鶴ヶ丘町とは少し離れたとある町にあるデパート。
バーゲンでもやっているのだろうか、この建物の前の広場では大勢の人が行ったり来たり。
その中に、周りをきょろきょろと見まわしている中学生の女の子四人組の姿が・・・。
「楊ちゃん、ここでほんとに良かったの?やっぱり鶴ヶ丘町の方が・・・。」
「ちょっと花織ちゃん、今更そんなこと言わないでよ。私に頼んだのは花織ちゃんでしょ?」
「そうだよ花織。楊ちゃんによると、ここが一番お買い得に成る場所なんだってことだから。
さあて、張り切ってお買い物するぞー!」
「元気だね、ゆかりん・・・。」
そう。ヨウメイ、花織、熱美、ゆかりんの四人である。
花織の依頼により、楊明がとっても得するようなショッピングの場所を調べたのである。
もちろんそれぞれ目的の品物があるので、それらの平均をとって、ここという事に成ったのだ。
「それではいざ、お買い物に・・・。」
「「「「レッツゴー!!」」」」
気を取り直して四人同時に手を振り上げる。
道行く人たちはそれに一斉に注目したのは言うまでも無いが・・・。
そんな人目も気にせず、四人は意気揚々とデパートへと入って行った。
「さあてと、まずは・・・楊ちゃんの物からだね。」
「確か・・・お菓子だったっけ?」
熱美とゆかりんの言葉に、ヨウメイはドンと胸を張る。
「そのとーり!日頃のシークレットおやつに欠かせない物なの。」
「シークレットおやつ・・・。要はルーアン先生と一緒に食べるおやつって事じゃないの?」
呆れた顔で言う花織に、ヨウメイはちっちっちというようにする。
「あまいよ、花織ちゃん。これは私が一人で食べるの。ちょっとした休息に、夜寝る前に・・・。
もちろん夜寝る前に食べるのは、キリュウさんに大きくしてもらうためだけど。」
「楊ちゃん、寝る前に食べると太るよ。」
すかさず熱美がつっこむと、ヨウメイは自身満々の笑顔で振り向いた。
「その点は心配要らないから。ルーアンさんと同じじゃないけど、私は太らない体質なの。
さあ、美味しいおやつを探しにレッツゴー!」
「「「太らない体質・・・。うらやましいな〜・・・。」」」
三人は当たり前と言えば当たり前の反応をした。
ともかくそういう事で、四人がまずやって来たのは、一階のお菓子詰め合わせ売り場。
和洋問わず、様々な種類の品物が並んでいる。
それこそ、出雲が普段持ってきている饅頭、ようかん、蓬もちも・・・。
「うわあ〜、こんなにあると迷っちゃうなあ。なんにしよっかな♪」
ルンルン気分で見回すヨウメイに、熱美がそれとなく言った。
「ところで楊ちゃん、どれだけ買うの?
今日はお昼ここで食べるんだから、あんまり無駄遣いしちゃあ・・・。」
「平気平気。主様からたっぷりお小遣いもらったから。
しかもどれだけ買うかもちゃんと決めてあるんだ。だからだいじょーぶだいじょーぶ。」
余裕の表情で一つの売り場へ近付くヨウメイ。他の三人も、それに付いて行った。
「いらっしゃいませ。本店のお菓子はどれもこれも超一級ですよ。」
「ええ、知ってます。え〜と、この山積みになってるやつの、下から三番目ください。」
ヨウメイが指差したそれは、ヨウメイの背よりも高く積まれた物だった。
応対した店員の顔が引きつったのは言うまでも無い。
「あの、なぜ下から三番目・・・。」
「だってそれがいいんですもの。拒否するなら別の所へ行くまでです。」
「・・・分かりました。しばらくお待ちください。」
やれやれとため息をついた店員は山積みのそれを解体し始めた。
衝撃を与えない様に一つずつ慎重に。
その光景をにこにこしながら見守っているヨウメイにゆかりんが囁いた。
「ねえ楊ちゃん。どうして下から三番目なの?」
「見てれば分かるよ。」
良く分からないゆかりんは、花織と熱美と顔を見合わせて肩をすくめる。
しばらくしてようやく三番目が取り出せそうになった頃に、別の客がやって来た。
「すみません。そこの金のあずき饅頭セットを五箱。」
「あの、申し訳有りませんが、しばらくお待ちねが・・・」
「いいえ、店員さん。お先にこの方の相手をしてください。」
「そうですか?では。」
ヨウメイの申し出により、作業を途中にして店員は新たな客の注文の品を取る。
当然不思議に思った客は、それとなしに店員に尋ねてみた。
「一体どうしたんですか?なぜはこの山を崩して?」
「それが、下から三番目だとかおっしゃるものですから・・・。」
きちんと包みながら店員が答えると、客はヨウメイ達の方を見て笑みを浮かべた。
「随分と酔狂な客だね。君も大変だろう。」
「いえ、これが仕事ですから。・・・はい、お待たせしました。」
手提げ袋に箱入りのお菓子を入れ、それを客に手渡す。
客はそれを満足げに受け取り、代金を支払った。
「それじゃあどうも。お嬢ちゃん達、あんまり店の人を困らせちゃいけないよ。」
「はーい。おじさん、どうもありがとう。」
「?」
ぺこりと頭を下げながらなぜかお礼を言うヨウメイ。
不思議そうな顔をした客だったが、軽く会釈してその場を去って行った。
客が去ってから何やらチェックしていた店員。再びヨウメイ達の傍へやって来た。
「すみません。では作業を再開しますね。」
一言告げてからごそごそとやり始める。
それを見て、感心した様に花織が言う。もちろん小声だが。
「さすがだね。ずっと笑顔だよ。」
「当たり前でしょ。大切なお客さんなんだもの。」
たしなめたゆかりん。それもそうかと花織と熱美は頷いたのだが・・・。
「違うよ。」
ヨウメイはきっぱりと言った。
不思議そうな顔でそれを見つめる三人。
「楊ちゃん、違うってどういう事?」
「お客様だから、なんてのはたてまえなの。
この店員さんは、本当に心優しい人なんだよ。だから笑顔なんだ。」
今度はヨウメイはその店員にも聞こえるような大きい声で告げる。
慌てて店員はそれに振り向いた。
「そ、そんな事無いですよ。」
「そう謙遜しながらもちゃんと品物のことまで考えて作業してるでしょう?
やっぱり心優しいんですよ。もう少し自信を持ってください。」
「は、はあ・・・。」
少しばかり照れながらも作業を再開する店員。
ヨウメイの言う通り、山積みの品物の解体も、それこそかすり傷一つつかない様に慎重に行っているのだ。
しばらくその様子を注意深く見ていたヨウメイを除く三人はふむふむと頷き出した。
「なるほど、言われてみれば・・・。」
「今までにあたしがデパートで見てきた店員さんたちに比べれば断然丁寧だよ。」
「しかも他の品物の位置とか、お客さんの位置とか確認しながら・・・。
うーん、他じゃあ見られない風景だねえ・・・。」
ますますじろじろと見られ、少しばかり戸惑い始めた店員。
それでも、調子を崩すことなくヨウメイの望みの品を取り出した。
「お待たせしました。この商品ですね?」
「ええ、ありがとうございます。」
笑顔で答えるヨウメイに、店員もやはり笑顔で返すのだった。
「それではお包みいたしますね。少々お待ちください。」
解体した商品はそのままに、店員は箱入りのお菓子に包装をかけ始めた。
しばらくしてそれを袋に入れる。その時、また新たに別の客がやって来た。
「お姉さん、ちょいとお菓子を買いたいんだけど。」
「待っててください。私がまず買い終わってからですよ。」
後ろを振り向いてその客に挨拶するヨウメイ。
さすがに笑顔で言われては素直に従うべきである。
急ぎ気味だったその客はおとなしく待つことにした。
「はいどうぞ。では・・・。」
ヨウメイに袋を渡し終えて、店員は懐からベルを取り出した。
チリンチリン!と、済んだ音色が辺りに響く。
花織達が唖然としていると、店員がにこやかに告げた。
「おめでとうございます。あなたは当店の千番目の品をお買い求めになった方です。
記念として、年間無料御使用券をプレゼントいたしますね。これは・・・」
「一年十二ヶ月。それぞれ月毎にこの券を見せれば、月限定のお菓子をくださるんですよね?」
券を取り出した店員が説明を終える前に、ヨウメイは笑顔で付け加えた。
ますます唖然とする花織達。そしてその店員も・・・。
「そ、そうです。良く御存知ですね。」
「ちょっと噂を小耳に挟んだものですから。ありがとうございます。」
手をすっと差し出すヨウメイ。店員は少し戸惑いながらも、そこに券を手渡した。
笑顔でそれを受け取ると、ヨウメイは花織達三人の所へ。
退いたそこへ、先ほど来たばかりの客が血相を変えて出た。
「ちょ、ちょっと店員さん!つ、次は何番目にもらえるんだ!?」
「えーと、二千番目となりますが・・・。」
その客のただならぬ様子に別の意味で戸惑う店員。花織達も更に唖然とするのだった。
「二千番目、という事はあと千個買えば良いんだな?」
「ええ、まあ、そういう事になりますが・・・。」
必死になっている客。それを見たヨウメイがほくそえむのを見て、熱美が呟く。
「まさか・・・千個買う?」
それが聞こえた花織とゆかりんは“ばっ”と振り向く。
ヨウメイは“御名答”といわんばかりの顔。そして・・・。
「なんでも良いから千個もらおう!!お金なら今すぐにでも用意して持ってくる。
だからお願いだ。僕にもあの記念の券を譲ってくれ!!」
「ええっ!?」
一瞬にして驚きの顔になる店員、そして花織達。
しばらく固まっていた店員だが、恐る恐る尋ねた。
「あの、本気ですか?」
「本気だとも!!・・・もしかして、そんなに買ってはいけないとか?」
「い、いえ。それは大丈夫ですけど・・・。」
「良かった。だったらすぐに金を用意してくる。
だから他の客が来ても待っていてくれよ!」
喜びの顔になったかと思うと、その客は猛ダッシュでその場を去って行った。
ぽかんとそれを見送る店員、花織達。唯一、ヨウメイだけはくすくす笑いながら口を開いた。
「よほど記念品が好きみたいだね。つまりあの人はコレクターなんだと思うよ。
良かったじゃないですか店員さん。今日だけで千とんで六個も商品が売れたなんて。」
「は、はあ・・・。」
呼びかけられて少しばかり返事をする店員。そしてすぐに困った顔になるのだった。
「でも、ここには千個なんてないんだけどな・・・。」
「あとで送れば良いんですよ。さすがにこの場で千個持って帰るなんてあの人も出来ないでしょうし。
とりあえず一種類ずつ渡しておけば良いんじゃないですか?」
「それもそうですね・・・。」
なんとなく納得した様に頷くと、店員はいそいそと準備を始めた。
にこにこしながらそれを見つめるヨウメイ。
と、熱美がとんとんとヨウメイの肩を叩いた。
「なに?熱美ちゃん。」
「なに?じゃないって。楊ちゃん最初から知ってたんでしょ。
楊ちゃんのすぐ後にああいう人が来るって。だから下から三番目なんて言って時間ずらして・・・。」
「偶然だよ。ぐ・う・ぜ・ん。」
にやっと笑いながらごまかすその仕草に、熱美は怪訝そうな目つきになる。
それにつられるかのように更にゆかりんが尋ねた。
「最初に会ったおじさんにありがとうって言ったのはどうしてなの?
ひょっとして券がもらえたから?」
「うん、それはそういうこと。おじさんが買う手前で、九百九十四番目だったんだね。
で、あのおじさんが五個買ったから、おじさんの最後の一個で九百九十九番目。
で、私が一個買って千個目。当然それを目の当たりにした次のお客さんは・・・」
「・・・やっぱり知ってたんじゃない。」
花織が最後に付け足す様に言うと、ヨウメイは笑ったまま舌をぺロッと出した。
「これくらい計画しないと面白くないでしょ。ささやかなサービスよ。
狙って記念券もらおうとしてるんだもの。これくらいお返ししても罰は当たらないよ。」
「それにしても千個まとめて買うなんて極端な人だよね。
そんなに記念券が欲しかったのかな・・・。」
「世の中にはそういう珍しい人も居るって事。それじゃあ目的も果たしたし、行こうか。」
最後にまとめた様に告げると、ヨウメイは回れ右をして店員の方へ向いた。
「それじゃあ私達はこれで失礼しますね。お仕事頑張ってください。
今回はどうもありがとうございました。また来ますね。」
「ああ、いえ。どうもありがとうございました。」
作業も途中に、慌てて頭を下げる店員。
ヨウメイ達四人もそれに頭を下げて、その場を去るのだった。
「さてと、次はわたしの品だね。」
「確か熱美ちゃんは・・・お花だったよね。」
「お花?だったら最後に買ったほうが良いんじゃ・・・。」
「大丈夫。私がしっかりこの本で管理しておくから。」
得意げに統天書を開けて見せるヨウメイ。
確かにこの中なら保存がきく。先ほど買ったお菓子もすでにその中のようだ。
「そういうわけ。それじゃあ二階のお花売り場へレッツゴー!」
「「「おー!」」」
熱美の掛け声により、他の三人も手を振り上げる。
またまた他の客に注目されたのは言うまでも無いだろう・・・。
所変わって、アクセサリを物色中のゆかりんと熱美。
なかなか気に入った物が見付からないようで、店内を転々としている。
「ねえゆかりん、いつまで探すの?結構歩いたよ。」
「だからあたしのハートにビシッと来るような物が見付かるまでだって。
でもここってすごく広いよねえ。かなり見て廻ったと思うんだけど・・・。」
ゆかりんの言う通り、この店の広さは尋常ではなかった。
それこそ、スーパームサシくらいは軽くあるといっても間違い無いだろう。
それだけに商品の種類も品数も豊富である。
「うわあ、これ可愛いな。ねえ、これにしよ。」
「熱美ちゃん、買うのはあたしなんだから・・・。」
「あ、そかそか。でも可愛いなあ・・・あたしこれ買おうっと。」
そう言って熱美は、一つのブローチを手に取った。
綺麗な花の紋様をかたどったそれは、七色に光る。
「すごいね、それ・・・。」
「そう?可愛いでしょ?」
「えっと・・・。」
返答に困るゆかりん。それは可愛いというよりは別の感じがしたからである。
そんな態度にもお構いなし。熱美は更に別の商品に手を伸ばす。
「あ、これいいな。ね、ね、ゆかりん。」
「ちょっと熱美ちゃん・・・。」
今度熱美が手に取ったのは動物の形をした飾りがついたペンダント。
「・・・何?それ。」
「何って、ワニじゃない。ワニって知らない?」
「いや、そういう事じゃなくって・・・。」
そう、動物というのはワニである。
ガラスの様な透明感、少し傾けるとプリズムの様に光を発する。
見た限り、ただのワニの首飾りでは無い様だ。
「綺麗・・・。よーし、これも買っちゃえ。」
結局は二つ目の商品も手持ちに入れる熱美。
そんな様子を見て、ゆかりんは少しばかりいらだってきた様だ。
「なんで熱美ちゃんが買いたい物がすぐに見付かるのよ。あたしはまだなのに・・・。」
「まあまあ、もうちょっと見て廻ってみようよ。」
思わぬ品物を見つけて上機嫌の熱美は、ゆかりんをまあまあとなだめる。
そして、二人は再び店内物色に戻ったのだが・・・。
「・・・一周しちゃった。なんでなんで〜!?なんであたしが欲しい物が見付からないのよー!」
「おかしいね。私はもう五つも見つけたのに・・・。」
戸惑った顔をしながらも、途中で手に取った商品を見つめる熱美。
ブローチとペンダントに加え、赤い鳥、白い虎、黒い亀、のガラス細工がその手に乗っている。
一周する間に熱美がドンドン取っていったのだ。
「後は青い龍なんだけどな・・・。」
「なんなのよ、それ。何かのセット?」
気分を落ち着かせようと質問するゆかりん。すると熱美は顔を上げてそれに答えた。
「四聖獣よ。ずっと前に楊ちゃんから聞いたの。
この四つの動物を集めたら、大いなる護りが得られるんだって。」
「そんなもん得てどうしようっての?」
「色々便利じゃない。楊ちゃんが傍に居ない時に悪い人に襲われそうになったとか。」
「・・・・・・。」
何処からそんな考えが浮かんでくるのか、ゆかりんは少しばかり呆れ顔になる。
確かに、熱美の言う状況がまったく無いとは言い切れないが・・・。
「それより、どうしようかこれから・・・。」
「もう一周してみようよ。何処か見落としていたのかもしれないよ。」
「それもそうだね。・・・ねえ、それより花織と楊ちゃんはどうしたんだろう?」
「別の店で休んでるのかも・・・でもベンチがあるよねえ?」
熱美の目に止まったベンチ。それは、ついさっきまで花織とヨウメイが談笑していた場所であった。
今はその二人ではなく、別の人が座っている。高校生くらいの男子二人だ。
思わず熱美とゆかりんは寄って行った。
「あの、すいません。ここに女の子二人が座ってませんでしたか?」
「いや、知らないねえ・・・おまえ見たか?」
「俺は見てないぜ。というより、俺らが座ろうとした時には誰も居なかったけど。」
「そうですか・・・。」
なんとなく予想通りの答えに、少しばかり肩を落とす二人。
「多分店の中じゃない?結構広いしさ、会わなくっても不思議は無いと思うよ。」
「そっか、それもそうだよね。じゃあもう一周行ってみよう。」
納得した二人。そして目的の物を見つけるべく、再び入り口から見て廻るのだった。
ところが、いざ入っていこうとしたとき・・・。
「ねえねえ、その二人がもしここに来たら、待っている様に言っておこうか?」
「いえ、結構です。あたし達二人で探しますから。」
「何言ってんの、せっかくこうして話したんだしさ。
そうだ、もうすぐお昼だしその子達と俺らと一緒に、つまり六人で食事しない?
当然俺らがおごるよ。」
「え、それって・・・。」
いわゆるナンパである。その男子二人はなんとも言えない笑顔で話してくる。
少しためらいかけた熱美とゆかりんだが・・・。
「え、遠慮します!」
「それじゃあ!」
と、口早に断り、大急ぎで店の中へと入っていった。
“ああ〜”と立ち上がって片手だけ後を追う様な格好をする男子の一人。
もう片方は座ったまま苦笑いを浮かべた。
「おまえなあ、単刀直入過ぎるぜ。いきなり食事に誘うか?」
「だってさあ・・・。あ〜あ、久しぶりに可愛い子だったのに。」
がっくりとして腰を下ろす。
しかしその数分後、二人の前に新たに女の子二人が姿を現した。
「結局会わなかったね。しかも結構広かったし・・・。」
「なんだかんだ言いながら花織ちゃんは買ってたね、色々。
うんうん、これこそここに決めた甲斐があったというもの。」
「だってねえ、近所の店じゃあここの倍以上の値段で置いてるんだよ。
これは買い!じゃないかな?」
そう、花織とヨウメイだ。結局は熱美とゆかりんの後を追うような形になってしまったのである。
のんびりと買い物もしていたということが原因だが。
「さて、どうしよっか。」
「多分あの二人はもう一周しに行ったんだろうな。歩くの疲れちゃったから座ってよう?」
「楊ちゃんならそう言うと思った。でも先客が居るよ。」
「え?」
花織に言われて例のベンチを見るヨウメイ。と、そこには男子二人が座っていた。
“あーあ”とヨウメイが思った途端、その二人がこちらへとやって来た。
「やあ、こんにちは。ひょっとして女の子二人を探しているとか?」
「えっ!?ええ、そうですけど・・・。」
「そうか、それはよかった。実はさっきその二人の女の子に会ってねえ・・・。」
そんなこんなで話を聞かされる花織とヨウメイ。
しかし、ヨウメイは話を聞くわけではなく、統天書をぱらぱらとめくっていた。
「・・・そっちの彼女は何してんの?勉強家なの?」
「え?ええ、まあ、楊ちゃんは・・・そんなとこ、です。」
「そうか、眼鏡かけてるしねえ。きっと頭が良いんだろうねえ。」
笑顔でお世辞を言う二人。と、そこでヨウメイはパタンと統天書を閉じた。
顔を上げてにこりと微笑む。
「ナンパですか、ご苦労様です。熱美ちゃんとゆかりんが来た時に食事に誘おうとしたり・・・。
けれどもう一方の言う通り、いきなり食事に誘うのはどうかと思いますよ。
やはり、一緒になって探してあげるとか・・・。二人が遠慮してもね。」
「げっ!?」
「ど、どうしてそれを?」
驚く男子二人。花織がそれとなくヨウメイをひじでつついたが、ヨウメイは構わず続ける。
「宮内さんに比べればまだまだ誘い方が甘いですね。妙な癖が無い分良いですけど・・・。
そうそう、お二人のお食事の誘いはとりあえず私達も断っておきます。
まだ買い物がありますし、どうせ後で何も無いのにおごってもらうだけってのは悪いですから。」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってよ。」
「そうだよ。別に何もやましい事を期待してるって訳じゃなくて・・・」
「だったら、この店の商品を全部買ってくださいますか?
良いって言うなら考えなくも無いですよ。」
ヨウメイの言葉に、今度は驚愕の表情になる二人。
がっくりとうなだれると、諦めた様に喋り出した。
「分かった、つまりはそっちには全然その気が無いから諦めろってことなんだね。」
「ただお金を無駄にするだけになるから、こっちが遠慮するべきだ、と言いたいんだ。」
「そうですそうです。さすが、お二人はのみこみが早いですね。
そうそう、先ほどは頭がいいなんて誉めていただいてどうもありがとうございました。
けれど、眼鏡かけている人全部が頭が良いわけは無いですよ。変な先入観は取り除きましょうね。
それじゃあ花織ちゃん、やっぱり探しにいこ。」
言い終えて花織の手を引っ張るヨウメイ。
自分がほとんど関与しない間に話が進んでしまって戸惑っていた花織は、慌てて言った。
「ねえ楊ちゃん、いいの?」
「何が。」
「せっかくおごってくれるんだしさ・・・。」
「そんな、たかっちゃうのは良くないって。あの二人には別の人をナンパしてもらおう。」
少し言葉を交わし、ヨウメイと花織は熱美とゆかりんを探す為に再び店の中へ入っていった。
気の抜けたような表情でそれを見送る男子二人。
数十秒の後に、片方が呟いた。
「世間にはいろんな子が居るもんだな。」
「ま、あの子の言う通り、俺らは別の子をナンパしようか。」
お互いに頷き合って、その二人は店を去るのだった。
≪第二十話≫終わり
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