鶴ヶ丘中学校の校庭。ただいま体育の授業が行われているようで、生徒が沢山走っている。
ぴっぴっぴっぴっという笛の音が鳴り響く。それを行っているのは当然体育の先生だ。
この学校では厳しい事で有名である。例え女子生徒だろうが容赦しない。
ちなみにこの授業を受けているのは一年三組。つまり・・・。
「こらっ、そこ!!しっかり走れ!!!」
「は、はい〜。」
眼鏡をかけたひとりの女子生徒がたった今注意された。
横には、もう一人の女子生徒が並んで走っている。
「大丈夫?楊ちゃん。」
「な、なんとか。近頃は結構体力ついてきたようだし・・・。」
注意を受けた女子生徒は笑顔を友人に見せ、体を振り起こして走る速度を上げる。
もちろん、その友人もそれにあわせるようにペースを上げる。
なぜ合わせて走っているかというと、いつ倒れても素早く支えられるように、である。
実際今までにそういう事が何度かあったのだから、それが当たり前になっているのだ。
と、その二人の後ろから、これまた別の女子生徒が二人並んで迫ってきた。
一周の差をつけた、という事である。
「楊ちゃん、熱美ちゃん、ファイトー!」
「後何周あるかわかんないけど、とにかくガンバ!」
二人は励ますように声をかける。と、追いつかれた二人の生徒は疲れたようにそれに答えた。
「頑張ってはいるんだけど、やっぱり走るだけってのは・・・。」
「後何周ったって、授業が終わるまでとかいうオチじゃないのぉ?」
どうやら二人とも不満で一杯のようだ。顔がそう言っている。
それを見た追いついた二人。顔を見合わせたかと思うと、
「「じゃあね。」」
といってあっさり二人を抜いて行った。
その後ろ姿を見て今度は“やっぱり・・・”とため息をつく二人。
それでもなんとか頑張って走りつづけるのだった。
結局授業が終わるまでずっと走らされたようで、全員が全員へとへとになっていた。
「よーし、これで体育の授業は終わり!」
先生の号令により、ようやく解放された生徒たち。
しかしへとへとなのには変わりなく、重い足取りで校舎へと戻って行く。その中に・・・。
「なんで、あたしが楊ちゃんを背負わなきゃなんないのよ。」
「花織だけ余裕の表情で走ってたじゃない。だからよ。」
「そうそう。それに楊ちゃん直々のご指名だしね。」
「そういう、こと。だから、お願い、花織ちゃん・・・。」
息も絶え絶えに喋るヨウメイ。その声を聞いて、花織は仕方なく力を入れなおすのだった。
そして教室。四人とも無事に一年三組へと帰ってきたのだ。今は丁度昼休みである。
「ふう、お腹空いた。さ、早くお弁当食べよう♪」
教室に着いた途端に、少しばかり元気を取り戻すヨウメイ。
呆れ混じりに見ていた三人だったが、自分たちもお腹が空いている事には変わり無い。
手早く自分たちのお弁当を取り出し、いつものように熱美とヨウメイの席の傍へと集まる。
と、花織とゆかりんは熱美とヨウメイが何やら首を傾げているのに気がついた。
「どうしたの?お弁当食べないの?」
「それがね、楊ちゃんの机の中に封筒が入ってたんだって。」
「封筒?ひょっとしてラブレター!?」
「そんなんじゃないって。ほら、これだよ。」
ヨウメイがすっと差し出した封筒。何の飾り気も無い、ただ真っ白なものであった。
封をしてあるのもただののり付け。シールとかいう装飾品は一切無い。
「・・・確かにこれはラブレターって感じじゃないよね。」
「中は見てみたの?」
「お弁当食べながら見ようと思って。とりあえず座ろ。」
「そうだね。」
とりあえず手紙は熱美の机の上に置き、四人ともそれぞれの弁当をひろげる。
極普通の、お弁当である。
「「「「いただきまーす!」」」」
四人同時に手を合わせて挨拶。そして早速食べ始めた。
「もぐもぐ・・・。うん、やっぱりシャオリンさんのお弁当って美味しい。」
「いいなあ、楊ちゃんは。ね、あたしにも一口頂戴。」
「ずるーい。わたしにも頂戴よ。」
「あたしも・・・もらおっかな・・・。」
花織だけは少し遠慮気味。シャオが作ったという点で素直になれないようである。
それでも、結局は三人ともヨウメイのお弁当をわけてもらう形となった。
ヨウメイはあっという間に少なくなったお弁当を見て・・・。
「・・・これじゃ足りないよ。三人とも、ちゃんと私の分自分のところから頂戴よ。」
「分かってるって。でもほんと美味しいな。いつか教えてもらおっと。」
「じゃあわたしはこの卵焼きをあげるね。これでおあいこっと。」
「あたしは、このソーセージでも。」
今度はあっという間に量が増え・・・てはいない。少し増えた程度、である。
「ちょっと、私から取った分とつりあってないよ。」
「細かい事は気にしちゃ駄目だよ、楊ちゃん。」
「ま、たまにはこういうこともあるって事で。」
「花織、あんたが一番取ってんじゃない・・・。」
やいのやいのと続けられる食事。すっかり食べる事に夢中になっているようだ。
しばらくして落ち着く四人。そこでヨウメイは思い出したように封筒を手に取った。
「さてと、それじゃあ中身を見てみようか。」
「楊ちゃん、箸を咥えたまんまなんて行儀悪いよ。」
「待った熱美ちゃん。楊ちゃんの事だから、箸を咥えたまま手紙を見るといい事が有るとかじゃない?」
「・・・そんな訳無いって。ちょっと、つい・・・ね。」
箸を弁当箱の上に置きなおすヨウメイ。そして改めて封筒に手をかけた。
びりびりびりと破られてゆく封筒。そして、中から一枚の手紙が姿を現した。
極普通のレター用紙にボールペンで文字が書かれてあるだけだ。えらく丁寧な字で、とても読みやすい。
「この字は・・・男性の字かな。」
「へえ、そんなの分かるもんなんだ。」
「男性?って事はやっぱりラブレターじゃない!!」
はしゃぎ出す花織。ゆかりんも一緒になって騒ぎ出した。
「とうとう楊ちゃんにも春が。あの堅物の楊ちゃんにも・・・。」
「ちょっとゆかりん、それってどういう意味?」
「もう、二人とも落ち着きなって。とりあえず中身を読んでから!」
熱美の鶴の一声。再び落ち着いた状態になった四人。
そこでヨウメイは手紙を読み出した。
『知教空天楊明様、貴方に是非頼みたいことがあります。
今日の放課後、屋上で待っています。話を聞きに来て下さい。
なお、御礼は出来る限りいたしますので・・・。』
「・・・簡潔だね。余計な事は一切書いてないし、ちゃんと御礼なんて書いてあるし。
うまい書き方するなあ。これは行ってみないとね。」
手紙を読み終えた後に感心して頷くヨウメイ。彼女にとってかなり興味深い事に思えたようだ。
他の三人は手紙を改めて回し読み。しかし、ヨウメイとは違ってかなり疑いの眼差しだ。
「怪しいな。だいたいなんで差出人の名前が無いんだろ・・・。」
「しかもどんな用件かも書かれてないじゃない。危険かもしれないよ。」
「そうだよね。もしかしたら楊ちゃん襲われるかもしれない。あーんな事やこーんな事を・・・。」
「あのね・・・。」
想像を膨らませ始めた三人をそれとなくたしなめるヨウメイ。
手紙を封筒に入れて自分の鞄にしまいこむ。
「大丈夫だよ。とにかく私は行くから。三人ともついてきちゃ駄目だよ。」
「ええっ?なんでー?」
一番に声を上げた花織。当然それに対してヨウメイは理由を告げる。
「だってね、その人は秘密にしたいのかもしれないじゃない。
どこで調べたのか知らないけどわざわざ私の机に・・・。
そんな所へ他の三人がついて行ったりしたら申し訳無いでしょ。」
「そうだよ!!!」
「「「わっ!!」」」
突然叫んで立ちあがった熱美。思わず他の三人は抱き合うのだった。
「そうだよ・・・って、何がそうなの?」
「おかしいと思わない?この手紙出した人は楊ちゃんの机を知ってたんだよ!!
明らかに楊ちゃんを狙った・・・そう、ストーカーみたいな・・・。」
なるほど、といわんばかりに頷く花織とゆかりん。しかしヨウメイは・・・。
「別にいいよ、そういう人でも。もし敵意があるようだったら私が天罰でも食らわせるから。」
ここでまた、“あっ、それもそうか”といわんばかりに頷く花織とゆかりん。しかし熱美は・・・。
「何言ってんの、楊ちゃん。不意を突かれて襲われたらどうすんの!!」
「大丈夫だって。私はそんなへまはしないよ。」
「そうだよね、なんて言っても楊ちゃんだし。」
「熱美ちゃん、楊ちゃんの言うとおり心配要らないよ。というわけで放課後はおとなしく帰ろうね。」
「・・・うん。」
最後には熱美は折れたのか、おとなしくその場に座り直した。
そうこうしているうちに昼休みも終わり、午後の授業が始まるのだった。
・・・そして放課後。帰り支度を整えた四人はそれぞれ校門前で散会する形となった。
「じゃあ楊ちゃん。良かったら明日結果聞かせてね。」
「分かってるって、花織ちゃん。じゃあね。」
「また明日〜。」
「ばいばーい。」
わざわざ校門まで見送りに来たヨウメイ。そして再び校舎へと戻って行ったのだった。
上履きへと代えて階段を目指す。
本来なら統天書にて差し出し人を調べても良かったのだが、ヨウメイはあえてそれをしなかった。
事前に調べたのでは面白味がなくなると判断したからだ。
もちろん、あえて名前を伏せてある差し出し人だからこそ、という事もある。
また、花織たちの目の前で読んだのは、差し出し人の名が無かった事を素早く確かめた上での事だ。
ともかくヨウメイは、誰が出したのだろうと胸を躍らせながら階段を駆け上る。
程無くして屋上へと到着。そこに待っていたのは・・・。
「遠藤さん?」
「あ、ヨウメイちゃん。良かった、来てくれたんだね。」
「なんだあ、遠藤さんだったのかあ。初対面の人かと思っていたのに・・・。」
そう、手紙の主は遠藤乎一郎だったのだ。その顔はある意味真剣のようだったが・・・。
「それで、頼みとは何ですか?」
「実は、ルーアン先生の事なんだけど・・・。」
「ルーアンさんの?」
「うん。今日もさ・・・。」
「待ってください。」
喋り出そうとする乎一郎を止めてヨウメイは統天書を開けた。
説明を聞くよりは、と思ったのだろう。
しばらくの間ふむふむと頷いていたかと思うとそれを閉じた。
「なるほど、相変わらずルーアンさんは主様にぴったり引っ付いている、という事なんですね。」
「うん。太助君もあんまりきつく言わないし。その時にシャオちゃんも悲しそうな顔をするし。」
「遠藤さんも悲しいし、というわけですね。」
「う、うん・・・。」
言われて少しばかりほほを赤らめる乎一郎。しかし、それに構わずヨウメイは続けた。
「さらにはクラスの皆からも少々邪険に扱われたり、と。」
「うん。いっつも太助君の授業だから。僕も一生懸命にかばったりするんだけど・・・。」
「ま、とにかくルーアンさんに対して遠藤さんは何かしてあげたいと。」
「それなんだけどさ・・・。」
ここで乎一郎は改めてヨウメイに顔を向けた。かなり真剣な、それでいて真っ赤な顔である。
「る、ルーアン先生ゲット計画ってどうすればいいかな?」
「はあ?ゲット計画?」
「うん。最初はたかし君に相談しようと思ったけど、どうも頼りにならないかなあって。」
「言えてますね。それで私に相談しようと。」
「う、うん・・・。」
結局はうつむいてしまった乎一郎。
要はルーアンに好かれるとか恋人同士になるにはどうしたら良いかという事である。
それでルーアンの太助びいきやらが無くなれば、クラス内でも普通に居られる。
なにより、乎一郎のとりあえずの目標でもあるのだ。
少しの間考え込んだヨウメイ。そして例のごとく統天書をぱらぱらとめくり出した。
ルーアンゲット計画の為の良い方法を見つける為である。ところが・・・。
「あれほど付いて来ないでって言ったのに・・・。
まあいいや、ちょっと協力してもらおうっと。」
少し呟いたかと思うと、ヨウメイは別のページをめくり出した。そして・・・。
「来れ、狂風!!」
強い風、というわけではない。狂った風のごとく辺りの空気が乱れ始める。
その衝撃で、屋上の扉から一人の女子生徒が倒れこんできた。
どしん!!
「いったぁ〜。」
「熱美ちゃん、ついてきちゃ駄目って言ったでしょ!!」
そう、熱美だ。別れた後に密かに学校へと引き帰して屋上へとやって来たのだった。
その姿を確認した乎一郎。呆然としてみている。
「あ、熱美ちゃん。ひょっとして全部聞いてたの?」
「え、遠藤先輩。いや、その・・・。」
乎一郎に尋ねられてうろたえる熱美。
「聞いてたんでしょ!!まったくもう、なんで盗み聞きなんか・・・。」
ヨウメイはかなりご立腹のようである。
心配して付いてきたという事はそれなりに嬉しいのだが、盗み聞きをしていたという点が許せ無いのだ。
「ごめん。つい・・・。」
「もういいよ。僕なら別に気にしてないから、ヨウメイちゃんも許してあげて。」
「まあ遠藤さんがそう言うなら・・・。ところで熱美ちゃん。」
「何?」
「話を聞いたんなら当然協力してもらうよ。それから、この事は他言無用だからね。」
ルーアンが好きだという乎一郎の事は今に始まった事ではないが、本格的行動となると話は別である。
というわけで、この件に関しては秘密に、とヨウメイは思ったのだ。
「うん、分かった。遠藤先輩、わたしも協力します。ルーアン先生ゲット計画に。」
「・・・ありがとう。」
とりあえずそこで落ち着いた三人。改めて作戦を練ろうと、いったん日曜に集まる事にした。
しかし帰る前に、熱美は気になっていたことを乎一郎に尋ねる。
「遠藤先輩、どうやって楊ちゃんの机に手紙を入れたんですか?」
「それは、キリュウちゃんに頼んで・・・。」
「という事はキリュウさんも知っているんですか?」
「いや、中身は告げずにただ封筒を渡して頼んだだけだから。」
「そうですか、だったら大丈夫ですね。さて熱美ちゃん、遠藤さん、帰りましょう。」
この際大人数で立てる計画だとルーアン本人にばれる可能性が高い。
そう言ったヨウメイの心配事も解消された様だ。
こうして、ルーアンゲット計画という、ある意味無謀な計画が進められる事となったのである。
そして日曜日。三人が向かった場所とは・・・。
「おやいらっしゃい、遠藤君に熱美さんにヨウメイさん。
・・・珍しい組み合わせですね。一体どうしたんですか?」
「こんにちは、出雲さん。」
「実は相談が有って来たんです。」
「とりあえず上がらせてもらえますか?」
宮内神社である。突然の来客に戸惑った出雲だが、笑顔で快く三人を招待するのだった。
「・・・なるほど、ルーアンさんゲット計画ですか。」
「そうなんです。是非出雲さんの力を貸して欲しいんです。」
三人の中では最も真剣な乎一郎。出雲はとりあえずという感覚で尋ねた。
「最初に一言言ってもいいですか?」
「はい。」
「ゲット計画なんて野村君みたいなネーミングは止めた方がいいですよ。」
「・・・・・・。」
途端に三人の顔がしらける。本当にこんな人に相談して大丈夫なんだろうかという顔だ。
しかし出雲はそれを気にせず更なる質問をぶつけるのだった。
「わざわざ私に尋ねずとも、ヨウメイさんがそういう方法を知ってるんじゃないんですか?」
その言葉にはたと振り返る乎一郎と熱美。昨日の時点ではそういう事をすっかり忘れていたのである。
しかしそのヨウメイは、それを否定する様に首を横に振った。
「私は色恋沙汰には詳しくないんです。それこそ恋愛なんて・・・。
第一、それ専門の精霊の方がちゃんと居るんですよ。私のはあくまで知識、ですから。」
「「そうなんだ。」」
少しは期待したものの、説明を聞いてがっくりする二人。
恋愛専門の精霊がいると聞いた時点で、やはり駄目だと確信した様である。
「なるほど。それでわざわざ私のところまで来たという事に頷けますね。
分かりました。遠藤君とルーアンさんの仲、見事とりもって見せましょう。」
「お願いします、出雲さん。」
「わたしもできる限り協力します。」
「とりあえず作戦を立ててくだされば、私が上手く実行しますので。」
かくして協力成立。四人はがっちりと握手するのだった。
「ではまず、僕は何をするべきでしょうか。」
「とにかく相手はルーアンさんですからねえ。一筋縄じゃあいきませんよ。」
「そうですよね。いつもたー様たー様ってはしゃいでますし。」
「ううっ、そうだよなあ・・・。」
熱美の何気ない言葉に途端に落ちこみ出す乎一郎。
慌ててヨウメイが慰めにかかる。
「あの、遠藤さん、いきなり落ちこまないでくださいよ。ね?大丈夫、なんとかなりますって。」
「うん・・・。」
「ごめんなさい、遠藤先輩。まさか落ちこむなんて・・・。」
一緒になって熱美も慰める。その様子を見て頭を悩ませる出雲。
(いきなりこんなんじゃあ先が思いやられますねえ。)
と、やれやれとため息をついたのだった。
「それでは作戦を立てることといたしましょう。
まず初めに、ルーアンさんが好きなもので誘ってみるとか。」
いきなり具体的な案を出す出雲。それに乗ったかのようにヨウメイは身を乗り出す。
「なるほど!それでデートをするって訳ですね!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
少し遅れて乎一郎が待ったをかけた。
彼にしてみれば、いきなりデートというのはかなり無理がある。
「しょっぱなからデートだなんて。そんな事言われても僕は・・・。」
「遠藤先輩、男なら最初っから強気でなくっちゃ。」
励ますように熱美が横から諭す。しかし乎一郎はやはり乗り気ではなかった。
と、更にヨウメイが乎一郎の方へと身を乗り出した。
「熱美ちゃん、男とかそういうのは関係無いの。とにかく遠藤さん、これも計画の一端ですって。」
「ヨウメイさんの言う通りですよ。まずはデートをする事によって仲を深めるというのも手です。
仲が良くなってからデート、というのも良いですが、この際先にデートしてみては?」
そして出雲も説得。そこで乎一郎はためらいながらもようやく頷いて見せた。
三人の顔がほころぶ。心の中では“説得に時間がかかるなあ”とか思っていたが。
ともかくデートに誘うという事は決定した。そして次の問題は・・・。
「どうやってルーアンさんを誘うか、ですねえ。」
「心配要りませんよ宮内さん。ルーアンさんの好きなものは何ですか?」
「ルーアンさんの好きなもの?」
余裕の笑みをたたえるヨウメイに対して考え込んだ出雲。
するとその代わりに熱美が素早く答えた。
「分かった!食べ物だね、楊ちゃん!」
「そういう事。だから食事にでも誘えばOKですよ。」
つまりはどこかのレストランへ行くかしてみてはという事なのだ。
当然乎一郎が“ルーアン先生、食事に行きましょう。僕がおごりますよ。”と言う事を忘れてはいけない。
なるほどと言わんばかりに頷く出雲と乎一郎。しかし、また新たな問題が・・・。
「でもルーアン先生、食べてばっかりになるんじゃ・・・。」
「そこは遠藤君次第ですよ。心配しなくても私達もこっそり付いて行ってサポートしますから。」
「そうそう。だから遠藤先輩は大船に乗った気で居てください。」
「で、本当の問題はお金です。ルーアンさんくらい食べる人だったら、かなり要りますよ。」
ヨウメイの言葉によってはたとなる三人。
普段食べている量を見れば、とても乎一郎のお小遣いでご馳走できるものではない。
現実的な問題に直面し、頭を抱えるのであった。
「お金とは・・・これまた厄介な問題ですね・・・。」
「でもあれだけの量を七梨先輩の家では平気で毎日食べてるんですよね。
一体どこからそんなにお金が・・・。お金持ちなのかな・・・。」
「熱美ちゃん、そんな事は気にする事柄じゃないでしょ。
でも弱ったな。お金を稼ごうにも中学生のバイトは禁止だろうな・・・。」
「そうなの?ヨウメイちゃんが言うからにはそうなんだろうなあ。
うーん、どうすれば良いんだろう。」
とうとう四人してうなり始めてしまった。
たまに顔を上げてそれなりの案を出すも、すぐに消えてしまう羽目になる。
しかし、こんな時に鍵となるのはやはりヨウメイ。
統天書をめくっていたかと思うと、とあるページを開いたまま皆に呼びかけた。
「賞金が出るものに挑戦して、ってのはどうですか?色々ありますよ!」
言う傍から自分以外にも分かるように紙に書き始める。
それを見て三人とも口々に喋り出すのだった。
「ふむ、大食い競争に、力自慢・・・。」
「どれもこれも僕が出来そうにないものばっかり・・・。」
「あっ、遠藤先輩これなんかどうです?ほら、クイズ大会!」
熱美がすっと指を指したものに皆が注目。
そして、これなら大丈夫だろうと頷くのであった。
しかし乎一郎自身は、やはり遠慮気味である。
「でも、僕クイズなんて・・・。」
「大丈夫ですよ。こんな時の為に私が居るんですから!!」
ドンと胸を張るヨウメイ。そちらに再び皆は注目するのであった。
「なるほど、ヨウメイさんがあっという間に知識を教えれば良いという訳ですね。」
「そうです!というわけでさっそく行きましょうか。
統天書に載ってるこのクイズ番組のクイズの内容を全てお教えしますね。」
ルンルンと鼻歌を歌いながら統天書の別のページを開き始めるヨウメイ。
そこで乎一郎は何やら引っかかった様で、恐る恐る聞いてみるのだった。
「あの、クイズ番組って?」
「だからそのまんまですよ。テレビに出るんです。」
「ええーっ!!?」
驚きの声を上げると同時に立ち上がる乎一郎。
当然の反応だ。懸賞だのとかじゃあなく、テレビに解答者として出るという事なのだから。
「僕には無理だよ!!テレビになんか出たら上がっちゃって・・・」
「大丈夫。遠藤さんが上がらないような方法を教えます。」
あっさりと返して統天書をめくりつづけるヨウメイ。
しかし、更に出雲が尋ねた。
「ですがヨウメイさん。テレビに出ている姿を皆に見られるのはまずいんじゃないんですか?」
「大丈夫ですよ。見られたってどうってことありませんて。」
「ですが・・・。」
「逆に、ルーアンさんをデートに誘うためだって言ったら、かなりポイントが高いのでは?」
「なるほど、そういう考え方もありますね。」
またもあっさり返したヨウメイ。今度は熱美が尋ねる。
「ねえ楊ちゃん、わたしも出たいな。」
「あのね・・・。もしそれで熱美ちゃんが賞金とっちゃったらどうするの。」
「あ、そうか。遠藤先輩がカッコつかなくなっちゃうね。」
「そういう事。・・・あ、あったあった。それじゃあ遠藤さん。頭の中を空っぽにしてください。」
「うん、分かった。」
二人向かい合う乎一郎とヨウメイ。そしてヨウメイは統天書を開けたまま念じ始めた。
統天書は普通の書物と違うという点で、あっさりと済ませる事はできない様だ。
「・・・なんだかヨウメイさん楽しそうですね。」
「そう見えますか?出雲さん。」
「ええ、どうしてなんでしょう・・・。」
出雲と熱美は特にすることもなく、ただ見てるだけなのである。
そこで、出雲はヨウメイの様子を見てなんとなく呟いてみたのだ。
「ちょっと前に聞いた話なんですけどね・・・。」
ヨウメイの術の邪魔をしないように隅っこへと出雲をひっぱってゆく熱美。
そして小声で喋りだした。
「最近、七梨先輩に知識を教えるという事がほとんど無いんですって。」
「そりゃまたどうしてですか?」
「なんでも、試練の方に夢中になっているとか。
もちろんたまに楊ちゃんの所へ訊きに行ったりもするんですけど、大抵たわいもない事だそうです。」
「なるほどねえ・・・。だから自分の本職を発揮できる事が嬉しいんですね。」
「そうです。研究とかも好きだとか言ってましたけど、やっぱり主に知識を教える方が良いって。
楊ちゃんたらしょっちゅうぼやいてましたから。」
「もったいないですねえ。私がヨウメイさんの主なら、四六時中様々な知識を教えてもらうのに。」
「例えばどんな事ですか?」
「もちろん、シャオさんともっと仲良くなる為には、とか・・・。」
「・・・そういうのは知らないって言ってたじゃないですか。だから今こうやって。」
「あ、そういえばそうですね。恋愛関係以外となると、いかに豊かに生活するかとか・・・。」
「他にも、どうやれば人生楽しく過ごせるとか・・・。そうか、楊ちゃんってやっぱりすごいんだ。」
「何を今更。貴方はヨウメイさんの親友でしょう?」
「別にそんな事関係無いじゃないですか。特別扱いしてるわけじゃないんですから。」
「それもそうですね・・・。」
と、そこで二人がチラッとヨウメイの方を見る。
ちょうど詠唱のようなものが終わった様で、ヨウメイははっきりと言葉を発し始めた。
「統天書よりの記載を全てこのものに吸収させん。万知・・・創生!!」
結局唱えた言葉は同じ。しかし、そこで統天書がぱあっと光る。
と思ったら、あっさりとその光は途絶え、統天書はひとりでに閉じられた。
「お疲れ様でした、遠藤さん。気分はどうですか?」
「あ、いや、まあ、うん・・・。」
一度に膨大な知識を得たような、乎一郎はそんな顔である。
返事があった事にホッとため息をついたヨウメイ。そして・・・。
「はあ、久しぶりだあ。わ〜い、嬉しいなったら嬉しいなっと。」
急に浮かれた気分で歌い出した。それを見て、慌てて熱美が駆け寄った。
「楊ちゃん、しっかりしてよ。ね?ともかく無事終わったんでしょ?」
「私はしっかりしてるよ。やっぱりこれが本職だもんね。
うん、術は無事終わってるよ。ま、これも知教空天たる私の力。えっへん。」
今度は笑顔をうかべて胸を張るヨウメイ。
ともかく、久々に知教空天ならではの術を使えて満足な様子。
遠目にそれを見ていた出雲は・・・。
「まったく、心情の変化の激しい方ですね・・・。」
と、小さく呟いていた。
その後、ヨウメイはテレビに出ても上がらない方法等、必要事項をすべて教えた。
ともかく、計画の第一段階は終了したようなものであった・・・。
そしていよいよクイズ番組へと出場する事になった乎一郎。
それは、計画を練り出した翌週の日曜である。
いつものおどおどした態度は全く見せない、まるで別人の様である。
ちなみに、普段のメンバーには一切情報を漏らしていない。
というわけで、内緒でクイズの会場へとやって来た四人であった。
「・・・沢山人が居るね。」
「そりゃあまあ、そういう場所だから。」
「大丈夫ですか、遠藤君。」
「大丈夫大丈夫。なんだか頭がすごくすっきりしててさ、どんな問題にも答えられそうですよ。」
「られそうじゃなくって、られるんです!遠藤さん、自然に・・・ね。」
ヨウメイの言葉にこくりと頷く乎一郎。そして、一人クイズを行う場所へと歩いて行った。
“心配しても仕方が無いか”と思ったのか、熱美と出雲も、別段不安になるわけでも無くそれを見送る。
そして三人は待っていられる場所へと歩いて行った。
ここで乎一郎が受けるクイズとは、○○に関して百問連続正解すれば百万円というクイズである。
控え室へと到着。ここで乎一郎が満面な笑みをたたえてやってくるのを待つのみである。
椅子に腰を下ろした三人。中でも、ヨウメイはすぐさま統天書を開き始めた。
「どうしたの?楊ちゃん。」
「遠藤さんの様子を見ようと思って。まあ、見たからどうだって事は無いんだけどね。」
「大丈夫でしょう。遠藤君はやる時にはやるタイプですからね。」
心配するそぶりを少しも見せずに、ひたすら乎一郎を待つ三人。
確かに、乎一郎はきっちりと自分の役目を果たしている様である。
すなわち、クイズ百問連続正解に着々と近付いて行った。
そのころ、例のごとく人がわらわらと集まっている七梨家。
しかし、何人かが居ないという事で、少しばかりの会議が開かれていた。
「絶対おかしいわよ。なんだっていずぴーのお土産が無いのよ。」
「ルーアン先生、それは少し本題とずれているような・・・。」
なだめたのはたかし。出雲が居ない為に、
普段から喜んで食べているお土産が無いという事にルーアンは不満なのだ。
「出雲さんなんてどうでも良いじゃないですか。
そんな事より楊ちゃんと熱美ちゃんがいないなんて!
二人してどこか遊びに行ったに違いないわ。」
「花織、どういう発想してんのよ。でも確かに怪しいよねえ。あたし達にことわりも無く・・・。」
花織とゆかりんは当たり前といえば当たり前の反応である。
親友二人が自分達二人になにも告げずに居なくなっているのだから。
「俺が思うに乎一郎がいないなんて事が一番おかしい。
いっつもたかしと一緒に来て、ルーアンに会おうとするのに。」
「七梨の言う通りだな。野村、何か聞いてないのか?」
「それがさ、誘おうとした時にはもう居なかったんだ。大事な用があるんだってさ。」
「乎一郎さんの大事な用事。一体なんでしょうか・・・。」
頭を抱える太助、シャオ、翔子、たかし。
一番普段見慣れているので、いざ居ないとなると違和感を感じるのだ。
一通り聞いていた那奈。ルーアンの方をチラッと見る。
「ルーアン、何かしたんじゃないのか?」
「ど、どうしてあたしが。」
「ありえるな。ルーアン、乎一郎が嫌がる様な事したんじゃないのか?」
「た、たー様まで・・・。あたしは何もしてないってば!!」
「ルーアン先生、乎一郎に付きまとわれるのがうっとおしくなったんじゃ?」
最後のたかしの一言。さすがにこれを聞かされてはルーアンも黙ってはいなかった。
素早く黒天筒を取り出したかと思うと、それをしゅるしゅると回し出す。
「陽天心召来!!」
びかあーっ!!
と、たかしが座っていたソファーが急に動いたかと思うと、思いっきり部屋の外へと放り投げた。
どがしゃーん!
勢い良くおとがして、そこには崩れ落ちた状態のたかしが・・・。
「いいかげんにしなさいよ!!なんであたしが遠藤君に嫌がらせとかしなきゃいけないのよ!!」
「それもそうだな・・・。」
ルーアンが起こる原因を作った張本人の那奈は、落ち着いた様に言い放つとお茶をすすり出した。
唖然と見ていた太助達。ここで、花織がばんと立ち上がった。
「キリュウさん!!キリュウさんなら知ってるんじゃないですか?楊ちゃんがどこへ行ったか!!」
今まで遠巻きに、我関せずといった顔で見ていたキリュウ。
静かにすすっていたお茶を置くと、きっぱりと告げた。
「知らない。」
しかしそこで引き下がる花織ではない。ずんずんと歩いてキリュウに詰め寄った。
「本当ですか!?うそじゃないでしょうね!!」
「なぜ私が嘘を・・・。本当に知らない。」
「だって!楊ちゃんと一緒の部屋で寝ているのに!!」
「それは関係あるのか?とにかく知らないものは知らない。」
「意地を張るんならこっちにも考えがありますよ。」
「だから私は知らないといっているのに・・・。」
全く聞く耳もたずの花織は、後ろを振り返ってゆかりんに合図。
“ええっ!?”と驚きの表情になったゆかりんはしぶしぶとある物を取り出した。
「何ですかそれは?」
「スプレーです・・・。」
シャオの問いに暗い声で答えるゆかりん。そしてゆっくりと立ち上がって花織にそれを手渡した。
「・・・何をするつもりだ?」
「キリュウさん、このスプレーには何が入っていると思いますか?」
「ひょっとして辛子か何かか?」
「そうです!!タバスコスプレーです!!」
元気良く叫んだかと思うと、キリュウに向かって噴射口を向ける花織。
「さあキリュウさん、本当のことを言いなさい。言わないと超絶な苦しみが貴方を待ってますよ!!」
「・・・・・・。」
花織のやっている事、それはいわゆる脅しである。
呆れた顔になったキリュウ。そして当然止めにはいったのは・・・。
「やめろって愛原!!キリュウは知らないって言ってるんだからさ!!」
「離してください、先輩!!キリュウさんは絶対何か知っているはずなんです!!」
「どっからそんな考えが浮かんで来るんだよ!!」
「乙女の勘です!!」
「そんな無茶な!!」
やいのやいのと揉める太助と花織。そのすきをついて、那奈が素早くスプレーを奪った。
「ああっ!!ちょっと!!」
「ふうん、これがタバスコスプレーねえ。よくもまあこんなもの・・・どれどれ・・・。」
動きを止めた太助と花織に向かってしゅっと一吹き。
当然それは直にかかったわけで・・・。
「きゃあー!!!水水水―!!」
「目、目に入ったぁー!!!」
花織はあけていた口の中に。太助は目に入ってしまった様だ。
二人が慌て騒ぎ、周りのものはそれを落ちつかせる為に右往左往。
幸か不幸か、数十分後にもとの位置に落ち着く事が出来た。
改めて会議が始められ、しばらくは黙っていた皆。そして、ルーアンがまず口を開いた。
「とりあえず小娘、あんた馬鹿じゃないの?」
「ななな、なんですってぇー!!?」
がたっと立ち上がる花織。それを慌ててゆかりんがなだめる。
「ルーアン先生、いきなりそういう事言わなくっても。」
「だってねえ、キリュウを脅そうなんて・・・。そんな事ができるのはヨウメイくらいのもんよ。」
「ルーアン殿、ヨウメイ殿はそういう事はしないが・・・。」
「別にするとか言ってないじゃない。出来るのはって事よ。」
「しかしだな・・・。」
妙な方向へ話がそれ出した模様。
先ほど復活したたかしは、慌てて手をたたいた。
「と、とにかくさ。四人がどこへいったかってのを考えてみようよ。」
「そのまえにシャオ。悪いけど何かおやつ無いかな。ちょっと小腹が・・・。」
申し訳なさそうに告げる翔子。シャオは快くそれに応じて立ち上がった。
「戸棚を見てみますね。」
キッチンへと行くシャオ。ひとまず会議はおあずけである。
「何か無いかしらねえ・・・。」
(シャオしゃま、あそこに箱があるでし!)
「どこ?」
肩に乗っていた離珠がある方向を指差す。と、そこには果たして箱が。
「まあ、こんな所にあったのね。でも一体誰が?」
首を傾げるシャオ。シャオにしてみれば、これは身に覚えの無い品なのである。
離珠はおやつらしきものが見付かったという事でけっこうご機嫌ではあるが。
(シャオしゃま、早く食べようでし)
「え、ええ、そうね。」
離珠に催促されて、箱を手にリビングへを戻るシャオ。
もちろん、皆は手に持っている箱にそれとなく注目するのだった。
「あ、シャオ。おやつがあったんだ。」
「ええ。でも、これって一体誰のでしょう・・・。」
「細かい事は抜き!さ、早く食べましょう!」
もともとは翔子のリクエストだったのだが、一番張り切っているのはルーアンである。
シャオが箱をテーブルの上に置き、ふたを開ける。中に入っていたのは・・・。
「これって・・・いずぴーの薄皮饅頭!?」
「さすがルーアン。見ただけでそんな事が分かるんだ。
あれ?出雲は居ないはずなのにどうしてだ?」
「前回来た時のが残ってたんじゃないの?」
「翔子、うちの家族構成で、ご丁寧にも残す様な事になると思うか?」
「ならないな・・・。」
那奈の突っ込みに納得する翔子。と、ゆかりんが箱の蓋の裏を指差した。
「何か紙切れのようなものがついてますよ。」
「えっ?どれどれ?」
慌てて手に取る花織。そして驚きの表情に成るのだった。
「これって・・・楊ちゃんの書き置きだ!!」
『ええっ!?』
皆が一斉に声をあげる。それを一旦制した花織は、その書き置きを読み出した。
この手紙が見付かる頃には、皆さんで色々騒いだ後かと思われます。
本日は、宮内さんと熱美ちゃんと遠藤さんとの四人でデートに行く事にしました。
もちろん、私と宮内さん、そして熱美ちゃんと遠藤さんという組み合わせです。
遊園地へ行ったり動物園に行ったり水族館に行ったりするんですよ。
何が目的かというと、お互いの仲を深める為とでも言っておきます。
そうそう、コンパクトでは調べられないですよ。ちゃんと細工しましたから。
それでは皆さん。やきもちなんか焼かないでくださいね。
追伸:薄皮饅頭は宮内さんの差し入れです。皆さんで召し上がってください。
「・・・だって。」
「で、デート?」
「ヨウメイ殿と、宮内殿が・・・。」
「そんなことより乎一郎と、熱美ちゃんが?あの二人ってそういう仲だったのか?」
「なるほど、秘密にしてるわけだ。デートかあ・・・。」
「翔子さん、デートって?」
「まあ、男女が仲良くなるためのものだな、とだけ言っておく。それにしても・・・。」
「ヨウメイ、宮内とデートするなんて・・・。襲われても知らないぞ・・・。」
「那奈姉、いくらなんでもそれは多分無いって。それよりルーアン、大丈夫か?」
口々に喋っていた面々だが、最後の太助の言葉ではっとなった。
ヨウメイが手紙に書いていたやきもちというのは、おそらくルーアンを差している。
そして、とうのルーアンは唖然と口をあけたままで居たのだから。
「おいルーアン。」
再度呼びかける太助。そこでようやくルーアンは我に帰った。
「えっ?あ、ああ。私は少なくとも三個もらうから。」
「何の話をしてんだよ。乎一郎の事気にならないのか?」
「・・・別に。さてと、いただきます。・・・美味しい、さっすがいずぴーのおまんじゅう♪」
慌てて薄皮饅頭を食べ出したルーアン(離珠もちゃっかり一緒である)。
それにつられておやつを食べ出した面々だったが・・・。
「ルーアン先生、やっぱり気になってるんじゃ・・・。」
それとなくたかしが声をかける。明らかにルーアンの様子が違って見えたからだ。
しかしルーアンは、すぐに平静を装った。
「気になってなんかいないわよ。別に良いでしょ・・・。」
もちろんその雰囲気を見て、翔子は那奈に小声で話しかける。
「絶対気になってるよな。」
「ああ。でもまあ、一時のものかもしれないけど・・・。」
ちなみに動揺を見せているのはルーアンだけではない。
花織とゆかりんは・・・。
「そんな・・・熱美ちゃんと遠藤先輩ってデキてたんだ。」
「密かに付き合ってたんだろうね。あたし達にも内緒で・・・。」
「でもそれだったらルーアン先生かわいそう。唯一好かれていた人に裏切られて・・・。」
「花織、それは言い過ぎだって。はあーあ、これは後からじっくり聞かないと・・・。」
とまあ、かなり気重な状態である。
そんな二人を見て、太助は少しばかりのため息をつく。
なぜかちらちらとシャオ(シャオは相変わらずである)を見ながら、饅頭を一口味わうのだった。
そして、一部始終を見ていたキリュウは、心の中でこう思っていた。
(おそらくヨウメイ殿の悪戯だな。全く余計な事を・・・。
しかし四人して居ない事は変わりない。一体何を企んでいるんだ?)
と、一人別のことで頭を悩ませているのだった。
場所を変えて当のヨウメイ達。統天書にて七梨家の様子を見ていたのだった。
「ばっちりばっちり。ルーアンさん動揺してるよ。」
「それはいいんだけど・・・花織達が変な誤解してるよ。」
「それよりも那奈さん非道いですよ。どうして私がヨウメイさんを襲うんですか。」
「大丈夫ですって。帰って上手く私が説明しますから。」
「けどねえ、楊ちゃん。嘘八百を書いちゃいけないよ・・・。」
「そうですよ。どうして私達が内緒でデートに出かけなきゃならないんですか。」
「まあまあ、これも演出の一つだと思って。さてと、遠藤さんはどうなったかな・・・。」
攻めたててくる二人に対して話題を変えようとするヨウメイ。
と、ちょうどそこへ乎一郎が戻って来た。満面の笑みをたたえている。
どうやら無事に全ては終わり、賞金を手にした様だ。
「遠藤さん!」
「やったよ。ありがとうヨウメイちゃん。これも君のおかげだよ。」
乎一郎の言葉に、熱美と出雲もそちらの方を向いた。そしてほっと胸をなでおろす。
「とにかくひと安心ですね。」
「後はルーアンさんをいかにデートに誘うかですね。」
「うん。ここからは更に頑張らなきゃ!」
心の炎を燃やしながら気合を入れる乎一郎。
と、そこで出雲がすっと立ち上がった。
「それではさっさと帰りましょう。早く終わらせておきたい事がありますし。」
「早く終わらせたい事?」
「そうなんですよ遠藤先輩。楊ちゃんが原因なんですけどね・・・。」
ともかく、細かい打ち合わせ等を素早く終え、乎一郎達は会場を後にする。
大袈裟なテレビ出演関係も全て終わった様だ。
そして帰りの飛翔球の上で、ようやく熱美が全ての説明を終えた。
「ええっ!?熱美ちゃんと僕がデート!?」
「そうなんですよ。楊ちゃんたら、ルーアン先生が焼きもちやいてるから成功だとか言ってたけど。」
「ルーアン先生がやきもち・・・。それってもしかして・・・。」
「違うよ熱美ちゃん。やきもちじゃなくって動揺。まだまだなんだから。」
「そんな事よりヨウメイさん、ちゃんとみんなの前で説明してくださいよ。」
「ご心配なく。説明は得意中の得意ですから。」
余裕を持って鼻歌を歌うヨウメイ。それでもやはり不安な出雲と熱美。
なんといってもあらぬ誤解を受けているのは間違い無いのだから。
そして肝心の乎一郎。やきもちという言葉にすっかり頭をポーっとさせているのだった。
そんなこんなで何事も無く七梨家に四人は到着。
統天書によると、みんなはまだ帰らずに居るもよう。
四人は飛翔球から降り、ヨウメイが呼び鈴を鳴らした。
ぴんぽ〜ん
いつも通りの音が七梨家に鳴り響く。そして・・・。
がちゃっ
「はーい、どちら様・・・ヨウメイ!!それに出雲に乎一郎に熱美ちゃん!!」
出迎えたのは太助であった。それに対してヨウメイは深深とお辞儀する。
「主様、ちょっとお話したい事があるので、リビングに行きますね。
皆さんいらっしゃるんでしょう?私の書き置きに騙されて。」
「あ、うん・・・騙されて!?どういう事だよ!!」
「まあまあ、とりあえずお話しますから。」
太助をなだめて玄関へと足を踏み入れるヨウメイ。そして・・・。
「太助君、お邪魔しますね。」
「七梨先輩、お邪魔しますー。」
「僕もお邪魔するね。」
「あ、ああ。」
なぜだか口々に、しつこいくらいにお邪魔しますを連発する。
太助はあっけに取られてそれを素直に通すのだった。
そしてリビング。ヨウメイの姿を見たとたんにざわついたのは言うまでも無い。
しかし、ヨウメイはちゃんといつものペースで皆をなだめ、説明を始めるのだった。
「かくかくしかじか・・・という訳で、今度の旅行の下見をしていたんです。」
無事に説明を終えたところで一息つくヨウメイ。
クイズ番組の事は一切喋らずに、今度あるかもしれないというなんともいいかげんな長期休暇、
その時に旅行する案を四人で立て、それで下見に行っていたという、何とも無難な説明であった。
「それにしたって、なんでそういう面子なんだよ。」
まず尋ねたのは翔子。すると、ヨウメイの代わりに出雲が答えた。
「真面目な面々ですから。それに、四人とも口が堅いでしょう?」
ふぁさぁと髪をかきあげながら自信たっぷりに言う出雲。
確かにそれは外れてはいない。という事で翔子は納得した。
「ねえ楊ちゃん、だったらなんであんな大嘘を書いてったの?」
今度は花織が尋ねる。親友に関する事柄で頭を抱えていたので、是非とも聞いておきたいのだ。
「ただの悪戯だよ。ねっ、キリュウさんはそれを分かってたんじゃないんですか?」
あっさり答えていきなりキリュウにふるヨウメイ。
当然キリュウは戸惑った。確かに気付いてはいたが、口に出してはいなかったから。
「本当ですか、キリュウさん!!」
立ち上がる花織。慌ててゆかりんがなだめて座らせると、キリュウは戸惑いを消してゆっくりと口を開いた。
「・・・まあ、な。だが、意図が分からなくてな。口に出すのを控えていたんだ。」
「そんな事関係無いですよ!!どうしてすぐに言ってくれないんですか!!」
「言ったところで、今度は“どうして?”と頭をひねり出すに違いないからな。
それにあれ以上妙な脅しを受けたくなかったからでもある。」
キリュウの言っているのは、タバスコスプレーの事である。
そこで当然ヨウメイは花織をキッとにらむのだった。
「駄目じゃないの花織ちゃん。キリュウさんを脅すなんて良くないよ。」
「ご、ごめん・・・。」
「しかもタバスコスプレーなんて・・・。」
「あれ?楊ちゃんなんでその事知ってるの?」
「統天書で調べたからだよ。とにかく!キリュウさんが知らないといったら知らないんだから。
実はキリュウさんは思慮ぶかくって何か隠してて企んでて、なんて事は無いんだからね!!」
「ヨウメイ殿、それはなんだか腹立たしいのだが・・・。」
さりげなく悪口を言っているようにキリュウには聞こえた様で、不機嫌そうな顔で告げる。
そこで、慌てて翔子と那奈がまあまあとなだめるのであった。
「・・・とにかく、やましい事は全然やってないのね?」
「そうですよ、ルーアン先生。」
「ふうん・・・。」
なんとなく怪訝そうな目つきで乎一郎を見ているルーアン。
そんな彼女を見て、乎一郎はちょっとばかり嬉しくなるのだった。
「さてと、それではもう帰ります。遅くなるといけませんしね。」
出雲が話を切る様に立ちあがる。それにつられて、他の面々もぞろぞろと立ち上がるのだった。
そして口々にさよならを言って七梨家から去って行く。
最後に残ったのが乎一郎。ルーアンに何か言おうとしたが・・・。
「遠藤さん、いい場所が見付かって良かったですね♪」
「う、うん・・・。」
と、ヨウメイに区切られてしまって言う事を止めた。
もちろんそれは、ヨウメイ自身が“今は言う時ではない”と諭しただけの事である。
しばらくして、乎一郎もそれを納得した様だ。
「それじゃあまた学校で!」
「じゃあな、乎一郎。」
太助が手を振って見送る。と、客人が全員帰ったところで那奈がヨウメイの肩をがしっとつかんだ。
「さてと、それじゃあ本当の事を話してもらおうか。」
「えっ?だからそれは帰ってきた時に・・・。」
「あれは嘘なんだろう?あたしは誤魔化されないよ。さ、とりあえず中へ。」
「あ、あの、ちょっと・・・。」
強引にヨウメイを家の中へと引っ張って行く那奈。
当然太助達はあっけにとられてそれを見ているだけだった。
“あの説明が嘘?”という不思議な顔をしたまま・・・。
そしてリビング。シャオが夕食を作っている間に那奈が改めてヨウメイに問いただしている。
もちろんヨウメイは否定の一点張りだが、那奈はそれを納得しようとはしなかった。
「だから、本当に何も・・・。」
「嘘だ!!あのメンバーでやってたって事自体が怪しいんだよ!
宮内とヨウメイ!?この二人が絡んでるって点で完璧によからぬ企みがある!!」
「そんな・・・。少なくとも良からぬ企みじゃないですって・・・。」
「少なくとも?やっぱり何か裏でやってるんじゃないか!!」
身を乗り出した那奈に“しまった”とぐぐっとなるヨウメイ。
しかし、その次にはすぐさま否定の意を取るのだった。
「こ、言葉のあやですよ!本当に何にも無いですって!!」
「絶対に嘘だ!!」
やっぱり譲らない那奈。太助、ルーアン、キリュウの三人は疑問の顔で二人のやりとりを見ていた。
しかし、いったん那奈とヨウメイの二人が黙り込んだ所でキリュウが口を開く。
「ヨウメイ殿、遠藤殿が帰り際に言おうとした事はなんだ?」
「えっ?それは、多分“ルーアン先生、楽しみにしていてくださいね”とかじゃないかと。」
「だったらなぜ遮った?そんな必要は無かっただろう。」
「あれはつい、ですよ。今思えば、遮らなくても良かったかなって。」
そこで納得したのか、キリュウは引き下がる様に座りなおすのだった。
「・・・ねえヨウメイ。あんたの言う事を本当に信じて良いのね?」
「もちろんですよ、ルーアンさん。」
「そう、ならもういいわ。」
深刻な顔をして尋ねたルーアンは、答えを聞いて“うーん”と伸びをする。
いろいろ頭を巡らせていたのか、少しばかり疲れているようでもあった。
しかし那奈は納得がいっていない様子。が、再び喋ろうとした彼女より先にルーアンが口を開いた。
「ねえシャオリーン、ごはんはまだなのお〜?」
キッチンに向かって呼びかける。すると、シャオの明るい返事が聞こえてきた。
「はーい、ちょうど今できました〜。準備を手伝ってくださーい。」
「分かったわー。というわけでさっきまでの話は置いときましょ。ごはん、ごはん♪」
歌う様に立ちあがり、キッチンへと向かうルーアン。それに続いてヨウメイも立ち上がった。
「さあ皆さん、そういうわけで。疑問があるなら食事の後でって事にしてくださいね。」
三人は頷いて立ち上がる。が、那奈だけは・・・。
「食事中もたっぷり聞いてやるからな。」
と、ぼそっともらしたのであった。
そして夕食の準備が整い、六人が食べられる状態に。
それぞれ席について、いつもの如く手を合わせて挨拶。
「「「「「「いただきまーす!!」」」」」」
食事が開始された!と思いきや、ヨウメイの隣に座っていた那奈が腕をぐいっとつかむ。
「ちゃんと白状しろ。喋るまで食べさせないからな。」
「・・・那奈さん、それは勘弁してくださいよ。」
「駄目だ!!」
嫌な顔をするヨウメイにきびしく迫る那奈。
他の皆は黙って見ているだけかと思ったら、以外にもそれに口出ししたのはシャオだ。
「那奈さん、折角のお食事なんですからそういう脅迫は止めていただけませんか?」
「シャオ?なんでヨウメイの味方するんだよっ。」
「そういう事じゃありませんわ。ヨウメイさんはお食事を楽しみにしていらっしゃるのに・・・。」
シャオの言葉に皆がヨウメイに注目する。
彼女の目はうるうると涙ぐんでいて、何かすれば泣き出しそうな、そんな顔だった。
「ヨウメイ・・・。」
さすがの那奈もこれを見てつかんでいた手を離す。諦めたようだ。
そこでようやく食事が再開されるかと思ったが・・・。
「・・・ヨウメイ殿、嘘泣きはいかんな。」
というキリュウの言葉により、那奈は再びヨウメイの腕をつかんだ。
心なしか、先程よりも迫力を増している。
「おいヨウメイ、嘘泣きとはどういう事だ?」
「う、嘘泣きじゃないですって。私をかばってくれるシャオリンさんに感動して・・・。
とにかく食事させてくださいってば!!」
「・・・分かった。食事の後にたっぷり聞くよ。」
必死になるヨウメイに、那奈は今度こそあきらめたようである。
本当に今度は食事が再開された。
しばらく無言のままでパクパクと食べつづけていた面々。
やがて太助が顔を上げてヨウメイに尋ねる。
「なあヨウメイ、何でシャオにかばってもらえたくらいで?」
「くらいで、ってなんですか。大事な事じゃないですか。
それほど嬉しかったんです。シャオリンさん、ありがとうございました。」
「いえ、そんな・・・。。」
今更ながらに御礼を言ってぺこりと頭を下げるヨウメイ。
シャオもそれに反応してぺこりと頭を下げるのだった。
そんなやりとりが交わされている間に食事が終了。
終始無言だったルーアンは、
「あたしもう寝るわね。おやすみ。」
と挨拶したかと思うと、さっさと自分の部屋へと戻って行った。
そしてリビング。例の如くお茶を前にしてくつろぐ太助達。
「さてヨウメイ、話してくれ。」
「あのね、那奈さん。本当に何も無いんですって。」
「まだそんな事言ってるのか?隠し事をしたってあたしにはちゃんと分かるんだぞ。」
「その割には俺がシャオ達と住んでるって最初は気付かなかったくせに・・・。」
ぽそっと漏らす太助。不幸にも那奈にそれは聞こえたようで、ずずいっと太助に迫る。
「なんだと?結局は見付かったくせに何を言ってるんだ?ん?」
「そ、それは俺がいろいろドジったからであって・・・。」
「それに、最初はあたしも疑ってたんだぞ。お前の様子がおかしい事にな。」
「そ、そうなんだ、はは・・・。というわけでヨウメイ、隠し事はしない方が良いぞ。」
笑いながらヨウメイの方へと視線をそらす太助。
それに気付いたキリュウとヨウメイは、呆れながら“はあ”とため息をつくのだった。
「だから私は隠し事なんて・・・。」
「ヨウメイ殿、諦められよ。いくら誤魔化した所で結局はばれるんだぞ。」
「キリュウの言う通り!!さ、ヨウメイ、白状しろ。」
「・・・白状なんてしません!!隠し事をしていない人がどうやって白状するんですか!!
いつまでもいつまでも・・・。不愉快です!!私ももう寝ます、おやすみなさい!!!」
ものすごい剣幕でまくし立てたヨウメイ。どすどすと激しい足音を立てながらそこを去って行った。
彼女を心配したのか、シャオがそっと呟く。
「あらぬ疑いを掛けられてしまったから・・・。
だめじゃないですか皆さん。ヨウメイさんを信じてあげないと。」
太助はそれに賛同するように頷いたものの、那奈とキリュウは否定するように首を横に振った。
「シャオは素直過ぎるんだよ。あたしは絶対に諦めないからな。」
「勝手に宮内殿達と出掛けたという時点ですでに怪しい。なにがなんでも裏を暴く。」
いつのまにその気になっていたのか、キリュウも那奈と同じ気持ちのようだ。
お互いの言葉を聞いて顔を見合わせて頷く二人。
それと同じようにして太助とシャオも顔を見合わせ、やれやれと頷くのだった。
そしてキリュウとヨウメイの部屋では・・・。
「はあ、どうしよう。なんであそこまで追求してくるかなあ。
なんとしてでも隠しとおさなきゃ。けど当日には手伝ってもらおっかな。」
あれこれ思案しながら気合を入れるヨウメイの姿があった。
当日というのは乎一郎がルーアンをデートに誘う日。約一週間後である。
「ま、頑張ろう。」
疲れたように一つ大きなあくびをすると、ヨウメイは床に敷かれてある布団の上に、ごろんと横になった。
数分もしないうちにすうすうと寝息を立て始める。
こうして、なんとか無事にその日を終える事が出来たが、次の日からが大変だった。
家では・・・。
「さあヨウメイ、白状しろ。」
「・・・何度言えば分かるんですか。私は隠し事なんてしてません!」
「そんな嘘は言うな、ヨウメイ殿。必ず裏があるに決まっているのだからな。」
というように、那奈とキリュウから執拗な攻撃を受けていた。
ルーアンは我関せずというようにいるだけである。食事も食事でがつがつと・・・。
太助とシャオはときたま二人を説得しにかかるも、きびしく睨まれたかと思うとすごすごと引き下がるのだった。
更に学校では・・・。
「楊ちゃん、熱美ちゃん!!絶対に何か良からぬ事やってたでしょ!!」
「何もやって無いって。ねえ楊ちゃん。」
「うん。私達はただ・・・」
「嘘嘘嘘嘘嘘!!親友に対して隠し事なんてしないでよ!!さあ白状しなさい!!」
とまあ、何処から疑惑の念を持ち始めたのか、花織とゆかりんに迫られていた。
当然熱美もヨウメイも懸命に否定の意を取ってそれに対応。
気まずい雰囲気が生まれたのか、昼休みは二組に分かれる形となったりしていた。
「ねえ楊ちゃん・・・。」
「熱美ちゃん、言いたいことは分かるけど我慢して、ね?」
家と学校で二重の攻撃を受けているヨウメイはまさに疲れた顔である。
そんな彼女を見て、熱美は申し訳なさそうに言葉を呑み込むのだった。
また、苦労しているのはヨウメイだけではない。太助のクラスでは・・・。
「乎一郎。あの日、一体何をしに行ってたんだ?」
「だからそれはヨウメイちゃんが説明したじゃないか・・・。」
「嘘だ!!あんな説明で納得するほどあたし達は単純じゃないぞ。」
「山野辺の言う通り、うらで何かやってたに違いない。さあ白状しろ。」
「そんな・・・。」
と、乎一郎がたかしと翔子から攻撃を受けていた。
太助もシャオもそれを止めに入ったものの、途中で跳ね返される羽目となる。
授業を始めようと教室に入ってきたルーアンは、乎一郎たちの様子を見てため息をついた。
「まったく、ヨウメイの奴が説明を失敗するから・・・。
珍しいわねえ、あの子が失敗なんて。おかげであたしも気になってきて・・・。」
ぶつぶつと呟くその姿は、あの日に内緒で出掛けたメンバーを心配しているようだった。
ヨウメイの説明によって、皆が納得するはずだった。もともとそういう説明をヨウメイは行った。
しかし、何処か説明個所を失敗した所があったのだろうか、那奈だけは納得せずにいた。
結果、それがひきがねとなって周りの人間に次々と影響を及ぼしたのである。
もちろんそれぞれが那奈の言動を皆が直接聞いていたわけではない。
那奈が疑いを晴らさなかった事によって周りの人間が・・・という不思議な現象である。
「・・・はあ、何がいけなかったんだろ。まだまだ勉強不足だなあ、私も。」
授業が全て終わり、屋上にて集まったあの四人。
熱美に元気なくもらすヨウメイを、熱美は慰めるように肩を叩くのだった。
「元気出してよ、ね。」
「うん。でも・・・。」
乎一郎と出雲の姿を見ると、やはり元気をなくすヨウメイ。
追求されまくった乎一郎は精神的にかなり疲れているようである。
出雲は出雲で、学校へやって来た那奈、そして花織とゆかりんに執拗な攻撃を受けていたようだ。
「気にしなくて良いよ、ヨウメイちゃん。もともと僕が頼んだ事だし。」
「でも・・・。」
「遠藤君の言う通りですよ。なあに、大丈夫です。後一日耐え抜けば祝日ですし。」
「祝日?」
出雲の言葉を聞いてぱらぱらと統天書をめくり始めるヨウメイ。
とあるページを見たとたんに“ああーっ!!”と声を上げて立ちあがった。
「ほんとだ、明後日が休日・・・。なんだあ、それだったらちゃんと誤魔化せられたのに!!」
「楊ちゃん、気付いてなかったの?」
「うん、てっきり次の日曜まで休みは無いもんだと・・・。」
ふうと息をついて座り直すヨウメイ。そこで出雲が不思議そうに尋ねた。
「ヨウメイさん、ちゃんと誤魔化せるとはどういう事ですか?」
「だから、明後日が休みって事はテレビ放送より早くデートが出来るって事でしょう?
デートするまでそういう事は秘密にしておくべき・・・あれ?」
はたと止まるヨウメイ。そこで乎一郎が疑問の顔になる。
「ヨウメイちゃん、テレビに出たのはやっぱりまずかったんじゃ?」
「いや、それはなんとかなります。・・・あ、そうか、とにかく耐え抜くしかないんだ。がーん・・・。」
一人納得したかと思うと、落ち込んだようにがっくりとうなだれるヨウメイ。
勝手にどんどん進んでいるその姿を見て熱美がいらついている。
「ちょっと楊ちゃん、どういう事なの?」
「いや、ただ勘違いしてただけだから気にしないで。とにかく追撃を受けない方法は考え付いたから。」
「どんな方法?」
「今日私が電話するの。疑っているみんなに“明後日全てを話すので七梨家に集まってください”って。」
そこでなるほど、と手を打つ熱美。作戦の納得が出来た様だ。
「ですがヨウメイさん、電話した直後に訊かれたらどうするんですか?」
「心配御無用、それこそちゃんといたします。」
自信満々に胸を張るヨウメイ。今だ不安だった出雲だったが、やがてそれに納得した。
「とにかく明後日の心配をしろって事?」
「そうです。電話した後は私だけが必死に耐え抜けば良いだけになりますんで。」
乎一郎の質問に答えたヨウメイだったが、そこで三人は“ん?”となって前につんのめった。
「ねえ、楊ちゃんだけがってどういう事?」
「もしかして一人で追求を全部引き受けるって事なの?」
「いくらなんでもそういうのは・・・。」
急に迫られながらも、ヨウメイはこう返した。
「その通りですよ。私の失敗によって迷惑をかけてしまったんです。これくらいはしないと。
心配要りませんよ、後一日程度なら大丈夫です。」
自信たっぷりに告げられて、三人は“そうか”と引き下がった。しかし出雲は・・・。
「え〜とヨウメイさん、結局テレビに出たのはまずかったんじゃ・・・。」
「あ、いやそうじゃないんです。テレビ放送の日がデートの日より先なら、それはそれで説明の方法が。
また、後だというのなら別の説明方法があったんです。今回の失敗は、
私が放送の日がデートの後だという事に気付かなかった。そこにありますね。」
質問に答えたヨウメイ。しかし、出雲はまだ疑問の顔である。
さらには乎一郎と熱美も不信な顔になるのだった。
「・・・ヨウメイさん、それって無理があるのでは。」
「そうだよ。説明する分にはそんなの関係無いじゃない。」
「それが有るんです。その理論については、とおっても難しいので説明はしません。適当に納得してください。」
真剣な顔をして告げるその姿に、適当に納得する三人。
かと思いきや、熱美がヨウメイの傍に寄って言った。
「ねえ〜ん、楊ちゃん。教えてよお〜。」
いわゆる猫撫で声である。ヨウメイは呆れたようにため息をつくのだった。
「なんでそんな声だすの・・・。教えても良いけど、全部理解するのに一年くらいかかるよ。」
「い、一年!?」
「そ、一年。これが完璧に理解できればそれこそなんでも出来るようになるの。
でも、理解する前に頭が狂って死んじゃうね。過去にそういう例があったし・・・。」
腕組みをして回想に浸るヨウメイ。
そこで後ずさりした熱美を見て、出雲と乎一郎は、更に適当に納得するのだった。
「そ、それじゃあもう帰ろう。楊ちゃん、頼んだよ。」
「えっ、あ、うん。任せといて。」
「なんだか申し訳無いですねえ。家でも学校でも苦労させてしまうなんて。」
「いえいえ。もとはといえば自業自得なんですから。」
「ヨウメイちゃん、全部終わったらできる限りお礼するからね。」
「楽しみにしてますよ♪」
四人でようやく全てを納得、そして再度頷き合ったかと思うと帰路についた。
その晩の七梨家はあっさりと事が進み、那奈もキリュウもようやく納得。
一件一件電話をかけているヨウメイを心配してか、
熱美や出雲、そして乎一郎も七梨家に電話をかけたりした。
トゥルルルル・・・がちゃ
「ハイ、七梨です。」
「あっ、楊ちゃん。熱美だけど。」
「熱美ちゃん?さっきも遠藤さんと宮内さんから電話があったんだよ。」
「そうなんだ。で、大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、皆やっと素直に納得してくれたよ。」
「良かった。もう明日は普通に居られるかな?」
「多分ね。よほどひねくれた考えをする人以外は。」
「それって誰?」
「例えば、だよ。まあそんな人は居ないと思うけどね。」
「だよね。それじゃあまた明日。」
「うん、おやすみー。」
・・・とまあ、無事に全ての説明が終わり、穏やかにその日が終わるのだった。
その翌日も、皆は昨日あれほど追及していたことなどすっかり忘れたかのように普通に。
熱美とヨウメイも、花織とゆかりんと一緒に仲良く昼食をいただくのだった。
「さて楊ちゃん、明日きっちり説明してくれるんだよね?」
「そういう事。洗いざらい全部ね。」
「もう・・・。これから隠し事はしないでよ。」
「わかってるって。ね、熱美ちゃん。」
「もちろん。で、明日。きっとみんな驚くよ。楽しみにね♪」
「へえ・・・。」
とにかく明日の説明で全てを話す、という事で皆は納得したようである。
翔子なんかは、
「今すぐ話してよ。」
と言ったりしたものの、そこはヨウメイの機転で切り抜けたりしたのだ。
太助達の教室でも、とにかく詳しい事は明日という気分でたかし達はいた。
昨日の様な迫力は嘘のように、穏やかな時を過ごしていた。
「良かったですわ、皆さん落ち付いて下さって。」
「たく、結局ヨウメイの奴隠し事してたんじゃないか・・・。」
「たー様、それは言わない約束よ。」
結局はルーアンも説明を受け、ちょっとばかり気になっている様子。
それでも、穏やかな笑みをたたえて静かに居るのだった。
そんなこんなで無事その日も終わる。
そしていよいよ、運命の日がやって来た・・・。
≪第二十六話≫終わり
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