・・・。」
「出来ないものは出来ない。重力と大地は別物だ。」
「はあ、そうですか。じゃあ仕方ないですね、霧だけで・・・。」
改めて山を見下ろす二人。もし太助が頂上まで来たらそれが見える位置に居る。
ところが、その肝心の太助はヨウメイの術に見事に引っかかり、
山のかなりふもとのほうまで降りてきていた。
「・・・なんで下ってんだ?くっそー!早く登らないと―!!」
気付いて慌てて引き返す太助。とりあえずヨウメイがダウンしたので、
これ以上新たな障害がくることは無い・・・はずだったが。

「ふむ、少しひらめいた。ヨウメイ殿、私も参加させてもらうぞ。」
「万象大乱ですか。一体何に?」
「見ていれば分かる。万象・・・大乱!!」
キリュウの叫びと共に大きくなったのは・・・。

『ポツッ!』
「・・・あれ?雨か?霧のうえに雨だなんて・・・でえええっ!?」
太助が上を見上げた瞬間、まるでバケツをひっくり返したようなという表現をしたくなるほど、
大量の水が太助に降り注いできた。
いや、降り注いだだけではない。太助と同じ高さくらいの位置が、瞬く間に水であふれかえったのである。
キリュウが大きくしたのは霧の粒。それも山全体の霧だ。
あまりにも範囲が広いため、全てが大きくなるまでに時間がかかったが。
とにかくそれによって、山の上は一瞬にして水で埋め尽くされたのである。
「うわあああ!!ちょっと待てよ―!!」
昨日の泳いでの試練の経験をした太助も、さすがになすがままである。
抵抗しつつも、どんどんとふもとへ流されて行った。

そして見物客達。山の異常にいち早く気付いたのは、やはりシャオだった。
「太助様が!!」
「いきなり洪水かよ!さっすが容赦ね―。」
「感心してる場合じゃないぞ。どんどん流されているじゃね―か!」
「やっぱり、楊ちゃんはこれを計算に入れて霧を出したんだ!」
熱美の叫びに、ゆかりんがぽんと肩を叩く。
「熱美ちゃん、さっきは楊ちゃんは抜けてるとか言ってなかった?」
「そうだよ。それにしばらくは何も起こらなかったじゃない。」
更に言う乎一郎に、ばつが悪そうにうつむく熱美。
もちろん見物客達は、山の重力が変わったことなど知るよしもない。
それこそ、キリュウが思いつきでこれを実行したことなど、誰にもわからなかった。
花織とルーアンはコンパクトを取り合うようにして応援合戦をしている。
熱くなっている女性陣を見て、出雲はふぁさっと髪を掻き上げた。
「まったく、昨日の試練が生かされてませんねえ。
何のために私が苦労して泳いだんだか。」
「ほんとだぜ。俺たちの努力をわす・・・ぶっ!!」
途端にたかしの頬に翔子のびんたがとぶ。同じく出雲の頬にも、那奈のそれが繰り出された。
「おまえらな、見てるだけのくせして威張ってるんじゃね―よ!」
「弟を侮辱するとはいい度胸だな。後でヨウメイに言いつけてやる。」
地面に倒れながらも、翔子と那奈の迫力ある顔を見た出雲とたかしは、慌てて土下座し出した。
あきれながらその光景を見るほかの面々。
二人とは違うものの、昨日の事を思い出していた乎一郎は、
“口に出さなくて良かった”とほっと胸をなでおろしていた。

上空で待機しているキリュウとヨウメイ。しばらくは山の荒れた様子を見ているだけだった。
キリュウが霧の全てを大量の水として変えたために、すっかり霧は晴れている。
「人の霧に万象大乱なんて・・・恐れ入りました。」
「なに、ちょっとした思いつきだ。」
「それよりこのまま流しといて大丈夫でしょうか。下手すると地上のみんなに被害が及ぶかも。」
「それなら心配要らぬ。ちょっとふもとの方へ。」
キリュウに言われて、水を追いかけるようにふもとへ向かう二人。
そして、すでに地上まで後わずかというところまで来ている、太助と大量の水に追いついた。
そこで短天扇を構えるキリュウ。
「これくらいで良いか。・・・万象大乱!」
あっという間に大量の水は少量となり、それは次々と地面へと染み込んでいった。
いきなり水から投げ出され、しりもちを打った太助はよろめきながらも立ちあがった。
「なんでこんなとこまで・・・ちきしょう―!」
まだまだ元気が残っているようで、太助は猛ダッシュで再び山を登り始めた。
今度は霧も何もない。目に見える頂上へ向かって、勢い良く駆けて行く。
「・・・まだあのような元気があったとは。」
「これ以上は行わなくていいですね。頂上で待つとしましょう。」
空を飛んで一足先に向かうキリュウとヨウメイ。
これ以上やるとさすがにきりが無くなると思い、ここでの試練は終わりという事にしたのである。
そして頂上。息を切らしながらも元気良く登ってきた太助を、二人は笑顔で出迎えた。
太助は太助で、ようやく頂上に着いたことにほっとして、そこにへなへなと座り込んだ。
「ふう、やっと着いた。まったく、とんでもない山だったよ。」
「ふふ、お疲れ様でした。さ、お昼御飯にいたしましょう。」
「主殿、よくぞ頑張ってこの試練を超えられた。では、万象大乱!」
見る見るうちに小さくなってゆく山。
三人が地上まで降り立ったかと思うと、見物客達は拍手でそれを出迎えた。
「お疲れ様でした、太助様!!」
「ああ、シャオ。大変だったけどなんとかやったよ。」
やはり一番最初に太助に駆け寄ったのはシャオ。
翔子と那奈がきっちりガードしたのは言うまでも無いだろう。
「ほんとよくやるよなあ。こんな無茶な試練を・・・。」
「太助、ほんとに成長したなあ。姉ちゃんは嬉しいぞお。」
シャオの後に続いて太助の傍に寄る翔子と那奈。
二人を邪魔者から守るためだという思惑があるとは、太助は知るよしも無いが。
「やっぱり楊ちゃんて只者じゃあないね。
土砂崩れに雪崩、挙句の果てには霧を利用して洪水なんて。」
誉めた花織に笑顔で頷いたヨウメイだが、熱美の方をチラッと見て言った。
「洪水を起こしたのはキリュウさんだよ。でもね、熱美ちゃん。
抜けてるなんてひどいよ。あれはちゃんと計画のうちだったんだから。」
「うっ、ごめ〜ん。後から気付いて言いなおしたんだけど、えへへ・・・。」
「しかもその洪水は、私が少し思いつきで行ったものだしな。」
「へえー、そうなんですか。キリュウさんってすごいですね。」
「霧の粒を巨大化させて・・・。さすがだね。」
後から誉めるゆかりんと乎一郎に、顔を少し赤くするキリュウ。
遠くからその光景を見ていたたかしだったが、思いきって聞いてみた。
「それにしても太助、昨日とは違っておもいっきり流されてたな。どうしてだ?」
翔子と那奈にじろっと睨まれて慌てて後ずさりしたたかし。
しかしその二人が何かする前に太助が口を開いた。
「やっぱり突然だったからな。昨日みたいに水につかったままって訳じゃないだろ。
だから慌てちゃったんだろうな。それで流されちまったんだ。」
「なるほど、それじゃあ仕方ないか・・・。」
納得したように頷くたかし。たかしに続いて、更に何か質問しようとした出雲。
ところが、翔子がヨウメイの方を向いたために、そのタイミングを逃してしまった。
「ヨウメイ、野村とおにーさんが試練中にほざいてたんだ。
“昨日私があれだけ苦労したのに・・・。まったく、太助君は何をやってるんでしょう”ってね。
那奈ねぇと一緒にのしちまったけどさ、たかしはとりあえず良く分かったみたいだ。
問題はおにーさんだな。というわけでヨウメイ、説明なり何なりしてやってくれ。」
翔子に促されて一歩前に出るヨウメイ。
びくっとなった出雲に対して、“はあ”とため息を一つついた。
「まだ分かってないんですか?どうしてそうなんでしょうねえ、宮内さんて・・・。」
「い、いや、分かってないなんてことじゃなくて、つまりその・・・」
「来れ、雹!」
突然ばらばらと降ってくる雹。当然出雲の居る辺りだけである。
「いたたた!!ちょ、ちょっとー!!」
必死で逃げ回っているが、どうやら出雲が居るところだけに降るらしく、
逃げ回る、走り回るという行為は無意味のようであった。
「反省しましたか?」
「はい、反省しましたー!!だから止めてくださーい!!」
そこで統天書を閉じたヨウメイ。と同時に、雹も止んだ。
真っ赤にはれた手を痛々しく見つめながら、出雲は地面にへたり込む。
みなが唖然としている中(翔子と那奈は笑っていたが)、ヨウメイは太助の方へくるっと向いた。
「主様、本日最後の試練は今さっき宮内さんに行ったものの応用版です。
その試練を行うまでに、自分なりの対策を考えてくださいね。」
“げっ!”という顔をしながらも、太助はこくりと頷いた。
ヨウメイの言葉に、熱美とゆかりんは何やら複雑そうな表情を浮かべている。
「ねえ熱美ちゃん。最後の試練てなんなの?」
「遠藤先輩、花織のお星様きらきら〜ですよ。雹と良く似た・・・これ以上は言いませんけどね。」
「雹と良く似た・・・って、まさか!!」
何やら思い付いた乎一郎の顔が、一瞬にして蒼ざめる。昨日の謎が解けたようであった。
念のため熱美とゆかりんを見てみると、テレパシーでも伝わったのだろうか、二人はこくりと頷いた。
それによって、乎一郎は苦笑いを浮かべるしか出来なかった。

「では、お昼御飯にいたしましょう。シャオリンさん、お弁当お願いします。」
「あ、はい。来々、瓠瓜!」
ヨウメイに言われて、シャオが支天輪より瓠瓜を呼び出す。
それと同時に、瓠瓜派の二人、翔子と那奈は一斉に飛びついた。
「瓠瓜ぁ〜。やっぱおまえってかわいいなあ。」
「翔子、ずるいぞ。あたしが先に飛びついたんだからな。」
何やらもめる二人に呆れ顔になる面々。シャオが作ったお弁当は瓠瓜の胃袋の中だろう。
したがって、このままではお弁当が食べられない。
「ちょっと二人とも!!お弁当が食べられないじゃないの!!
とっとと瓠瓜を離しなさいよ!!」
今までずっとだんまりだったルーアンが力いっぱい叫ぶ。
実は黙っていたのではなくて、お腹が空いて叫ぶ余裕が無かったのである。
食事を目前に控えたため、こうして二人に叫んだのであるが・・・。
「ああっ、こら、那奈ねぇ!」
「へへーんだ。こうなったら瓠瓜を抱いてるもん勝ちだい。」
やはり争いを止めない二人。
「こら〜止めなさいって・・・お腹空いたあ・・・。」
「ルーアンさん・・・。」
たかだか見物していただけなのになぜお腹が空くのか、という細かい事は置いといて、
とにかくルーアンの悲痛な叫びに同情したヨウメイ。例によって統天書をめくり出した。
「来れ・・・」
「待った、ヨウメイ殿。」
いきなりキリュウに手をつかまれ、慌ててその方を見た。
「なんですか、キリュウさん。早く昼御飯にしましょうよ。ルーアンさんのためにも。」
「自然現象を扱えば二人のみならず瓠瓜殿にまで影響が及ぶ。
そればっかりはちょっと・・・。」
「そうだよ、楊ちゃん。落ちついてって。」
「もう少し穏便に、ね?」
いつのまにか熱美とゆかりんもそばに来ていた。仕方なく統天書を閉じるヨウメイ。
しかしそんないざこざで二人の争いが終わるわけではない。
あいも変わらず瓠瓜の取り合いに明け暮れている那奈と翔子であった。と、その時、
「やめろよ二人とも!いつまでたっても昼御飯にならないじゃないか!
シャオのお弁当をみんな心待ちにしてるんだぞ!それを考えろよ!!」
と、太助が止めに入った。
いきなり怒鳴られて、ぴたっと争いを止める翔子と那奈。そしてしぶしぶと瓠瓜を太助に手渡した。
「そうそう、それでいいんだ。よし瓠瓜、頼むよ。」
「ぐえ。」
太助に促されて瓠瓜が大きく口をあける。
その口から、沢山のお弁当が飛び出した。
「うわ―、こんなに沢山。シャオ、一人で大変だったんじゃないか?」
「いいえ。太助様はもっと大変な試練をなさるんですもの。
これくらい頑張って作らないと。大勢いらっしゃることですしね。」
「おお、おべんとー!」
太助のシャオの合間を縫ってルーアンが飛び出す。そして慌てて食べようとしたが・・・。
「ルーアンさん!まずは手を合わせて挨拶してからです!」
と、ヨウメイに後ろから引っ張られ、地面をひきずりながら戻って行った。
「妙なところで真面目だな。まあ、ルーアン殿を止めたのはなかなかのものだ。」
「キリュウさん、それって誉めてるんですか?」
「試練だ、深く考えられるな。」
「はいはい。」
そんな会話を笑いながら聞いていた花織達。
しばらくして笑うのを止め、お弁当を広げ始めた。
「さあ、早く食べましょうよ。皆さんお腹ペコペコでしょう。」
「出雲さん、ぼーっとしてないで手伝ってくださいよ。」
「あ、はいはい。すいません。」
そして他のメンバーも食べる準備をし始めた。
しかし、立ったまま固まっている人物が二人。それは・・・。
「どうしたんですか、山野辺さんに那奈さん。
二人ともお昼御飯いらないんですか?」
ヨウメイに言われて、ゆっくりと振り向く二人。
そう、太助に怒鳴られてからなぜかそのままでいるのである。
「食べるさ。でもな・・・。」
「まさか太助があんなに怒鳴ってくるとはな・・・。」
返事はしっかりしているものの、どうも気が抜けているようである。
ヨウメイはそんな二人を見た後に主である太助を見る。
太助は皆と一緒に笑いながら、食べる準備をしている。試練の疲れなど無い様に。
もう一度二人の方に向き直る。やはり立ち尽くしたままであった。
「それほど主様も成長なされたって事ですよ。そんなに意外な事だったんですか?」
すると那奈は首を横に振った。
「いや、なんだか別人のような気がしてさ。
あいつが怒鳴る時は感情的になった時くらいの筈だったんだけど・・・。」
それに翔子も続いた。
「みんなのことを考えてリーダー的に、なんて野村のキャラじゃないか。
だから、七梨のやつがあんなに言ったなんて信じられなくって。
意外っていうんじゃなくて、その、まるで七梨じゃないような・・・。」
ヨウメイはいまいちよく分からないので、“ふむ?”と首を傾げた。
そして例によって統天書をめくり出す。
二人がそのヨウメイを見出したところで、ヨウメイはぴたっと手を止めた。
「人格が変わった・・・とでも言いたいんですか?」
しかし二人はそれに首を横に振る。またもやヨウメイは統天書をめくった。
「では、ただの気まぐれとか?」
少しためらったものの、やはり二人は首を横に振る。
三度目、ヨウメイは統天書をめくった。
「何かが乗り移った、ですか?」
すると、二人は首を縦に振った。
それを見て、呆れた様にため息をつくヨウメイ。
「あのね、お二人さん。正解は二番です。つまり主様の気まぐれ。
クラスメートとお姉さんならそれくらいは分かって下さいよ。」
もちろんそれでただ納得する二人ではなかった。
驚いたように、ヨウメイに言葉を返す。
「ええー、そうなのか?あれって太助の気まぐれ?」
「絶対何かとりついたんだって。それよりこれってクイズだったのか?」
首を動かして順に返事を返した後、ヨウメイは口を開いた。
「気まぐれです!試練を超えられたんで、少し上機嫌になられたんですね。
何かがとりついたってんなら、統天書にすぐさま載るはずです。
もう一つ、今のはクイズじゃないです。けどちょっと遊んでみたんです。
少しは楽しめたんじゃないですか?あははは・・・はは・・・すいません。」
笑い出したヨウメイだったが、二人が怖い顔で睨んでいるのに気付いてそれを止めた。
それでも、気まぐれという言葉になんとなく納得した二人ではあった。

「おーい、三人とも。昼飯は食べないのか―?」
太助の声にはっと振り返る、翔子、那奈、ヨウメイ。
三人で適当に言い合っているうちに、昼食の準備は出来たようである。
太助達は、何やら夢中になっている三人をとりあえずおいて準備していたのであった。
三人は、慌ててそばに駆け寄って座り込む。そして、キリュウがヨウメイをつついた。
「ヨウメイ殿、頼むぞ。」
「へ?あ、ああ、そうですね。では皆さん、手を合わせてください。」
待ってましたとばかりに皆が手を合わせる。そして・・・。
『いただきます!!』
と、挨拶が告げられた。それと同時に勢いよく食べ出すルーアン。
もちろん彼女専用にと、キリュウが一部食べ物を大きくしてある。
“がつがつ”、“ぱくぱく”という音と共に、にぎやかな昼食が始まった。
バリエーションに富み、そして味も素晴らしいお弁当を食べながら、
皆は楽しくおしゃべりするのであった。
「ああー、美味しい。なんだか今日は格別に美味しいなあ・・・。」
なんだか感動している太助に、シャオはにこやかに言う。
「きっと試練を超えられたからですわ。
何かを成し遂げた後のお食事は美味しいものですよ。」
「そうか。よし、この調子で次の試練も頑張らなきゃな!」
俄然元気に食べ出す太助。
先程の事がまだ少しだけ気になっていた翔子と那奈だったが、それを見てうんうんと頷いた。
そして、シャオを太助の元へ導く作戦を二人で相談し始めたのである。
また、ヨウメイと例の三人は楽しくおしゃべりしていた。話の内容は試練の話ではない。
どんな飾りが可愛いとか、どんなお菓子が好きとか、とにかくたわいない雑談である。
乎一郎はルーアンのがつがつと食べる勇姿を見つめながらパクパクと。
たかしと出雲は、次の試練中にこそシャオに近づいてなんたらかんたらという作戦を練っていた。
キリュウはもの静かに、“ぱく”、“ぱく”とゆっくり食べていた。
さりげなくその隣で御飯を一緒に食べている瓠瓜、軒轅。
時々キリュウが星神を見て試練を練っていたのは、その星神が知るのみとなる。

「ところで楊ちゃん、次はどんな試練なの?」
唐突に尋ねる花織。もちろんヨウメイは隠しながら答えた。
「ちょっと炎を使ってね。詳しくは説明の時に。」
その答えに不満があるのか、熱美が更に突っ込んで尋ねる。
「具体的にはどんな事するの?ねえ、教えてよ。」
「だあめ。今教えている時に主様に聞こえちゃったら試練に成らないもの。」
もちろんそれで引き下がるわけではない。最後にゆかりんが尋ねた。
「何かヒントくらいいいでしょ。ねえ、楊ちゃん。」
「もう、しょうがないなあ・・・。」
あきらめたように統天書をめくり出すヨウメイ。
一体何を言ってくれるのか、興味津々に三人はそれを見つめていた。
「一つだけ言うね。溶岩の海で泳ぐ!」
「「「へええ・・・ええええっ!!!???」」」
三人同時に大声を上げる。何事かと思い、ルーアン以外の面々はその方を見た。
「ちょっと楊ちゃん、それ本当なの?」
「いくらなんでも七梨先輩死んじゃうよ。」
「そうそう。まずは出雲さんに溶岩の中で泳いでもらうとか。」
最後の一言に御飯を“ぶっ!”と吹き出す出雲。
咳き込みながらもヨウメイに聞いてみた。
「あ、あの、冗談ですよね。溶岩の中を泳げだなんて。」
ヨウメイが答える前に、太助が驚愕の表情で後を追って言った。
「いくらなんでも無理だって!!それこそ、溶岩に浸かっただけで死んじゃうよ!!」
「ヨウメイさん、それはあんまりですわ!!どうしてもというのなら、この私を!!」
更にはシャオにまで迫られ、ちょっと慌てるヨウメイ。
それでも、しばらくの後には落ち着きを取り戻して説明し始めた。
「嘘ですよ。誰が溶岩の中で泳げるもんですか。
あ、でもキリュウさんなら大丈夫かも・・・。」
今度はキリュウが御飯を吹き出した。慌ててヨウメイに迫る。
「無茶を言うな。いくら私が大地の精霊でも焼け死んでしまう!」
「いやだなあ、冗談ですよ。主様、一応溶岩を使う試練とだけ言っておきます。」
にこやかに告げたヨウメイだったが、太助達はやはり驚愕の表情を崩さなかった。
キリュウは“まったく・・・”とぶつぶつ呟きながら御飯を食べ始めたが・・・。
それから、なぜかひそひそ話だけがされるようになってしまった。
“しまった”と思いつつも、務めて明るい表情で御飯を食べつづけるヨウメイ。
しかし、笑顔でいるものはヨウメイ、そしてルーアンだけであった。
それでもお弁当がなくなるのはかなり先の事のようである。
なんとなく雰囲気に耐えかねたヨウメイは立ちあがった。
「あ、あの、皆さん?もっと楽しく食べましょうよ。そんなに深刻にならずに、ね?」
一度はそれに反応して顔を上げた面々。しかし、すぐさまうつむいて食事に戻ってしまった。
もちろんひそひそ話付きである。その光景に、ヨウメイは苦笑いを浮かべながら座るしかなかった。
「楊ちゃん、溶岩なんていう言葉自体が怖いよ。
だって、触っただけでなんかすっごく痛そうだもん。」
「それもそうよね。はあ―あ、言うんじゃなかった・・・。」
ゆかりんの言葉になんだか落ちこむヨウメイ。
その原因を作った花織達三人は気まずくなってヨウメイを慰め始めた。
「ごめんね、あたし達が無理に聞いたから。」
「具体的に、なんて聞くべきじゃなかったね。炎を使うっていう点で納得しておくべきだったんだ。」
「あんまり気にしないで、楊ちゃん。悪いのはあたし達なんだから。」
気重ながらも必死な三人の顔に、ヨウメイはにこりと笑って返した。
「ありがとう。まあ、試練を始める頃にはみんな元に戻るよね。」
そして少しだけ笑い合って、四人とも最初のペースに戻った。
つまりたわいない雑談、という事なのだ。
時折交じってくる笑い声に、深刻気味な周りの人間は少しばかり不愉快にならざるを得なかったが。
しかし、当然ルーアンはそんな事を気にしている様子も無い。
ひたすらがつがつと、当初のペースを忠実に守って食べているのだ。
そんなルーアンをチラッと見たヨウメイが一言。
「みんながルーアンさんみたいなら、ちゃんと食事できるのに・・・。」
もちろん周りの皆は、心の中でそれに突っ込みをいれていた。
“そんな事になったら、地球の食料なんかあっという間に無くなっちゃうよ”と。
もう一つ、“食べる料理を作る人がいないのも困るんだけど”とも。
とにかくそれで落ち着きを取り戻し(?)無事に昼食は終了したのである。

≪第十二話終わり≫


あとがき:というわけで、強烈な試練の一日の始まりです。(もう三分の一終わってるけど)
かなり無茶な能力、そして太助が常人離れしてますが、それは笑って許していただければ。(コラ)
あんまり苦労しまくっても、書くのが大変ですから・・・。(というのが本音)


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